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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:四部・スキル屋店員の、天空迷宮。
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スキル屋店員の、天空迷宮。3

 召喚された時とは打って変わった天空ダンジョン最下層に、一人の女の子が現れた。

 短めの白い髪の毛を外ハネにさせた、年にすると十四歳くらいの女の子。身長はやや小さく、胸は発育の途中経過で、四肢は細いし腰周りも驚くほどの曲線美を描いている。さらに小顔でまるで人形かと思うほど整っていた。

 そんな女の子が白い鎧を着させられている。その事にも一同は疑問に思ったが、すぐに答えは判明した。

 女の子の正体は、先ほどまで戦っていた狼――魔物だ。だが、何で魔物から人間になったのか、それは一人にしか分からない。

 その一人は、後髪をいじりながら皆に説明する。


「……俺、さ。ダメなんだよね」

「何がですか?」


 突然切り出された言葉に、首を傾げたフフィ。彼女だけでなく全員に伝わるように優は再び口を開く。


「生き物を殺すっていう行為が、だよ。だってさ、例え魔物だったとしても俺らと同じで生きてるんだ。さっきはレイさんが噛みつかれた事で気が動転したけどさ、やっぱり、殺すのは良くないって」

「で、それが何でこの結果に繋がるのじゃ。簡潔に説明せよ優」


 この結果とは、狼が女の子に変わった現象についてだろう。その事について、セシファーは腕組をしながら回答を待つ。

 一体何をしたら魔物が亜人種の女の子になるのか。それについての疑問でフフィとハーバンは頭がいっぱいであった。


「簡単に言うと、魔物を人間にする武器で攻撃しただけだ」

「随分簡単に言いますけれど、そんな武器あるんでしょうか」


 優の答えに、今度はハーバンが問う。


「厳密に言えば、存在しない。だけど、俺は何でも召喚できる力を持ってる。だから、魔物を可愛い女の子に変身させる武器を召喚しただけ」

「ちょっと待って。でも、月穿ちの弓で【絶対防御】ごと壊そうとしましたよね?」


 先ほどの戦いで、レイは目にしていた。優が月穿ちの弓で能力ごと狼を殺そうとした所を。だが、その後の行動の真意は分からない。


「いや、月穿ちの弓はただスキルを破壊するだけ。『月破壊』っていう武器専用スキルは基本的にスキルを破壊するスキルだけど、一時的な効果しかないんだ。だから、あのまま月穿ちの弓で攻撃して成功していたとしても、倒せる見込みがあったわけじゃないし、殺すのはやっぱりダメだって感じたから、コレを使ったんだ」


 優は右手に持っていた銃を、皆に見せた。鍵のような形をした金色の拳銃。正直玩具にしか見えないような形だし、その拳銃が魔物を人間に変身させる事ができるのかどうかは微妙なところだ。

 そこで腕組をしていたセシファーは、はぁっと深い溜息を吐いて優を半目で睨みつける。


「……お主の殺生嫌いは知っておったが、まさかここまでとは思っておらんかったぞ」

「…………いや、九星 大地なら殺せるんだけどな」


 その言葉にフフィとハーバンが肩をピクっと跳ねあげて反応した。


「聞捨てなりませんわね。逆に言いますけれど、大地様はあなたなんかのような虫けら変態ゴミクズアホド変態ボケカスバカ変態男に殺されるような男ではなくてよ。逆に大地様に指一本触れてごらんなさい。あなたの血で鍋パーティでも開催しようじゃありませんか」

「優さん。あまり人を怒らせるような言動は避けた方がいいですよ。でないと神様に呪われますよ。例えば、優さんだけが焼き焦げになるような雷が落ちてくるとか、あ、溺れるとかもありそうですね。逆に炎で焼いてハーバンの晩御飯にするのもアリですね。いや、それだったらまずは風で斬り裂かないと食べれそうにないですね。うふふ。大地さんをバカにすると怖いですね。うふふ」


 優は背筋を凍らせる。それはまるで北極に丸裸で突風を受けるかのような悪寒だ。二人とも口裂け女のように、うふふ、と奇妙に笑うし、その瞳は誰かを殺すとかそういう次元じゃなくて、どう存在を抹消しようかと考えている者の眼でもあった。

