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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:二部・若き元社長の、不在。
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若き元社長の、不在。2

 機械のように変形する剣。槍と剣に変わる武器、その部類は自動変型武器。ストライク・ソードは超近接系の戦いをする者に、とても効果の多い武器だ。

 剣で威力を上げるのもアリだし、槍で攻撃範囲を上げるのもアリだ。

 よって、ストライク・ソードを扱う剣士は、近〜中距離を攻撃できるのだ。


 昼前のサファリ城下町。普段は買い物客で賑わっている筈なのだが、現在は足を止め、二人の男の戦いに目を奪われる。


「な、なんでストライク・ソードを……」


 幽霊でも見たかのように目を見開くレイは、渦巻きの中にあるダンジョンをクリアした際に獲得できる武器、ストライク・ソードを槍モードにしたまま、握る力を弱める。

 驚いた理由は簡単だ。スキルを発動したわけでもなければ、魔法を発動したわけでもないのに、優は武器をいつの間にか顕現させていた。その隙を見せなかったのも驚きだが、さらに驚いたのは優がレイと全く同じ武器を握っているところだ。

 入手が決して楽ではなく、むしろ、レイのように一人でクリアするのはある程度の強さを持つスキルが必要である。


「この武器がそんなに不思議なモノなのか?」

「め、珍しいも何も……」


 珍しいなんてモノじゃない。ダンジョンの最深部に眠る武器だ。そこらへんの市場で売れば、誰もが欲しいと言って求めるだろう。

 しかし、優はストライク・ソードを見つめて、剣の形に変えたり槍の形に変更している。どうやら、操作方法が良く分からないのだろう。


「…………レイさん」


 静まる城下町。その時、優が呟くように問いかけた。


「これ、どうやって使うんですか」

「………………」


 呆れたと言わんばかりにレイは溜息を深く吐いた。折角ここから戦いはヒートアップするかと思っていた客人達も笑いとばしていた。皆、優の天然さ加減に黙っていられなかったのだろう。

 苦笑いしたレイはアブソーションにストライク・ソードを納刀すると、優にストライク・ソードの使い方を教えた。教えている途中に熱は冷めてしまい、既にどちらが強いかだなんて、どうでも良くなっていた。


「へぇ……。この武器も奥が深いですね……」

「知らないで使ってたんですね……」


 ようやくレイによる優への、武器の使い方講座が終了した。その頃になると、レイは絶対の盾の存在を忘れていた。いや、正確に言うと、その盾はいつの間にか優はどこかに隠してしまっていた。

 どこかで納刀スキルでも手に入れたのだろう。レイはそう思っていた。

 しばらく、レイと優は話し込んでいた為、他の三人が何をしているのか気になった。

 だが、そこにフフィの姿もなければ、ロリババァの姿もなかった。レイと優の戦いに野次馬根性で集まった人波に飲まれたのだろうか。


「……とりあえず、皆を探しましょうか」

「うん、そうだな」


 丁寧な物言いのレイに、頷いて見せた優。

 少し――――いや、かなりレイは優の事が苦手だが、そんな事は言ってられない。先に仲間を探すのが先決である。

 逆に優なのだが、少々緊張していた。なにせ、隣にいるメイド服のレイはチョロイン候補である。これは好感度を上げなければ死んでも死にきれない。

 微かに、しかし確実に鳴る鼓動を抑えるようにして、優はレイと歩き出した。


 しかし、二人共方向音痴だ。




 ◆




 睡眠屋近くの井戸。その中に姿を消した三人は無理矢理、井戸から繋がっている一室に入れられていた。


「さっさと入れ!」

「痛ッ!?」


 黒い壁で仕切られた空間に、二人の美女と幼女は縄で締め上げられていた。先刻、レイと優が一発触発した際に、三人の身体にいきなり縄が絡まったのだ。まるで、縄が蛇のように動いたので驚いたのだが、まさか瞬間的に身体に巻かれるとは思っていなかった。

