疑惑①
「全く、何て様だ」
「あんな魔物の侵入を許してしまうとは情けない」
「かの鬼人も堕ちたものだな、もう歳かもしれない」
「ロイネリアの人選を早急に変えるべきでは?」
そうワザと周りに聞こえるように大声で口々に言い合う者達。
この会話をしている顔触れは冒険者ギルドの支部長クラスの面々である。普段は顔を会わせる機会などないが、なぜこうして顔を揃えているのかその理由は、例の街の件、ひいては国を揺るがしかねない程の事件についてだが、集まった途端にこれだ。
会話の中心となっている目が切れ長でこざっぱりとした黒髪の短髪の中年の男は、厭らしい目付きで時々こちらを伺う。
その視線にアルベールは当然気付く。知らない顔ではない。男の名前はデュケル。自分の何が気に入らないのかは知らないが、奴はこういう場になれば何かと遠回しに突っかかってくるのだ。
今回は男に自分の失態という絶好の餌を与えてしまったが、よくそんなことをしていて飽きないものだなと思いながらも、やることは変わらなく、無関心を装い、気づいていないふりをしている。つまりは無視だ。
緊急招集に呼ばれ、集まったのはアルベールも見飽きた程のお馴染みの顔でもあるし、男のその視線も見飽きている。
(…しかし、こんな時でも相変わらずだな)
男のようにそこに存在しないが故にこの様な場では強気である人物もチラホラ居るだろう。
---そう、ここに集まっている人物はアルベールを除いて今この場に実在を持たないのだ。これがこのような緊急用でしか使われない、この世界では数少ない長距離間の意思疏通を可能とした通信用の魔法具の幻像であるからまだ気が楽ではある。
自分達を統括する統括長がまだ来てないとはいえ、一部の支部長たちはまあよく喋ることだと思ってはいるが、いちいち付き合っていては埒が明かないため好きに言わせておくのが一番だ。
しかし、今回の件についてはアルベールも堪えているため流石に時々自分に向けられる矛先を受け流すのに苦痛を感じていてはいた。
---もしロイネリアの支部長をやることになった場合、誰が一番の適任であるか、短髪の黒髪の男を中心とした幾人の会話が過熱してきたそんな頃。
「おや、私の居ぬ間に議題が進行していたとは…遅れて申し訳ありませんでした」
一人の人間の幻像が現れ、爽やかな男の声が聞こえた。
まだ若い男だ、年は二十代後半位かと思われる見た目であり、物腰柔らかな雰囲気を放っている。
彼の名をユピネス・オーレスティア。
---今、この場にいる誰よりも若いが、この男こそ冒険者ギルドの支部統括長でありギルド内では立場的に実質NO.2の位置にいる存在である。
ユピネスを目視、いや、幻像ではあるが---した途端、先程ロイネリアの話題で盛り上がっていた男、デュケルは話を止め、これは良いタイミングだとばかりに話しかける。
「---ええ、統括長。早急にロイネリアギルドの管理を見直すべきではとの声が挙がっていまして」
「ほう」
「ひいてはより適任な人材をロイネリアの支部長に据えるべきであると議論していたところです。ところで、統括長はどう思われますか?」
「どう、とは?」
「私は不安なのですよ、今回のロイネリアの一件は国のみならずギルドの威信に大いに関わってくるものであると」
「そうとなればロイネリアの街を結果的にああしてしまった彼、アルベール・カイラスの支部長としての適性を、疑うべき、とまでは言いませんが、責任があるのは確かであります」
「そんな彼に不信感を抱くもの達が居るのは事実です。そのような者に今後、国にとって重要な都市のギルドを任せるのはいかがなものかと、ひいては統括長のご意見を拝聴したく思います」
「なるほど」
---皆の意識がその会話に集中する。そんな視線を受けながらもユピネスは数瞬考えた後「確かに」と切り出し
「そのような者に街を任せるのは問題ですね。皆さんが不安がるのも最もです」
その返答を聞き、デュケルはここぞとばかりに話しかける。
