事件発生
「し、死んでる?」
アリサは人込みを抜け出た先で足元に倒れている人物を発見。そう、超絶至近距離で死体らしき男を発見することとなる。だがアリサは当然驚かない。理由はこれが初めてではないから。そう、もう何回もそれを経験してしまっているからだ。
その死体らしき人物は黒装束を身にまとい、皿を両手で水泳のビート版を持って泳ぐような形でうつぶせで倒れていた。
「これは、毒だ!」
誰かが叫ぶ。
「毒? ま、まさか……し、瘴影丸の仕業だあああああ」
その声に反応した誰かの声。しょうえいまる? なんだ? 誰かの名前か?
「そうよ、きっと今もどこかでこの様子を見ているんだわ!」
「くわばらくわばら……」
「ま、待ってくれよ。瘴影丸は封印されているんだぞ? そんな筈ない!」
「み、みんなどうしたの? 瘴影丸? なにそれ?」(なんか聞いたことあるかも。あ、膳さんが言ってたわ。この家で出るあれか……)
「ガクブル」
「ダメだわ……みんな怯えているわ」
すると年配の生徒らしき人物がアリサに近づく。二と書いてあることから一番下級の組の生徒かも知れない。
「おい君! どこから出てきたんだ!」
「みんなをくぐり抜けてきただけよ。この人誰なの?」
「知らない」
「私もよ」
囲んでいる生徒らしき人達は全く心当たりがない様子。教師の葉隠もそこにいたので、聞いてみる。
「葉隠さんもいるのね? やっぱり知らない感じ?」
「知らない。誰なんだこの男は? この難攻不落の真田行家に忍び込むとはいい度胸だ。だが、ここにいるということはあの庭の仕掛けをくぐり抜けてきたということになる。この男、只者ではないぞ」
「内部の人間じゃないの? この装束、とっても高価な素材を使っているわ。最上忍の物よ」
「何でそんなことがわかるんだい?」
「私鍛冶屋で色々な装備を見てきたけど、これによく似た装束もあったのよ。装束に金属を仕込んでいるんでしょ? その細工をする前段階の布だけの装束が掛かっていたのを見たの」
「あ、言われてみればそうだ、この装束、真田行家の物だ……ってことはまさか……この人、いや、この方は……」
「この方? やっぱり相当偉い人? まさか照代さんの兄さんとか?」
「ああ、その可能性が高いよ。だって誰も見たこと無いんだ。そんな人がこの屋敷特有のしかも高級な装束を着ている。だから、ほぼ間違いないよ」
「何で倒れて……まさか!! あれ?」
「あ、お嬢さん! 警察呼んだから取り合えず触らないで下さい」
「む!」(将来の刑事になんてことを……でも一応変なの拾ったのはバレてないみたいね。仕方ない、大人しくしておくか……え? まてよ? 今、触るなって言ったわね? じゃあ触らないで調べてやるわ……)
その死体? から一歩下がる。
「分かればいいんだよ……って何してるんだ!」
アリサは一歩下がった代わりに左手を死体に向ける。
「触っていないんだからいいでしょ? やあああああ!」(一応ばれないけど気合入れないと出せないのよね……前は触るだけでできたはずなのになあ……目立ちまくりじゃん……)
アリサはその死体? に掌を向け、伸ばし、気合を入れる。蒼い光を地面すれすれに飛ばす。
「地面にぶつかったらマイナス20ポインツ……」
謎のルールを課しつつも地面すれすれをキープ。そして、おでこにヒットする。
ブゥン
マダイキ テルオ LV36 最上忍・絶影 ♂
力 481
素早さ 695
体力 312
賢さ 380
運 1111
HP 625
MP 760
攻撃 1091
防御 686
スキル
☆☆☆忍術マスター
☆☆☆格闘マスター
☆☆☆剣技マスター
☆☆強毒耐性
☆☆投擲必中
☆☆☆影分身 消費MP 3
☆☆☆火遁の術 消費MP 25
☆☆☆水遁の術 消費MP 23
☆☆☆木遁の術 消費MP 35
☆☆☆金遁の術 消費MP 40
☆☆☆土遁の術 消費MP 45
☆☆☆明遁の術 (metamaterial着用)消費MP0
☆☆☆☆無尽断・岩戸開 消費MP 10
☆☆☆☆☆☆ 理外の天賦