 さすがのセシファーも、この未来は予知していなかったのか、少なからず驚いていた。


「……お前らぁ、あそこで何をしてたんだよ」


 恐喝するように近づく、黒いスーツ姿の男。そのうちの一人が、ハーバンを前にして屈む。

 容姿が美女なだけあって、三人のうち一番年上だと判断したのだろう。しかし、ハーバンは顔をしかめることなく、男に笑みを返す。


「何をって私達は、ただ睡眠屋に興味を抱いていただけですわ」

「んなわけねーだろうが! 他の男と女は仲間じゃねーのかよ! 興味があるだけで、店前で喧嘩するのかぁ? あーん?」


 やたらと喧嘩腰の男。他の二人も眉根をピクッと動かすのだが、三人とも同じ顔に見えてしかたがない。判断するとしたら、顔が薄めか少し濃いめか、それかゴツい顔かで判断するしかないだろう。

 やけにハーバンに絡む男達に、嫉妬心からか、フフィは半笑いで呟いた。


「……めんどくさい」

「アァッン?」


 だが、地獄耳なのか。顔が薄めの男は、犬が威嚇をするようにフフィを睨みつける。ポケットからアブソーションを取り出しながら、フフィに近寄る。

 ハーバンに向かって睨みつけている顔が少し濃いめの男もフフィに視線を向ける。


「お、おい、お主状況が分かっておるのか!?」

「めんどくさいものは、めんどくさいんです。セシファーさんも同じですよね?」

「う、うむぅ……」


 めんどくさいと思っているのは変わらないらしく、セシファーも言葉を濁す。しかし、ロリババァことセシファーは不思議だった。予知では、何の能力も持たなかったフフィに、ここまで堂々とできるような力はなかった筈だ。

 それに、この男達は見た目だけじゃない。それは身体つきを見れば明らかだ。スーツの上からでも分かる、腫れ上がった筋肉。正直な話、セシファーくらいの人間ならば、片手で事足りるだろう。


「おい嬢ちゃん、もういっぺん言ってみ? その性格を中から変えてやってもいいんだぜ?」


 ゲスい笑みを浮かべる薄めの男。どうやら、彼ら三人に共通しているのは、ハーバンやフフィに性的な暴行をしようとしている所だ。

 しかし、フフィは縄に縛られたまま、凛として笑う。


「そんな意見は、ボツです」


 瞬間、男達は目を見開いた。

 フフィを縛っていた縄が、一瞬にして引きちぎられたのである。もちろん、フフィがオーガのような体型になったわけではあるまい。まるで、自然と縄が誰かに解かれたように見えた。

