地上最強の忍び 真田行照男
前回謎の黒装束男が庭で倒れていたが、鑑識に袋に詰められているところで終わった。そして周りの皆は死んでいるのかも分からぬまま、不安の声を漏らす。
「ああ、袋に詰められちゃったけど? どうなるんだ?」
「解剖とか言ってなかったか? ……ああ、成仏してくれ」
「そういえばそうだ……お気の毒に……来世ではいい人生を」
ガサガサ
「え?」
すると、袋が動き出す。
「う、うううう」
袋が膨れ上がる。
「お、おい? 何が……? これはどうなっている?」
鑑識が驚き動揺する。言うが早いか装束の男が放つ高出力の熱気で飽和状態を迎えた袋は大きな音を立てて破れそこから飛び出しながら、言い放つ。
「まだいきてるお!」
ジャーン
「え? 兄さ……ん?」
両手をYのように上げ登場、そこからTのように腕を広げ、腿の脇で停止し気を付けのポーズで発せられた。そして照代のリアクション……まさか彼は真田行照男だったのか? となるとそれが事実だとすれば、彼のフルネームと全く同じ響きでの生存報告がされたということになる。これは妹の照代も同じことを行ったはずだな。一度死んだと思った後に復帰した時に放たれた言葉がフルネームとは……流石兄妹だな。
「!!!!!!」
「う、嘘だろ? 息していなかったじゃないか」
「!!!!!!」
「え?」
「ど、どうして」
起き上がるとその顔があらわになる。身長は185以上、黒装束で目元しか分からぬが、中々の好青年だと思われる。そして真っ赤な陶器を……闘気を噴出している。
「あっれー? これによく似たシーンを見たことあるううう!」
「姉さん、多分それ私だわw」
「生きてたんですか? 死んだようにピクリとも動かなかったのに。それに呼吸も……」
発見した男が照男らしき人物に声をかける。だが、相当怯えながらだ。恐らくその理由は……
「そうだお! 僕も忍びの端くれだお。数分息をしなくても平気だお」
ゴウ……ゴウ……
彼の噴出している闘気なのかもしれぬ。
「そ、それでも……」(なんだこの熱さ……)
「は、端くれだって? それだけの投棄を……冬季を……陶器を……投機を……闘気を出しながらよく言う物さ……臨戦態勢じゃないか……」
こんなことで動揺して本来闘気と言いたい所を、投棄や冬季や陶器や投機と言い間違えてしまう恥ずかしい葉隠。
「で、大丈夫なの?」
「もちろん。でもびっくりしたお! だって……」
「もしかして、あなたが兄さん?」
照代も感極まり、何かを言おうとしていた男の声を止め、声をかける。兄さんと言っている? だが何故分かったのだ?
「君は、照代かお?」
「ええ。多分だけど兄さんでしょ?」
「多分て言うのは嫌な響きだお。兄の顔を忘れたのかお? 小さいころ何度も会ってたお?」
「そんなの覚えてるわけないじゃない! でも生きててよかった……」
「うひょひょwそうだったおw」
「プッ、変な笑い方w」
「うひょひょひょw」
喋り方ひとつでこうも印象が変わってしまうものなのか……いろいろと釣り合わないな。顔もいいし、鍛え抜かれた体躯。そして有り余る闘気……何故かもったいないと思わざるを得ない。
「やっぱりおばさんの兄さんだったのね? あの、感動の再会のところ悪いけど、何があったのか教えて? 私はアリサよ」
とにかく真相を知りたいアリサ。空気を読まず横槍を入れる。
「あっ、僕の愛しき人だお! なんでも教えるお! アリサちゃん!」
「あんたなんでそんな喋り方なのよ! せっかく強そうでかっこいいのに台無しよ!」
死んでいたと思われた男に対して開口一番そのセリフか? だがアリサはこの男の告白じみた言葉自体は拒否している感じはないな。もしや、話し方さえよければこの言葉を受け入れていてもおかしくなさそうである。
「強いは強いけどかっこよくはないお……」
あまり自信はないようだ。だが、私には劣るがそこそこいい男だとは思うのだが……謙虚な男である……
「あ! この屋敷の人間の血は滅茶苦茶強いからただの新聞記者のおばさんでもあんなに力強かったんだ……すげえ力で耳を引っ張ってきたもんなあ……強い癖にそんなことしちゃ駄目でしょ!」
「確かに何もしてないわりには強いと思ったけど、言われてみればそうよね」
本格的に修行すれば照代も立派な『く一人』となれる逸材なのか。まあその意思は全くなさそうではあるが。
「僕はテレビは全く見ないんだお。情報収集はほとんどネットだお。それしか見てないとこういう話し方になるお。それに人見知りだから会話なんて久しぶりだお」
そう言うとすぐ目を逸らす。高身長、鍛え抜かれた肉体、溢れ出る魔力。どれもアリサとは比べ物にならない。それでも彼女と目を合わせる限界が来たのだろうか?
