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教皇の異世界物語  作者: しらす御飯
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胎動②

 いつも通りの朝。


 常連となった宿「海月」で目を覚ました俺こと佐野渡は、何事もなく朝が始まることを感謝しながら起床する。


 いつものようにやや堅いベッドだが今日はより一層堅く感じる。


「・・・」


 ・・・何となく目覚めが悪い。


 ーー別に変な夢を見たわけでも嫌な目にあった訳でもないのだが。


「・・・」


 いかんな。


 調子が出ない。


 どうしてだろうか。


 軽いストレッチをしながら思い当たりそうな理由を考えてみる。


 まず思い付いた最もらしい理由としては


 ーー実は今まで意識していなかっただけでやはり自分はこの世界で一人でいることに不安を覚えるようになったとか?


 ・・・ありがちなことではある。


 自分の全く知らない世界、全く知らない場所で過ごしていくというのはーー確かに心に不安を感じても不思議ではないことだとは思うが


 この調子の悪さはそれとは違う気がする。


 ーー俺はこの世界をもっと見て回りたいと思っているしーーいや、帰る方法があるのならば一考するが、今の現状、後悔はしていないし、この世界へ突然、転移?してきた当初から今の今まで心に不安というモノ抱えているかどうかも自分自身よく理解していない。


 自覚がないのかもしれないが。


 ーーそんな自分は異常だといえる。


 そんな事を考えながらもいつものように井戸へと向かい、桶に溜めた冷たい水で洗顔をする。


「ふぅ」


 朝一番の水は冷たい。


 ーーだが、コレが良い


 自分の寝ぼけた意識を覚醒させてくれる。


 ーー寝ぼけがとれると腹が減っているという事を良く実感できるので朝食を食べに食堂へと向かう。


 ーー自慢じゃないが俺は朝食を欠かしたことはない。


 現代社会を生きるサラリーマンであったときもそうだが、特にこの宿を利用することになってからは出される料理が美味いので、それを欠かすことは勿体ないと思っているからだ。


 ーー食堂へ向かういつものようにある人物と出会う。


 エメリさんだ。


 いつものように俺の方から挨拶をする。


「おはようございます」


「・・・ん、あ。おはよー」


 力のない返事。


 相変わらず眠そうな顔をしている。

 ーーがその動きは恐ろしく機敏だ。


 この宿の食事は美味しいので食堂にはいつも人がチラホラ入っているのだが、俺や客が席に着くや否や、その普段からは想像もつかないような素早さでトムさんの作る朝食を各員の席に配達するのだ。


 ーーその素早さと言ったらレベル100の俺が見失ってしまう程だ。


 初めて見たときは戦慄してしまったよ。


 イヤ、真面目に。


















 ーーーーーーーーーー


















 朝食を摂った後は体を動かすーーーというより自分の日々の生活が懸かっているので、冒険者として生計を立てていて、且つ、成り立てな者は必然的にギルドへと赴かなければならない。


 俺もその一人だ。


「義務的にギルドに毎日通わなくてはならない」こんな言い方をしているが、別に毎日通うことが嫌なわけではない。


 ーー本当は自分のこの有り余る力を最大限利用すれば、一攫千金を狙って途方もない大金を手に入れるということも可能なのかもしれないのだが、その代わりに要らぬ厄を呼び込むーーーつまりは面倒に巻き込まれる可能性が高いのだ。


 自分はアニメやゲームの主人公とは違い、只の元リーマンだ。


 そんな自分が英雄になったと仮定しよう。


 ハッキリ言って迫り来る大イベントーー例えば魔王を倒せだの魔族から国の危機を救ってくれだのこなしていく技量も精神力も持ち合わせているものとは思えないのだ。


 冷静に自己分析する。


 うん。


 やはり、俺みたいな人間は最初から最強気取るより、切実に堅実に日々を過ごしていった方が割に合っている。


 毎日の起床と一食一食に感謝しているような。


 ・・・ん?