満腹値 99/100
状態異常 死亡
E,忍刀、右助の刀
最上忍クナイ
風魔手裏剣
最高級黒装束
黒鉄の鉢金
metamaterial
好きなもの 忍術 平和 偵察
嫌いなもの 汚れ 姿を見られる 規則
真田行家の正統後継者。そして最強の忍。そして
【絶影】
とは、光すら追いつけない速度を有し、影すら残さない。暗殺のエキスパートを表す言葉と言える。
実際はヒュヒュヒュヒュという言葉を発してしまっているが、本気を出した時はそんな悪ふざけはしないはず。
……そう思われていたが、現実は甘くない。彼の消える力で視覚的には完全に消滅していた。
姿が見えないのだから、あとは息を潜めて背後に回り込み、一撃で首を刎ねれば終わる話である。光すら追いつけない速度を有し、影すら残さない、これぞまさに絶影。しかし、
「ヒュヒュヒュヒュ……ッ!」
誰もいないはずの虚空から、あの締まりのない奇声だけが響き渡る。
完全に消えているのに、音のせいで居場所が丸分かりなのだ。
「そこかァッ!」
敵が声のする方向へ猛然と刃を突き立てる。だが、その切っ先が捉えたのは虚無だけだった。
「ヒュヒュッ! 」
別の方向から同じ音が……姿は見えずとも、その神速は本物。
音を頼りに攻撃したところで、光すら置き去りにする「絶影」の移動速度には到底追いつけない。敵が音に惑わされ、右往左往すればするほど、透明な空間から「ヒュヒュヒュ」という不気味な残響が四方八方から押し寄せ、敵の精神をじわじわと削っていく。
消えた状態で、あえて奇声で敵を翻弄する。
ふざけているように見えて、実は敵をパニックに陥れるための高度な心理戦なのかもしれない。姿なき最強の忍が放つその奇声は、敵にとって死のカウントダウンそのものだった。だが、それもすべて生前の話。
これほど圧倒的だった最強の忍も、今は皮肉にも死亡している。ステータスを見る限り生前は相当の強さを誇っていただろう。バランスの取れた能力。特に素早さと運が高く、右助の刀から繰り出される無尽断・岩戸開は、岩をも真っ二つにしてしまう上段からの降り下ろす一閃にして究極剣技。そして、
『理外の天賦』
は
『全ステータス限界突破』
が可能なスキルだ。力や賢さ限界突破は見たことがあるが全てだ。こんなチートスキルは誰もが持てるものではない。センスが尋常じゃない上に、鍛錬に鍛錬を重ね習得できたもの。これはセンス、努力共に優れている証拠。更には沢山の (火水草鋼地)の属性攻撃術を習得しており、様々なタイプのモケポンにも
『こうかがばつぐんだ』
を出せそうである。力こそ二話に登場した早乙女の腕力 (650)には到底及ばないが、殴るしか能のない彼女では勝ち目は薄いであろう。いや、カウンターを使えばあるいは? だがその速度の前にカウンターを張る隙も無いだろうな……更には賢さもアリサ並み。更にはmetamaterialと言う謎の物体を装備している? 嫌いなものの中に
【姿を見られる】
とある。彼の姿が見えなくなっていたのは意図的にこの物質を使用して起こる効果なのだろうか? そして強毒耐性を持っていることから毒で死亡したとは考えにくい。
枠は青く光っている。
「ふう、やっぱり彼……死んでるみたい……でもすごい量の術を覚えていたわ。あれ?」
「そんなことは見れば分かる。さあ離れて離れて!」
「もう少し見たいのに……ああ、消えた……」
移動するとステータスウィンドウが消滅するようだな。そして同時に照男の頭にあった蒼い光も消える。これが存在する間だけアリサは視ることが出来るという仕組みか。今まではそんな仕組みなど無く自由に見られると思ったが、発動後、少しでも移動すると消えてしまうという事実を知ることが出来た。今までそうならなかったのは、これを使用中、誰も彼女を移動させようとしなかったからということだろう。
男から離される。すると……
ズルッ
「あぶねっ」
足元に違和感が。
「なにこれ?」(見えないけど何かある?)
「なにしてるんだ離れて!」
ぐい!
