19. 留学生①
「エマ・ベルイヤ」
私が1人で図書室を利用している時だった。
名前を呼ばれ顔を上げると、そこには第1王子のアステルと、宰相の息子マイク、大司教息子のレスターが立っている。
はぁ……。またか。
今度はどんな因縁をつけてくるのか……。
「はい。何か御用でしょうか?」
こっちはなるべく関わりたくないのに、何故いちいち突っかかってくるのだろう。
「お前。この前の魔法学の授業で無詠唱をしたらしいな。一体どんな手を使ったんだ?」
「どんな手とは?」
「大方、アリアに対抗したくて汚い手を使ったのだろう!」
アステルの次に、マイクがそう言ってくる。
この人がセリーヌの婚約者とは……。
「どんな汚い手を使ったら無詠唱で魔法が放てるというのでしょう? 言いがかりは止めて頂きたいですわね」
私がそう言うと、今度はレスターが怒り出す。
「貴様! 生意気な! アリアに敵わないからと今まで散々汚い手を使ってきたくせに!」
何だか無性にムカムカしてきた。
何故やってもいない、なんの根拠もない事でこんなにも蔑まれ、責められなければならないのだろう。
「その、今までも汚い手というのは、どういった事ですか? 全く謂れのない事でこんなにも責められるのは心外です。激しく抗議しなければならないようですね」
本来、このように反論すれば、どのような報復があるか分からない。もっと低姿勢に言い方にも気を配っていなければならいのは分かっている。
しかし、明らかに何の根拠もなければ証拠もない事で、こんなにも責められるのは我慢ならないのだ。
「ずいぶんな態度だな。我々は今まで散々アリアから聞いているのだぞ。アリアに対する嫌がらせの数々をな!」
私はアステルがそう叫ぶのを、冷めた目で見ていた。
この人が将来、この国の王になる可能性があるのか。証拠もなしに先走るから、まだ王太子ではないのかも知れないな。とても国を統べる器には見えない。
そんな事を考えていた時だった。
「図書室で大声で騒いでいるのはマナー違反では?」
そう言って、私達の間に入ってきた青年は、ここの制服を着ており、同級生を表す青のクラバットを付けている。
にも関わらず、全く見覚えがない。ここの学園は12歳の時からほぼ全員が繰り上がりで進級するので、いつの間にかほとんどが顔見知りになるのだ。
この見知らぬ男子学生の登場に、その場に居た全員が一瞬が固まり、そして、その場の雰囲気が飲まれてしまった。
「誰だお前?」
アステルがその男子学生に問いかける。
シルバーグレーの髪に、ワインレッド色の澄んだ、ややつり気味の切れ長の瞳。
長身で靱やかな体躯をしている。
初めて出会うのに、何故か何処かで会ったことがあるような気にさせられるこの男子学生に、私は不思議に思いながら目を離せずにいた。
「これは失礼。
初めてお目にかかります。アステル・ド・サンタベルグ第1王子殿下。
私はティエス帝国からの留学生で、グレイ・フィリスと申します」
その紹介に、アステルとマイク、レスターがやや怯んだ。
「ティエス帝国って、あの軍事力の巨大な……」
「フィリス家といえば、ティエス帝国の公爵家……」
「この時期に留学生なんて聞いてないぞ?」
最期のアステルの言葉にフィリス公爵令息はニッコリと笑顔で答える。
「ええ、急遽決まったもので。でもすぐにお聞きになると思いますよ」
フィリス公爵令息がそう返答すると同時に、王家からの連絡が通達魔法でアステルの元に届く。
その連絡の手紙を素早く読んだアステルの顔色は、徐々に悪くなっていった。
後で知った話だが、グレイ・フィリスは、この王国より何倍もの大きさと戦力を持った帝国の公爵家の嫡男だそうだ。
当然、この国への影響力は大きい。
一方、アステルは第1王子ではあるが、あまり力のない家の側妃の子である為、力関係が弱い。
だから、まだ王太子には任命されておらず、アステルは、グレイとは友好的な関係を築くようと手紙で書かれていたそうだ。
帝国との友好的な関係と、後ろ盾となってくれる大貴族を手に入れてこそアステルは王太子に任命される。
その為、グレイを怒らせるわけにはいかない。
「あ、あぁ。今、陛下より連絡を受けた。サンタベルク王国を代表して、歓迎しよう」
そう言ってアステルはフィリス公爵令息に手を出し、握手を求めた。
しかし、フィリス公爵令息はその手を取らずに笑顔のままで話し出す。
「歓迎、ありがとうございます。
しかし、まずは先程の騒ぎの件なのですが。
か弱い女性を数名の男で取り囲うのは、ここの国の流儀なのですか?」
「そ、それは! この女が!」
フィリス公爵令息の言葉に、アステルが叫ぶ。
この女。
後ろ盾となってくれる大貴族を手に入れるには、そこの令嬢を婚約者に据えるのが1番手っ取り早い。
だからこそ、聖女候補ではあるが実家は男爵家のアリアではなく、他の力ある家の令嬢を婚約者にと側妃側は探しているのだろう。
アリアと婚約していない理由はそれだったと、後日セリーヌに教えてもらって知ったのだ。
そして、その有力候補に私が入っているという事に、はたしてこの男は気付いているのか、いないのか……。気付いていてこの態度だと、とてもいい根性をしている。
そう思いながら、冷めた目でアステルを見続けていた時、また別の声が私達の間に入ってきた。
「それは、私から説明しよう」




