遺跡④
短いです。
悪夢だ。
こんな事があってたまるか。
「くっ!!」
そんな思いが彼の胸中に渦巻く中、男-----渡の雰囲気が変わり、それに恐怖を覚えたルイニングは反射的に魔術スキルを行使していた。
「毒霧!!」
「!」
ゴゥ、と渡に向かって一瞬で拡散する毒霧。
辺り一面は濃い紫色の霧によって視界が著しく妨害される。
「毒霧」はランク3程度の魔術スキルであり、そこそこの範囲に毒を含んだ濃霧を振りまく-----嫌らしいスキルなのではあるが、この場合は眼くらまし以上の意味合いはない。
-----いや、状態異常を引き起こす厄介なものではあるのだが、毒という状態異常に対してあらがう方法など幾らでもあるので、掛かればラッキーと云ったところだろうか。
だが
(・・・難しいだろう)
と、一瞬でルイニングは判断する。
自分自身、毒に対して高い耐性を持たせるアイテム「耐毒の指輪」を所持しているため、この程度の毒は効かない。
しかしそれは、相手にも言えることなので毒には期待していない。
(・・・)
濃霧が舞い、視界が遮られる中、彼は冷静さを必死に取り戻そうとする。
相手の力は未知数だ。
・・・逃げるか
(いや、待て)
自分に逃げは許されない。
主に役目を任されているのだ。
しかし、立ち向かうにあたって、自分に勝機はあるのか。
(・・・)
いや、あるじゃないか。
自らの最高の攻撃魔術スキル。
-----それを確実に叩き込みさえすればどんな相手だろうと勝てる。
-----何処の誰とも知れない奴に、何を弱気になっているのだ。
戦う気力を奮い起こし、必中させるため彼は素早く動き始めた。
-----そのために
ルイニングは再召喚を行う。
-----それも、手持ちの全てを召喚するつもりで。
(来い、シモベ達よ!!)
その胸中の鼓舞に反応するように、異形の者達が続々と召喚される。
そして即座に
(行け!!奴を殺せ!!)
その命に従い、毒霧の中でも獲物が判るかのように動き始める異形達。
無論、こいつらに殺せるとは思っていない。
-----ルイニングがスキルを行使するまでの時間稼ぎ、捨て駒だ。
ドドドドッと足音を立て目標に立ち向かう十数匹の鉄甲虫騎士に、地を這う多くの大黄金虫と数匹の巨大蚯蚓。
-----普通の奴ならそれらの進軍を止めることなど出来はしない
しかし、この相手は普通ではない。
------鉄甲虫騎士はいとも簡単に全て切り裂かれ
大黄金虫と巨大蚯蚓達も一匹残らず蒸発した。
-----視界は満足に働かないが、自分の生み出したモノが消えたことくらいは判る。
-----此処まで十数秒。
想定内。
十分だ。
準備はできたし、虫が相手の位置を教えてくれた。
-----相手が自分の位置を把握する前に
-----我が最高の戦術級攻撃魔術スキルを喰らわせる。
「闇災!!」
----何もかも吹き飛ばすべく、ルイニングの手から闇色の暴力が放たれた。
その闇は毒霧を吹き飛ばし
ダンジョンの壁を抉り
全てを飲み込み
闇色へと染める。
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「・・・勝った」
片膝を付き、肩で息を吐き、満足げに笑うルイニング。
-----恐らく、相手のいた後ろの壁の先、数ブロック程は文字通り何も無いだろう。
手加減ができないので、ダンジョンが崩壊してしまうかもしれない可能性があり、本当にどうしようもない事態になるまでこのスキルを使うのは躊躇われた。
-----だが、そんなことを言っていられないほどの強敵であった。一撃放てば魔力も殆ど無くなるが、これに賭けた。
この魔術が直撃すれば、自らの勝利を疑いなどしない、いやむしろ過剰とも云えた-----どの様な生き物であってもその闇の前に消え去るのだ。
一撃で大きな戦の戦況が傾くほどの恐ろしい魔術スキル、小国の軍であれば一撃で壊滅させることも可能なのだ。
なのに
なのにだ。
「・・・危なかったよ」
と、声がルイニングに掛かる。
一瞬、幻聴の類かと思ったほどだ。
そんなはずはない、と。
-----しかし、恐る恐る前に頭を向けると。
「・・・な」
言葉を失う。
目の前には生きている筈のない男がいた。
結界らしきものを張って生きている。
----ルイニングが絶句したのはそれだけではない。いや、無論、結界によってこのスキルを防ぎ、平然としているという事に-----今までにない程の驚きを感じたのだが
-----それ以上に、彼にとって心が折れるほど絶望的だったのは。
「・・・馬鹿な」
自らは熟練の魔術師であると自負している。
故に否応にも理解してしまうし、間違えることなど無いだろう。
-----今、眼で認識しているスキルが正しければ
-----あの男が張っている結界。
あれは最下位の結界だ。
近日中にもう一回投稿します。




