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敵に回しちゃいけないタイプの人って居るよね

(……おいクーリア、少し体の主導権を貸せ)

(えっ? はい、分かりましたけど……)


 私が体の力を抜くと、すっと右手が持ち上がり、私の口からミコトさんの冷たくも力強い声が紡がれました。


「……なあ、爺さん。奴らに一矢報いたくはないか?」

「な、何を……わしらのような年寄りに、何ができるって言うんでごぜえますか……」

「できるさ。俺の『理論(ロジック)』と、こいつの『魔法(ちから)』があればな」


 ミコトさんは不敵に笑うと、荒れ果てた畑へと歩み寄りました。


(行くぞクーリア。まずは土の生活魔法(せいかつまほう)で土壌の成分を最適化しろ。窒素、リン酸、カリウムのバランスを強制的に整えるんだ)

(は、はい! ええと、土をふかふかにする魔法ですね!)


 私が魔力を流し込むと、干からびていた土がみるみるうちに黒々と湿り気を帯び、豊かな土壌へと蘇っていきます。


(よし、次は植物の生活魔法だ。成長速度の限界(リミット)を外し、魔素を直接熱量と特殊な薬効成分(バフ)に変換して定着させろ)

(成長促進……! いきます!)


 ぽこぽこと土から芽が出たかと思うと、それはあり得ない速度で成長し、あっという間に瑞々しく巨大な野菜や果実を実らせました。

 その信じられない光景に、お爺さんや遠巻きに見ていた村人たちは腰を抜かさんばかりに驚いています。生活魔法の詠唱すら省いたあり得ない速度での大豊作です。


「さあ、食え。こいつはただの作物じゃない。細胞の修復を促し、一時的だが肉体を全盛期の状態まで引き上げる極大強化(ブースト)仕様だ」

「こ、こんな立派なものを……わしらが……?」


 お爺さんが震える手でトマトのような赤い実をかじった瞬間――その曲がっていた背筋が、バキバキと音を立てて真っ直ぐに伸びました。


「おお……? おお、おおおお!? 力が……鍬を振るっていた、あの頃の力が湧いてくるだで!?」


 驚くべき回復力で、村人たちの顔にみるみる血の気が戻り、枯れ木のような腕に隆起した筋肉が蘇っていきます。


「いいか、次にここへ来る盗賊団は、お前たち自身の手で全員捕縛しろ。俺たちはあくまで技術支援(サポート)だ。自分たちの村は、自分たちの手で守り抜け」


 ミコトさんの言葉に、全盛期の肉体を取り戻した村人たちの目に、力強い闘志の炎が宿りました。


「罠の張り方なんかは、長年この地に住まうあんたらの方が詳しいだろうから任せる。私は補強(アレンジ)だけはする」


 ミコトさんは頼もしく言い放つと、口元に極悪な……いえ、とても嬉しそうな笑みを浮かべて、ぼそぼそと呟き始めました。


「……ふふっ。まさか、ただの魔物避けの鉄線に高圧電流(スタンガン)が流れてるなんて、あの馬鹿共には想像も付かないだろうな。落とし穴の底の摩擦係数をゼロにして永久に這い上がれなくするのもいい。いや、いっそ特定の範囲内だけ酸素濃度を削って、気付かないうちに酸欠(スリープ)状態に……」


(ミ、ミコトさん!? なんだかすごく活き活きしてませんか!? しかも追加する罠の発想がどれもエグすぎます!)

(ふん。俺たちの優雅な船旅を邪魔しようとする害虫駆除だ。これくらい念入り(オーバーキル)にやって当然だろう。むしろ、俺の現代物理学と魔法の融合テストに協力できることを光栄に思ってほしいくらいだ)


 ブツブツと嬉々として凶悪な追加トラップの脳内設計を続けるミコトさん(の顔をした私)。

 その姿を見て、先ほどまで全盛期の肉体を取り戻して「やってやるだで!」と意気軒昂だったはずの村人たちが、ザザッ……と、全員揃って青い顔で一歩後ずさりました。


「ひ、ひぃ……。お、お貴族様、お美しい顔でなんて恐ろしいことを……」

「や、野盗どもよりよっぽどえげつねえ……」

「お、おらたち、急いで落とし穴を掘ってきやす!」


 すっかり怯えてしまった村人たちは、有り余る全盛期のパワーを使って、クモの子を散らすように村の入り口へと走っていきました。


(……ミコトさん。村の人たち、野盗より私たちのことを怖がってませんか……?)

