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教皇の異世界物語  作者: しらす御飯
20/34

遺跡②

 ---そいつらは渡が「聞いていた話とは違うなぁ」とダンジョン内の雰囲気をを感じつつ注意を払いながら歩いていた時に、飛んできた。


(さて、此処からは軽い気持ちじゃなく・・・本気だ。)


 ---見習い装備とかあからさまに舐めプをしていた自分を戒め、俺はゲームの頃攻略に相当時間が掛かった裏のダンジョンに挑むが如く気合いを入れる。


 遺跡の外にいた、恐らくギルドの裏仕事人だろう二人に自分の存在を見破られそうになったので若干弱気になっていたのもあったし、このダンジョンがこんな陰気臭い---いや、元々はこんな場所ではなかったのだろう、そんな事も一役買っていたのか、俺は迫り来る奴らの接近に対して冷静になれなかったのだ。


 ゾクリ


 突然、悪寒が身体を駆け巡る。


(何だ!?)


 ざわざわとしたこの感覚。


 何かがくる。


 それも大量に。


 ---この時、「探知サーチ」で周囲を確認し、奴らの向かってくる方向とは逆にすぐさま逃げていれば一番良かったのだろう。


 だが、どうしても俺の鋭い感覚能力がそれを使わせることを躊躇しているような---そんな気がしたので咄嗟の判断ができないでいた。


 此処で棒立ちとなり、余裕のあるようにその大量の何かを迎撃してやろうと---いや、正直に言うと、蠢く気配が何なのか、その気配に背を向けるのが嫌だったのだ。


 ---この世界にやってきて初めて感じる、焦燥と不安。


 此処まで来た道程は覚えている。


 よし。


 出口まで全速力で駆け出そうか。いや、しかし、外に出ることになったら、今度こそあの二人の監視の眼から逃れられないかも知れないじゃないか-----


 この緊張を紛らわすために、そんな事を頭の中でグルグルと考えている内に


 そいつらは視認できるところまでやって来た。


 ---まず俺の目に飛び込んできたのは光沢だ。


 光沢。


 黒光りする光沢。


 そして何かを探るようにゆらゆらと揺れる触覚。


 ---そして、カサカサという


最上位結界プライマル・プロテクション!!」


 ---無詠唱でも結界を張ることは可能なのだが、あまりにあんまりなモノを見てしまったおぞましさからか血を吐くような叫びを上げ凄まじい勢いで結界を張る渡。


 濃密な魔力によって瞬時に構成されるその結界は、如何なるモノの侵入を許さないほど強力だ。


 ---それもその筈、渡の熟練度程のランク8魔術防御スキル「最上位結界プライマル・プロテクション」は少なくとも80レベル台の魔物モンスターの攻撃に一定時間耐えうる程の防御力を持つ。


 渡を中心に数メートルの結界が構成され、その後すぐに獲物を見つけて喜んでいるのか如く「ブゥウン」という大勢の羽音と共に飛びかかってくるソレ。


 そう、奴らは飛ぶのだ。


「・・・くっ」


 自分の所まで来れるはずがないと分かってはいても、一歩後ろへ後退してしまう。


 視界は黒一色に染まる。


(・・・っ!いきなり勘弁してくれ!)


 冷や汗を流しながら内心でそう叫ぶ渡。


 本気でこのダンジョンを攻略する気合いを入れた俺だったが、大量の黒光りする巨大なコイツ等のせいで出端を挫かれる有様だ。


 ---できれば直視したくない。


 目を瞑りながら---自分の心を落ち着かせる。


(・・・ああ、そう言えば)


