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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:一部・若き元社長の、妹。
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若き元社長の、妹。5

 暗闇に包まれた睡眠屋、そこには男性店員と、その直属の上司である女社長の一花がソファにて腰をかけていた。

 先ほどまで、疲れて眠っていた筈の一花だったが、今は起きて既に準備を始めている。その準備とは、一花自身と好きな人が幸せになる、いわばシナリオであった。現在、一花が考えていたシナリオの第一段階に入っていて、次は愛する者を取り戻しに来るであろう人物の排除が第二段階である。

 そして、その準備は既に整っている。一花は自らのアブソーションを操作し、戦闘用のスキルを次々とセットしていく。

 男性店員はオドオドしながら、一花に話しかけた。


「あ、あの……本当にやるんですか?」

「もちろんよ。もしかして怖くなったのかしら。私はあなたの実力を買って雇ったのよ。期待してもいいでしょ?」

「え、ええ……」


 店員は自分の武器である、剣を白いクロスで刃を上下に拭きながら磨く。埃などは付着している様子はなく、毎度磨いているせいか、かなりの光度を放っている。

 一花はいくつかのスキルを、男性店員に渡す。


「もしもの場合、これを使いなさい。そうすれば、例えお兄様の部下であっても、時間を稼げる筈よ」

「は、はい……」


 生唾をゴクリと呑み込み、男性店員のアブソーション内に入ったスキルを見つめる。そのスキルは、戦闘系でもなければ回復・補助系でもない。例えるのなら、人々の夢を乗せたスキルである。だが、使い方によっては数日前に壊滅した元第二位ギルド、サファリ・ラジーナと同じだ。

 知ってか知らずか、一花はそんなスキルを彼に渡したのだ。

 アブソーションの操作を終えた一花は立ち上がり、一人掛け専用ソファに腰を深く降ろす。


「じゃあ、私はお兄様に仕掛け(・・・)て来るから、奴らが来たらお願いね」


 片目を閉じたウィンクをしながら、一花は言った。

 その仕草に、ドキっと心を躍らせるが、男性店員はすぐに自分に気があるわけではない、と言い聞かせた。

 数秒後、一花は眠り、夢の世界へと旅立つ。


 ◆


「わ、忘れてるってどういう事なんですかぁッ!」


 ハーバンは凄く焦り、幼女の胸倉を掴んで引っ張ったり押したりする。

 だが、小さい子供を虐めるのは良くないと判断したレイがすぐに止めに入った。


「ま、待ってください! ハーバンさん!」

「待てるわけないでしょう!? 大地様が私達の事を忘れるって……」

「仕方のない事じゃろうが、お主らは止められなかったのじゃから」


 幼女は溜息を吐く。その動作がまたハーバンの怒りの沸点を下げるのだが、レイの力は強く、また胸倉を掴もうとしても止められてしまう。

 そんな中、フフィが胸の前で手をぎゅっと結びながら、近づく。


「ど、どういう事ですか。だって大地さんはスキルを造るスキルを持ってるんですよ? どうせ記憶を操作するような魔物に出会っても、『君は面白い攻撃をするね』なんて笑いながら戦うに決まってます!」

「……あやつが、どういう性格なのかは一瞬で理解できたわい」


 半目になりながら、幼女はフフィを見つめた。


「……じゃが、お主ら勘違いしているようじゃから言っておくが、記憶を操作しようとしてるのは魔物じゃない」

「でもそんな人いるんですか?」


 ハーバンがムキになりながら問い詰める。

 幼女は首を縦に振った。だが、そのとき口を開いたのはレイだった。


「……いる、と思いますよ」

「レイさん? そんな事できる人なんているんですか?」


 それまでハーバンを必死に押さえていたレイが、呟くように言った。


「……ええ。多分」

「誰なんですか!」


 レイはずいっと近寄ってくるハーバンに一瞬、心臓が高鳴る。しかし、すぐに昨日の事を思い出して、しゅん、と高鳴った胸の心拍数が下がる。

 その様子を見て、ハーバンは女々しいな、と感じていた。


「昨晩、スーツの人達が来ましたよね」

「ええ」

「僕があの人に攻撃した時、あの人は僕の攻撃をスキルで受け止めました。それと同時に、頭部に触れられた瞬間、僕はある錯覚を覚えました」


 レイは幼女に視線を移す。


「まるで、意識が揺さぶられるような、そんな感覚です。もしかしたら、あの女の人は何か特別な力を持ってるんじゃ……」

「その通りじゃ。じゃが、あれはスキルではない」


 幼女はレイの疑問に応える。


「あれは、アビリティ。お主らも知らんじゃろうが、一人一つは眠ってる底力的な能力じゃ。人によって種類は様々じゃが、あやつのアビリティは恐らく『脳操作』。相手の意識や記憶を操作・破壊する事のできるものじゃ」

「あ、アビリティ……」


 ハーバンを抑えているレイが呟く。少なからず、彼にも心当たりがあるようだ。先の大地との戦いで武器を破壊された、謎の力だろう、とレイは考えていた。


「アビリティだかなんだか知らないけど、そんなに凄いのかよ」

「優は黙っておくれ」

「いや、黙ってられるかよ」


 幼女の言葉にムッとしながら、優はハーバンに真剣な眼差しを向ける。


「だって、ここの店長さん――――即ち誰かが攫われたんだろ。そんなのを黙っていろって言われる方が無理だろ」

「じゃがな……」


 幼女は口を紡ぐ。どうやら、アビリティが強力とかいう次元ではないらしい。その様子を感じ取ったフフィは、幼女の近くにまで歩み寄る。


「その、そもそも何であなたは、そんな事を知ってるんですか? だってまだ子供なのに、詳しすぎじゃないですか。それに大地さんの事も……」


 あえて、その先は言わなかった。だが、ハーバンはフフィの先の言葉を知っている。ここで、それを言ってしまえば、空気の読めないバカだということは二人の美女の顔色が語っていた。

