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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:一部・若き元社長の、妹。
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若き元社長の、妹。4

「朝だよ、いちにぃ」


 目を覚ますと、そこは大地が過去住んでいた家だった。膨大な敷地面積を誇る城のような家。そこに妹の一花が起こしに来る。

 変哲も何も無い、普通の夢だ。

 周囲には、大地が高校生の頃に作っていたゲーム、アストロナイトオンラインの設計図が広がっている。

 ということは、ここは大地が高校生の頃の部屋なのだ。


「どうしたのいちにぃ?」

「いや……」


 首を傾げる大地。目前には高校生の頃、一緒に住んでいなかった筈の一花。この頃は中学生か小学生だ。どうも、最近は会っていなかったから、どういう姿をしていたかうろ覚えだった。

 黒髪をツインテールにしてるあたり、多分妹キャラ属性を全面に出しているのだろう。

 とりあえず、大地は一花の頭を撫でた。


「ありがと、一花。今起きるよ」

「そうなの? なら、朝ご飯一緒に食べようよ!」

「わかった」


 大地は身体を引っ張られた。

 寝巻きのまま、一階に降りると昔懐かしのメイド服姿のお手伝いさんが整列する中、大地はかつての専用席に座る。


「いちにぃ、いちにぃ! 今日のご飯私が炊いたんだよ!」

「そうなのか。頑張ったなぁ」


 一花は料理が死ぬほど苦手である。本来はお米を炊くと爆発か、お米の水分が異常に多く、炊けるに至らないというケースがほとんどだった。それが上達したのは兄である大地も素直に嬉しかった。

 元々、お手伝いさんがいるのに、ご飯を作ろうとする真意は未だに謎だが。


 スクランブルエッグや、サラダを口に運んで行く。


「どう? それも私、教えてもらったんだよ!」

「へぇ、じゃあ作ったのか?」

「ちょっとだけ手伝ったんだよ!」

「美味しいよ」


 再び頭を撫でる大地。

 大好きな兄に頭を連続で撫でられて、とてもご満悦な様子の一花。

 そういえば、何故、高校生の頃に戻っているんだろう、と大地は考えていた。

 しかし、いくら思い出そうとしても、記憶にモヤモヤがかかって、どうしてここにいるのか分からなかった。


「ねぇ、いちにぃ」

「ん、どうした」

「もし、さ。私といちにぃだけの世界になったら、どうする?」


 一花の表情は真面目そのものだ。

 真剣な疑問を流すでもなく、大地は言った。


「俺は人間を超越したスーパー人間だからね。もしかしたら、一花と結婚するんじゃないかな。祝ってくれる人はいないと思うけど」

「そ、それ本当?」

「ん、本当も何も、人間は俺と一花しかいないんだ。子孫を残すことを考えるのは人間として普通だと思うけど」

「そ、それなら、今私と結婚してよ!」


 一花は嬉しそうに微笑む。その笑顔に大地は何度も救われてきた。だけど、一花の願いには答えられそうになかった。


「ごめん、一花。君と血は繋がってないし、結婚も何ら問題はないけど、親父達が何て言うか……」


 大地と一花。二人は同じ名字を名乗っているが、血の繋がりはない。九星家の正式な息子は大地だ。一花は養子なのだ。なんでも、大地の両親の間には子供が中々できなくて、産まれたのが大地なのだ。だが、人は欲を知ればさらに贅沢をするかのように、女の子が欲しくなっていたのだ。それで孤児だった一花を引き取ったのだ。

