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真田行家 お泊り♡

「うん、おやすみって早!」

ものすごい速足で逃げて行った照代。流石忍者の家の娘だけのことはある。葉隠も800超えていたしな照代も400はありそうだ。


「もう、一人になっちゃった」(こりゃ一生決まらないかもね……私を呼んだのはこの決断力の無さからかな?)

すると丁度良く一人のくノ一が通りかかる。


ぬ、ちょっといいか? 丁度良く一人の……ぬ! く一人……ハッ!


『く』


『一』


『人』


も、組み合わせると「女」という漢字にならないか!?


確かに「人」という字は、「ノ」の右側から斜めに飛び出ている部分がある。だが、よくよく考えてみてほしい。

『く』の下半分の斜めのラインと、『人』の右に飛び出たラインの角度は、見事なまでに完全一致しているのだ! 故に、これらを立体的に重ね合わせた時、なんの違和感もなく綺麗に「女」という一文字の漢字へとトランスフォームを遂げる。

そうだ、世間一般で言われる「くノ一」だけでなく、「く一人」という組み合わせであっても、等しく「女」と表現することが可能なのだ! こーんな誰も気に留めないような些細な漢字の構造、そして空間の死角に一瞬で気付けてしまうのが、何を隠そう「わたし」という存在なのだ。

そして、このあまりにも鮮烈な気付きにより、一体どうなったであろうか? そうだなw文字数が恐ろしいほどに稼げてwいるんだなあ……! ふむ、わたしってば、もしかするとこの道の初代にして、宇宙最高の稼文字者なのかもしれぬ……この先、何百年後にわたしの後継者となる人物が現れたとしても、この「く一人」の境地に自力で辿り着くことは決して起こり得ぬだろう。

私は、文字を紡ぐという行為の極限を、すでにここで完成させてしまったのかもしれない。この溢れんばかりの恐るべき才能……自分自身の脳細胞なのに、あまりの天才ぶりに思わず嫉妬すら覚えてしまう。ああ、私の頭脳はこれから一体どうなってしまうのか。油断すると、またすぐにでも世界を揺るがす新しいパラドックスを閃いてしまいそうである。ストーリーの語りの中から、うっかり本質的な真理を閃いてしまったおかげで、本筋とは関係のない「余計な語り」を盛大に引きずり出してしまった。

だが、それもまた小説なのだ。これぞ文学の肉付きなのである。もちろん懸念点も存在する。それは、この異様な長さに辟易し、途中下車してしまう読者様が出てしまわないか? という点だ。だが、私の列車は各駅停車ではない。超特急で止まらない……突き進むのみ。この列車からの途中下車方法は走行中に飛び降りる他無いのだ。故に一度乗ったら最後まで付いてきた方が賢明であるな。では続きを語る。


「あら? お泊りですよね? 照蔵さんより伺っているでござる。ご案内するでござる」

く一人は照蔵から聞いているようであるな。話が早い。


「ありがとう……ふああああねむい」

すると 廊下で大の字でうつぶせになっている男が一人。


「あれ……その鉢金は……? まさか忍神君? 何してんの?」


「おお、その声は師匠? 見ての通りでござる」


「い、いや見ての通りだから聞いているのよ。なぜ廊下の床に張り付いているの?」


「コンタクトを探しているのでござる」


「ライトは?」


「……」


「……おい?」


「……はて」


「うーん。(とぼけた? まあいいか)とにかく地べたに顔を伏せていても見つからないんじゃ?」


「はて?」


「張り付いてたら見えないでしょ? 少し離れてライトで探すの」


「左様でござるか。では床に張り付くのは過剰だったようでござるね」


「過剰というか……普通そこまでしないでしょ?」


「はて。張り付けと言われたら張り付くものではないでござるか?」


「え? 言われたの? 誰に」


「いや、勘違いでござる。では四つん這いくらいが良かったということでござるか?」


「それも違うって」


「はて」


「……面白いじゃんこの人」


「這えば立て、立てば歩けの親心というでござる、まず這うことから始めるのが道理ではないでござるか?」


「そのことわざ、少し違うよ?」


「はて? そうでござるか」


「そうなの? もう! 寝る前に考えさせないでよ」(この人に廊下に張り付いていろと言う指示を出した人物がいるの? そしてその人物は、言葉を噛み砕いて伝えなければならないと分かっていながら、敢えて曖昧な指示を出した? なんで?)


