17. 物語が始まる?
宝玉を取り戻せる機会もなく、気が付けばすでに学園生活も4年目に突入していた。
ラケシス様からの連絡もなく、そして、いまだにグレイは戻ってきていない。
もしかして、宝玉の話は夢だったのかと思ってしまうほど平和な毎日を過ごしていた。
第1王子と聖女候補のアリアは、未だに正式に婚約をしていない。入園当初は第1王子の妃候補として多くの高位貴族の令嬢は、婚約者を決めずに妃候補として選ばれるのを待っていたが、王家は一向に妃候補を決めず、かと言ってアリアを婚約者にする気配もみせない。
1人2人と妃候補になるのを諦めて婚約者を決めていく中、3年経った今では、婚約者が決まっていない令嬢のほうが少なくなっていた。
今年17歳になる侯爵家の長女の私も、未だに婚約者は決まっていない。
もちろん野心家の父の意向で、妃候補を狙っての事だ。
小説の中でも私は妃候補を狙っていたそうだ。
そして、物語を辿っていけば、今年辺りに妃候補として選ばれる内の一人となるだろう。
「本格的に物語が始まる17歳の年までに、宝玉を回収したかったんだけどなぁ……」
思わず私は独り言を言いながら、はぁ~とため息を吐く。
「入学前のお茶会以来、身に付けてないのか全く宝玉を見かけない……。
こっそり取り返そうと思って、部屋に遊びに行った時に怪しまれてるしなぁ……」
そう。
私は宝玉を探すため、クラスメイトという立場を利用して、一度アリアの部屋に入った事がある。
アリアは教会預かりなので、教会内に部屋を与えられていた。
同じクラスになった事で、極力関わりたくなかったけど関わらざるを得ない状況になってしまったので、逆に開き直って仲良くなってみようとしたのだ。
そうすれば宝玉を探しやすいし、仲良くしていたら、もしかしたら私の言う事を信じてくれるかもしれないと思ったから……。
まぁ結果から言うと、惨敗だ。
何度話しかけても、何故か明らかにアリアに警戒されているのだ。
それでも無理矢理アリアのところに押しかけていって、部屋に上げてもらった。アリアがお茶を用意しに席を外した隙に、宝玉を探すために部屋中を物色しまくっていたら、その行為をアリアに見つかって、すぐに追い出されてしまった。
焦ってやり過ぎた感は否めないが、3年経った今でも警戒を解いてくれない為、更に宝玉奪還は難航しているのだ。
はがゆく思いながら、セリーヌと2人でお昼ご飯を食べに食堂に行くと、食堂ではとても目立った集団が同じテーブルについて楽しそうに笑っていた。
「まぁ。またあの方達は一緒にいらっしゃるのね」
皆の視線が向かっている先には、小説のヒロインであるアリア・マリーネット、第1王子のアステル・ド・サンタベルグ、宰相の息子マイク・アムスワン、大司教の息子レスター・ザンテール、近衛第2騎士団長息子オリバー・ベオグラードの5人が座って、共に昼食を食べている。
「アリア様、また魔力が上がったらしいですわよ」
「聖属性魔法よりも火魔法のほうが得意なのは、本当なのかしら?」
「いくら聖女候補でも、殿方達とばかり一緒にいらっしゃるのは、はしたないですわよね」
攻略対象者達はそれぞれ人気がある。
第1王子を除く、他の攻略対象者には婚約者はいるが、あまり交流を図らず、アリアに侍っているそうだ。
攻略対象者の婚約者達は当然この状況が面白くなく、不満に思っている。
度々その方々にアリアが注意されるが、その都度第1王子や、他の攻略対象者が助けに来て注意をした側を責めるので、余計に関係性が悪化しているとも聞く。
そして、私の横で呆れた目であの集団を見ているセリーヌも、実は宰相の息子のマイク様と婚約をしていた。
「セリーヌ、大丈夫? マイク様とは上手くいってるの?」
私は心配になってセリーヌに問う。
セリーヌは、乾いた笑みを浮かべながら、
「決められた月一回のお茶会も、先日はすっぽかされましたわよ」
と返答した。
ああ。やはり小説のストーリー通りに未来は向かっているようだ。
あの小説のストーリーは、17歳になる学園4年生が主な舞台となる。
そして、今年がその17歳になる年。
この1年で私の運命は決まってしまう。
宝玉を取り返せなければ、18歳を迎える年に私は処刑されてしまうのだ。
セリーヌと共に食堂で食事をしている最中も、ついそんな事を考えてしまう。
「もう一度、アリアの部屋に探しに入れないかなぁ……」
私の呟きに、セリーヌが反応した。
「え? 何をアリア様の部屋で探すのです?」
「え? あ、ああ、え~っと……」
ヤバい! もう! 私って、なんでこう、迂闊なんだろう!
咄嗟にどう誤魔化していいか分からず、しどろもどろになりながらも、何とか言い訳をした。
「え、え~と……。
あっ! そう! 私も聖属性なのに、アリア様みたいに上達しないから! 何か上達するヒントがあるかなぁって思って!」
「そうなのですね。でもエマも十分凄いと思いますわよ。もともと希少な聖属性魔法をちゃんと使いこなせてるではありませんか」
私の言い訳に疑う事なく、セリーヌは優しくにっこりと笑いながらそう言ってくれた。
「エマ・ベルイヤ」
そこに第1王子のアステルと、大司教の息子のレスターが私たちのテーブルに来て、私に話しかけてきた。
「第1王子殿下にご挨拶申し上げます。
わたくしに何かご用でしょうか?」
私が挨拶をして尋ねると、第1王子は憎々しげな表情で、私を見た。
「お前、アリアに聖属性の授業中に嫌がらせをしているようだな。いくら実力がアリアに劣るからと侯爵家を盾にアリアに圧力をかけようとするなんて、みっともないと思わないのか?
それに、アリアは聖女候補だ。侯爵家の権力なんて通じない事を覚えておくんだな!」
……ん?
この展開は、もしかして物語が始まったのか?
「え……あの。そんな事をした覚えはないのですが……」
私がそう言うと、今度はレスターが食ってかかってくる。
「厚かましいですね。アリアが優しくて何も言わない事をいい事に、部屋に押し入ってアリアの持ち物を取ろうとしたりしたくせに!」
あ。それに関しては言い逃れが出来ない。
「そ、それは深い事情がありまして……」
「はっ! 認めたな! いいか! 今後一切アリアには近づくなよ!」
部屋に行ったのは今から3年前だ。
第1王子の威圧におされながらも、何故今になって部屋に行った事を言い出したのか。
不思議に思いながら王子達を見ていると、王子達は蔑むような目で睨んでからその場を去っていった。
「大丈夫!? なんですの? あれ! エマはそんな事する人間じゃないですのに!」
傍で今のやり取りを聞いていたセリーヌが憤慨している。
私はセリーヌのほうに向き直って笑顔を見せた。
「大丈夫。ありがとうセリーヌ。何か誤解があったようだけど、私はそんな事していないから堂々としているわ」
これから始まる物語に、どう立ち向かえばいいのか……。
不安に思いながらも、毅然とした態度でそう言った。