 二人は一緒に育ってきたのだが、一花の方ばかりを両親は可愛がったのだ。その結果、大地は少しだけ捻くれた性格になってしまったのだ。

 さらに大地の父の、一花への溺愛っぷりは異常である。


「大丈夫だよ、私といちにぃと二人だけの世界を造ればいいんだもん」

「そう簡単な話でもないけどね」

「絶対大丈夫! いちにぃは寝てるだけでいいよ!」


 大地はいつの間にか、全ての過去を忘れていた。


「わかったよ。楽しみにしてるよ」


 ◆


「睡眠魔法安定に入りました。社長。これより、大地様をどうされるつもりですか?」


 睡眠屋の店員が一花に言った。


「こっちも終わったわ。お兄様も私と同じ世界を望んでいるようだし、何も問題はないわ」


 一花は汗をかいていた。その理由は、今発動していたスキルにある。

 幻獣種のスリープキャットのスキル『生夢』を扱っていたからだ。幻獣種のスキルで、ほぼ全ての魔力を消費するこのスキル。相手の夢に入り込み、対話することができるのだ。他にも相手の記憶を操作したり、破壊したりすることができる途轍もないほど恐ろしいスキルだ。

 汗を拭い、一花は店員に微笑む。


「ありがとう……。これで、後は邪魔者――――つまりお兄様がいた店の連中を片付けるだけよ」

「はい」


 疲れ果てた一花は床に倒れこんだ。


 ◆


 朝起きると、大地の置手紙を発見した。どうやら、今日は休むらしいのだが、一体何を考えているのだろうか、とフフィは思った。

 とりあえず、今日もお店を開けるが、その為にはまず食事を用意しないといけない。

 朝食を作る片手間に、フフィは昨夜のことを思い出していた。

 レイはあの後、フィールドナインの社長と名乗る女に負けた。そのショックでか、レイは呆然としてしまい、言葉を交わすこともままならなかった。

 それだけならばいいのだが、どうもショックが大きいらしく、仕事にまで支障をきたさないか心配だった。

 さらに付け加えるのなら、大地が単身で相手の店まで突っ走ってないかも心配だ。だが、フフィには大した戦闘能力はなく、万が一の時に与えられたスキルしか使えない。

 結局、フフィには誰かを心配することはできても、誰かを守る力はないのだ。

 溜息を盛大に吐くと、誰かがキッチンへとやってきた。


「おはようございます」


 フフィはハーバンかレイだろうと思い、振り返る。しかし、そこにいたのは、男性が見惚れるほどの美女でなければ、女性顔負けの男の子でもない。

 どこか、大地に似た少年である。

 寝癖をつけながら、少年はフフィを視界に入れると、目を見開く。


「あ、あなたは……」

「あ、そういえば、始めましてでしたね。私はフフィ・クリティリィムです」


 昨晩、大地が連れてきた少年だ。名前は知らないが、大地が連れてくるということは、変質者ではないと自己完結してしまった。

 その隙を見つけたわけではないが、少年はフフィの両手をいきなり握り締めた。


「正規ヒロインか!」

「は、はい?」


 少年は鼻息を荒くして、フフィの身体を舐め尽くすように見つめる。


「……紅葉の如く、美しい色彩を放つ腰までの髪。ルビーのような瞳、透き通るような肌、二次元顔負けの可憐な小顔。刀のような危ない匂いを放つ四肢。見た目に比例して、ジャストサイズの胸。さらに付け加えるのならば、大人しめであって、猫耳と尻尾は見る者全ての恋心を擽る。まさに……」


 少年はブツブツと言い始め、一息吸った。


「完璧な清純系メインヒロイン!」

「な、なんなんですか!? ひ、ヒロインって、どういう意味ですか!」

「それは、君が俺と結婚する為に産まれてきたという意味だよ」

「え、えーっと、そ、それはちょっと……」


 産まれて初めて、フフィは褒めちぎられた。今までは、人の目にも止まらない薬草採取という仕事をしていたのと、幼女だったから褒められる機会など皆無だったが、今は違う。

 クリティリィム族の儀式とも言われる、スキルを発動したので、年相応の大人の姿なのだ。さらに言えば、実際はハーバンの人間の姿にも匹敵するほど可愛いのだ。

 顔を赤くしながら、フフィは視線を逸らした。


「わ、私……け、結婚とかは……」

「それは素直になれないっていうアレだね! まさに、チョロイン来た!」

「ちょ、チョロイン!?」

「あ、今のは気にしないで。俺は多分君を選ぶから」


 なんだか、大地と雰囲気は似ているけど、性格が全然違うなぁ、とフフィは思った。だが、この少年は不思議と生き生きしていた。なんでかは知らないが、それがまたこの少年の良いところなのだろう、と考えた。