(気のせいだ。恐怖より実益(リターン)が勝れば問題ない。さあ、クーリア。まずは鉄線に雷属性の魔素を流し込むぞ。電圧と電流の最適化(コントロール)は俺がやる)

(も、もう……。死なない程度に手加減してくださいね!)


 こうして、のどかだったはずの寒村は、ミコトさんの楽し気な技術監修(コンサルティング)により、一歩足を踏み入れれば即座に『死(あるいは物理法則の崩壊)』が待ち受ける、最悪の要塞へと変貌を遂げていくのでした。

 村人たちの(ある意味で)決死の努力により、何とか日暮れまでには村を囲む塀の補修と、それを突破された時のための村内部への罠の設置が完了しました。

 自分たちが掛からないように、さりげなく石や木の枝で目印が付けられてはいるものの、ミコトさんが追加した仕掛けのせいで、一歩間違えば危うく死の縁に立たされそうな凶悪なものばかりです。


「お、おっかねえ……一歩間違えたら、わしらまで黒焦げになっちまいそうだで」

「全くだ……お貴族様の考えることは、恐ろしい……」


 完成した地獄のような要塞を前に、思わず身震いする村人たちでしたが。

 ふと、無惨に荒らされた畑や、打ち壊された家屋、そして理不尽に連れ去られた若い衆や子供たちの顔が脳裏をよぎります。


「……いや。奴らに奪われた痛みに比べれば、これくらいの覚悟、どうってことねえだ!」

「そうだ! わしらの村は、わしらの手で守り抜くんだで!」


 極上の作物で全盛期の肉体を取り戻した村人たちは、かつて自分たちがされてきた暴虐を思い出し、再びその目に強い闘志の炎を燃え上がらせました。


(ミコトさん。村の皆さん、すごくやる気になっていますね)

(ふん、当然だ。肉体的な制限を外した上で、確実な防衛手段を与えれば、あとは怒りが勝手に原動力になる。心理的な誘導も完璧だな)


 相変わらず理屈っぽいミコトさんですが、その声には確かな手応えが混じっていました。

 あとは、何も知らずにこの村へ足を踏み入れる愚かな野盗たちを待つばかりです。

 日がすっかり落ち、村に不気味な静寂が訪れた頃。遠くの街道から、複数の無骨な蹄の音が響いてきました。

 土煙を上げて現れたのは、武装した数人の野盗たちです。村の入り口で乱暴に馬を止めた先頭の男が、下品な笑い声を上げながら威勢良く叫びました。


「オラァ! 今日の取り立てだァ! ちゃんと用意出来てンだろォなァ!?」


 しかし、我が物顔で村へ入ろうとした男は、新調されている頑丈な柵に気付いて馬の歩みを止めました。


「……あァ? ケッ、無駄な抵抗しやがって。まぁだそんな柵を作る気力が残ってやがったか」


 男は忌々しそうに鼻で笑うと、後ろに控えていた部下たちに向かって顎をしゃくりました。


「おい、あんなもん蹴り飛ばしてこい。年寄りどもに、誰が一番偉いか分からせてやれ」

「へへっ、任せてくだせえ!」


 命令を受けた部下の一人が、下卑た笑みを浮かべながら馬から降り、新調された柵へと歩み寄ります。そして、勢いよく足を振り上げて、見せしめのように柵を蹴り飛ばそうと……した、その瞬間でした。


 バヂィィィィンッ!!


「「「……は?」」」


 夜の闇を切り裂くような青白い閃光と、空気を焦がす強烈な音が響き渡りました。

 蹴りを入れたはずの部下は、一瞬にして全身の骨が透けて見えるほどの高圧電流(スタンガン)の洗礼を浴び、言葉にならない悲鳴すら上げられず、口から煙を吐きながら黒焦げになって後方へと吹き飛ばされたのです。


(……ビンゴ。接触と同時に通電するよう、魔素の抵抗値(リミット)を調整しておいて正解だったな。まずは第一被害者、いっちょ上がりだ)

(ミ、ミコトさん! やっぱり威力がえげつないですよ……!)


 ドサリと地面に落ち、ピクピクと痙攣して白目を剥いている部下。

 その信じられない光景を前に、先ほどまで威勢の良かったリーダー格の男も、他の野盗たちも、開いた口が塞がらない様子で完全に固まっていました。

 目の前で黒焦げになった部下を見て、頭領の男は一瞬、信じられないものを見るように目を剥きました。

 しかし、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴り散らします。


「な、何やってんだ! 気絶してんじゃねえ、次! お前が行け!」

「ひぃっ!? お、俺っすか!?」


 無理やり背中を蹴飛ばされた二人目の男が、恐る恐る柵に手を伸ばします。


 バヂィィィィンッ!!


