20. 留学生②
そう言ってその場にアストナ先生が現れた。
「なっ! アストナ先生! 何故貴方が!?」
アステルの言葉に、アストナ先生は少し困った表情をしてから説明する。
「たまたま図書室で調べ物をしていたら会話が耳に入ってきてね。それでどうしてもエマ嬢の事を証明しなくてはと思ったのだよ」
「では、アストナ先生はこの女が何故無詠唱を使えたのかご存知なのですか?」
アステルの言葉に、アストナ先生は不機嫌にアステルを見る。
「君は何故そうもエマ嬢を敵視する? この女呼ばわりするなんて、いくら第1王子殿下といえどもあってはならない事だ。これはしっかりと報告させてもらう」
アストナ先生のその言葉に、アステルはサッと顔色を悪くする。
「もちろん、同じように何の証拠もなく1人の女性を男3人がかりで責め、蔑んだ事も問題だな。マイク、レスター。君たちの事も学園と家に報告させてもらうよ」
「「そんな!」」
2人も顔色を悪くさせながら、私を睨む。
「まだ令嬢を睨むとは……。君たちの再教育を家に頼むしかないな。
それに……エマ嬢が無詠唱で魔法が放てるのは本当であると私が保証しよう」
そう言ってアストナ先生は、優しく微笑みながら私を見る。
「だって、学園入園前までエマ嬢に聖属性魔法の指導をしたのは、この私なのだから」
そう言って、アストナ先生は私に提案する。
「エマ・ベルイヤ。今ここで自分自身に無詠唱でヒールをかけてみろ」
そうね。目の前で無詠唱で魔法を発動すれば、しっかりと証明出来るわ。
私は頷くと、すぐに無詠唱で自分自身にヒールをかけた。
黄金色に輝く光に包まれた私を見て、アステルやマイク、レスターは絶句する。
「何も準備もない状態で、すぐに無詠唱で魔法が放てる事がこれで証明された。どうだ? これでも汚い手を使ったと言いがかりをつけるか?」
アストナ先生の言葉に3人は返答が出来ない。
「無詠唱の件もそうですが、アリア様に散々嫌がらせをしてきたという言いがかりもつけられましたわ。どれも覚えのない、何の根拠もない事を言われ、戸惑っていたところですの」
私はここぞとばかりに、先程の件を2人に訴える。
余計な事を話すなというように、またアステルらは私を睨むが知ったことでは無い。
「第1王子殿下。それは本当ですか?」
フィリス公爵令息がそう言うと、アステルは気まずげながらも、対抗する。
「アリアが泣きながら訴えたのだ。間違いない。
それに、留学してきたばかりの貴方には分からないだろうが、その女は狡猾で狡い女なのだ。
余計な口出しはやめていただきたい!」
そう叫ぶアステルに、フィリス公爵令息は顔を顰めながら、アストナ先生に問う。
「お聞きしたいのですが、証拠もなしに1人の証言だけでこの国は罪に問われるのですか?
それに、そもそも女性を3人がかりで脅しまがいに責めつけるなんて事、この国では許されているのですか?
だとすれば、紳士の風上にもおけない所業。理解に苦しみますね。帝国でこのような事をすれば、男性の方が恥をかくことになります」
そのフィリス公爵令息の発言にアストナ先生が反論する。
「いやいや、この王国だって、恥ずかしい卑劣なやり方だという認識だよ。許される訳が無い。
そんな男性ばかりだと思われるのは心外だ」
「でも、よりによって、この国を代表する第1王子殿下がされているようですが」
フィリス公爵令息はそう言ってチラッとアステルを見る。
アストナ先生とフィリス公爵令息の2人に責められ、アステルは俯きながら、顔を真っ赤にして全身が震えていた。
アステルは手を力一杯握りしめたまま、私に向き直る。
「無詠唱を疑った事は私が間違っていた。非を認めよう」
「「僕達も非を認める」」
マイクとレスターも、アステルに続いて言葉を発する。
「アリアに嫌がらせをした件については、こちらできちんと調べ直すとしよう」
アステルがそう言って身を翻し、それにマイクとレスターも続く。
そのまま去るかと思いきや、フィリス公爵令息が3人に声を掛けた。
「お待ちください」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
フィリス公爵令息に引き留められ、不機嫌そうにアステルが返答する。
「男3人がかりで令嬢を脅した件についての謝罪がまだです」
「脅したなど! 人聞きの悪い!」
「そうですよ! 脅してなどいない!」
「言いがかりだ!」
3人が口々にそう叫ぶが、フィリス公爵令息は平然として続ける。
「権力をかさに3人がかりで、1人のか弱い女性に詰め寄る行為はれっきとした脅しです」
そうフィリス公爵令息が言ったあと、私に小声で言ってきた。
『もっと怖がった風に震えてみせて』
えっ……! いきなりの無茶ぶり!?
私は今まで全然怖がりもせず、平然と成り行きを見ていた。
もちろん震えなども全くしておらず、突然の無茶ぶりに動揺しながら、オドオドした態度で怖がる風を装う。
いやいや! 震えるのは無理!
精一杯の演技だが、動揺していたのが幸いして、何とか3人には私が怖がっているように見えたようだ。
3人はバツの悪い顔になった。
「確かに、いきなり問い詰めたのは良くなかったかも知れないが、アリアの嫌がらせの件に関しては、調べてから改めて謝罪が必要と思った時にする事とする。謝罪ではなく断罪が必要かもしれないからな!」
そう言って、アステルは今度こそ図書室から出ていく。マイクとレスターもアステルに続いて出ていった。
「アストナ先生、ありがとうございました」
私はアストナ先生にお礼を言った。
「たまたま居て良かったよ。君の元家庭教師としては絶対に訂正しておきたかったからね」
「はい、先生にはいつも感謝しております」
「何か困った事があったら、これからも私を頼りなさい。いいね?」
アストナ先生はそう言って、私の頭にポンポンと手を置き、フィリス公爵令息に向き直る。
「グレイ・フィリス」
「はい」
「留学早々に問題は起こさないように。
特に相手が権力者だと逆上する恐れもある。追い詰めるのは程々にな」
アストナ先生はフィリス公爵令息にそう言ってから図書室から出ていった。
「言われてしまったね」
フィリス公爵令息は、そう言って肩を竦めた。
「あ、あの。ありがとうございました」
私はフィリス公爵令息にも、そう言って頭を下げた。
その私をフィリス公爵令息は無言で見ている。
ん?
なぜ無言?
「少し帰りが遅くなっただけで、こんなに成長してるとは……。
人間はやはり生き急ぐものなのだな。
帰ったぞ。エマ」
んん?
何言ってるの、この人?




