遺跡⑤
「・・・危なかったよ」
呆然とし、顔の表情を絶望へ染める魔術師へとそう、俺は憮然とした態度で言い放つ。
-----いや、お前全然大丈夫そうじゃん!と、今の一部始終を見ている人間がいたら皆そう思うかも知れない。
-----確かに俺は無傷だ。
しかし、考えてみて欲しい。
-----あの視界がほぼ零といってもいい程限られた濃霧の中、いきなり襲いかかった今の攻撃魔術スキルを結界で防御するということは難しい。
ゲームの頃とは違い、当たり判定のエフェクトが出ずに突如、現実味のある振りかけられた禍々しい毒霧に驚き-----自分が毒、麻痺、疫病、睡眠などの状態異常に対する無効スキルを保有していることを思い出したところで安心したのも束の間、何かが大勢向かってくるなと思ったら異形の虫の大群のお出まし、それらを手早く処理した瞬間にあの魔術スキルだ。
-----避けるのが間に合わないと思った俺は咄嗟に、展開力が最も速い最弱の防御力をもつランク2防御スキルを「結界」を発動した
-----多少のダメージを覚悟してだ。
しかし、僥倖だったのは、この最弱の防御スキルといっても、レベル100、熟練度は最大であり、大法皇の杖の性能で全属性の攻撃、防御スキルを1.8倍にしている為、それでも尚、相手の-----現状を見るに恐らく相手の最大の魔術攻撃スキルを完璧に耐えきることが出来たのだろうと俺は推測する。
-----相手にとって不運だったのは、その一撃で決められると思っていたのだろう
フード越しに見える、その絶望に染まった顔が見ていられない。
いや、何だが申し訳ない気持ちになってくるのだ。
勿論、俺に攻撃してきたという相手に対し、普段、その行為については許す気はない。何らかの形で報復し償わせる。それは当然だ。
-----しかし、敵対し攻撃してきたにしては此方は何ら被害を受けてない。無傷であり、むしろスキルの力加減が分かってきたという事もあっていい練習になった感じである。
そんな相手に対してどの様な仕返しをしてやろうか、正直言って加減がわからない。考え物である。
俺がじっと見ているだけで-----恐らく何も出来ないのであろう、今にも泣きそうな表情で愕然とその相手がうずくまっているのを見て、何だか虐めているみたいな気持ちになってくる。
-----これ傍目から見たら俺が悪役みたいだよね。
一応、教皇なのに。
「・・・」
・・・この遺跡の支配者とか何とか言っていたし、とりあえず、こいつが何者でここで何をしていたのか問いただしてみることから始めるか。
というか、恐らくこいつは何か知っている可能性が高い。
よって尋問するように強気で俺は言い放つ。
「おい」
「ひっ」
ビクリ、と反応し此方を素早く向き黒い杖を構える魔術師。
手足はガクガクと震え、動くのも精一杯といった所か。
・・・しかし、そんな化物を見るみたいに怯えられても困る。
-----ここは
「安心しろ、別に何かしようとは思わない。ただ、俺の質問に答えてもらうだけだ」
俺がそういうと、あからさまに警戒を強めた風に且つ、気味の悪いものでも見るかのように憎々しげに睨みつけてくる。
今にも喚き散らしそうだ。
(・・・)
やはり、いや、分かってはいたが、俺の質問に正直に答えてくれるという態度でも状況でもないか。
-----なら
(-----昏倒)
「がっ」
バチッっと音を立て、白目を剥き、男は倒れる。
-----殺したわけではない、騒がれる前に大人しくなってもらっただけだ。
今の「昏倒」は対象を強制的に気絶状態にする低位の魔術スキルであり、抵抗されれば数秒の麻痺で済んでしまうのだが、まぁ、そんな心配は要らなかったみたいだ。
「・・・さて」
相手は意識を失っている。
意識を失う、即ちこれはゲーム的には最高の無防備、死んだ状態とほぼ同義であり、相手の全ての特殊能力が解除されるのだ。
そのため、相手の詳細を知り、記憶を読みとるスキルである「全知全読」が効かなかったり抵抗されることもないだろう。
・・・まぁ、他人の記憶を覗くことに多少の躊躇いはあるが、この程度の報復で済むのならばまだましじゃないかと言っておこう。
俺はそんなことを考えながら、地に伏した魔術師に触れようとし-----
「待ちなよ」
不意に後ろから俺に声が掛かる。
とっさに後ろを振り向くと、其処には二人の男が佇んでいた。
何時の間に?と俺は驚く。が、突然の出現に臆することもなく先手を取るために今、現れたこの二人が何者であるのか確認を求める------今、倒れている男の仲間、つまり伏兵である可能性もあるからだ。
「こいつの仲間か?」
「・・・いや、まさか!違うよ。正体は明かせないけど、敵ではないと言えばいいかな」
「む・・・」
一瞬、二人の男は戸惑った反応を見せたが、一拍おいて俺の問いにヘラへラとした若い男の声が返る。
敵じゃない?・・・あ。
思い出した。
・・・コイツ、ダンジョンの道を見張っていた裏仕事人らしき奴だ!!
「君の方こそ何者だい?」
俺がそう思い当たったところで、若い男からの素早い質問。
・・・ここは正直に冒険者だと言ってしまおうか。
いや、待てよ。
ここは確か侵入禁止となっているダンジョン。そんな場所に何故、冒険者がいる?
-----それもEランクという低ランクの冒険者が、だ。
ギルドの裏仕事人ならば向こうの方には正当性のある言い分がというのがある。というより幾らでも言いくるめられるであろう。
互いに正体不明で、探りを入れているこの場合に於いて、圧倒的に不利なのは俺だ。
-----そして、最も怪しいのも俺。
まずい。
まずいぞ。
・・・打開策が浮かんでこない。
何と言えばいいのか。
俺があれこれ悩んでいると-----
「・・・まぁ、いいや」
「え?」
瞬時に若い男の雰囲気が変化し、ピリピリとする気迫が俺に向けられる。
-----それは、殺気と呼ばれるモノだ。
なんだコイツ?
-----敵じゃないと言っておきながら本当はそうなのか?
俺がそう、呆気にとられていると若い男の隣にいるもう一人の男が「おい」と言いその肩を掴む。
「・・・馬鹿なことをしている暇は無いみたいだぜ」
低い男の声だ。
「・・・邪魔しないでよ」
「うるせぇ!いい加減にしろ!!」
バコンと低い声の男に殴られる若い男。
「痛いなー」と言いつつ軽い声で
「・・・何だよ、これから楽しもうと思ったのに」
-----ふてくされた面持ちで若い男は頭を抑えながらふざけた態度でそんなことを言いつつ、自分を叩いた相手を睨みつける。
しかし
「緊急通信だ」
緊急通信?
何だそれ?と思った渡であったが
そのたった一言で若い男の雰囲気が真剣なモノへと変わる。
その後のボソボソとした-----恐らく相手に聞こえないようにしたのだろう。その秘密の会話に耳を傾けていた俺は-----人間離れした聴力で確かにその内容を聞いた。
「街がピンチだ」と。




