18. 物語の影響?
しかし、その数日後より私への言われなき悪評が学園内に広がっていった。
最初は信じていなかった人達も、続いていく私への悪評に、徐々に嫌悪感を持ち始め、今では殆どの人が私を避けるようになってしまった。
「ほら、みて。あの人よね? アリア様に嫌がらせをしている人って」
「聖属性が同じなのにアリア様だけ聖女候補なのが気に入らないって、敵視しているらしいですわよ」
「呆れた。アリア様は2属性持ちで魔力も高いからなのに。何様のつもりなのかしら」
コソコソと私を見ながら周りの人達が話している。
朝の登園中にてクラスに向かう途中で、今は一人だ。
こっそり、はぁっとため息を吐きながら自分のクラスに向かっていた。
「お前ら、コソコソ話すなんてタチが悪いぞ!
エマ嬢がアリア嬢を虐めているところを実際に見てから言っているのか!?」
そこに、私を援護する声が聞こえた。
その声に私の陰口を叩いていた学生達が逃げていく。
誰かと思い振り向くと、そこには意外な人が立っていた。
「ベオグラード侯爵令息様」
「やぁ、相変わらず硬い呼び方だな。
オリバーで良いって言っているのに」
そう笑顔で私に言ってくる。
学園入園前に、騎士団の練習で目を負傷した時に知り合ってから、オリバーは何かと親しげに話しかけてくれる。
それは学園入園後、第1王子の側近として第1王子とアリア達と行動を共にしている今も、私に対する態度は変わらなかった。
「そろそろオリバーって呼んでくれても良くないか? 知り合ってからもう4年になるよ?」
そう言うオリバーに戸惑ってしまう。
「でも……わたくしがみんなにどう思われているかご存知でしょう? 第1王子殿下や他の方からも度々苦言を頂いておりますし……。なのに、側近の貴方と親しげに話していたら、貴方のお立場が悪くなるのでは?」
私がそう言うと、なんて事のないように首を竦める。
「気にしないよ。僕は自分の目で見て、自分が感じたままに行動する。人の噂で左右されるほど、愚かではないつもりだよ」
そう言って、名前呼びをまた催促した。
「さ、呼んでみて。オリバーって」
私は戸惑いながらも、変わらない態度のオリバーにホッとしていた。
「オリバー様。先程はありがとうございました」
そう言ってお礼を言う私を見て、満足気に頷く。
「うん。いいね。さっきのは気にしないでくれ。ああいう根も葉もない噂はそのうち消えるさ」
そう言って、オリバーは先に教室に入って行った。
噂に流されて離れていく人達が多い中、オリバーは自分の立場も気にせずに変わらない態度で接してくれる、数少ない人のうちの一人だ。
オリバーの対応は私に勇気をくれる。
うん。
物語が始まっても、変わらない人もいる。
絶対に物語に流されてたまるものですか!
そう、改めて決意した。
今日は魔法学の日だ。
聖属性は少ない為、各学年合わせての授業になる。
私の学年からはもちろんアリアと私が聖属性だ。学年によってはいない年もあるので、まぁまぁ多いほうだと言える。
「さぁ、みんな。始めようか」
アストナ先生の号令と共に授業が始まった。
本日の授業は治癒魔法の発動速度を上げる練習だ。
自分自身に治癒魔法をかけながら、発動速度を調整していく。
「「「ヒール」」」
みんな一斉に発動条件である詠唱を唱えていく。
「もっと速く。戦いのさなかに少しでも早く味方にヒールを掛けられるように。イメージを大事に」
アストナ先生の指導が飛ぶ中、やはり1番早く発動出来るのはアリアだった。
「アリア・マリーネット。その調子だ」
「はい!」
アストナ先生に褒められて、アリアはとてもいい笑顔を見せる。
その隣りで私もヒールを発動するが、今まで無詠唱で発動していた為、みんなに合わせて詠唱を唱えてから発動すると、どうしても発動は遅くなってしまう。
「みて。エマ様、全然アリア様より発動が遅い。よくあれでアリア様を敵視出来るわよね」
「なんだ、大した事ないじゃないか。アリア嬢のほうがやはり圧倒的な凄さだな」
周りの見学していた人達がアリアと比べながら私を蔑んでいるのが聞こえてきた。
これがヒロインと悪役令嬢の差なのだろうか。
何をしても比較され、こき下ろされる。
私自身、アリアと張り合っているつもりは無いけど、周りの雰囲気がそれを許さず、気が付けばいつもアリアの行動と比較されていた。
「エマ・ベルイヤ」
アストナ先生が私の名前を呼ぶ。
「はい」
「周りは気にしなくていい。自分のやり易いようにすればいいんだ」
アストナ先生のその言葉に、詠唱をしなくてもいいのかと不安になる。
「……いいんだよ。自分のスタイルで」
アストナ先生は、家庭教師をしていたから、私が無詠唱派である事を知っている。
だから、基本は詠唱であるが、私本来のやり方を認めてくれているのだろう。
先生の言葉に私は頷き、無詠唱でヒールをかける。
無詠唱のヒールは、本来の私のヒールだ。
何度も無詠唱のまま自分にヒールをかけ続ける。
素早く何度もキラキラと輝きを放つ光とともに掛けられたヒールを見て、それまで私を馬鹿にしていた周りの人達が唖然としていた。
「え? 無詠唱?」
「いきなり発動速度が増してないか?」
「この輝きはなんだ? 他のやつは白い光なのに、エマ嬢のヒールは黄金色だ」
「エマ様自体が光ってるみたい。綺麗……」
エマは普段は悪評にて、良いように見られないが、元々容姿が整っている。
ラベンダーピンクの緩やかな髪と、アメジスト色の切れ長の大きな目は珍しい色でとても人目を惹く。
スタイルも成長するにつれて、令嬢にしてはやや高めだが、ほっそりとして白くて長い手足にくびれた腰、胸もそこそこにある。
そのエマに、キラキラと黄金色に輝く光がエマを包むように舞っているのだ。
そこに居た人達は、惚けるようにその光景を見ていた。
それに加えての無詠唱に発動速度の加速。
もはや、この場にいる誰もがエマの事を悪く言う人はいない。
ただ1人を除いて……。




