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教皇の異世界物語  作者: しらす御飯
21/34

遺跡③

遅れました。

「!!」


 -----鈍く、そして響く音を立てて石造りの地面へと叩きつけられる青年。


 身体の打ち所的にも、普通の人間ならば内臓が潰れ、即死してもおかしくないほどの-----見事な叩きつけられっぷりだが、それはさておき。


「・・・っ」


 その顔と黒い髪は埃で汚れているが、不思議なことに純白のローブと白銀の杖は汚れることなく何ら変わらない輝きを放っている。


 -----彼はおよそ60メートル程高い場所から落下したが、問題はない。なぜなら、基礎能力が化け物じみている御陰で身体の痛みなどは気にならない。


 ただ、落下時の衝撃に驚いた程度だ。


 寧ろ、舞い上がる砂埃が咽せそうで、其方の方が気になる。


 汚れた顔をローブで拭い、頭に付着した埃を叩き、-----自分の身体に何の異常も無いという事を改めて確認する。


「・・・これほどの高さから落下しても、僅かな痛みすら感じないか」


 俺の身体は化け物と変わらないな、と苦笑いを禁じ得ない。


 NWC2において落下ダメージというものがある。文字通り、高い所から落ち、地面に激突した場合、プレイヤーにダメージが入る仕組みだ。やはり、というのは、元々-----この程度の高さから落ちても大丈夫だろうなと薄々考えていたことがあり、この世界でもゲームの設定が如実に生きていたとすれば、自分のレベルと身体能力の御陰である程度、高い所から落ちても無傷ではいられるだろうと推測はしていた。


 ----だが、こちらの世界に来てからは、高い所から落下するなどと云う馬鹿げたことを流石に試してみる気は無かった、こんな事故でもなければ。----実を言うと、先ほど自分のスキルで地面が溶解した時、思いっ切り肝を冷やした、というより地面に激突し無事を確認するまではぶっちゃけ死を覚悟した。


 先ほどのそれを思い出し-----恐怖を感じたのか、渡は僅かに震える。


「はぁ・・・」


 そもそもこんな事になってしまったのは-----俺の魔術スキルに耐えられず?地面が抜けた遺跡が悪いのか、それとも自分のスキルの使用に問題があったのだろうか。


「・・・」


 ・・・いや、こんな事を考えても意味がない。単に運が悪かったのだと割り切ろう。


 そう自分を戒め、瓦礫を蹴飛ばし、周りを見渡す。


「む・・・」


 今、俺がいるこの場所は、薄暗い。心なしか黒い靄も濃くなっている気がする。だが、それなりに広い空間であること位は判る。なぜなら、壁の所々に明かりらしき燭台はあるのだが、それでも隅々まで光は届かないのだ。広さ的には高校の体育館位はあるかもしれない。


 とにかく、今、自分は遺跡のどの辺り-----いや、何階層辺りに居るのか、全く判らない。それを確かめるのが重要だ。通常、ダンジョンは深い階層に潜れば潜るほどその分、危険度が増す、というのが自明の理である。だが、俺はそういったことを気にしているのではない、あのような黒光りに視界を覆われる・・・なんて事態は避けたかっただけだ。


 と、「探知サーチ」を使おうと思ったところで後ろに何かがいるような気配を感じ、俺は反射的に振り返る。


「・・・そうこなくてはな」


 -----振り返った視線の先には、誰もいない。しかし明らかに俺は語りかけてくるような低い男の声を聞いたし、いる、と確信している。冷淡ながらもその口調の中には多少の賞賛の意を含んでいるような。


 グニュリ、とした感じで、黒い靄を纏い、何もない空間から出現する様は、新手の霊系ゴースト魔物モンスターが出現したのかと俺は咄嗟に身構え攻撃態勢をとったが、それは人の形をしていたので留まった。


 -----現れたのは黒いローブ着て、手には黒い靄が発散される杖を持ち、顔はフードを被っているため確認できないが、恐らく魔術師の男だろう人物だ。


「・・・誰だ?」


 俺は若干強ばった声で相手に問いかける。緊張している理由は、今回、潜入するに当たって人に遭遇するつもりは無かったし、会うとも思っていなかったためだ。


 この遺跡は立ち入り禁止となっているため人の出入りは無いと聞いていた。


 ・・・と、すると自分みたいにこっそり侵入した奴か、外にいる裏仕事人の仲間かも知れない。


 前者ならまだいい。後者、ギルド関連の裏仕事人の仲間だったら不味いな。・・・俺が此処にいることをどういう風に説明しよう?