 咳払いをした幼女は、まるで今から自分の発表会が始まるかのように、瞳を輝かせた。


「よかろう! ワシはな、実は――――」

「おい、ロリババァ! お前の自己紹介なんて今はどうでもいいんだよ! とりあえず、その店長とかいうのを探すのが先だろうが!」


 優は幼女の口を塞いだ。今から名乗ろうとした者に対して酷過ぎると、フフィ達は思った。

 だが、それに対して二人は好き勝手言っているので、仲が良いんだな、ということにしておいた。


「……とりあえず、ワシはセシファー・リドニウムじゃ。占い師をやっておったんじゃが、ワケあって幼女になってしまったのじゃ」

「そ、そうですか……」


 最早、この幼女が何を言っているのか分からなくなってきた。これは子供特有の大人への憧れなのだろうか。とフフィはかつての自分を棚の上に上げる考えをしていた。


「で、誰を探せばいいんだ?」

「さっきから言っておるじゃろ。大地という奇妙な笑みを浮かべている、お主よりも数千倍ルックスも顔も良い男じゃ」

「あ? 軽く侮辱したなババァ!」

「ロリをつけ忘れるでないぞ! この童貞がぁぁぁぁっ!」


 また喧嘩を始める二人。よほど仲が良い……もといよく分からなくなってきた。

 文句が飛び交う中、優は何かを思い出したかのように、口を動かすのをやめた。


「そういえば、九星 大地はどこにいるんだ? 昨日いきなり襲い掛かってきたし、どこかにいるんじゃないのか?」


 今まで何の話をしてたと思ってるんだよ、と誰もが顔をしかめる。

 そんな中、レイが優の肩に手を置いて言った。


「……その人が僕達の店長なんですけど」

「な、なん……だとっ!?」


 瞬間、優は動きを止め、女性的な顔のレイを見つめる。

 石像のように固まる優の顔が、信じられない、と語っている。彼の脳内だと、色々と葛藤が広がっていた。


 ――――あの男、俺から第一のチョロイン一花ちゃんを奪うだけじゃなく、こんなにも、俺のチョロインを部下にしていたというのか!?


 瞬間、優の脳裏にはギャルゲーのような画面が映し出される。


『大地さぁん、私の猫耳た・べ・て』

『私、これでも大地様のこと……』

『ぼ、僕で良ければ、夜の私生活もお、お手伝いします……』


 三人の美女、フフィ、ハーバン、レイ(厳密には男)が、メイド服をはだけさせながら、優を誘う。

 涎が垂れながら想像するも、大地が現れる。

 優の想像内にいる大地は、笑ながら言った。


『君にチョロインは早い。悪いが修行してから出直してきてくれ』

『お兄様ぁぁん、はやくぅ』

『悪いね、一花。さぁ、ベットへ行こう』


 優の妄想は終了した。




「ウォォォォォォォォッ! 九星大地ィィィィィィッ! 絶対に見つけ出してやるぞォォォォ!」

「なんじゃ!? 急にやる気を出しおって」

「あ!? 俺はどうしてもアイツに会わなきゃいけない用事ができたんだよ!」


 優は怒り叫ぶ。どうやら、妄想の中にいた大地を許せなかったのだろう。これから彼が見る夢に毎回大地が出てくるようになるほど、さらに嫌いになった。

 ハーバンとフフィは、表情を明るくさせ笑顔になった。


「じゃあ、私達と大地さんを探してくれるんですね!?」

「え、あ、うん!」

「中々良い少年ですわね。なら、当分はお店を休みにしないといけませんね」

「ちょ、ハーバンさん!」


 今から大地を探しに行こう、という空気をぶち壊すレイ。ハーバンはそんな空気読めない男に、ジト目を下す。


「……何か?」

「いや、冷静に考えてくださいよ! 昨日、僕が負けた相手なんですよ!?」


 焦るように説得するレイは、ハーバンを必死に止める。それもそのはずで、彼はハーバンに惚れているのだ。好きな女性が死地に行くのを止めない男は、世界中を探してもいないだろう。

 そんなレイを鼻で笑うセシファー。


「軟弱じゃな。お主、まさか昨日負けたから会いたくない、とか思ってるのじゃろ」

「ッ! そんなわけないじゃないですか! 僕はただ……」

「ただ負けるのが嫌なんじゃろ?」


 畳み掛けるように挑発するセシファーの言葉に、レイは奥歯を噛みしめる。


「何を言ってるんですか! あんな人達、僕が本気を出せば、すぐに倒して見せますよ!」

「言ったな。じゃあお主も来るじゃろ?」


 完全に挑発に乗ってしまったレイは叫んだ。


「やってやりますよ! 僕が全員倒して、大地さんを救い出して見せますよ!」


 そんな感じで、スキル屋の面々は昨日、訪れた女社長を探すことにした。

 やる気満々の空気の中、優はレイを見て思った。



 ――――ツンデレ系なのかな。



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