5月 学校生活3
数学の教師「おい、鈴木。今日はサボるなよ。」
そのようなことを言われた。半分は柔道部のやつの怪我を隠すなのためだが。
幸いにも、顔など目立つところは避けられているし、柔道部だ。関節外されたり投げ飛ばされたりする程度だ。前に骨のところを折られた時には相当に痛かったのだが、これも肋骨が折れただけだから、服を着れば隠せた。少し違和感はあったかもしれないが、それを指摘する人間もいなかったのは好都合だ。
この教師はまだマシな方だ。直接関与してこない。だからと言って見て見ぬ振りというわけでもなく、教師としての最低限をやっている風に見せている人間だ。授業では教頭の愚痴を言ったりしているような人間だ。
これでマシな方と言われるのだからどれだけ酷いのか伺える、と思っているのだろうが、甘い。今はまだマシな方だ。
雷麦が中1の入学したての頃、殺人キックと言われるほどのキック力で注目を集めたのだが、その頃の三年はなかなかに無能で、その上、みんながみんな雷麦の邪魔をするし、その時に限ってはやる気を出し、チームワークを発揮するという無能っぷりだった。雷麦がいなかった頃の試合なんて0ー24とかいうレベルで酷かったのにである。期待の新人を立てるどころか貶めるなど、碌でもないやつらである。
それだけならばまだよかった。ここからが先ほどの話につながるところなのだが、その頃の監督も、年功序列にこだわり、3年を立てるような行動しかしなかったのである。そして、その監督は酒を飲んで酔っ払った時に気が大きくなって猥褻罪で捕まってしまった。全く笑えない話だ。他にもヤバいやつがいたのだが、雷麦が関わって更生したり、捕まったりと、これでも減った方なのだ。
授業を受ける。平方根について習った。俺はそこまで頭がいいってわけじゃない。授業だってついて行くのがやっとだし、家に帰ってからは運動したりもするので勉強する時間は意外となかったりする。それでも苦手なりに一日3時間は最低でもやろうと決めている。英単語を毎日やっているからか、英語は点数が高かった。
授業を受けていると、俺が座っている椅子の近くに誰かの消しゴムが転がってきた。
「拾って。」
隣の人から声をかけられた。俺、前拾ったらゴミ扱いされたからあまり拾いたくねえんだけれどな。でも、無視するのは気が引けるので拾う。そして机に置いてやる。
「ありがと」
返事は端的だった。それだけの会話に男子がなんかこっち見てるんだが。こっちみんな。
「マジかよあいつ。誰もが振り向く美少女と呼ばれている時雨さんに見向きもしなかったぞ?!」
あ〜。なるほど。いかにも小説や漫画らしい設定の美少女だ。俺は名前を覚えるのが苦手なんだ。そんないちいち覚えていられるかよ。
これのせいで、いつもよりも飛ばされる消しゴムのカスが増えた気がする。めんどうな奴らだ。
キーンコーンカーンコーン
「ガッハッハッハッハ!!授業が終わったぞ!!」
なんともやかましい声だ。だが、こいつらの陰湿さに比べたら随分と心地いい。
今日は全ての教科を受けた。俺ばかりを当てる先生はいたが、まともな英語の先生、特になにもしないで誰に対しても優しいまともな家庭科の先生のおかげで今日は乗り切れた気がする。
俺の学校は、掃除は授業が全て終わった後だが、他の学校は昼休みの後なところもあるらしい。、、、掃除をする時間が終わり、帰りの支度をする。掃除を押し付けられた俺は、さっさと掃除を済ませようとしたら、先ほどの時雨さんが手伝ってくれた。
「ありがとう。」
「構わない。」
相変わらず、口数が少ないようだ。顔を見ると、本当に美人だった。可愛いというよりかは大人びてて美人。そんな感じだった。
「なに?」
視線を向けているのがバレたのか、こちらに向かって疑問を投げかけてきた。だが、なにだけでは意図を少し読みきれないため、こちらも質問で返す。
「質問で返すのは悪いが、なにとは?もう少し具体的に言ってくれると助かる。」
少し目を見開いたのがわかる。顔はスッと細長く、目はくっきりとしている。俺もこういうふうであればもう少し楽だったのかもな。
「あなたが私に視線を向けてきたのが初めて。何かようがあるのかと思った。」
「あー、すまん。さっき消しゴム拾った時の男子の言葉が耳にはいってな。本当に顔が整っているなーと思っていたところだ。」
「なるほど。」
口数が少ない。だが、その代わり仕事をきっちりやってくれたので、いつもよりも早く掃除が終わった。俺に押し付けている奴が本来やるべきことなので、時雨には何度も感謝を述べた。時雨は「いいよ。」と呟いて帰っていった。外は夕暮れに差し掛かり、赤やオレンジ色に染まっていた。久しく空を見ていなかったなと特に意味のない干渉に浸っていると、トンットンッというボールを蹴る音が響いた。下を見ると、雷麦がリフティングをしていた。あいつは本当に根っからのサッカー好きなんだな。
帰りの支度を済ませ、階段を下り、玄関に行くと、俺の靴が壊されていた。そろそろ買い替えようとは思ってはいたが、ここまで何度も壊されると不快だな。今月で2個目か。
校門に行くと、リフティングをしながら雷麦とトムが待っていて、月は足捌きを教えてもらっていた。
「龍!待ってたぜ!今日お前んち行ってもいいか?」
「いいぜ。トムも来るか?今まで誘ってなかったからな。」
「オゥ!スズキサンのおウチに行けるなんてッ!感激デスッッ!!デスが、本当にいいんですかスズキっさん!」
「おう、いつでもきていいぜ。」
「アッメージング!!」
「ガッハッハッ!龍のお袋は優しいやつだぞ!」
月は少し置いてきぼりだが、同年代じゃないからしょうがない面もある。それも含めて可愛がられるんだがな。
「あのう、トム先輩……?私のお兄……ちゃんとはいつ知り合ったのですか?」
トムは目をまんまるにしながら、月を見た後、笑顔でくるくると回り始めた。
「鈴木サン」「龍でいいぞ」
割り込んでそう言ったら、トムはすごい勢いで首を横に振った。
「イエイエ!!そんなわけにはいきマセん!!!私はスズキさんをソンけーしているのデス!!ですが、今よりもモット仲良くなりたいというノモ事実!!なので、龍之介サンと呼ばせていただけませんか!!!」
「いいぜ。むしろ大歓迎だ。だけど、俺から一つ訂正させてくれ。」
「ナンですか?」
「俺にとってはお前も大事な友だ。」
「んんんんん〜〜〜〜〜〜アメ〜ーーーージング!!!!!本当にトッテモ!!!トッテモ嬉しいことです!!!龍之介さん!!!!」
「ガッハッハッハッハ!!!トーム!!!よかったじゃねえかあ!!」
「えっ、あの……。」
「アッ、ごめんなサイ。月ちゃん。龍之介さんとはキョネンに雷麦サンが紹介してイタダキました!!!学校でいろんなウワサが聞こえてどんなヒトなんだろうとドキドキしていましタガ!!こんなに素晴らしい人と出会えるなんテおもわかなカッタデスよ!!!!」
そんなことを話していくうちに、曲がり角についた。
「ボクはここの曲がり角を曲がりマスから、ここで今日はお別れデス!!!また明日会いましょう!!!」
終始ウッキウキでトムは帰っていった。そして、このテンションの2人に月は飲まれたままだった。
次回は俺の家で遊ぶ予定だ。