 -----しかし、そんな俺の考えは一時中断され、くっくっくっくっく、と云う静かで低い笑い声を上げる魔術師の男。


 その笑い声は突如止み。


「・・・それはこっちが聞きたいな」


 低い声で呟くように話す相手。


 そして男はパチリと指を鳴らす。


 黒い靄に包まれ、男の側に現れたのは3匹の異形。


 凶暴そうな黒い蟷螂と蠍と蜘蛛だ。


 どれも見上げてしまう程大きい。


 -----その異形共の眼は、明らかに俺を対象としていてギラリと凶悪そうな輝きを放っていた。


 と、云うより。今のは


「再召喚?・・・と、すると、召喚師サモナーか」


 NWC2において「召喚師サモナー」は魔物モンスターと契約する事により、自分の仲間とすることができる唯一の職種であり最初の頃は割と人気があった覚えがある。自分も別のデータでキャラ作成を始めようとした1人だが、いくつか難点があった。スキルが豊富な魔術師などと比べるとレベル増加によるスキルの修得や幅が少ないこと、司教ビショップと同じくらいレベルの上がりが遅いこと、厳しい装備制限などにより、結局それには至らなかったことを思い出した。


 そんな俺の今の小言を相手は聞いていたのか


「・・・召喚師サモナーなどではない」


 底冷えするような声を出し、男は言い放つ。


「この遺跡の支配者であり、お前を殺すものだ。早速だが、死ね、侵入者」


 男は怒りの形相を浮かべ、3匹の異形が俺に襲いかかる。



























 ---------------------































「・・・動かないか」


 彼はぽつりと呟く。


 ルイニングは侵入者の位置を把握していた。


 それもその筈、既にこの遺跡は自分の手中に有るようなモノなので、いざとなればダンジョン全体を見渡せるような-----それくらいの感知能力は有しているし、他にはそれで確認し得ない情報を得るために隠密に虫の斥候を飛ばしてもいるのだ。


(「転移テレポーション」(範囲内限定))


 この「転移テレポーション」は、遺跡内限定であるが、ダンジョン内に描かれた紋章の効力により自らの魔力を消費せずに強力な瞬間移動を行使することができる。外法のようなものだ。


 一日の回数制限付きなので、あまり多用することは出来ないが、彼は遺跡内を移動する分には丁度良いと思っている。なぜなら、本来、転移スキルというの高位のモノであるため、魔力を一度の転移で大量に消費してしまうし、扱いが難しいというのもあるため、いちいち移動する度に魔力切れや失敗を起こしてしまっては、とリスクを考えてのことだ。


 と、視界が暗転し、侵入者のいる階層へと到達する。


(・・・さて)


 勿論のことだが、ルイニングは転移移動したことにより相手にその存在を知られるようなヘマはしない。


 既に彼は、同じ階層でも、相手からは確実に感知されない場所から隠密スキル「姿隠し」を発動し、さらには「不可視化インビジブル」スキルを使用。探知スキルを所有し勘の鋭いものでなければ感知は困難な状態だ。


 そして、これ以上隠密、という事に施すことが無くなったルイニングは相手のいる場所へとそっと近づいてゆく。


 これで自分の存在に気付かずに背後から一撃で終われば相手はその程度。いざとなればあの3匹を召喚しすぐさま臨戦態勢をとる-----そういった気持ちで彼は臨むが、敵を侮っているわけではない。試しているだけだ。


 四方、石に覆われた無機質な薄暗い道を足音を立てず、というより彼の靴は足音が立たないように出来ているのだが-----歩いていくとそれなりに広い空間へと出て、そして彼は驚くことになる。


 この遺跡に侵入した敵がその空間にいるのはいい、それは自分も把握していて接近した。それに辺りを見回し、本当に目標が1人であることにも多少驚いた。しかし、それ以上に


 まず眼に入ったのは


 淡い光。


 そしてその発生源である、若い男がいた。


 一体、どれほどの価値があるのだろう、純白のローブを着、その手には凄まじい魔力が籠もっているのであろう、白銀の杖を持っていたのだ。


(・・・何だアレは)


