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作戦会議

ーーーーーーーーーー照代の部屋ーーーーーーーーーー


「まだおすすめメニューの匂い残ってるね」


「もう食欲もないわ」


「ええ、はあああああああ」

アリサが文字数稼ぎとは思えない程に短めのため息をついた。もっと伸ばせるであろう! 意気込みが足りなすぎる……今日だけで色々起きたというのに……まだいけるはずだぞ!


「大分疲れたみたい?」


「ええ、でもさなんか私、ため息短くない? もっと伸ばせそうなのに……意気込みが足りない気がするわ? そう思わない?」


「ええ? 急に何言ってるの姉さん? そんなセルフつっこみ始めて聞いたわ……」


「日常では使わないよね?」


「そうよ! しかもなんでため息が短いと意気込みが足りないに繋がるのよ! 長い短い関係ないでしょ?」


「そうなんだよね……おかしいよね? でも、なんかおぼろげにそんな強い気持ちが急に脳内に伝わってきてさ……それを何も考えずにおばさんに言っただけなのよね。その時私は何も考えていなかったと思うわ」


「え?」

ぬ? そうか、私の意思が脳に残っていてそのセリフが……恐らくアリサが私の悪口を聞き取れたのは浄玻璃の鏡が脳内にあったおかげだと私は考えている。

しかし、既に浄玻璃鏡はもうこの世にはない。あの強烈な映像……そう、謎老子らしい人物の一連の行動をのぞき見した後、粉々になってしまったのだ。故にその感知能力も徐々に下がっていくと思われる。

今、私はため息が短いという悪口に近いことを言ったからそれをアリサは感じ取って自分に突っ込んだのだろう。

まだギリギリ伝わるということであるな? そうなると、今の内に伝えておかなくてはいけないことがあるな。だが、悪口でなくてはアリサは感知しないな! そうなると……ふむ、この手で行ってみるか……チビアリサよ、聞こえるか? 謎老子はお主の小さげな家のみみっちい電話に盗聴器を仕掛けた張本人かも知れぬぞ! 家に戻ったら電話を入念に調べ、何気なく元に戻した盗聴器を警察に届けるのだ! いいな? もし忘れてしまいそうならば、今の内に母親に連絡するのもありだぞ? これでどうだ?


「とりあえず何から考える?」


「整理しないとダメよね」

ああ、私の意思は伝わらずか……恐らく最後のチャンスだったのかもしれぬ。まあ最後にため息をもう少し伸ばした方がいいという思いは伝えることだけは出来たからまあ良しとしよう。


「ええ」


「色々なことがあったわよね……」

アリサは壁に背を預け、天井を見上げた。


「順番に言ってみようか? 作戦会議よ!」


「そうね、それがいいわ……うーんと……まず、朝起きて道に迷ってmetamaterialの部屋に入ったら気分が悪くなって気絶したんだよね」


「え? そんなことしてたんだ!」


「そうよその後あんたのおいしそうなツイートのお陰で復活したかも知れないあれを食べなきゃ死ぬには死ねないなんて思ったのかな?」


「私のツイートが姉さんの生きるモチベーションに繋がったのね……涙」


「そうかもね。で、下で膳さんにおすすめメニューの説明を受けたんだっけ?」


「そうね」


「で、ご飯食べてしばらくしたら誰かが倒れてて、それが照男だったんだよね」


「うん。で、その後警察が来て調べて鑑識に文句を言われてたわよね」


「で、鑑識が居なくなって、袋から飛び出てきてたと思ったら自己紹介して……その後、警察と一緒に病院に行って」


「その後、祠から封霊石が無くなったことが判明して、それを姉さんが盗んだことがバレて」


「石専用の金属探知機とか反則よね」


「反則かどうかはともかく、見つかるとは思わなかったわ。あの人鋭いよね」


「え? あの人? おばさんの知ってる人なの?」


「いえ? 最近ここに戻ってきた時に偶然出会って挨拶した程度よ。確か庭の整備師ね。色々な罠をメンテナンスしたり追加したり。それを家の者にはしっかりと伝えてくれる。そんな仕事をしている人よ。その時にも庭の見取り図と共に説明してくれたわね」