「へえ、でも人見知りな割には結構喋れてるよね」
「一応通信教育で大学卒業くらいの学力は持っているお。父上が最低でもそれくらいは頼むって言われて仕方なしにだったお」
「そうなの? どおりで……(あのパソコン、ネットを見る為の物だったの? 他にもありそうだけど……でも、ステータスの賢さも尋常じゃなかったわ……確か私よりも賢かったはずよ……)で、何があったの?」
「ああ、僕はね、おすすめメニューを食べたんだお。おいしかったお! で、その後、急に気持ち悪くなってしまったんだお」
「それで皿を持って倒れてたのね? ってことは照男に毒を盛ったってこと? 毒が料理に入っていて……待って? 下手すれば私達も毒に……もう食べちゃったよ? 怖すぎる……何がおすすめメニューだよ! そんなものおすすめすんな!」
「ま、まさか……そんな……」
膳が頭を抱えながら落ち込んでしまう。
「多分そうだお。僕は毒に結構強いと思うんだお。ちょっと気分は悪くなったけど、死ぬまでは行かないお」
照男自体も膳から少量の毒を与えられていることは知らないようだ。それでも本能的に毒に耐性があることを知っている感じか。
「姉さん! 呼び捨てしないでよ! 兄さんも少しは怒って!」
「いいんだお」
「いいってよ」
「それでも呼び捨ては止めてよ! 年上だよ!」
「別にそんなの構わないお。照代は怒りっぽいんだお!」
「照男、呼び捨ていいってよw」
「もう! 映画の
【霧嶋、サークル辞めるってよ】
みたいな言い方して……」
「でもあのメニュー美味しかったからね。毒が入ってても食べちゃうよね」
「僕は美味しくなくても食べ物に感謝し、全て食べるお」
「律儀ねえ。でも多分おすすめメニューに致死量相当の毒が入ってたんだろうね。それで死にかけたんだよね。ってことは? 誰かがおすすめメニューに毒を塗っていたってことになるわ。無差別殺人かも分からないし、更にはどうやって取らせたかなんかも全然分からないけどいつかは解き明かして見せる!」
「そんな……」
「そうなると料理を作った人、それを運んだ人が疑われることになるよね?」
「そうだお! でもそんなこと信じたくないお!」
だが、自然ととある人物の方に目線が集中する。
「……!! く、私は決してそんなことはしておりませぬ! 料理人生命を賭けても構いませぬ!!」
自分に向かった視線を察し、料理長の薬師寺膳も真剣な眼差しで否定する。
「だよね、ごめん……信じるよ。嘘を付いている顔じゃないわ。それに照男のしてることってやや気持ち悪いけど、この家を見えないように高速で移動しながら見回っているだけだもんね。そんな人を本気で憎む奴っているの? 殺すまでの理由ではないと思う」
「そうだお!」
「ちょっと待ってくれ」
アリサと照男の会話に割って入ったのは、現場でせっせと証拠品を袋に詰めていた鑑識官だった。彼は防護服のマスクをずらし、不快感を隠そうともせずにアリサを睨みつけた。
「え?」
「お嬢ちゃん、さっきから黙って聞いていれば……毒を盛っただの、料理人が犯人だの……憶測でものを言うのは止めてもらえないか? ここはあんたの探偵ごっこの発表会会場じゃないんでね。それに君の甲高い声は捜査の邪魔になるんだ。黙っていて欲しい!」
「……何よ、この可愛い声を邪魔なんて……ありえないわ……」
アリサが眉をひそめると、鑑識官は手に持った検体袋を突き出した。
「いいか。我々が今ここでやっているのは、事実に基づいた
『科学捜査』
だ。
まだ科捜研の結果も、正式な検視結果も出ていないんだぞ。それなのに、毒だと断定して犯人像まで作り上げるなんて、手順がめちゃくちゃだ。もしこれが食中毒や、あるいはただのアレルギー反応だったらどうする? あんたのその適当な推理のせいで、無実の料理人たちが疑われることになるんだぞ」
「でも、現に照男は体調を崩して、倒れてるのよ! 状況証拠は真っ黒じゃない!」
「状況証拠は証拠じゃない、ただの
『ヒント』
だ。我々鑑識が証拠品をどこに送ると思っている?」
「そんなの分からないよ。そんなの小学生に聞くこと? おじさんは多分今から専門知識や専門の用語をふんだんに使ってマウント取ろうとしているんでしょ? その難解な説明を何回もして、なんかいい気分になるんでしょ? で、満足して自宅では南海キョンディーズの漫才を長男海くんと一緒に見て笑うんだよ! 笑いの絶えない家族でよかったね。でもそれって小学生が理解できる内容だと本気で思ってんの? 知識を言い終えたら何も分からない私を見て勝ち誇りほくそ笑む……そんなことで勝った気分になって恥ずかしくないの? 同じ土俵に立って欲しいものね」
「私は独身だ……長男などいない」
「あら? 外れちゃったおww」
「……よくもまあこんなに口が回ること……何回
『なんかい』