「ならば「しかし、この場でその話は長くなりそうですね。まぁ、彼もこの事態を重く受けとめているようですし、いずれは然るべき場を設けるので、その追求と処遇は今回は置いときましょう」
「---な」
畳み掛けるように話を切り上げられ、期待した答えとは違ったのもあるが、自らの意見がこうも軽々しく扱われたような気がして---それでもなお男は食い下がろうとする。しかし
「後にしましょう」
有無を云わさぬ一言。
他の面々はそう感じた。別にユピネスは相手を威圧しているわけではない。態度や口調は穏やかなまま、普通に答えただけだ。だが、実際にこの場に彼が居ないと判ってはいても、中年の男が若い男に口ごもるこの光景---そんなこの空間は異様な緊張感が漂う。
「…まぁ、皆さん各々言いたいことがあると思います。が、本題はそれではありません」
「さて、こうして皆さんに集まってもらったのは他でもない。今回の議題は先程、デュケル支部長が話していた、街に突然出現したと思われる魔物の群れと、巨大な怪物の存在です」
「この街に関して---ご存じの通り国が統治にあたっている、云わばランドケイドとの中継地となる重要な拠点の一つであります---街が襲撃され、多大な被害を被った。ギルドも無関係ではないこの事態ですから、私も困っています」
「---しかし、本当の問題はそこではない」
「皆さんも分かっていると思いますが---そう、重要な中継地であるが故にこちら側からしたらこの件が、ランドケイドからの侵略とも思われかねないということなんです」
「国はランドケイドへの対応に追われ、今、難しい状況です。また他の場所がこのような事態になる可能性も当然、否定できません。むしろ相手はそれを狙っているのかもしれません」
「我々、独立機関たるギルドに守護や緩衝材としての機能を期待しているのでしょうね、事が落ち着くまで両国の調和もそうですが、第一に今回の事件を引き起こした輩の解明が国から直接の依頼です」
「暫くこの問題がトライゼ冒険者ギルドの今後の中心となると思います。先程のようなこの場での他の議題はそこそこにして、まず---」
会議は進行していく。
途中、様々な意見が飛び交う。今回のことに関しては国家間の戦争に発展する事態になりかねない程のものであるためか、実際には誰も居ない会議室に熱が入る。
---すべての議題に対する意見が出され、終了間近になった所で
「早速ですが皆さんには直ぐ仕事に入って貰いたいので、今回はこれで以上にします---アルベールさんは最後まで通信を切らないように」
「…了解」
統括長のその言葉を皮切りに、続々と席に座っている幻像が消え退出していく支部長の面々。
そんな中、アルベールはこちらにじっと向けられる視線に気が付く。
誰だか直ぐに分かる。
デュケルだ。
彼はニヤニヤとしながら此方を厭らしい目付きで見た後、退出した。
恐らく統括長と二人きりになったことによるこの先の展開を想像したのだろう。嫌な奴だ。
---すべての支部長が退出し、この場にアルベールとユピネスが残る。
彼、ユピネスは変わらずに朗らかな顔で話しかける。
「こんな事態は何時ぶりですかね、貴方が重傷を負い、そしてそこまで落ち込んだ姿は久しぶりに見ましたよ」
「昔話をするために呼び止めた訳ではあるまい」
「これは失礼しました」
アルベールは言外に、用件は何だ、と云う態度で話す。別に彼が嫌なわけではない。ただ付き合いは長いためか、お互いの事は他の者達より知っている。そのため彼の事を考えるとどうもやり辛いのだ。
そんな意図を察したのか、早々に無駄話を止める方向で彼は話し始める。
「今回の件についてですが、私は他の者が言ってるように、貴方が衰えたとは思っていません、貴方に出来ないのなら恐らく他の支部長でも結果は同じだったでしょう」
「随分と買ってくれるな」
ふん、と自嘲気味アルベールは笑う。
そんな言葉は自分の立場上慰めにもならない。この若者に言われると尚更だ。
---それに、自分をわざわざこの場に残したのはもっと重要な、聞きたいことや言いたいことがあるからだろう、と。
