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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:四部・スキル屋店員の、天空迷宮。
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スキル屋店員の、天空迷宮。2

 天空ダンジョン最下層。そこはダンジョンに迷い込んだ者たちのスタート地点である。かつて、多くの人間が完全踏破を目指した天空のダンジョンでは、初期エリアで立ち止まる者達がいた。

 一人は街一つを壊滅させるほどの魔法を放つが軽々と回避され、一人は武器を振るった瞬間に、完全防御スキル【絶対防御】を発動され、攻撃を喰らったのだ。

 そして、攻撃を浴びせた魔物に対し、怒りを叫ぶ者がいた。その人物は、周囲に伝説の武器を出現させ、そのうちの一つを愛刀を見つけたかのように握り締める。


「犬っころッ! テメェのお仕置きから始めてやるッ!」

「ガルルルルッ!」


 相手――――白い毛並みに白い防具を纏った狼のような魔物は、伝説の武器――――雷神の大斧を握った優を警戒し、威嚇をするかのように呻き声を上げた。

 憤怒を露にした優は、両の手で雷神の大斧を振り回し、その刃を狼に向ける。誰がどう見ても、武器の選択は間違っている。相手は途轍もないほど素早い動きをし、尚且つ完全防御のスキルを持っているのだ。上位の魔物と殺し合った事のあるレイからすれば、それは自殺行為以外の何モノでもない。

 ただ、優は直感していたのだ。雷神の大斧は、攻撃力に特化した武器ではない、と。


「テメェから来ねぇんなら、俺から攻撃してやるッ!」


 距離を保っていた優と狼であったが、子供だからか、我慢できずに優は駆け出した。その速度は、スキル【天界速度】のような速度系に見慣れているレイやフフィ、ハーバンにとって速いとは言えない。

 スキル屋店員の三人が、優はスピードを殺してどう戦うのか興味津々であった。だが、同時に不安も隠せない。それは相手が、レイ達が戦ってきた中でも指折りの実力を持つ魔物であり、優の戦闘能力もイマイチだからである。

 そんな三人を安心させるかのように、幼女なのに老婆のような口調のセシファーが言葉を投げた。


「安心せい。優はこれでも、ワシが育てたのじゃからな。これでも、ワシはお主と同じように【七神魔法】の一部が使え、【天空石】というスキルを持つ一族を知っていたり、サファリ・ラジーナを無駄に監視していたわけでもなかったのじゃ」

「わ、私の【七神魔法】の一部!? じゃあ、あなたは……」

「それは私のトップシークレットなのですけれど?」

「ぼ、僕たちを監視してたんですか!?」


 三者三様に驚いて見せるスキル屋店員に、犬に待てと言わんばかりに片手で制止し、三人の事を順番に見つめる。


「その話は無事にあの男を救出してからにして、要は優にはワシの培った学と技術を教え込んでおるのじゃ。こんな所で死ぬような輩ではないし、そのような未来が発生する事はないのじゃ」

「……なるほど、つまり、あなたの知恵を優君に全て与えた、と。そういう事ですか?」

「……呑み込みが良かったら、そういう事じゃったんじゃが……」


 優に絶対的信頼を抱いているセシファーの言葉を聞き、レイは優に何故肩入れをするのか理解した。だが、それだけでは到底敵う相手ではないとレイは思っているのだ。

 フフィとハーバンもレイと同じような意見を持っていたようだが、代弁してくれた事により、口を閉ざして優に視線を戻す。


「くたばれエエエェェェッ!」


 雷神の大斧を振り上げ、まるで丸太を真っ二つにするかのように叩き降ろした優。伝説の武器の効果なのか、斧の刃にビリィッという雷がチラつく。

 だが、攻撃を躱されてしまえば何の意味もない。

 狼は優の攻撃に対して、後方に一回転しながら避けた。すぐ後には壁があったのだが、どうやら側面移動が可能らしく、狼は壁に足を付着させている。

 ファーストアタックが避けられ、優は悔しい顔をしたかと、セシファーを除いて誰もが感じていた。

 しかし、優の顔には先刻感じていた怒りはなく、むしろエロ本を見つけた子供のようにニヤついている。

 そして、優は口元を動かした。


「武器スキル【雷神・剛】」


 優が何かを呟いた瞬間、振り下ろした斧を中心に白煉瓦の床に亀裂が入る。

 雷のようにジグザグにヒビが走り、狼の元にまで届く。

 慌てて天井に逃げようと移動を開始しようと狼は、足を一歩前に出そうとした。

 その時、優は振り下ろしていた斧を狼に向けて掲げる。


「武器スキル【雷神・空】」


 刃にチラついていた雷が、狼に向けて真っ直ぐに伸びた。迸る雷は、勢いを増して狼の身体を貫こうと先端を尖らせる。

 だが、狼はそこから逃げようとはせずに、じっと固まった。

 狼の動きを止めるという事は、すなわちスキル【絶対防御】の発動である。元第二位ギルドの副団長ですら恐れるスキルだ。

 優の放った雷が直撃する刹那、またもや無機質な声が響き渡る。


「【絶対防御】発動」


 そして、武器スキル【雷神・空】は狼の身体へ触れると、まるで蒸発したのように消えた。

 攻撃を無効化された優は、一息吐いて狼を見つめる。


「……これが厄介なわけか」


 独り言のように呟き、優は斧を手放した。

 余程の重さだったらしく、雷神の大斧は地面に倒れると砂煙を上げるほどだ。

 諦めた。そう思ったレイやフフィ。だが、優の目は諦めているようにはとても見えない。

 優は一息吸って、左手を粉でも投げるかのように地面に向けて掲げる。


「絶対防御ねぇ。それがスキルだってんなら壊せばいい」


 悪巧みを考えているかのように笑った優は、地面から新たに現れる武器を握った。


「あ、あれは!?」


 レイは驚きのあまり、声を漏らしてしまっている。そんなレイが目を見開くほどの武器――――。能力の破壊を可能にした、今は亡き武器職人・アーノルト・マチスの最高傑作である弓。