 だが、優はバカだからか。二人がヤンデレ化したとしか思っていない。


「ヤンデレは最っ高だ――――――げふっ!?」

「少しは空気を読んでください」


 レイは呆れながら優の頭を叩いた。ドMなのか。叩かれた事に関しても優は笑っている。困った男だ。

 そんな中、狼だった女の子は起き上がる。


「う、う……ん……」


 眠たそうに目を擦り、優を視界に入れた。瞬間、血の気が引いたような真っ白な顔をして、後方に一回転し警戒する。


「お前っ! この気高きアーク・ウルフデットのミチチ様を殺そうとした愚か者だな! 今すぐ首の皮をかみちぎってやるッ!」


 がるるるっと狼の時よりも迫力が半減したミチチと名乗る少女は、優をもの凄い眼で睨みつけた。雰囲気的に言うと親の仇でも見つけたかのようである。

 しかし、そこはさすが自称主人公優君で、両腰に手を当てて偉そうに胸を張りながら、自己紹介を始めた。


「よく起き上がった! 俺の名前は二宮 優! この世界のハーレム王となる伝説中の伝説。生ける英雄、最強の主人公とは俺の事! さぁ、俺の一夫多妻制に加わらないか! そうすれば毎晩俺様愛用のロケットランチャーを発射してやるぞ! もちろん、中に――――――――げふん!?」

「死ね」

「おい、ロリババァ。俺はな、勧誘中なんだぞ? 邪魔するんじゃ――――げふん!?」

「死になさい。クソ変態ゴミ変態アホ変態バカ変態ド腐れキモ男」

「ちょ、ハーバンさん! ここは暴力系ヒロインのツンデレはいらな――――――ぎゃああああああああ!? 雷!?」

「落ち着きましょうか。優さん。もうじきお迎えが来ると思いますよ。神様が天に連れて行ってくれるかもしれませんよ? あ、もしかしたら地獄かもしれませんが」

「フフィさん? 何で俺に雷なんて落とす――――――危なッ!?」

「優君。デリカシーというものを持った方が良いよ。僕は女の子に汚い言葉を発する人間が大っ嫌いでね。次言ったら首を斬ります」

「まさかのレイさんのヤンデレフラグ立ったか!? ふぅ! 俺様人生モテ期最高潮! リア充? 万歳! 童貞!? サヨナラ! 俺様ハーレム王!」

「「「「死ね」」」」

「ぎゃあああああああああああああああああああっす!」


 全員から蔑まれた優。その身体は、フフィによって雷を落とされて黒焦げになり、レイに死なない程度に切裂かれ、ハーバンとセシファーによる踏みつぶし攻撃を百発以上は喰らっていた。もう、彼に息があるのかは不明である。

 優のリンチを終えた一同は、改めてミチチに視線を移した。


「ごめんなさいね。ゴミが迷惑をかけたみたいで」

「あ、えーっと……」

「大丈夫です。あなたに危害を加えるようなゴミはもう排除しましたから」

「そ、そのー……」

「何も見ていません。気にする必要はないですよ。もうゴミはいませんから」

「う、うー……」


 フフィによる脅しにも似た説得。

 ハーバンとレイはその光景を見て、スキル屋で一番怒らせたら怖いのは、もしかしたらフフィではないかと考え始めていた。

 優をフルボッコもとい百連コンボだドンッ! にした一同はミチチに対して敵意がない事を必死に伝え、何とか会話ができるようになったのだ。


「ご、ごめん! いきなり襲いかかって……。ミチチ、前にある人間に襲われてから、つい警戒しちゃって……」

「警戒? お主、ワシらのような人間を見た事があるというのか?」


 ミチチはしょんぼりとうな垂れている。どうやら攻撃を仕掛けた事に対して、そうとう反省している様子なのだが、一同はそれを疑問に思っていた。なぜなら、魔物は人間を襲う存在なのだと誰もがそうだと信じて疑わないし、それに魔物は人間を餌にしているとも思っていたからだ。

 その疑問を皆は口に出さずに胸にしまいこむ。


「えっとね、数ヶ月くらい前だったかな。あのね、闇魔法みたいな黒い髪の毛をした美人さんが、このダンジョンに現れたの。正直最初は皆人間が来て、珍しいからって野次馬しちゃったの。そしたら……」

 