「へえ、そうなんだ。じゃあこれから名前も性格も掘り下げられることはなさそうね……で、トパーズ貰って喜んでたら……グウウ……」


「倒れたんだよね」


「そうそう、この辺は思い出そうとすると頭が痛くなる……でもすんごい重要なことだとは思ってる。でもそれを思い出すと頭痛もだけどそれよりも嫌な気分になるのよね」

実際、あの瞬間のことを引っ張り出そうとすると、頭の奥に鈍い熱が灯る。煉獄写しで視たあの映像。チャットのやり取り。依頼する側と受ける側の言葉。それらを全て合わせれば先程起きたことは絶対に霊の仕業でないことは分かっている。アリサの中では絶対に変わることの無い真実である。だがその記憶の細部も次第に薄れていくのを感じている。分かっていてもどうしようもなく思い出せば痛くなることから仕方がないと諦めている感じだろうか? そして、斉藤や直美姉さんがチームを組んでいたあの話など、もうほとんど形も残っていない。

これは、記憶力の高いアリサではあるが、記憶が脳内のタンスにしまって置けるものだと考えると、言葉ならば銅鑼衛門の


『声固まりん』


という極秘道具で文字を固めた状態、もしくは普通のカメラで撮影した画像を保管していると考えると、今から次第に消えゆく記憶については


『チョークで黒板に後から書かれた文字や絵』


と言った感じなのだ。そう、チョークなので指でそっとなぞればあっさりと消えてしまう程に儚い記憶。完全に消えてなくなる前に今の内にメモでも取っておく方がいいかもしれない。


「で、一生懸命煉獄写しでの内容は縛って幽霊に毒は使えないと説明してみんなも分かってくれたと思った矢先に……」


「そのタイミングで、葉隠が倒れた……と」


「で、路募山先生が背負ってどこかに連れて行っちゃったのよね」


「膳さんの所に連れて行くって話だったわで、その後よ……」


「得体のしれない幽霊が出てきて私も気絶しちゃったのよね」


「ええ……」


「あれ? そういえば姉さんは気絶していなかったけどどうしてなの?」


「あんたねえ……私は地獄を直に見てきてその記憶を上界に持ち帰った唯一の人間よ? 閻魔も最強の鬼も見たのに幽霊程度でビビるわけないでしょ?」


「そういえばそうだったわ……」


「もう! 何もかも忘れて……おばさんはさ、4話を私から読ませてもらったはずよ? あの賢者Ⅴの化け物を私の機転で倒したシーンだって読んだでしょ?」


「確かに……残り1で張り手をしなさい! って命令して、最後の体力を削り切ったシーンはしびれたわ……」


「でしょ? あのシーンはしびれるでしょ? なのに忘れてしまうなんて……もう一度1話から読みなおしなさい! はいこれ!」

渡し 渡し


「はい」

受け取り 受け取り しまい しまい


照代はアリサから何かを受け取ってしまい込んだようだ。後で読むのかな? でも、冷静に考えるとそれってどういうことなんだろうなあ? アリサは照代に何を渡したのか? 4話までの小説の書いた本をなかむらぜいに君の肩掛けカバンにいつの間にか入れていて、それを取り出し渡したということか? いつの間にそんなものを? 誰が書いたのだ? ……まあ、深く考えるのは控えよう。結果的に照代に4話の内容が伝わっている事実は否定できないのだからな。 

しかし、忘れたからと言って1話から読ませるのは大変だと思うなあ。それだと100万文字くらいになっちゃうから大変だと思うよ?