「もう! すぐ離れるから触るな! この変態男爵!」(拾えなかった……でも覚えておこう)
「何があったんです?」
照代の父と母、そして照代も1階に次々と集まってくる。
「恐らく息子さんが」
「恐らくとは……ああ、みんな顔も知らないからか。私も20年近く顔を見ていない」
「私もですよ。照男は照れ屋だから」
「それも極度の……ね、情けないよ……」
毬栗がいつのまにかアリサのそばに来ていた。それだけではなく葉隠、忍神、路募山も。4つのクラスの先生が全員揃っている。
しかし倒れているこの男。まるで彫刻のように精緻に鍛え上げられている。それは、ただ筋肉を肥大させたものではなく、ただひたすらに任務遂行に必要な機能美を極限まで追求したかのよう。
そう、無駄な贅肉は一切なく、装束に隠された筋肉の隆起は、まるでボディビルダーのようでありながら、その実、あらゆる武技に精通し、強靭さは際立っており、武術、剣技、忍術のすべてを網羅したかのような佇まいは、うつぶせで力なく倒れている姿からでも容易に想起でき、現役の4人の教師たちをも凌駕する。その圧倒的な格の違いは、一目で歴然とした実力差を感じさせ、彼が別次元の存在であることが伝わってくる。そして、アリサもそれに気づく。
「すごい、この人、竜牙さんより強い……下手したら早乙女さんよりも……」
「ん? それはそうだよ。力だけを求め最強の忍者としてこの屋敷を守っている男だからね……でもあっけないものだよ」
「何で今は姿が見えるの? ずっと消えていたよ?」
「いくら最強でももう死んでいる。消えようがないだろう?」
「そうね」
「どいて下さい! 刑事さんが来ました」
「全く……何が合言葉だ……まあ俺の推理で一発で当てたけどな」
「あ、この刑事さんも門番に止められたんだw門番の権限強すぎでしょwでも素直に合言葉を当てて入ったんだね。なかなか謙虚で優秀な頭脳じゃない? 普通刑事の権限を行使して強行突破するよね。うん、彼は認めてあげるわ。誇りに思うことね」
刑事を自分と同じフィールドに立った優秀な人物と認め、上から目線で褒めるアリサ。
「すいません、ルールですので」
「まあいい、あんな簡単なら誰でも入れる……ええと、どうも長野県警の長野健です」
警察手帳を出す。県名と同じ苗字だ。県名と同じ苗字は意外と多く、青森、秋田、石川、茨城、岩手、大阪、熊本、埼玉、千葉、宮城、宮崎、山形、山梨、などの名字もある。沖縄はあるのだろうか? 流石になさそうであるが……そして、私の愛する東京都 (アズマケイト)
もその一つである。
「あら? 刑事さんの名前分かりやすいw一瞬で覚えられるわw」
「えーと……第一発見者にお話を聞かせて頂きたいのですがどなたでしょう?」
「お、俺です」
生徒の一人が手を挙げる。
「発見した時の状況の説明をお願いします」
「はい、今日はおすすめメニューの出される日でみんな食堂に朝から集まっていたんです」
「おすすめメニューですか? まあ名前通りのおすすめな料理なのでしょうね?」
「そうです。4年に一度、4月8月12月の2日に出るメニューです」
「え? 4年に一度だったんだ。毎年4月8月12月の2日かと思ったわ。メイドさんがそんなこと言ってた」
膳がそばにいたので直接聞いてみる。
「ええ、毎年ではないですよ。そんなに頻繁に海外旅行にはいかないですよ。結構大変ですから」
苦笑いしながら答える。
「そこ! 私語は謹んで!」
長野がしびれを切らしアリサに釘を刺す
「あ、ごめんなさい」
「あ、続きいいですか? 私は食堂ですぐに食べ終え、外に出て庭の方を見たら男が倒れていたんです」
「成程、では何か物音がして発見したというわけではないと」
「はい、食堂も賑やかでして、もしその時音が響いていたとしても誰も聞こえなかったと思いますね」
「大体わかりました。ありがとうございます」
「ちょっと食堂でも話聞いて来よう」
アリサが単独で食堂に走る
「あの、兄っていつ入ってきたかわかる?」
「おすすめメニュー出来たって叫んだんですよ」
「うん」
「そしたらすぐに入ってきましたヒュヒュヒュヒュ聞こえましたので間違いないです」
「それはいつくらい?」
「7時半くらいです」
「へえ、大体わかったありがとう」(私が起きたのは8時くらいで、おばさんのツイートを見たのはその5分後くらいよね)
「聞いていますよ。お嬢ちゃんが照代お嬢様を救ってくれたんですよね? 照男さんの仇を取って下さい」
