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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:二部・若き元社長の、不在。
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若き元社長の、不在。3

 暗闇を照らす壁掛けのランプ。地上は昼なのだろうが、その地は太陽の光が当たる筈もなく、ジメジメとした空気が漂っていた。

 通路を歩くのは、暗闇が似合わない三人の女の子。そのうちの一人である小さい女の子が呟いた。


「……しかし、全てのセキュリティコードがあの男の誕生日とは、どうなのじゃろうか……」


 呆れも含めた溜息を吐きながら、セシファーが呟いた。この井戸から繋がった場所は、扉を開く際に、必ずコードを入力しなければならない。その全てのコードが、フフィやハーバンの想い人であって、上司の大地の誕生日なのだ。

 セシファーの呟きに、ハーバンは答える。


「偶然だったなら、まだいいですけど、わざとやっているのでしたら、血祭りものですわね。まぁ、まず間違いなく、何か関係はありそうですけど」


 気丈に振る舞うハーバン。だが、この場所が消えた大地へと続く道なのだと、不思議と分かっていた。それだけに、早く助けないといけないという気持ちが先行して、早歩きになってしまう。

 それは隣にいるフフィも同じようで、ハーバンと歩くのを競っているわけでもないのに、早歩きになっていた。


「お主ら、少しは落ち着かんのか?」

「無理に決まってるじゃないですか! 大地さんがいないと、仕事ができないですし……」

「あら、大地様はあなたの金稼ぎの道具なんですか? 随分汚い女ですこと」

「ハーバン。少し黙ってもらえないでしょう」


 複雑というか、イライラした気持ちが二人を包み込んでいて、喧嘩が増えてきたフフィとハーバン。先ほどまでの喧嘩は、馴れ合い的なものとして受け取れたが、現在の喧嘩は本気が混じっている気がする。

 良くも悪くも、二人は同じ気持ちで、大地と早く逢いたいのだろう。セシファーは、大地よりも優と逢いたかった。


 ◆


 睡眠屋地下室。

 大地にある魔法をかけている途中の、一花は黒服の部下達の報告を聞いていた。黒服達の汗は尋常ではないほど流れ、報告に上がっていた女に恐れを抱いているようだ。

 眠る大地の頭部に片手を掲げ、一花が思い描いた夢を見続ける大地。今、この作業を中断するわけにはいかず、一花としては部下に足止めをしてもらうしかなかった。

 一花は瞳を細くして、黒服の部下達をギロリと睨む。


「あなた達、戦う前から負けてどうするの」


 美人社長の一花の言葉を、まるで神のお告げのように聞く黒服達。自然と頭を下げるところは宗教じみていると言っても変ではない。


「し、しかし……」


 だが、黒服の中には一花の睨みつける行為――――洗脳が効かない者も当然存在している。そういう人間には、ご褒美をあげれば動くのだと、一花は中学時代バイトとしてやってた秘書の仕事で身につけたのだ。

 逆らう者に一花は優しく肩に手を置いた。


「安心しなさい。私は頑張った者には褒美を与える人間です。もし、報告に上がった者達を全員仕留める事ができたなら、私を好きにしても良い権利をあげるわ」


 恥じらいを混ぜた乙女の笑み。一花がその微笑みを見せると、黒服達は一斉に頬を赤く染めた。まるで、エロい動画でも見たかのようだ。

 湧き上がる歓声の中、一花は叫んだ。


「でも、褒美は何もしなかったから与えられるわけじゃないわ。頑張った者にこそ、褒美が出るの。だから、全員――――」


 一花の笑みは妖艶に染まる。


「皆殺しにしなさい」


 ◆


 睡眠屋前。

 昼間のレイと優の喧嘩が終わり、野次馬も去った頃。二人は別々に大地やハーバンを探したのだが、見つかるわけがなく、さらに言えば二人は何度も何度も同じ道を歩いていたわけだ。

 そして、息が上がる頃には、優は一つの可能性に気付いていた。


「れ、レイさん……」


 息を整え、両膝に手を置く優。


「はい、なんでしょうか」


 優とは対局に爽やかな笑顔を見せるレイ。

 そんなレイに優は、睡眠屋のクローズの看板を見て呟いた。


「あのですね、もしかしたらって思ってるんですけど」

「そうですね。僕も多分優君と同じ事を考えてるよ」


 いくら探しても見つからないフフィとハーバンとロリババァ。これでは正統派ヒロインがレイだけになってしまうと恐れた優は、やっとまともな思考回路で三人が囚われたと思われる場所に辿り着いた。