 誰かに見られている。


 ・・・イヤ、断じて気のせいじゃない。


 この身体の鋭敏な感覚がそう言っているのでこれはまず間違いないだろう。


 この程度ならばスキルを使うまでもないとでも言いたげな風に伝わってくる。


 ーー俺が立ち止まると、自分を監視しているその気配も立ち止まる。


「・・・・・」


 色々言いたいことはあるが、この一言に尽きるだろう。


 何で俺が尾行されている?


 ちょっと頭が混乱しているが、俺が尾行に気づいている様に見えないように平静を装い、努めて思考を巡らせる。


 ーー真っ先に思い至るものとしては、以前俺に絡んできた馬鹿みたいな奴が尾行している場合だ。


 このパターンならばさほど気にすることもない。

 ーー適当に人気のない場所で絞めてやればいい。


 問題なのは次の可能性だ。


 ーー俺のこの力が第三者に露見し吹聴され、そのためにどこかの国やら組織やらが俺に接触を試みてきたという場合だ。


 このパターンは厄介すぎる。


 今まで俺が馬鹿みたいにビビりながら細心の注意を払って力を隠してきた意味が全くなくなり、自分の望む平穏な生活は既に終わっているということになる。


 ーー仮に此処で尾行者からバックボーンの存在を聞き、その者達の記憶を消してまわっても、別の第三者にどの程度、俺の情報が露呈しているのかによっては何をやっても詰みになる。


 ーーそんな危機的状況であるかも知れない事に内心俺は嫌な汗をかきまくり出まくりで背中が気持ち悪いくらいだが


 とにかくお願い。


 本当に一生のお願いだから。


 ーーどうか前者のパターンであってくれ。


 しかし、先ず相手を確認しなくては始まらない。


 尾行相手を人気のない場所に悟られないように誘い込むように動く。


 前者の場合であっても後者の場合であってもこの尾行者に接触しなければならないような


 ーーこの歩いている時間がもどかしい。


 いや、もうどちらでもいいから俺をつけるのは止めてほしいんだ。


 人気のない路地の曲がり角で意を決したように俺は隠密用のスキルである「姿隠し」の上位版、「無影」を使用し自分の気配を消す。


 この「無影」の性能は「姿隠し」の上位版といったスキルであるが、NWC2内でのMPの燃費の割に使い辛く、「姿隠し」で十分な場合が多いために、大概のプレイヤーのこのスキル自体の使用率と熟練度は高くない残念なスキルでもある。


 そんなこのスキルを使用したのは相手の力量がどうのこうのという訳ではなく何となくだ。


 ーー突如消えた俺の気配に気づいたのか、尾行者は素早い動きで気配の消えた地点へと確認しに近づいてくる。


 充分に接近してきたところで俺は「無影」を解除し相手の目の前に姿を現す。


「俺に何か用かな」


「あっ」


 相手にして見れば突然目の前に目標ターゲットである俺が出てきたので驚くのも無理もないだろう。


「お前は誰だーーってあれ?」


 正体を見破ろうと素早く先に話しかけた俺だったが、逆に驚かされたのは自分の方だった。


「・・・ライネ?」


 其処には女子中学生。


 いや、目の前には先日自分が救った少女ーーではなく女性、ライネ・ペルーアが其処にいたのだ。


 心なしか何か表情に陰があるようにも思える。


 俺はそんな彼女の表情を見て思わず


「なにかあったのか?」


 そう問いかけるが彼女からの返答はない。


 ーーとりあえず相手の方から話してくれるのを待っていると、彼女は何かを言い出そうとして辞めるような素振りを見せていたがやがて意を決したように。


「・・・貴方に話があるの」


 え?


 話?


 ーー話をするためだけに俺を尾行していたのか?


 渡はそう疑問を浮かべるしかなかった。




次話投稿は遅れそうです。

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