「うん、任せて。じゃあね」
すると、鑑識も遅れて庭に入ってくる。食堂から出てきたアリサと鉢合わせる。
「流石に鑑識も知らない人だわ。虎ちゃんの連続出演記録もここで途絶えるのね」
「どいてどいて」
「あ、すいません」
鑑識が手際よく照男らしき人物の検視を行う。食堂の華やかな匂いと喧騒を切り裂くように、黄色い規制テープが張り巡らされた。
当然その中心で倒れている照男らしき人物は、おすすめメニューの皿をもったまま、ピクリとも動かない。
「……死亡推定時刻、午前8時15分。直腸温度および死後硬直の進行具合から見て、照代さんのツイートの直後だな」
鑑識官の一人が、事務的な口調で告げた。彼は白い防護服に身を包み、まるでロボットのように無機質な動きで照男の体に触れていく。
まず行われたのは外表面の観察だ。鑑識官は、照男の首筋に残されたわずかなうっ血や、指先の変色を細かくチェックしていく。
「結膜に│溢血点なし。絞殺の線は薄い。口角にわずかな泡沫……それと、アーモンド臭ではないな。これは、にんにくと中国の香辛料? に隠されているが……もっと重金属に近い、焦げたような異臭がする。持っていた皿には何も検出されていないな」
「はい、料理の油と調味料以外は何も」
「了解」
「すご、虎ちゃんは見せてくれなかったけど、こんな風に検視してるんだ」
「あ、お嬢さん仕事中だ。できれば邪魔はしないでくれ」
「すいません静かに見ます」
「見るのは止めてくれないのかい? 気が散る」
「気にせず続けて下さい!」
「まあいい。次は……」
そう言いつつ、鑑識が持つピンセットで慎重に照男の口内に残された肉の欠片の採取を開始。
「検体番号08。食道付近に残った残留物を回収。胃の内容物と照合しろ。それと……この肉の断面を見ろ。熱による変性じゃない。細胞が内側から爆発したように壊死している」
パシャ
カメラのフラッシュが、冷たくなった照男の横顔を何度も白く照らし出す。
「これは?」
鑑識官は照男のポケットから、部屋の前に置いてあった暗号を取り出した。
「あっ! これ!」
「静かに!」
「ご、ごめんなさい」(これ、部屋の前に落ちてたカードじゃん)
「よし、これらの検体はすぐに長野県警の科捜研へ回せ。それとこの暗号文は指紋照合のため、鑑識課の文書鑑定係へ。
急げよ、4時間以内に初動の結果を出せ!」
アリサは、その手際の良さに虎音が物凄い鑑識官だということを改めて知った。何せ閻魔の検視も行った女である。
「この皿はどうします?」
「許可を得てから搬送しろ」
「ちょっと待って! その皿、持ってっちゃうの? その前に私にも見せてよ! 鑑識の研究所に送られたら、結果が出るまで数日かかるでしょ? 犯人は今この屋敷にいるのよ。今すぐ読み解かないと間に合わないわ!」
「静かに見ていると言ったはずじゃないか?」
「で、でも」
「この皿は現時点をもって
『証拠品第1号』
だ。民間人が素手で触れるなど言語道断。もし君の指紋がついたら、全データがゴミになる。これは直ちに県警の特殊鑑定室へ送る。文句があるなら本部長に言いなさい」
「むう、本部長と連絡なんてさせてくれるわけない癖に……」
「そうだ。まあどうせそこまでは出来ないだろう? よし! 後は解剖に回す。死因は特定毒物による多臓器不全……あるいは、この
『おすすめメニュー』
自体に仕込まれた可能性も考えられる」
「はい!」
別の鑑識官が短く頷くと、それまでの静寂が嘘のように、現場にテキパキとした乾いた音が響き始めた。
「現場保全終了! 撤収作業開始!」
リーダー格の鑑識官が声を上げると、白い防護服の男たちが一斉に動き出す。
「証拠品番号01から15まで、封緘確認よし!」
「遺体収容、搬送準備完了しました!」
「現場写真、全24ポーズ、撮影漏れなし!」
彼らはアリサの存在など最初から無かったかのように、精密な機械のごとき手際で機材をトランクに詰め込んでいく。
「よし、搬出! 現場のイエローテープはそのままにしておけ。鑑識第1班、これより現場を離脱する!」
鑑識官たちは、証拠の皿が入ったアタッシュケースを厳重に抱え、次々と部屋を出て行った。残されたのは照男を入れた袋のみ。これは後で担架で運ぶのだろうか?
「……行っちゃった。融通の利かない大人ね」
アリサは、誰もいなくなった庭に残された、わずかな消毒液の匂いを嗅ぎながら呟く。




