↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教皇の異世界物語  作者: しらす御飯
18/34

胎動④

遅くなりました。

 アカルナの森入り口付近に繋がる道。


 ここから街はさほど遠くないので、高くそびえ立つ防壁が遠目でも確認できる。


 丁度、昼頃を過ぎた今の時間帯には人気のない、恐らく人目に付かないといってもいいような場所だが、誰も居なさそうな雰囲気をもつそんなこの場には今、二人の人間がいた。


 一人は渋い表情を浮かべている青年ーーー名を佐野渡という。


 その青年に対して意志の強い視線を向けているもう一人は冒険者ギルドで「孤高の爆塵姫」の異名を持つ少女、ではなく女性、ライネ・ペルーア。


「・・・ところで、こんなこと俺に話しても大丈夫なのか?」


 渡は沈痛そうな心配そうなそんな表情で目の前の女性、ライネに問いかける。


 心なしかその声は震えている。


 ーーそれもその筈、青年にしてみればたった今、ギルドによって秘密裏に隠蔽されている危ない事情を彼女の口から聞き、知った。いや、知ってしまったので、このことにより恐れられているギルドの処罰やらこの話はどこに向かっているのやらと内心不安でならなかったのだ。


「問題ないわ、いずれ明らかになることだし・・・それに勘のいい奴らは気付いているわよ」


「・・・」


 俺はそんな彼女の憮然とした返答を聞き、つい、うーんとさらに渋い顔をしてしまう。


 今の話の内容は衝撃的だった。


 ーーーそして、この流れはマズイ。


 勘だが。


 そんな只の直感といっても馬鹿には出来ない。


 なぜなら、自分のこの嫌な予感というのは今までの経験上中々外れた試しがないからだ。


 ーーーそれに、街が危険に晒されるかもしれないという今のライネの話を一通り聞いたので、「はい、そうですか」と自分と彼女の関係上それでこの話を終わらせる訳にはいかなくなる。