 思わずそう云ってしまいそうになるのをぐっと堪えるルイニング


 自分の装備も、我が主に与えられたものであり、そんじょそこらのモノより明らかに優れたものを有してはいたが、アレと比べるとどうしても見劣りしてしまう。


 -----ルイニングの見立てでは、恐らく国宝級ではないかと思われるような代物だ。


 その装備に見取れていた彼だが


 突然、相手は何かに気付いたように振り向いた。


 相手の眼を見れば直感的に判る。


 自分の存在がバレた、と。


 凄いのは装備だけだと思いたかったが、この遺跡に1人でくるような奴だ。やはり、この程度は看破するか。


「・・・そうこなくてはな」


 もう、こんな隠蔽など意味はない。


 ルイニングは隠密スキルを解除し、相手と向き合う。


「・・・誰だ?」


 ・・・誰だ?だと、おかしな事を言うものだなとルイニングは思う。


 何故なら、彼は目の前にいる敵がギルドからの依頼でこの遺跡に送り込まれた者だと考えていたので、若い男の発言に疑問がわく。


 しかし、今の相手の反応を見るに、ギルドの駒ではないのか?という考えがふと浮かぶ。


 よく判らない。


 -----何でそんな奴がこのダンジョンに、それものこのこと1人でいるのか。


「・・・それはこっちが聞きたいな」


 笑ってしまう。


 -----もしかしたら只の馬鹿なのかも知れない。とルイニングは思い始めていた。


 無駄にこの相手を警戒していた自分が馬鹿ではないか、と。


 だが、ルイニングのやることは変わらない。


 速やかに、この愚か者を排除することに決定したのだ。


 まだ、他に自分がやるべきことは残っているし、こんな事に時間を掛けてはいられない。それに、この若い男の持っている装備も気にはなる。


 だが、彼はいくら相手が愚か者でも、油断するような男ではない。


 むしろ、過剰ではないかと思われるような戦力を使って相手を叩き潰す-----蹂躙するような性格であるし、相手の装備が凄いから、厄介だからといって、警戒こそするが、怖じ気付くような奴でもない。


 -----何よりこんな奴の装備が自分より上のランクのモノであるようなことが許せなくなってきたというのもある。


 パチン、と指を鳴らし「再召喚」を行う。


 ルイニングの側から即座に現れるのは、彼の切り札である3匹の凶暴な異形達だ。


 こいつらを見た者は、大抵、何らかのアクションを起こすだろう。


 彼はそう思って、相手の男を見る。顔の表情が驚愕、または恐怖に染まっていることを期待して。


 -----しかし


「再召喚?・・・と、すると、召喚師サモナーか」


 と、自分の異形を見て間の抜けた声で呟く男。


 そんな男の興味深げな表情-----という有る意味余りに場違いな態度に、ルイニングは表情に出さないが内心、呆れてしまう。


 ・・・こいつ、今自分がどの様な状況か理解しているのか?、と。


 この三匹は凶悪で危険だ。


 それはどのような者であってもその脅威を即座に感じ取り、即座に再召喚し従えるルイニングの実力だって理解できるだろう。


 -----かの化け物達、Sランク冒険者でさえ、この3匹を相手にしつつ自分に立ち向かうと云うことになれば厳しいだろうと確信しているくらいだ。


 それとも、奴はそれ程までに自信があるのか?、或いは強さを理解できないほど愚か者なのか。


 前者はないと彼は思う。自分が注意すべき程の力のある奴なら頭に入っているが、こんな奴は見たことない。何より達人特有の気配がなく、無防備すぎる。-----だとすれば後者か。