 フフィは大地に惚れている。それは至極当然であって、必然でもある。何しろ、命を懸けて救ってくれたのである。どんな女にしろ、それで惚れるなと言われる方が無理だ。


「朝っぱらから、なんですか?」

「こ、これは!?」


 朝からシャワーを浴びたのか、二階からハーバンは降りてきて、迷惑そうな顔をしながらフフィを見つめた。

 既に制服とも言える、メイドの格好に着替えている。


「だ、第二ヒロイン!?」

「あら、目覚めたんですね。始めまして、ハーバンです」

「お、俺は二宮 優です! か、完璧過ぎるほど美しい!」

「よく分かっていますね。ですが、その言葉は私にとっては、『今日も呼吸していますね』くらいの意味にしかなりませんよ」

「な、なるほど……。あなたにとって美しいという言葉は挨拶だと?」

「そうですね。でも、大地様には一度も言われた事がないんですが」


 少々膨れながら、ハーバンは大地の寝る部屋を睨みつけた。ちなみに、フフィも大地に可愛いとか言われた事はない。もしも、ハーバンに可愛いとか言っていたら、逆にショックである。

 もちろん、ハーバンも大地に救われた一人だ。話を聞くに、大地はハーバンを瓦礫の中から死に物狂いで助けたようだ。そんなことをされれば、どんな女の子も惚れてしまうのは極普通だ。

 大地とは、そこらへんの鈍感主人公よりタチが悪い。

 優は目を輝かせ、ハーバンの手を握ろうとした。


「第二のチョロイン――――」


 そこで言葉は打ち切られた。

 優の目の前には、剣のような槍のような武器が入った。あと、少しでも動けば、斬られていただろう。

 その武器を握る者を確かめようと、優は視線を移動させた。武器を辿ると、あり得ないほどの美少女がそこにいた。

 流れる黒髪。キツイ猫目。細い四肢。ド貧乳。

 間違いない! これが俺のメインヒロインだ! と優は直感した。


「ハーバンさんに触れたら、触れた秒数だけ指を切り落とす」

「まさかのツンデレ!? いや、ヤンデレか!」

「意味のわからないことを……。ハーバンさんに触れたら、親でも殺す」

「うわ、重症だな!」

「んぐっ!」


 そこにいたのはレイだ。レイは図星だったようで、軽く吹いてしまった。

 優は勘違いしているのだが、レイは男性である。容姿は完全に女の子で、原因の一つである髪を切ったらどうだ、と大地に言われたものの、切りたくない理由が彼には、キチンとあるらしい。

 そんなわけで、優はこの店にいる女の子(男の子も含む)を全員自分のヒロインだと勘違いしちゃっている。なんともめでたい。


「それよりも、大地さんがいないようですけど、どうしたんですか?」

「あ、それが……」


 フフィは机の上にある置き手紙に視線を移す。ハーバン、レイも同じように手紙を見つめる。その三人の顔色は優れない。

 仲間外れされた気分になった優は、頬を膨らませながら三人の様子を眺めている。


「……奴なら手遅れじゃ」


 無言の四人が集うキッチンに、一人の幼女が現れ、口にした。

 その言葉の真意は分からないが、フフィは良い状況ではない事を察した。


「……どういう事、ですか」


 自分の豊満な胸を抑え、真面目な顔つきでフフィは尋ねた。同じくハーバンとレイ、優も幼女に視線を移す。

 すると、溜息を深く吐いた幼女は、重い口を開く。



「……ワシの占いじゃと、今頃あやつは、もうお主達の事を忘れているじゃろう」




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