 現に、彼女ーーライネは俺の力を理解している。


 少なくとも能力を高く買ってくれてはいるだろう。


 一瞬、スキルを使い記憶を操作し自分の存在を都合のいいように解釈させるようにしようとも考えたが、やめた。


 幾ら自分が偽善者だと判っていても彼女にそんな事をするような悪人ではないしーーー何より胸糞が悪い。


 いや、そんな事をするのは何より人道的ではない。


 只の鬼畜だ。


 これから何を彼女に何を言われるのかぼんやり予想が付く俺だが、その推定される問いから逃げるように俺は言葉を掛ける。


「・・・ところで、その事情を詳しく知っている奴は他にもいるんだろ?ライネみたいな」


 俺が聞いた、いや、聞かされた今の話から察するに、彼女のようなーーーつまりは腕の立つ高位ランク冒険者が必然的に駆り出されることになる。


「・・・ええ」


 ライネは静かに答える。


 ーーよし。


「なら、何も問題ないじゃないか」


「なっ・・・」


 ライネはやや眼を見開いて驚きの感情を向けてくる。


 だが、何も問題なんか無い。


 街が危機に晒されるかもしれないという以外は。


 ーーしかし、あくまで可能性の話で有るし、何よりギルドはこの事に対して何らかの対策を進めている、というより既に何らかの手は打ってあるのだろう。


 なら、俺のような素人は余計なことを言わない方がいい。


 ーーー受け取り方によっては冷たく突き放すような言い方に聞こえるかもしれない。


 暗に「俺を頼るんじゃない」という事を言っているようなものだからだ。


 ーーそういうのはお前達でやれ。


 ーー俺を巻き込むんじゃない。


 俺はそんな意味合いを込めた視線をちらりと彼女に向け、さらに続ける。


 そう、此処ははっきりと。


「ライネ、俺は目立ちたくない」


「・・・」


「それにEランクの新米だよ、俺は」


「・・・そうには思えないわよ。だって・・・」


「事実だ」


 彼女が何かを言い出す前に俺は矢継ぎ早に言葉を投げ掛ける。


 我ながら汚いとは思う。


 ーーだが、これでいいのだ。


 ーーここで彼女のペースに引き込まれたら、そして目立ってしまったら、それこそお終いだ。


 これは譲れない。


 彼女はそんな俺を残念そうな顔で見る。


 ーーーしかし、そんな顔をしてもこればっかりは駄目だ。


 ーーそんな頑なな意志が通じたのか


「・・・わかったわ」


 渋々という感じでは有ったが案外アッサリとライネは引き下がってくれた。


 もっと粘ると思っていた俺は内心、ホッとしつつも一応、彼女へ謝罪をする。


「・・・悪いな、何もしてあげられなくて」


「・・・」


 ライネは内心穏やかではないだろう。


 それもそうだ。


 ーー自らよりも力を持っているかも知れないのに、その力を人のために役立てようとはしない。


 そんな臆病な俺に憤りを感じているーーのかも知れない。


 ーーそう、考えてしまうと胸の奥が少し痛んだ。


「・・・余計な時間をとらせたわね」


「いや、こちらこそ」


「・・・」


 何か言いたげそうにしていた彼女は、クルリと俺に背を向けると、街の方へ早足で向かっていった。


 その姿が完全に見えなくなると


「・・・ふぅ」


 ーー自然と溜息を付いてしまう。


 協力しないという明確な意志を現した俺に対しーー先程のライネは恐ろしい顔をしていた。


 割と小心者の自分はその緊迫感だけで参ってしまうくらいに。


「・・・疲れた」


 しかし、彼女には本当に申し訳ないが、表立っては手伝ってあげられない。


 ーーそう、表立っては。


「さてと」


 本当にこの街に危機が迫っているのだとすれば、流石に無視することなど出来ない。


 ーー今のライネの話について確信を得たかったのか、或いはそんな彼女の表情にいたたまれなくなったのか、はたまた、自分の日常のためか。


 ーーしかし、出来ることなら行動は素早い方がいい。


「まずは情報収集といきますか」


























 ーーーーーーーーー





























 ーーー何としても迫りくるであろう脅威から街を護らなければならない。


 だけど、幾らBランクの冒険者と言えど、自分一人で出来る事なんてたかが知れている。


 だが、私に知り合いは少ないのでどうしようかと悩んでいるところ、偶然、最近知り合った青年であるーーワタルを見つけ、話を持ちかけた。


 彼なら実力は申し分ないし、何より見ず知らずの私を助けてくれた人物なので、この話を言いふらしたりはしないだろうと思ったからだ。


 ーーこれで、心強い協力者ができる。


 そう、その事ばかりを考えていた。


 焦っていたともいっていい。


 そのため私は失念していたのだ。


 ーー相手が協力しないという可能性を。


 彼にその気がないと知った私は愕然とした。


 それと同時に何故、手を貸してくれないのかを問いただしたくもなった。


 街が危機に晒されるかもしれないのに!と。


 だけど、自分から彼に頼んでおいて勝手に騒いで怒るのは気が引けるし、何よりやりたくないことを強要するということは自身の事しか考えてない事に気付かされた。


「目立ちたくない」と言っていた。


 ーー彼にも何か事情があるのだろう。


 そう考えると、ワタルは何も悪くはない。


「はぁ・・・」


 この街が心配だ。


 いや、正しくはあの二人が。


 最近の怪しげな動きから、大仕事があるのではないかと勘付いている冒険者達もいるため、彼方此方からその話に集中している声が聞こえるギルド内は、そんな私の心情とは裏腹には騒がしい。


 普段の私なら噂程度に聞き流しているのだが、今となっては事情が違った。


 ーーーギルドが秘密裏に提示した勅命は「パルゾム遺跡の変異した魔物の全討伐」及び「それに組する者達の捕獲」だ。


 勅命とはギルドから特定の依頼ーーーこれは危険且つ難度の高いモノであることが多い、これを成し遂げうるであろう特定の冒険者に伝えるが、その冒険者はこの命令を拒否することができない。


 もし拒否した場合は、厄介なことにギルドから厳しい処分の対象となってしまうため、逆らう者はまずいない。


 本来、私は街を護る側であるーーーこの役目は事情を未だによく知らないCランク迄の者達が担当している方へ付きたかったのだが、魔窟となっている遺跡をギルドは放っとくわけにも行かず、勅命を受けた少数精鋭で向かうこととなる。