 フフィは立ち上がり、目の前にいた、顔が薄めの男にストレートパンチを放つ。

 拳を頬に受けた男は、顔を歪め、三メートルほどボールが投げられたかのように吹き飛ぶ。

 壁に轟音を上げて激突した男は、口から鼻から、あらゆる箇所から血液を垂らし、意識を失った。


「な、何者だ!?」


 仲間が一発で倒されたことによって、慌てる少し濃いめの男。

 その男に向かってフフィは、まるでどこかの若き元社長のような笑みを溢して言った。


「元花売りの少女系、スキル屋の副店長です」

「な、なんだそりゃぁ!?」


 薄めの男は叫んだ。良いツッコミどころを見ると、笑わせ師にでもなれるかもしれない。

 そんな中、究極の美女が溜息を吐いた。


「……まったく、フフィさん。あなただけが副店長なわけないじゃないですか」

「私は正式に副店長を貰いましたが」

「フフィさん。なら丁度良いじゃありませんか。より一人でも多くの雑魚を倒した方が、正式な副店長って事で良いんじゃないですか」

「それだと、ハーバンが不利ですよ」

「大丈夫です。問題ないですよ」


 笑顔でハーバンは薄めの男を見つめた。


「『土針(ストーン・スピア)』」


 瞬間、薄めの男の地面が針のように尖り、男の顎に土の針が衝突する。

 宙に舞う薄めの男。背筋を逸らし、白眼になり、涎を垂らした男は、地面に落下する頃には意識を失っていた。

 セシファーは少なからず、驚いた。

 ハーバンは、幻獣種のカーバンクル。よって攻撃系のスキルは『天空石』しか使えない筈だ。だが、今発動したのは土魔法。つまり、他のスキルを所持しているのだ。

 フフィとハーバンは、数ヶ月前。第二位のギルドと戦った。その時、二人は自らの非力さに呆れていた。

 そして、スキル屋を開いた。二人は大地に懇願して攻撃系スキルを覚えさせてもらったのだ。もちろん有料だし、スキルポイントが上がるスキル『究極ボーナス』も、貰っていない。だが、それでも二人は強くなりたかったのだ。

 セシファーが見た未来では、この二人に力はなかった。だが、今は男を一殴りするだけで倒してしまう力がある。

 未来は変わるな、とセシファーは感じた。


「さて、ではハーバン。勝負です」

「いいんですか? まだ武装(・・)してないじゃないですか」

「そんなもの使わなくても、ハーバンは倒せます」

「随分舐められたものですね」


 二人の乙女は笑顔だが、目が笑っていなかった。

 仲間が倒されたことにより、畏怖しているゴツめの男は尻餅をつく。彼は母親の言葉を思い出していた。


『薔薇っていう花は棘があるんだよ。それは綺麗な女の子も同じ。だから、綺麗な女の子には気を付けるんだよ』


 二十年間生きて、ゴツめの男は実感した。

 フフィとハーバンは、男を倒す為に本気を出しているんじゃない。どちらかが上かで争っている。

 それなりに怖がられたこともあったゴツめの男。己の力を過信したことはない。 だが、この二人は異質だ。

 二人の美女の瞳には――――男は写っていなかった。


「う、うわぁぁぁぁああああっ!」


 ドサっという音が響き、フフィとハーバンは立ち止まった。今まさに殴りかかろうとしていた二人は、あまりにも呆気ない終わりに溜息を吐いた。


「情けないですわね。大地様ならば、きっと笑って受け止めるでしょうに」

「ハーバン、大地さんなら喜んで、が抜けてますよ」

「………………」


 どうやらゴツめの男は、二人の迫力に負けて気を失ってしまったようだ。セシファーから、二人の顔を見ることできなかったが、大の男が泡を拭きながら倒れるのだ。かなり怖かったに違いない。