「でも姉さんは気絶せず最後まで見たんでしょ? あの後はどうなったの?」


「ええと……壁をすり抜けて消えていったわ。その後ろの光も同時に消えていった気がする……」


「後ろの光?」


「虹色のしっぽを引いて飛んでいたじゃない?」


「忘れたわ……見た瞬間気絶したからね」


「なら仕方ないね」


「でも葉隠先生の苦しみだすタイミングがおかしかった気がするわ」


「そうそう! 偶然にしては出来過ぎね。まるで幽霊の仕業にしておきたいという気持ちを感じたわ。幽霊の仕業であってほしいと考えた。本当は自分がやったということを隠したいという気持ち?」


「じゃあ葉隠先生が犯人なの?」


「分からないけど取り合えず意識が戻ったらあいつに聞いてみないと。本当に苦しんだというならその辺も調べておきたいし……じゃあまずやることは葉隠の所に行くことになるかな?」


「どこにいるのかしら? てか警察また呼べないのかしら?」


「確かに……一応事件よね?」


「照男のことでは来てくれたけど、葉隠の場合はどうなのかな?」


「彼が倒れた後、幽霊が出てきました! 幽霊の仕業かも知れませんじゃ、来てくれないよね……」


「確かにね……うーん……じゃあ警察は頼れないね。ま、この世界の警察は役に立たないしむしろ邪魔なだけだから要らないわwじゃあ今、葉隠はどこにいるのかな?」


「あのよく眠れる布団の間かしら? 膳さんの所には休めるところはないのよね」


「そうなんだ。じゃあ、それもあり得そうね」


「ちょっと休んでから行こう。コーヒーとかある?」


「ここにはないわね」


「じゃあ飲めるところ行こう?」


「食堂になるかしらね」


「食堂でコーヒー飲んだら布団の間に行くわよ」


「はいはい」

照代が立ち上がりながら呟いた。


「あー階段かあ、嫌だなあ」

ぼそっ


「え? 何か言った?」


「なんでもないわ」


ーーーーーーーーーー食堂ーーーーーーーーーー


「私の部屋で話す必要なかったかもね」

食堂の椅子に腰を下ろした照代が、唐突に言った。


「何言ってるの?」


「元から食堂で話せばよかったなあってね」


「そうなの?」


「そう、階段の上り下りが大変で……いたた」


「3階から1階に行っただけでしょ?」


「膝が悲鳴を上げてるわ」

アリサは照代をまじまじと見た。


「そっか。精神年齢は子供だけど肉体はおばさんだからね。頭脳は子供! 体はおばさん! 名新聞記者照代!」


「ひどい! でもそうよね……名新聞記者か……懐かしいなあ……でももう辞めちゃったしねえ。もう復帰する気力も……でも足は幽霊が出た時に倒れてひねっちゃったのよね。今は走れないし足を上げると痛いのよ」


「あらあら……加齢により治りは遅くなるからね。膳さんにいい薬貰った方がいいかもよ」


「これ位自分で治すわよ! 自然治癒力う!」


「そう? でも葉隠も倒れて結婚するって話自体も無くなりそうだよ? おばさんの人生も大変ねえ」


「そういえばそうだわ! 折角家に入って結婚の話もあったのに……この話が無くなったらただの無職になっちゃうわ」


「でもずっと悩んでたじゃん。絶対に決まる気配なかったよ? 一人脱落したみたいだけどさwこんなのさ、お見合いの段階で決めておけばこんなことにはならなかったのに。結局タイミングを逃したのは優柔不断なおばさんのせいよ!」


「無くなりそうになると焦っちゃう。なんでかな? 本当はそこまで切羽詰まっている気持ちもないのにね。へんなの」


「人間ってそういうもんよ。手の届かなくなりそうなものが突然輝いて見えるのよね」


「そうかしら」


「コーヒーでも飲んで整理しましょう」

コト。


テーブルにカップが置かれた。


「ありがとう」


「いただきます」

一口飲んで、アリサが盛大に顔をしかめた。


「え? うわ、苦い……ブラック?」


「ミルクと砂糖が無いとこんなに苦いのね。大人の味を知ろうと思ったけどまだ早かったわ」


「当たり前でしょ。姉さんは11歳だもん」


「で、妹が30でしょ?」


「そうなっちゃうわね」


「あははははw」

二人で顔を見合わせ、同時に吹き出した。今日だけでどれだけのことが起きたか。それでも笑えるのは、笑い飛ばさないとやっていられないからかもしれない。


「変な会話w やっぱり砂糖とミルク足して飲もう」


「そうね。3個でいい?」


「うん」


「はい」

ポチャ 


「だいぶ変わるわ。美味しい」


「落ち着くわー」

ごくごく


「さて、旧経験作戦会議は終了! 葉隠のいるかもしれない布団の間に行こう」


「はい」


ーーーーーーーーー秘匿《ひとく》の寝床の間、前ーーーーーーーーー


廊下を歩いていると、屋敷がやけに静かなことに気づいた。さっきまであちこちで上がっていた生徒たちの声が聞こえない。幽霊騒ぎで人が散り散りになってしまっているのだろう。