「…私はそんなことが聞きたいのではない」
「ええ、分かっています」
---貴方の事はお見通しだ、とでも云うようにこんなときでも緊張感のない態度を変えない統括長を内心少し呆れながら、彼は問う。
「…私の処遇は決まっているのか」
「もちろん、決まっています」
さて、どのような処分が下されるのか。
アルベールは待ち構える。
まだ残っている問題もあるが、ギルドの支部長は思ったほど嫌ではなかった。今振り返るとそれなりに充実していたと感じている。
---ギルドを離れたらどこか静かな場所で趣味に興じながら隠居生活を送ろうか、そんなことを考えていた。
---しかし
「貴方には引き続きロイネリア支部長として動いてもらいます」
「何?」
「おや、御不満ですか?」
「いや、不満などある訳がない---それより」
「他の者が黙っていない、ですか?」
「それなら然程気にする必要はないでしょう。貴方は与えられた仕事をこなしていればそれでいい」
「…お互いに忙しくなりますね、それでは」
「---ま」
アルベールは次に何か言おうとしたが、用は済んだ、とばかりにユピネスの幻像が消える。
この場に一人残された彼は呆気にとられながらも
「…相変わらず人使いの荒い奴だ」
そう呟くしかなかった。
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ロイネリアの街にはいつもより人が慌ただしく動き回っている姿が多く観られる。
---この慌ただしさは祭りや何か重大な催しがあるわけではない
、またそれら特有の浮ついた活気は感じられない。
ただ、そこには互いに協力し合い、助け合おうという姿が多かった。
突然の魔物の軍勢ともいえる大規模な襲撃は、街にその爪痕を確かに残していた。
そんな中、ふらふらとした足取りで浅黒いローブを着た男は歩く。
(…逃げたい)
その力ない姿のように、胸中は憂鬱としていた。
---何故、自分はあの時もっと慎重になれなかったのだろう、と。
その理由には好奇心によるものもあるだろう。
自分の今のこの強大ともいってよいこの能力に自信があったのもそうだろう。
今、このような状況に追い込まれているのには様々な要因があるし、自分が引き起こしたものであるから仕方がない。
しかし、もうちょっとなんとか出来なかったものか、と後悔の念が沸く。
(…支部長から直々に御呼びが掛かるとは)
そうなってしまった経緯はこうだ。
街がこのような状況であっても何故か自分の宿泊する宿「海月」は変わらずに経営していた。
今日の朝、何時ものようにその宿で目が覚め、自分の部屋の扉を開けて外に出ると、見知らぬ男が立っていた。
その男に開幕突然、自分はギルドの者だが、支部長が俺に会って話がしたいらしく、ギルドに赴く旨を伝えられたのだ。
薄々嫌な予感しかしなかったが、詳しい理由を聞こうとするも、用は済んだとばかりにその男は帰ってしまった。
このように自分のような低ランクの冒険者に支部長から直接、御呼びがかかることなど普通ならばまず有り得ないことだと驚いた。
同時にその内容は自分にとって絶対に良いものではないであろう事も理解できる。
何故なら一度は捕まり、その後、解放されたが、街がこのような状態になってしまえばあの場にいた自分はとても怪しい存在であるためだ。このように呼びつけるのも当然といえる。
もしここで姿を眩ます、逃亡するといったような手段をとれば自分はギルドから指名手配。追われる身になるだろう。
一度捕まった時点で詰んでいたのかもしれない。
(…いや、まだなんとかなる筈だ)
そう思いたい。
今後の自分の行動や発言次第で、最悪の可能性は回避できる。
---そう彼、佐野渡は意気込み、目的の見慣れた建物に着く。
ロイネリアギルド支部だ。
扉を開くと、騒がしく忙しい、そんな光景が直ぐに目に入る。
辺りを見渡すと、人が明らかに多い。空いている空間がないといってもいいほど人の気配が充満している---普段はこのようなことはないが、テーブル席がすべて満席であることをみても確かだ。