 今のこの現状から逃避したいのか、ふと、リーマンだった頃を思いだした。


 マンション暮らしだった俺は、偶にコイツ等を台所の隅とかで見かける。


 小さいのに黒光りして目立ち、すばしっこく、さらには飛行能力まで備えた人類の天敵とも言えるそいつ等とは見かける度に俺は聖戦を開く。


 そう、聖戦だ。


 我が家の暮らしを守るために「駆除」してきた。


 俺はうっすらと眼を開く。


 視界の端で結界に張り付き、不気味に蠢いているのを見ていると背筋が凍る。


 ---だが、現代では見たこともないほど巨大で、一匹見たら数十匹いるといわれている程、大量なソイツ等を、俺は倒す。


 全滅させてみせる。


 しかし、このまま結界を解除してしまうのは躊躇われた。


 解除した瞬間、黒光りする奴らが一斉に飛びかかってくるであろうことが容易に想像できるからだ。


「・・・いや、弱気になるな」


 そうだ、この結界を解かなければこいつらを迎撃できないし、飛び掛かられて噛み付かれようとも、この大法皇装備をした、自分の肉体にはダメージが皆無だというのは良く判る。


 ---だから少なくないMPを消費してこの防御スキルを使ったのだ。


 万が一にも体に触れられないように。


 というよりアレに飛び掛かられるのは根源的な恐怖を抱くのに十分なものだ。


(ふぅ・・・)


 一呼吸置き、覚悟を決めた俺は視界に見えるおぞましい全ての生物を滅するため、広範囲攻撃魔術スキルを行使する。


「いくぞ!!」


 そう、気合を入れて結界を解除すると、結界に動きを阻まれていた鬱憤を晴らすが如く、濃厚な魔力の主である渡に四方八方から大きな黒光りが飛び掛かる。


 ---しかし、彼は黒光りを滅することに集中するあまり失念していたのだ。


 自分の力がどれ程のものであるのか。


 そして、ダンジョンは破壊不可能オブジェクトであったゲームの頃とは違い、この世界は現実であることに。


 ランク5炎属性広範囲攻撃魔術スキル


獄炎ヘルファイア!」


 渡を中心として赤黒い地獄の炎が、黒光り達をを包み、そして-----


















 ----------------




















 元々、パルゾム遺跡は古代人のある民族が日常的に行っていた儀式の場だった。


 その儀式の内容はどんなものであったのか、詳しく描かれている古文書はこの国でも極少数だ。


 何故、古代人による記述が少ないのかというと、その儀式の内容は民族以外、対外的には疚しいものがあり、且つ、選ばれた者が慣習的になものにより-----儀式を秘密裏に行わなくてはならなかったからだ。


 まぁ、その儀式のせいで魔素が溜まるに良い環境が出来てしまい、魔物が巣くい、遺跡がダンジョン化してしまったと云っておこう。


 -----それは別の話として、不気味な儀式に使われていただけあって、遺跡の造りは漏水、陥没しないように、今でもしっかりとしたモノになっている。


 しかし、流石に数百年その造りは健在だといっても-----モノには限度があるのだ。
























 ---------------



























 ---スキルを発動した数瞬の間、ゴウッという轟音と共に体中の魔力が発散され飛び掛かってくる大量の黒光りが消毒、いや蒸発していくのを感じる。


(・・・これ程の高熱は数千度とかあるのかな)


 ---雑魚だったろうとはいえ、一瞬で跡形もなく滅びゆくそれらを見て、ふと思う。


 勿論、温度とかそんなことは判らない。


 適当だ。


(ん?)


 周りを見渡していた彼はここで、ある事に気づく。


(え!?、壁が・・・)


 -----そう、ダンジョンの壁が


 あまりの高熱で急速に溶けていっているのだ。


(ヤバい!・・・止まらないっ!)


 NWC2において、ダンジョンそのものは破壊不可能オブジェクトである。


 そう、NWC2においては、だ。


(・・・馬鹿か俺は!!)


 と、内心で自分を罵倒する。


 分かりきったことではないか。


 此処は現実と何ら変わりがないと云うことに。


 つまりはこんな古びた遺跡ダンジョンで強力、とまではいかないが、中級プレイヤーが使うような広範囲攻撃スキルを使うとどうなってしまうのかは自明の理だ。


(止まれ!)