「誰かいる?」

障子を開けると、路募山が心配そうに横たわる葉隠を見つめていた。


「いた! 路募山先生!」


「オオ、イトシキテルヨ」


「はい、カタカナダメよ」

アリサが飴を差し出す。


「マタコノアメカ……」

ボリボリ。


「おお、昨日もだがこの飴はすごいな。しかも結構美味しいし」


「よかった。で、こいつ病院に連れてかないの?」


「それが」

路募山が珍しく困った様子。


「いったん目を覚まして連れて行こうとしたら


『僕も忍者の教師の端くれ。自力でこの毒を浄化して見せる! 自然治癒力う』


と言って再び眠りについたのだ」


「ええ? さっき聞いた記憶が……あ、おばさんじゃんww」


「本当ね……最後の


『自然治癒力う』


の伸ばす所まで同じじゃない……なんか嫌だわあ」


「そういえばそうだわwwww似たもの夫婦じゃないwwww結婚しちゃえwwww」


「それもいいかもね」


「おいおい……俺の前でそんなこと言わないでくれよ照代……と言うかまだ決まっていなかったのか?」


「ええ……」


「優柔不断なんでね。でも一人脱落したみたいね」


「なに? 誰だ?」


「秘密よ!」


「おいおいその話は後にしてよ! 葉隠も下手すりゃ死ぬ可能性もあるんでしょ? 今寝てるんだから連れて行っちゃえ」


「そうしたら舌を噛んで自害すると聞かぬのだ」


「なんじゃそれええええ? じゃあ膳さんの薬を今の内に無理やり飲まそう!!」


「それも拒んでいる。見ろ! 眠りながら歯を食いしばってる……」


「マジかよ……腐っても忍者学校の先生……忍者特有の? 意味のないプライドは残ってる……これが忍びなのね……」


「そうなのだ。あくまで自分自身の力で克服しなくては駄目の一点張りだ。だからしばらく待って欲しい」


「分かったよ」(絶対怪しい……でもこうすることで時間稼ぎも出来るわ。賢いわねこいつ……ならば……)


「はああ」

ブゥン フヨフヨ。


「姉さん? 何してるの?」


「ちょっとね」(確かこの青い光をこいつのおでこに持って行けばいい。床に触れたらマイナス10ポインツ……)

本来そんなルールはないが床を意識し、更には地面をすれすれに青い光を這わしつつ葉隠のおでこを目指すチャレンジャーアリサ。


「姉さん? 照代の姉さんと言ったのか? でアリサは何をしているのだ?」


「今集中してるから話しかけないで」


「姉さん、視ようとしているの?」


「そうよ」


「ほう? 見れるのか」

路募山が興味深そうに眺めている。


「よし」(おでこに付いた! 後は視るだけ)


「視えた?」


「あれ?」


「え?」

しばらく沈黙。


「何でもない……いや、重大なことが分かったわ」


「え?」

照代と路募山が同時に身を乗り出した。


「お腹、減ってきた」


「えええ? なんでえ?」


「これ、結構消費すんのよ。今132かな? 石と祠に使って、今もこれに使ったからもう3回。大体400近く使ってる。満タン付近だとなんともないけどこれだけ減るとめまいがしてくる。最大付近に回復させておきたいんだよ。甘いものはMPを回復させる効果があるのでそれを」

一応忍者学校の教師である葉隠をこれ扱いのアリサ。


「そういうもんなのね? あ、今丁度3時だわ。おやつの時間よ? じゃあお菓子休憩しましょう」

葉隠のおでこには青い光がまだ揺れている。万物調査は発動したまま。アリサ本人はもうそんなことはすっかり頭の外に出てしまっているようだった。

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