 少数精鋭となると必然的に数が少なく、且つ優れた腕を持つ冒険者でなくてはならない。


 その精鋭の一人が私だというわけだった。


 この決定には不満がある。


 ーー正直、一時的でもこの街から離れるのは嫌だったからだ。


 あの二人から離れてしまうから。


「・・・リミア・・・キリアさん」


 このまま何事もなければそれが一番いい。


「・・・だけど」


 ふと、遺跡で遭遇した黒く巨大な蟷螂を思い出す。


 ・・・もし、この街があのような魔物モンスターによって危機に瀕し、あの二人に何かあれば


 そんな想像をしたくなくてもしてしまう。


(・・・うーん)


 ーーー何とか支部長に討伐隊に加わらずにこの街に残る旨を伝える。


 その自分の願いは考えるまでもなく結果は見えていた。


 今、現在、ギルドは優先度でいえば、街が襲撃されるかもしれないという推定よりも、ダンジョンが既に得体の知れない魔物モンスターが蔓延っているのを何とかしなくてはならないといった方が重要度が上であろう。


 ーーーパルゾム遺跡に送り込む人材が足りないからその危険地帯に送り込む冒険者が少数で有り、精鋭なのだ。


 ギルド側からすればその戦力の一角であるライネが私情で勝手にその決定されているメンバーから抜けるということは、とても容認出来ないことだろう。


(・・・はぁ)


 そんな考えに即座に至ったライネは周りの冒険者達の雰囲気とは対照的に只一人、やや沈んだ気分でギルドを出て行った。


























 ーーーーーーーーーー


























「最近の噂を聞きたい?」


「ああ、どんな些細な事でも構わない。出来ればギルド関連で」


 片目を吊り上げるようにして俺を見てくるのは、バスタードソードを背に携え、その厳つい顔が偶に脅しにきているんじゃないかとも思うような知り合いの戦士、マークである。


 ばったりとギルドで会ったので丁度いい機会だと思い俺は声を掛けた。


 最近の異変、とやらはギルドに直接聞いてもいいんじゃないかと思ったが、ライネから聞いていた話だと一部の者以外には情報の拡散による混乱を恐れているのか秘密しているらしく、何より低ランク冒険者の俺にそんな資格があるのかという事で無駄だと悟ったのだ。


 ・・・いや、俺はマーク達みたいに現地で活躍するベテランの冒険者に聞いた方が為になると思っただけだから。


 気兼ねなく聞けるし。


 本当だよ。


「・・・うむ、ギルドか」とちょっとの間考え込んでいたマークだが


 やがて声のトーンを下げ結論を口にした。


「・・・そういえば、どうもこうも、最近はギルドの動きがきな臭い気がするな」


「きな臭い?」


 ーーーきな臭い、とマークが言うのは、ギルドは情報隠蔽を計っているのでそう見えるからなのか。


 彼は俺の予想通りに


「ギルドの連中、何か隠しているな・・・それが何なのかは判らないが、近頃、大仕事があるんじゃないかって周りには殺気立っている奴もいるくらいだ。俺は勘弁だがな」


 そう言うと、彼は渋い顔をした。


 なるほど。


 ーーー別にギルドが情報隠蔽をしていた事実を疑っていたわけではないが、先程の彼女、ライネの話は軽くストーカーされた挙げ句、唐突だったので、少しでもこう云った確証が欲しかったのだ。


 ーーーそう言えばこの冒険者ギルド、いつもよりやけに人数が多いな。


 というより殺気立っている奴も多い。


 ライネが言っていたように勘付いてきている者もいるのだろう。


 と、そこで俺の背後から誰か近づいてくる気配がした。


 一瞬、身構えた俺だったが。


「ん?ああ、ワタルさんでしたか」


 聞き知った声。


「・・・おお、ウォルカか」


 ーーー先程、気配を消して尾行されていたからか、過敏にになっているようみたいだ。


 其処にいるのは礼儀正しい神官だった。


「戻ってくるのが遅いぞ」と言うマークと「仕方ないじゃないですか」というウォルカの二人の仲の良さが判る会話を聞きながら、話題が落ち着いてきたところで彼、ウォルカにも最近の噂というのを聞いてみた。