「ぎゃあぁぁぁっ!?」


 当然の結果でした。二人目の男もまた、青白い閃光と共に勢いよく弾き飛ばされ、地面で痙攣を始めます。

 それを見て、ようやく頭領もそれがただの柵ではないと気付いたようです。


「ええい、罠だ! その柵に直接触るんじゃねえ! おい、魔法でまとめて吹っ飛ばせ!」

「へ、へいっ!」


 頭領の怒声に弾かれたように、最後尾にいた小柄な男が前に出ました。どうやら野盗の中にも、多少は魔法を扱える者がいるようです。

 男が短い詠唱と共に杖を振るうと、炎の塊が放たれ、けたたましい音と共に柵の一部が木っ端微塵に吹き飛びました。


「よし、突破口が開いたぞ! 野郎ども、一気に踏み込んで年寄りどもを血祭りにあげろ!」

「「「おおぉぉっ!!」」」


 頭領の号令と共に、残った野盗たちが一斉に土煙を上げて村の内部へと雪崩れ込んでいきます。

 ――しかし、彼らはまだ知りません。

 苦労して開けたその突破口の先こそが、ミコトさんがとても楽しそうに構築した、そこら中が罠だらけの本当の地獄への入り口だということに。


「突撃ィ!」と息巻いて村に踏み込んだ野盗たち。しかし、彼らを待っていたのは地獄の遊園地(テーマパーク)でした。


「うわあっ!?」


 先頭を走っていた数人が、偽装された土を踏み抜き、突如として開いた大穴へと真っ逆さまに転落します。


「くそっ、引き上げろ! ……って、滑る!? なんだこのヌルヌルは!」

「だ、駄目だ、全然引っかからねえ……一生出られねえぞこれ!」


(……当然だ。摩擦係数を極限までゼロに近づけた特製スライム液だ。一度落ちたら、物理法則が崩壊しない限り自力で這い上がるのは不可能だぞ)


 ミコトさんの楽しそうな解説を他所に、別の野盗たちが穴を迂回しようと土を踏んだ瞬間。

 ガチャンッ! という無機質な音と共に、彼らの周囲を取り囲むように地面から鋭い鉄柵が勢いよく飛び出しました。


「な、なんだこの檻……ぎゃあぁぁっ!?」


 触れた途端に火花が散り、閉じ込められた野盗たちが白目を剥いて痙攣を始めます。当然、その鉄柵にも容赦なく高圧電流が仕込まれていました。

 次々と無力化されていく仲間を見て、残った野盗たちは完全にパニックに陥りました。武器を構えたまま、見えない恐怖に怯えて右往左往しています。

 そこへ、ミコトさんが仕掛けた『真の罠』が、静かに発動しました。

 吹き抜ける夜のそよ風に乗って、野盗たちの耳元にだけ、ピンポイントで呪いのような囁き声が届き始めたのです。


『……おまえの母ちゃんは不妊症……』


「ヒッ……!? だ、誰だ! 誰が言った!」


『……おまえの母ちゃんは……不妊症……』


『……つまり、お前は……』


「うわあああぁぁっ!? や、やめろおおぉっ!!」


 物理的な痛みに加え、自分たちの存在意義すら根底から揺さぶるような、あまりにもエグすぎる精神攻撃。

 頭を抱えて泣き叫び、ゴリゴリとメンタルを削られていく野盗たちの姿を、物陰から様子を窺っていた村人たちと私は、完全に血の気の引いた顔で見つめていました。


「……お、おら、お貴族様を敵に回すくらいなら、自分で舌噛んで死んだ方がマシだで……」

「全くだ……悪魔よりえげつねえ……」


(ミ、ミコトさん……いくらなんでも、やりすぎじゃないですか……? なんだか、あんな酷いことをしていた野盗の人たちが少し可哀想に見えてきました……)

(同情など無用(ナンセンス)だ。心を完全にへし折っておけば、二度とこの村を襲おうなんて気は起きないからな。これも立派な防衛戦略(ディフェンス)だ)


 私の脳内で、ミコトさんは自分の作り上げた完璧な地獄絵図にご満悦の様子です。

 ……こうして、無力化され、すっかり心が折れてうずくまる野盗たちを、全盛期の筋肉を取り戻した村人たちが(少しだけ同情の目を向けながら)次々と縄で縛り上げていくのでした。



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