「もう寝なさい」


「いえ、もう少しここで」


「そう? まあ蚊に刺されないように気を付けなさい」


「もういいですか?」


「うん、ごめんね。じゃあ行きましょう」

少し歩くと寝室に到着。部屋の入口の上部には


秘匿ひとくの寝床の間】


の文字が。


「ではこれで」


「うん、ありがとう」

中は10畳ほどの部屋で、真ん中に一組の布団がしいてある。


「ああっ、これはすごいいい布団だわ。寝ないでも分かる!!!」

アリサの審美眼は、布団に触れる前からその非凡なる価値を見抜いていた。感動のあまり目に涙を浮かべる。


「ふにゃ……ぐっすりぐうぐうぐうぐうぐう」

まるで糸の切れた操り人形のように、アリサは布団の上に崩落してしまう。

これは無理もない。うだるような炎天下の中を一駅分歩き、さらにはお見合いという名の強烈な個性を持つ男たちとの心理戦。そして、初めての遠距離万物調査の使用などなど。蓄積された疲労は、この至高の布団に触れたことで一気に決壊したのだな。ゆっくりしていってね。

更に言うなら、この一組の布団。これはただの布団ではない。日本から遠く離れたカナダにその布団メーカーはある。その名は


『フートンメイプルバク』


というカナダの布団製造メーカーの最高傑作だ。これにはメイプルバクというカナダのみに生息するバクから取れる特殊な毛が材料となっている珍しい布団なのである。

元々カナダの最北端で暮らしていた普通のバクが暖かい南の地に移住し、楓の木が群生する地に住み着くようになった。

その当時はまだマレーバクのように白と黒の毛並みで価値もなかったがそれが一変する出来事が起こる。カエデの樹液を食するようになり白の部分が金色に変化したのだ。それからそのバクはメイプルバクと呼ばれるようになった。

そして、カエデの多く茂っている森の付近に小さな村があり、森での生活に慣れた頃、好奇心旺盛な幼いバクは色々な所を出歩いていたが、偶然村の入り口まで顔を出す者もいた。もともと人懐っこい性格で始めは恐れられていたが、敵意がないと判断すると村人はバクを村に受け入れ共生することになる。

共生して分かったことは、動きは遅いが人を背に乗せて移動するのが好きな動物で、やわらかい体毛のお陰で鞍要らずで気軽に乗って移動することも可能。主に村の付近に生えている楓の樹液から取れるメイプルシロップを好んで食べていた。

他にも笹や木の実を食べるが、次第にその白い毛はメイプルシロップのように黄金色に変化し、黒と金の毛を持つバクとなっていった。

とある夏の日に、カナダでは珍しい熱波到来により40度を超える日が続いたことがある。

その時バクたちは舌を出して地面に顔を付けへばっていた。それを見かねた床屋の爺さんが、せめて毛でも刈って涼しくしてやろうとバクたちの毛を刈ってあげた。すると残った毛からは甘い香りが漂っており、これをただ捨ててしまうのは勿体無いのではないかと考え、村の人を集め相談した。

そして何かに使えないか考えた末、布団屋の店主のフートンがその毛で布団を作ることになったのだ。

不思議なことにその毛には2種類の効果があり、

【黒の布団、越冬版】


【金の布団、涼風版】


に分かれているのだ。これはメイプルバクには黒と金の毛があり、黒い部分は吸熱性、保温性が抜群で、冬にこの毛の布団に包まれば冬のカナダの夜、外で寝ていても暖かいくらいの効果がある。