 月穿ちの弓だった。

 黄金の装飾を施された弓は、とても高校生の優が握れるような代物ではないと、語るかのように煌めき、黄金の光沢が眩しく神々しい。

 月穿ちの弓の弦を引く優。しかし、そこに矢は存在しない。

 だが、弦だけを引くと、まるで太陽が棒状にでもなったかのような輝きを放つ光の矢が顕現される。

 優は片目を閉じて、狼に照準を定めた。


「喰らえッ! 専用スキル【月破壊(ムーン・バースト)】ッ!」


 狼に向け、矢は放たれる。空を裂き、速度は魔法を上回るほど。力強さも、一般兵が振るうような太刀筋を大きく越え、光もまた太陽と瓜二つ。それなのに、矢が飛んでいく姿は、まるで雛鳥が巣を旅立つかのように美しい。

 あまりの完成度の高い伝説の武器による攻撃に、スキル屋店員のレイやフフィだけでなく、セシファーまでもが息をするのも忘れて眺めてしまっていた。

 これが、≪十能の皇帝≫。それを再確認させられる。


「が、がうっ!?」


 魔物である狼ですらも魅入ってしまったのか。動くのも忘れ、今放たれた攻撃にようやく生命の危機を感じていた。

 だが、気が付いた時には遅く、狼は効果時間の残っていた【絶対防御】で防ぐしかない。

 そして、矢と狼の【絶対防御】が接触し、台風のような衝撃波を生む。

 フフィとハーバンはメイド服のスカートを抑えながら、この戦いの結末を見守る為に風に抗っている。反対に、レイは優の並み外れた特異能力の力に見せられたまま固まり、セシファーは優の事を崇めるかのようにたた祈るように見続けていた。

 瞬間、優の放った矢が更に光度を増し、周囲に光を満らせる。皆が瞳を覆う中、優だけは矢を放った姿勢のまま、脱力をしたかのように動きを止めていた。


「優君ッ!」


 優のチョロイン候補のレイが、名前を呼ぶ。しかし、優は何も言わずに、ただ狼が存在していた天井を呆然と眺めている。

 その表情に、レイは少なからず驚いた。今の今までレイの為に、怒り狂うまではいかなくとも本気で戦ってたのに、矢を放った優は愛犬が死んでしまったかのような表情を造り出していたのだ。

 瞬間、レイは感じた。


 ――――優君は、本当は虫も殺せないような優しい人、なのか?


 胸中でレイが呟いた時、優は月穿ちの弓を投げ捨て、左手を新たに掲げる。その行動は多分、彼が新たな武器を召喚する合図でもあった。だが、それが意味するのは、相手を更に追い詰める為なのか、それとも魔物をこれ以上殺したくない優の優しさでダンジョンごと壊すつもりなのか。どちらか分からないが、優は武器を召喚する。


「………………」


 優は瞳を閉じて、現れた武器を手にした。

 それは、レイも見た事がない武器だ。鍵のような形をした拳銃。その銃身はピンクゴールドに包まれ、まるで女の子のアクセサリーのようでもあった。

 今もまだ月穿ちの弓による攻撃と、スキル【絶対防御】が接触する天井に、銃口を向ける。


「な、何をしようとしてるんですか」

「……レイさん。俺は……」


 太陽が近くに降りて来たかのような光と、衝撃波を必死に防ぎながら聞いたレイに、優は喧嘩した相手を許したかのような優しい顔つきで見つめ返す。

 そして、トリガーを引いた。


 渇いた音が響き、次にドッという生物に何かを埋め込んだかのような音が鼓膜を突く。それと同時に光が止む。


「す、優君……!?」


 レイは少なくとも魔物に同情はしない人間である。それが冷たいとか冷たくないとかは、この世界を生き抜いていく上では関係がない。だが、今の表情は謎だった。更に追い詰める為に放った攻撃ならば、人によるが爽快な顔をするか悲しい顔をするかのどちらかだ。

 だが、優の見せた顔はまるで――――。


「……さっきは怒って無茶したけど、やっぱり魔物も生き物なんだよなって考えたら……つい」

「つい?」


 つい、という言葉を返したのはセシファーだった。彼女は腕組をしながら、優を睨みつけている。


ある(・・)事をしちゃった」

「「ある事?」」


 セシファーとレイは首を傾げた。

 二人が同時に首を傾けた時、ハーバンとフフィが優を呼ぶ。


「優さん!」

「早く来てください!」


 二人の美女が優の名を呼ぶと、優は黙ってそちらに向かって歩み始める。

 それに倣い、レイとセシファーはフフィとハーバンの元へと近寄った。

 

「え!? こ、これって……!?」

「ど、どういう事じゃ!」

「ですよね……。だって魔物が……」

「……べ、別に変じゃないとは思いますが……変なんですかね」


 誰もが驚いて何かを見つめる。

 丁度、そこには白い毛並みで白い防具を装着した狼の死体が落ちる筈だった場所だ。

 しかし、そこにいたのは――――――。



 紙のような白髪を外ハネにした、犬耳を生やした少女が横たわっていた。

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