 必死で止めようとしても、すでに行使されたスキルの中断は不可能だ。


 ---こんな所はゲームの設定のままだということに一瞬、腹が立った。


 しかし、そんな本人の感情とは裏腹に---燃え上がる灼熱の炎は周囲を焼き尽くす。


 さらに


(あ?・・・っ)


 突然の浮遊感。


 俺は咄嗟に足元を見る。


(な・・・)


 まるで、火山が噴火したかのような自分のスキルに耐えられず


 -----床が崩れ落ちたのだ。


「なあっ!?」


 -----落ちる、といった感覚は初めてであったが、その感慨以上に


「・・・ああ、これからは空中を飛行できるスキルか巻物スクロールが欲しいな」と切に思う渡だった。


























 ---------------

























 ----パルゾム遺跡最下層。


 これからやって来るであろう-----蛮勇か愚か者かどうか分からない敵に対し、万全を期そうと自分の身体を休めていた男だったが


「・・・何だ?」


 ダンジョン内に響くような轟音に目が覚める。


 その音と振動に呼応するように配下の異形の虫共が騒ぎ始める。


(----静まれ)


 -----男がそういった意志を飛ばすと、異形の虫達は静まりかえる。


 さほど強くはないとは云え、これほど大量の虫達を一瞬で黙らせられるというのは、男が圧倒的な力の持ち主だと云うことに他なら無い。


 しかし、今、そんな自分に隷属している虫共の嘶きなんか-----どうでもいいと言った風に、男は今の轟音について考えを巡らせていた。


 いや、不愉快だといってもいい。


 この層ではない、恐らく浅い層で何が起こったのか-----


(・・・ふむ)


 -----一番に考えられるのは、先程ダンジョンへ入ってきた奴が何かをしたというものだ。


 階層の一区画が吹き飛んでしまったのではないかと思ってしまう程の轟音と、此処まで漂う魔力。


(・・・まさか)


 馬鹿馬鹿しいが、幻影蟹魔シャドウキャンサーを一撃で倒せる程の者だと仮定して、強力な広範囲魔術スキルかそれに相当する何らかの力を行使したとすれば、今の轟音も納得ができる。


(・・・しかし)


 ----もし、今の轟音が、強力な広範囲攻撃魔術スキル、自分が予想するにランク7に近いかそれ程度のモノを行使したとすれば、この国の宮廷魔導師に近いか匹敵する魔術師でなければできない芸当だ。


 いや、他には一度きりしか使用できない程の、凄まじい魔力のあるマジックアイテムであれば、それ位の威力を出せないこともない。


 しかし、それに匹敵する者か、そんなマジックアイテムを持つものであるのか判断が付かないが、どちらにしても危険な奴であることには違いない。


 だが、戦闘になっても負ける気はしない。


 -----自分は何と云っても個人で、戦術級ストラテジークラスと謡われるそれ以上の魔術スキルを行使できるのだから。


 しかし、此処まで相手に直接来て貰おうと思っていた男にとって、自分の予想外の事をされて、暴れられて遺跡を滅茶苦茶にしてもらっては癪だ。


 此方から出向くか。


 -----それがいい、調子にのっている輩にはキツいお灸を据えなければな。


 -----だが、そんな相手でも自分は油断をするほど愚かではないが。


(来い、我がシモベ達)


 -----その男の命に従い、背後からのっそりと3匹の巨大な影、男の切り札が現れる。


 見上げるほどの巨躯を持ち、鋼鉄であろうとその鎌で容易く切り裂く-----大刃蟷螂キラーマンティス


 尻尾には相手を数秒で殺すほどの猛毒を持ち、またその対象を喰らうことで強くなる-----蠍女王スコーピオンクイーン


 そして、その糸で捕らえられれば逃れることを許されず、さらに糸から獲物のエネルギーを吸い尽くす-----寄生大蜘蛛パラサイトスパイダー


 恐らく宮廷魔導師でも、使役するしようとするならば一匹が精一杯な凶悪な魔物モンスターを-----三匹。


 この強力なシモベ達を連れていくのは些か過剰な気もするが、万が一のためだ。


 -----音で相手の大凡の位置は分かっている。


 かといって余裕ぶって動いていては敵を逃しかねないので、行動するなら早い方がいい。


(・・・さて、我が主のため、憎き相手の顔でも見に行くか)


 異形の虫達を引き連れ、男-----ルイニング・ローカーストは石の玉座から重い腰を上げた。





次の話でガチバトル(笑)の予定です。

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