 鉄の扉には硬く鍵がかけられてある。しかし、レイにとって壊すのは造作もない。今、行動をしなければ、ハーバンを救うことができなくなってしまう。

 奥歯を噛み締め、レイはアブソーションを取り出す。そのままスキルを操作し、レイの手元にはストライク・ソードが顕現される。

 一連の動作を見た優は、黙って見届ける。


「『零』ッ!」


 剣の状態であるストライク・ソードに、スキル『零』を纏わせ、そのまま扉を斬り裂いた。

 瞬間、街行く人々の視線が次々とレイと優に突き刺さる。しかし、レイは関係がないと言わんばかりに扉を思いっきり叩き斬ったのだ。

 それこそ、想い人が攫われたのだ。周りの目なんかどうでもよくて、早くハーバンの安否を確認したいのだろう。


「レイさん……」

「……優君。君は僕と同じ事を考えている筈だ」


 真面目な視線を飛ばすレイ。背後にいた優は何も言わずに、レイの事を凝視する。

 優だって、あのセシファーとかいう謎の幼女を助けたい筈だ。とレイは考えていたのだ。

 だが、次の言葉は意外なものだった。


「け、結婚してくれェ……」

「………………は?」


 あまりにも予想外の言葉に、何を言っているのか分からなくなったレイ。いや、そもそも男同士だから結婚とかはまず無理だし、レイにそういったホモ好きといった性質はない。


 ――――まだ、女だと勘違いしてるのだろうか……。


 最早、レイは諦めの溜息を深く吐いた。

 だが、瞬間、レイは殺気を感じる。

 すぐに、バカな優の胸倉を掴み、三メートルほど遠くまで投げ飛ばす。


「ちょ、レイさん!?」

「いいから逃げてください!」


 まるでペットボトルロケットのように飛んだ優は着地に失敗して、尻餅を着いた。

 すぐに瞼を持ち上げると、レイめがけて槍を刺そうとする黒服の姿。その数、二名。

 優は絶句し、目を見開いた。


「レイさ――――」


 優を逃がす為に、投げ飛ばしたレイはニコリと笑い、握っていた槍を身体と一緒に回転させた。

 レイに突き刺さろうとした黒服の槍。だが、その二つの槍は、レイの攻撃一振りで斬られてしまう。

 真っ二つになった槍。それを握っていた黒服達は、ニコリと笑う。


「なぜ、笑っていられるんですか」


 通常、武器を壊されれば、相手を恐れ、追撃ができなくなる。精神状態も正常ではなくなり、相手がトラウマとなるほど、戦闘が強くなるのだ。かつて、レイも同じようにストライク・ソードの前武器、ソード・ランサーを壊された際には、絶望で前が見えなくなった。

 一度、経験しているが故に、現在の黒服の笑みが分からなかった。


「くくく…………」

「何がおかしいんだッ!」


 ついに気持ち悪い笑みを浮かべる黒服に向かって、ストライク・ソードを振り上げたレイ。

 しかし、その瞬間、レイの目前には松ぼっくりのような物が投げられた。

 その瞬間、爆発をあげる。

 辺りに光が満ち、レイの身を粉々にするかの如く火力を放つ物。


 それは、手榴弾だった。


 剣と魔法の世界である異世界には、存在しない概念。大地のいた世界でも入手は難しく、また普通に使えない。

 なぜ、そんなものがここにあるのか。それは黒服の男達が一花の部下だからとしか今は言えない。


 爆発にかき消されたレイ。

 それを見て大笑いする黒服達。

 煙が晴れ、やがて、そこに視線を移すと、そこに立っているのは二人の人間だった。


「大丈夫ですか?」


 その者から言葉は告げられた。

 大人三人分くらいはありそうな程巨大な両手盾。龍の瞳のような真紅。

 その盾がレイを無傷で守っていた。


 そして、目前にいた少年――――優の胸は空のような青い光が放たれていた。

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