 しかし、このダンジョンに入ってこれる程度には力があるのだろう、その余裕がルイニングには気にくわなかった。


 その前に


「・・・召喚師などではない」


 間違いを訂正する。その程度の存在と一緒にして欲しくはない。と、怒りを静め、底冷えするような声で言い放つ。


 だが、自分が何者か、答えてやる気もない-----どうせ死ぬのだから。


 もうどうでもいいという風に、ルイニングは不快で愚かな侵入者に絶望を与えるため、怒りの形相で指示を送る。


「この遺跡の支配者であり、お前を殺すものだ。早速だが、死ね、侵入者」


 ルイニングの指示を受け、まず即座に動いたのは、寄生大蜘蛛パラサイトスパイダーである。口の部分から強靱な蜘蛛の糸を飛ばし、それは男へと襲いかかった。


 相手は避けるアクションさえ起こさない。


 -----いや、単に速すぎて見えていないだけか。


 その糸は対象にギュルギュルと巻き付き、その身を封じる。


 相手の顔、いや、上半身は蜘蛛の糸に隠れて見えない。


 それにほぼ合わせるようにして、蠍女王スコーピオンクィーンは毒液を放つ。


 毒液は蜘蛛の糸と比べると遅いが、この場合、相手に避けられる心配はない。何故なら強靱な蜘蛛の糸によってその動きは封じられているのだから。


 ジュアッと、対象に飛びかかる毒液。


 最上級の強酸性の猛毒だ。例えどんな強力なに毒耐性のアイテム、防具を身につけていたとしても、あれだけまともに喰らってしまえば-----まず、致命的なダメージを受けることは確実であるし、生きながらえたとして猛毒で終わりだ。


 さらにその毒液が降りかかった後、遅れるようにして動いたのは、大刃蟷螂キラーマンティスである。


 自らの大鎌を振り回し、スキル「鎌鼬カマイタチ」を発動する。


 -----高位の魔物は(モンスター)は幾つかのスキルを保有する。大刃蟷螂キラーマンティスもその一体であり、スキル「鎌鼬カマイタチ」は鋼鉄をも容易く切断する程の威力を持つので、例え魔法で強化されたプレストアーマーを装備していてもまともに喰らえば相手に死を与えるであろう。


 オーバーキルであるが、大鎌が振られ、風の刃が飛び、相手を切断するというのをルイニングは確信し-----


 風の刃が消え去り、大刃蟷螂キラーマンティスは燃え尽きた。


 -----いや、それだけではない。


 蟷螂が燃え上がるとほぼ同時にドシャ、と大きな音を立て、体液を噴出し、他の2体も地に伏したのだ。


 ルイニングが数瞬の内に目撃したのは、対象が原型の無くなるようなビジョンではなかった。


 自分の眼を疑いたくなるような、そんな光景だ。


「は?」


 ----一瞬何が起きたのか判らず、理解するのに数秒の時間が必要だった。


 そして頭に現状の理解が浸透するにつれて、ルイニングの表情は驚愕に固まる。


 その余りにあんまりな状況に。


 待て。


 いや待て。


 落ち着け。


 自分の誇る最強のシモベ、それが数瞬の内でやられたなどあり得るはずがない。


 眼を見開き、荒い呼吸で再確認をする。


 しかし、3匹からの反応は無い。


「死・・・んでいる」


 震えた声で呟く。


 その額には冷や汗がにじみ出る。


 追い打ちを掛けるように彼に声が掛かる。


「いや、驚いた」


「なっ!?」


 声は後ろから聞こえる。


 スライド移動するように素早く声の聞こえた反対方向へと跳躍し距離をとる。


 そして、相手を見据えると同時にルイニングはさらに驚愕することになる。


 そう、葬ったはずのさっきの男だ。


 -----それも何事もなかったように佇んでいる。


「・・・貴様・・・どうして、いや、何をした!!」


 ルイニングは掠れた声で叫ぶように言い放つ。


 -----冷静ではいられない、頭の中はかつて無いほどに混乱している。


「何をしたって・・・その魔物モンスター達を各個撃破してお前の背後に回っただけだ。そんなに驚くほどのことはしてない」


 何でもないように淡々と男は答える。


「・・・な」


 ルイニングは絶句する。


 目の前の光景を見る限りそれしかないのだが、その当たり前のことが有り得ないのだ。


 いや、現実的に認められない。


 認められるわけがない。


 -----魔物モンスター達を瞬殺し、自分の知覚しえない速度で背後に回るなど。


 そんな彼の視線を受け、男は軽い感じで答える。


「いやいや、あんな程度で俺はやられはしないさ・・・しかし話し合いでも、と思っていた時にいきなり攻撃してくるなんて・・・」


 と、男の雰囲気が変わる。


「反撃されても文句はないよな」



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