という言葉を使えば気が済むんだよ……じゃあ誰にでも分かるように言おう」
「ほら! やっぱりだよ……最悪だわ」
「確かに言われてみればそれはフェアじゃないな。分かった……そうだな……これは専門の鑑定機関に送る。これならわかるだろ? そこから数値としてデータが出てくるまでは、何人たりとも毒と呼ぶことは許されない。それが法の番人に連なる者のプライドだ」
吐き捨てるように言うと、照男の皿をライトで照らした。
「ほら、あんたが言う
『毒』
が何なのか、それすら判明していない段階で
『誰が塗ったか』
を議論するのは筋違いで全くの時間の無駄なんだ」
「食べ物を食べた後、倒れたら絶対毒でしょうよ」
アリサ、専門家に突っかかるのは止めた方がいいよ。
「そうかもしれない。だがそれは確実ではない。我々はこれから、この微量な残留物を0.1ミリグラム単位で分析する……お嬢ちゃん、あんたが本当に賢いなら、データが出るまでその生意気な口を閉じておくことだな」
「……データの数値が全てだって言うのね? だったらそのデータが出る前に、私がその正体を先に突き止めてやろうじゃない。あんたたちの仕事が遅すぎて、犯人に逃げられる前にね!」
「そんなことが君にできるのか? ふん、ならやってみるんだな。無理だと思うけどね」
鑑識官は鼻で笑い、アリサに背を向けて作業に戻った。
「くそ、なんだよあの独身マスク! やな感じぃ! おばさんの切り捨てたやつとでも結婚しろ!」
「ねえさん、それ男同士でしょwあっちはプロだよ。口げんかしないで」
「それは同意だお」
「みんなまで私を責めるのね……でも照男! あんたどうやってあんな移動方法覚えたの? 音のお陰で分かるけど全く見えない。あれってどうやるの? もしかして私でも出来るの? 教えなさい!」
「ああ、あれは僕しか出来ないお」
「そうなのね? で、どうやってるの?」
「え? それはトップシークレットだお。これだけはどんなに頼まれても絶対に教えないお」
「だよね……確かに照男は体は鍛え抜かれてるけどそれでも毒が効くどこにでもいる一般人よね? そんな一般人が見えないように走るなんて普通は出来ないよね。うーん、どういうトリックなんだろう」
「挑発したところで教えてあげないお」
「え? まさかばれた?」
「一流の忍者は心理学にも精通しているお。今アリサちゃんは一般人を強調して僕の心を揺さぶろうとしていたお? そこから怒りを引き起こさせ、透明化の秘密を吐かせようとしていたお。こんなのに引っ掛かったら終わりだお」
「そっか、やるね」
すると、刑事が気付きやってくる。
「あ、まさか……生きていたんですか? てっきりもう……体は大丈夫ですか? 私、長野県警の長野です」
「ああ、少し苦しいけど大丈夫だお」
「で、では今すぐ病院で治療を、その後、精密検査も行います。もしかしたら毒の種類を特定できるかもしれません」
「ああ、ちょっとまってほしいお」
「え?」
「ちょっと用事があるお」
そう言うと二階に歩いていく。
ーーーーーーーーー5分後ーーーーーーーーーー
「用事は終わりましたか?」
「いくお。信じたくないけどこの家にいるかもしれない事件の犯人を明らかにしたいお」
「ではすぐ担架を持ってきますので。その場で寝てお待ちください」
「大丈夫だお。歩けるお」
「本当ですか?」
「平気だお」
すたすた バッ
大股で歩いて行ってしまった。しかし歩きながら何かを広げる音が響き、音が響くかそれと同時か? 彼の姿は全く見えなくなってしまった。
「あ、あれ? 照男が? 消えた?」
「大丈夫だお。そばにいるお」
「声は聞こえる? どこに? しかし照男はすごいね。ロウ・ガイみたいに自分の意思で消えることが出来るんだ」
「ロウ・ガイ?」
「あ、そう言えばおばさんは会ったことなかったっけ。ホテルに来ていたんだよ。辮髪のおじいさんよ」
「知らないわ」
「すごい拳法や妙技の達人で、木の枝を持ってじっとしてると誰にも見えなくなる妙技も使える人なのよ。私は見えたけどね。でもね、スケッチブックを持ってた男の子はそれを本物の木だと思って絵を描いていたくらいよ」
「へえ、すごい人がいたのね。全く気付かなかったわ」
「そうなのよ……他にもすごい妙技を使え……」
「え? どうしたの?」
「じいさ……」
ふらっ
「お、おい! 君!!」
長野刑事が倒れ掛かるアリサを受け止める。相当慌てているが照代は平気な顔をしている。
「姉さん、またあれが来ちゃったのね」
「あれとは? この子は大丈夫なのか?」
「多分大丈夫よ。しばらくしたらまた起き上がってくるわ」
「そ、そうかなのか……なら安心だ。とりあえずここに寝かしておけばいいんだな?」
「そうね」
ーーーーーーーーーーーーーAnother Story Low・Guyーーーーーーーーーーーーー