「・・・噂ですか?」


「ああ、出来ればギルド関連で」


 と彼はすぐさま


「・・・・そういえば、数日前にパルゾム遺跡への道が通行不可となったのはご存じですか?」


 パルゾム遺跡。


 確か成り立ての冒険者が訓練に程良い程度のダンジョンだ。


「遺跡は知っているが、そうなのか?」


「ええ、ダンジョンへの道が通行不可になるのは珍しいことではないのですが、今回はそれについてちょっとありまして」


「ちょっと?」


 と、俺が訪ねたところで顔を近づけ、ウォルカはひそひそとした話し声になった。


「まずーーー突然変異種やその地域に見合わないレベルの魔物モンスター、或いそれらの大量発生など何らかの要因で普段、人々が利用する各街やダンジョンへの道が封鎖されるのは、ギルドの裏の仕事とされ、それらの活動は決して明るみにでることはないーーーこれもご存じですか?」


 ギルドの裏の仕事?


 俺は素直に知らない、と首を横に振る。


 ーーー出来ればそれについても詳しく聞かせて欲しいと思ったが、それでは本題に入らないので止めておく。


 ウォルカは頷き


「そのギルド裏の仕事について此処で話すのは、また後ほどということにしましょう。ーーーそれより、今現在、いるらしいですよ。ーーーパルゾム遺跡に」


 いる?


「いるって、何が?」


 俺は首を傾げる。


 ウォルカが何かを気にするように周りを確認した後、向き直り、更に低い声で囁きかける。


「ギルドの裏仕事人です」


「裏仕事人?」


「・・・声が大きいですよ」


「ごめん」


 ウォルカ曰く、ギルドの裏仕事人とはーーー諜報、要人警護、さらには特定人物の暗殺など様々な役割を持ち、ギルド支部一つに数人存在するとされている。


 彼らの正体は明らかにならない。というよりそういう仕事だから仕方がないと思うし、何より知ろうとするとギルドからの妨害や処罰が怖いとのことで誰も知りたがらないらしいが。


 今、この会話を聞かれているーーー可能性もあるかも知れないらしい。


「と、この話は置いといてですね」


「え?」


 メインじゃないのか。


「・・・その彼等は滅多に人前にその姿を現さないとされていますが」


 ウォルカが言うには、知り合いの冒険者が遭遇したらしい。


 その内容はこうだ。


 その彼は、立ち入り禁止地区にこっそりと入ろうとする癖があるらしい。


 人間、やるなと言われたらやってしまうあれだ。


 そんなこんなで今回も毎度の如く立ち入りを禁止された遺跡へと続く道へと細心の注意を払って進入しようとした訳だ。


 しかし、その禁じられた区域へはいつもの如く人払いの結界が張られており、その道を通ることはできない。


 その後何度も挑戦したが結局叶わず、今回も駄目かと思っていた彼だったが、不意に人の気配を感じてその方向へと振り返ったらしい。


「それで?」


「・・・意識を失ったらしいです」


「・・・何だそれ」


 ーーー彼は意識を失う寸前、自分の意識を刈り取ったであろう黒いフードを被った男らしき人物を目撃したということから、その男こそギルドの裏仕事人だろうと言い、ウォルカに急き勇んで話したそうだ。


「滅多に人前に現れないんじゃなかったのか?」


「ええ、そうです。ーーーでももし、その黒いフードの男が例の彼等だとすれば、ちょっと珍しいことですよ」


 確かにそうは思う。


ーーー結界を潜ることが出来ず諦めた、そのウォルカの知人に対して、その者は恐らく振り向きざまに意識を刈り取る攻撃を与えた。


 その知人が結界を破ろうとしたんならまだしも、諦めた相手に追撃をかけるような真似をしたのは何故だろうか。


 姿を見られるリスクを冒してまでそうする意味があったとでも云うのだろうか。


ーーーまあ、只の思い違いということも大いに有り得るが。


 地味に気になるところだ。


 以上のマークとウォルカの話を統合した結果。


 結論としてはギルドはまだ何かを隠していて、パルゾム遺跡にその何かがあるとみた。


 俺は遺跡の場所を聞き、さほど遠くはない距離だということが判り、取り敢えずは宿屋の夕食迄には帰ってこようとーーーその日の内に向かうことにした。





今月中にあと一回投稿・・・できたらいいなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。