受付がいるカウンターの方を見ても人が列をつくり並んでいる。しかし、六つあるカウンターに受付は二人しかいない。おそらく今回の事件でギルド員は皆忙しく、冒険者に対応する受付に割く人員を限定しているのだろう。
冒険者の中には見慣れない者も多い。
今回の騒動を聞き付け、興味や好奇心で他の街や場所からやって来た者もいれば---こういう場合であるからこそ人手が足りないこともあり、それ目当てに仕事を探しに来た者もいる。
(…ポアルは居ないのか)
彼女は受付の人の中では会話が一番多い人物であるが、これから支部長に会うのだから今はそんなこと関係ない。
---しかし、見知った顔の方が幾分か気が楽だろう。
そんなことを考えながら仕方なく列に並ぶ。
列は長くはない、自分の前に何人かいるだけだ。それほど待たされはしないだろう。しかし、注意しなければいけない。なぜなら、待ちきれない横柄な輩による割り込みがあるからだ。
それを警戒しながら自分の番を待つ。
---そんな長い間待たなかっただろう。割り込みもなく、やがて自分の番が来る。
ぶっちゃけ並んでいる間、そわそわしながら何回もこの場から逃げたくなったのは内緒だ。
「どの様な御用件でしょうか?」
疲れ気味な受付嬢が無理に営業スマイルを浮かべる。
「支部長に呼ばれて来た者です」
渉はそう、ただ一言。
その一言だけで彼女の笑みは失せ、真面目な顔になる。
「…ギルドカードはお持ちでしょうか」
そう言われカードを開示する。
受付嬢は一瞬渡を怪しげな目で見た後、カードを確認し、受付の奥の方へと消えた。
数十秒は待っただろうか、受付嬢が現れ
「確認が取れましたので此方へ」
受付の奥に存在する扉に案内され、ギルドに屯する様々な冒険者達の視線を受ける。
扉が閉じるまで視線をひしひしと感じながらも、二階へ続く階段を上がり、長い廊下を歩く。
この間に無理だとは思うが、駄目元で聞いてみる事にした。
「…あの、すみません」
「なんでしょうか」
「自分は何の用件で呼ばれたのでしょうか」
「…自分は存じ上げておりません。詳しくは支部長へ御聞きください」
そう即答され、渡は口ごもる。
やがて目的の部屋の前に辿り着いたのか、扉を指し
「こちらになります。それでは」
自分の役目は終わったとばかりに元来た道を帰る受付嬢。
「ふぅ」
とりあえず深呼吸する。
ここまで来てしまった以上は入るしかない。
「失礼します」
少し間が空き、「入れ」という男の声が扉の向こうから聞こえた。
それに倣うように扉を開けた渡の眼に入ってきたのはそれなりに広い空間だ。
部屋の真ん中には来客用であるソファとデスク、部屋の隅には本棚、後は邪魔にならない程度に最低限の調度品が置いてある位だ。
しかし、今はそんなものへの興味はなく、むしろどうでも良かった---なぜなら、部屋の奥に佇んでいる人がいたからだ。
此方に背を向けているのでよく判らないが、恐らくは支部長と思われる男だ。
渡はその場で数秒ほど立ちつくしていたが、此方から切り出すのが礼儀かと思い声を掛けようとした。
「あの…」「つい先日」
「立入禁止にしたある遺跡に侵入した一人の冒険者がいた」
「その冒険者はあろうことか侵入しただけではなく、遺跡の中に潜んでいた---私達にとっては害悪、つまり敵となる存在を打ち倒したと証言している」
「これは君で間違いないかな?ワタル・サノ君」
射抜くような視線が向けられる。
これに渡は無言で返す。
---やはり把握されている、と。
---即ち肯定になるが、同時にこの話は自分があの遺跡にいた怪しげな術師を倒した時の事を言っているのだと瞬間的にそう理解した。
この事に今さら「何の事でしょう」と惚けるつもりはない、なぜならそれを許さぬ雰囲気であったし、事実がある。この問いに嘘を付くのは善くないと思えた。
下手な言動と行動は逆効果だ、ネタは上がっているような言い回しだと感じた。
「だんまりか…まあ良い」