 それよりも、セシファーは気になる事があった。自分の予知とは外れた未来。つまり、今のこの状況は、どう打破すればいいのだろうか。という現在の状況だ。

 セシファーの見た未来では、フフィとハーバンとレイの三人が、見ている中で大地が殺されるものだ。その過程において、井戸に縛られるという事実はなかった。

もしかしたら、大地は死なないのかもしれないし、記憶がなくなるなんて事もないかもしれない。

 もしかすると、大地の性格を考えるに、セシファーが大地を救えば、セシファーと優の恋人契約を手伝ってくれるかもしれない。

 チャンス。そう、セシファーにも大地を救う目的ができていた。


「不気味な笑い声が聞こえますね」

「ハーバン、何も見なかった事にしましょう……」


 呆れるハーバンとフフィ。不気味な笑い声を上げるのはセシファーだが、二人の美女は彼女の邪悪に満ちた笑みを無視することにした。


「それよりも、早くレイさんと合流しないといけませんね」

「フフィさん。私、ずっと言いたかった事があるんです」


 真面目な顔をして、ハーバンはフフィを見つめる。一体何を言いたかったのだろうとフフィは首を傾げる。

 妄想をやめたセシファーもハーバンに視線を移動させた。


「なんじゃ。何を言いたいのじゃ」

「あのですね、正直、二人と合流する意味なんてあるのでしょうか」


 僅かな沈黙。確かに、セシファーから見てフフィとハーバンは強い。それに、未だ二人の戦闘能力を確認する術もない。未来は変わり始めているし、問題はないのだが。

 むっと頬を膨らませたセシファーが、手を上げた。


「あるのじゃ!」

「メリットを答えてください」


 ハーバンはセシファーに質問する。


「ワシと優が一緒にいることによって、ワシの元気が出る!」

「却下。ではデメリットを」

「ワシと優が一緒じゃないことによって、優とレイとかいうオカマが、カップルになってしまう!」

「問題ないですわ。むしろ、レイさんと優さんが付き合えば、私としては喜ばしいことなんですが」


 次々と文句を言うセシファーに、却下し続けるハーバン。

 だが、一人。妄想に突入した女がいた。


「レイさんと優さんが……そ、それはそれで良いというか、そ、その……」

「フフィさん? 何を想像してるんですか? まさか、レイさんと優さんのベッドインでも想像してるんですか? やらしい」


 するとフフィは現実に戻ったのか、猫耳をバタバタさせて、真っ赤な顔をしながら否定した。


「ち、違いますよ! そ、そそんな腐った女の子みたいな事、しませんよ!」

「そうですか。ま、私としては、あなたが腐った方が良いんですけどね」

「ハーバン? 私が腐ったら何だって言うんですか!」

「腐っていない、むしろ食べ時期の私を大地様に召し上がってもらうだけですわ」

「そんなに食べられたいのなら、私が食べてあげましょうか?」

「固くお断りします。私の身体は大地様だけのものですから」

「ハーバン! 今すぐ表に出なさい!」

「フフィさんこそ! 私に喧嘩して勝てるとでも思ってるんですか!」


 完全に怒ったフフィとハーバン。犬猿の仲とはこのようなものなのだろうか。とセシファーは呆れながら思った。

 そんな些細な喧嘩をしている中、セシファーは扉を見つけた。

 このレンガが積まれた薄暗い井戸の中。多分、その扉は出口へと繋がっているだろう。だが、問題が一つある。

 扉に隣接さているキーパッド。アブソーションの類の一つ、セキュリティションだ。簡易パスワードを設定し、そのパスコードを入力しなければ扉が開かないという、めんどくさいものだ。

 多分、設置された理由としては、井戸からフフィ達のような者を逃がさない為なのだろう。


「お主ら、少しいいか?」

「「はい?」」


 少し目を離した隙に、二人はお互いの頬を引っ張った喧嘩に発展していた。どうやら、刃物や魔法を使わなかったものの、二人の喧嘩はヒートアップしていたようだ。

 半ば呆れて溜息を吐くセシファー。


「……ここから出るのには、井戸を登るか、この扉を突破するかじゃ。どうする?」


 問われた二人は、喧嘩をやめ考えた。

 だが、一秒もせずにハーバンは扉に近づき、セキュリティションに触れる。


「汗もかきたくないですし、壁をよじ登る年でもないですから。普通に出口を探しますわ」


 キーパッドに触れ、セキュリティコードを入力する。何の躊躇いもなく、入力されていくコード。


「お主、コードが分かるのか!?」


 目を見開いたセシファー。だが、ハーバンは振り返り、笑顔で告げる。


「全然知りませんわ」

「え」

「はぁ……本当、ハーバンって適当なんですから」


 呆れたフフィが溜息を吐く。その溜息を吐き終えると、扉からカチャッという音が響く。その音に、ハーバンとセシファーは瞳を開きながら、お互いの顔を見つめる。

 そして、ハーバンは得意げに胸を張った。


「適当? 何が適当なんですかねぇ? フフィさんって、私のこと、すぐそうやってバカにしますよね?」

「そ、そうですけど……。なんで分かったんですか?」


 悔しげに聞いたフフィ。その言葉に、ハーバンは笑顔で答えた。


「大地様の誕生日を入れただけです」



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