 話を続けるミチチは、明らかに顔色を悪くした。


「皆にね、変な防具を無理矢理装備させて、いきなり命令したの。猫耳の女と赤い宝石のヘアピンをした女と黒髪のメイドを殺せって。そしたら、わけが分からなくなって……」

「なるほどのぅ……」


 ミチチの話にセシファーは、うんうんと何度も頷く。まるで、何かを知っているようにも見えた。

 つまり、天空ダンジョンの魔物達は、人間の話す言語は喋れないものの、人間とはどういう生き物か分からないが為に襲ったりする事はないようだ。そこで、今回現れた女に防具を装備させられて、命令されて動いていたというわけなのである。

 しかし、そうなると、その装備を今身に着けているミチチはどうなるのか。


「ちなみにさ、その防具って取り外せないのかな?」


 優しい口調でレイがミチチに聞く。だが、ミチチは首を横に振るばかりだ。


「……外せないの。今は機能が停止してるから大丈夫みたいだけど、いずれは……」

「そうなんだね。なら、丁度良い」


 ニッコリと笑ったレイは、ボロ雑巾同然の優の首根っこを掴んでミチチの近くに連れてくる。


「優君。君に名誉挽回のチャンスをあげます。ミチチちゃんの鎧を外したら、ハーバンさんに僕が土下座して傷を治して貰うように頼みますからお願いします」

「……わ、わかりました……です」


 ゾンビ同然の優を気持ち悪がっていたミチチではあったが、しぶしぶ鎧の解除を受け入れたようだ。

 優は片手を掲げて、叫ぶ。


「最後の鍵!」


 優の声が響くと、天井から四角い鍵が降りてくる。一体なんで最後の鍵なのかは謎だが、皆は黙って優を見守った。

 鍵を手にして、ミチチの鎧にそのまま差し込む。すると、カチャッという音が響き、ミチチの纏っていた鎧が剥がれ落ち、そのまま結晶となって消える。

 呪いが解けたかのように、嬉しそうな顔をしたミチチ。その表情を見ていると、レイやハーバン、フフィにセシファーも肩の疲れを抜くかのように溜息を深く吐いた。


「やった! 外れた! ありがとう! えーっと……」

「レイでいいですよ。ミチチちゃん」

「ありがとう! レイ!」

「どういたしまして」


 優しく頭を撫でるレイ。その光景は、まるで兄が妹を褒めているかのように見えた。


「ちょっと待て! 俺が鎧を解除してやったんだから、俺に礼を言うべきだろうが!」

「うるさい! 黙れドブ虫!」

「おい、ガキ! テメェ、俺を何だと思ってるんだよ!」

「え? ゴミ?」

「聞捨てならねぇぞ! 教育しなしてやる!」

「来るな変態! これ以上何かしたら――――」


 そこでミチチは言葉を止める。

 喧嘩をしていた優も、突然青ざめた表情をするミチチを心配になったのか、口を閉ざしてミチチを見つめた。

 急に黙ったミチチの顔を覗き込むレイ。

 フフィとハーバンもミチチが何かに怯えているのに、気付き、フフィは耳を研ぎ澄ませ、ハーバンは何かいるのかと感知しようとする。

 だが、セシファーもミチチと同じように震えているのに、優は気が付いた。


「おい、ロリババァ? どうしたんだよ」

「……全員、死ぬ」

「は? おい、どういう――――――」


 瞬間、レイと優以外の全員の顔が、まるで血液と体温を抜かれたかのように青白くなる。

 そして、コツンっという足音が響き、レイと優も背筋がゾッとし、何かが来たのだと理解した。


「いらっしゃいませ。九星 大地と九星 一花の結婚式に来てくださり、ありがとうございます。そして――――」


 レイと優は振り返り、階段から降りてくる人物に視線を釘つけにされる。

 フフィとハーバンは、目をこれでもかというほど開く。

 セシファーとミチチは、この世の地獄でも見たかのように怯える。


 黒く長い髪。

 誰もが一度見れば振り返るほどの整った顔。

 海のようなブルーアイを宿した猫目。

 スーツの上からでも分かるほど少し大きい胸。

 くびれがしっかりと感じられる腰周り。

 細い四肢。


 彼女は美しく、まるで、挨拶をするかのように整った唇を動かした。




「さようなら」





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