渡の無言にさして気にした風もなく、そして視線を外すこと無く、アルベールは続ける。
「君は兎も角、もう一人の術師については完全なクロだ。何故なら、遺跡を新種の危険な魔物で蔓延らせ、街を襲わせる予定であったと自ら公言してるのだからな」
「…残りはその場に居た君という存在が問題な訳だが」
自分が何者か測るような強く鋭い視線が向けられる。
「単刀直入に聞こう---お前は何者だ?」
アルベールとしてはあの二人の眼を掻い潜り遺跡に侵入したことも驚きではあるが、報告が確かならそれよりも恐らくかなりの術師であろうあの男を目の前の男が倒したであろうということが真に驚きであった。
---とても成り立ての冒険者、Eランクであると聞いているがそうとは思えない。仮にいかなる方法を使ったとしてもだ。
そう思ってしまうのも当然だろう。しかし、単にランク相応の実力に見合っていない規格外な者を見た経験ならアルベールも無いわけではないが、そういう者達には大概何らかの---秘密がある。
いや、元々英雄のような類い稀なる才能がありそれが開花したという場合もあるにはあるが、それは都合が良すぎるし、現実的ではない殆ど無いであろう可能性だ。それを除外すると、それ以前の経歴が大いに関係していると考えている。今回の件で突如現れた新人の冒険者。いったいこいつは何者なのか。
自らの手の者を総動員してもこの街に来る以前に何をやっていたのかその手掛かりすら掴めないのだから、怪しすぎる。
「---返答次第によっては」
「お前を冒険者ギルドの勢力をもって力ずくで捕らえなければならない」
いや、捕らえられるだけでいいのならまだましだろう、しかしこの場合、そうなったらそれだけでは済まない。自分の担当ではないが、その後の扱いとしては何れにしろ厳しいものだ。最悪、ただ拘束するだけではなく、持っている情報を強引な方法で全て引きずり出した上での死を迎えることだってあるだろう。
---どう答えれば良いか。
最悪、自分のスキルを遣ってでもこの場を切り抜けなくてはならない。
(…いや、それは最終手段だろう)
と、不意に湧いた考えを打ち消す。
それは僅かな身動ぎだっただろう。
それに反応するかのように渡に声が掛けられる。
「動かない方が良いよ」
(いつのまに…!)
その声は自分の背後からだ。声が掛けられた途端に存在も感じ取れるようになった。
そしてこの軽い声の持ち主を自分は知っている。
俺を捕まえた奴だ。
只者ではないと思ってはいたが、まさかあっさり背後をとられるとは。
(隠密系の忍者のようなタイプか)
---相手が上手いというのもあると思うが、自分の感覚は絶対ではないということが良く分かる。
内心そう思いながらも、相手は続ける。
「いつから居たのかって感じが伝わってくるよ」
彼は軽い調子で話しているが、自分が何か不審な動きをしたら直ぐに動くつもりだろう。そんな冷たく鋭い意思が伝わってくる。
「…教えてあげよう、君の背後をとったのは今だけど---君の行動自体はずっと見ていたよ。宿を出た辺りからかな、気付かなかった?」
(何…!?)
それは気付かなかった。
しかし、いまはそんなことはどうでもいい。
(…どうする)
そんな何も言わない渡に前と後ろから鋭い視線が向けられる。
もはや殺意に近いものであった。
---そして
空間に緊張感が最大に張り詰めた。
その時、正面にいる不意にアルベールが頭に手を当て、何かを受けとるような仕草をした。
「…私だ、どうした」
恐らく「念話」だろう、報告は良くないものであるためか、その表情は厳しいものとなっていく。
「…何だと?」
鋭い視線を自分に向けた後、
「分かった、直ぐそちらに向かう」
彼は立て掛けてある剣を帯刀し、視線を外さないまま、すれ違い様に
「これもお前の仕業か?」
と、一言。
渡は目まぐるしく変わるこの状況について行けず、身に覚えのないことで責められる理不尽さを感じながら
(…俺、もう終わりかもしれないな)
軽く現実逃避し始めていた。