そして金色の毛の方は夏の暑い時にそれで寝ていると不思議とひんやりとしてきて、熱帯夜もエアコンなしで乗り切れるほどの涼しい素材になる。

更にどちらの毛にもメイプルシロップのように甘い香りが染み付いており快眠が約束されるのだ。その香りは消えること無く永続的に甘い香りを睡眠時に感じ取ることが出来るのだ。

1頭辺りから取れる毛は少ないが、大量のバクたちが暑さでへばっていたので全部刈ったら何とか4組の布団が完成した。

布団が完成した頃、村で不眠症の女性が相談していた。

そこでその布団で眠ってもらったところ、一回寝ただけで解消出来、女性は生涯その布団を手放さなかったと言う。

バクは主に見たくない悪夢を喰うと言われているが、その効果もあるようで、彼女の悪夢を吸い取ってくれたのだ。彼女の不眠症の原因は、毎回同じ悪夢を見る……という理由だったのだ。

女性は当時はSNSなど無かった時代ではあるが、積極的に人から人へ口伝で広め、カナダ全土にまでその噂を広めるまでに至った。

その噂を聞きつけた不眠症の人々が群がってきたが、元々数が少なく、しかも毛が短い生き物なのでその布団を作るのに約2年の歳月が必要とされ更にはその村のみでしかバクは毛を刈ることを許さなかったという。その結果、布団の価値は上昇し


【黒のメイプルバク布団。別名、安眠への誘い越冬版】


【金のメイプルバク布団。別名、安眠への誘い涼風版】


は、一組どちらも400万円まで上昇していく。これだけ高くても5年先まで予約が殺到。受け取った直後を襲う犯罪まで起こっている。

今回、秘匿の寝床の間に敷かれていた布団は、夏の寝苦しい夜も涼しく変える金の布団。そんな高価な物を何故この家で? しかも客用の部屋にこの布団に使っているのだ。なぜこんなことが出来ているのか? というと、この学校の生徒のうち、忍者マニアのカナダ人がその布団の村付近の出身で、この学校の先生の教え方の素晴らしさに感動し、いくつも提供してくれたのだ。忍びの道を目指す人に、人種は関係ないと言うことなのかもしれない。

だが、アリサはその晩夢を見た。悪夢を吸い取る力のあるこの布団で寝ている以上悪夢ではないようだが……


ーーーーーーーーーー地獄の一丁目 閻魔の屋敷ーーーーーーーーーー

地獄では現在、元閻魔が上界で乙姫を探している間、案内の鬼が新閻魔となっているのだが、何か問題があったようだ。

かなり焦っている様子である。


『おい、ここにあった浄玻璃鏡は何処に行った?』


『あ、新閻魔様? おはようございますだオニ』


『挨拶など良い』


『え、は、はい……ええと……いえ、元の閻魔様が持って行ったのではないかオニ? あの鏡を触れる資格があるのは閻魔様だけだオニ。俺達では触ることすら出来ない筈だオニ』


『そうだったか……私もその秘密は初耳だ……何せまだ2日目だ』


『気の毒だオニ。いきなり押し付けられたオニ』


『ああ、閻魔様も勝手だ……だがなぜ上界にそれを持って行く必要があるのだ……あれが無いと亡者の選定に時間が掛かる……新米閻魔に押し付けてその上嫌がらせなどするとは……閻魔様は鬼か……』


『まあオニの総大将みたいなものだオニ。優しさなんてないオニ』


『何をお考えか分らぬな……仕方ない……取り合えずお前達も亡者の選定に手伝ってくれ』


『了解オニ』(面倒だオニ……)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


♪テーレーレーレーレッテッテーン♪


え? なんだそれはですって? 忘れました。夜は明けアリサは目を覚ます。

良い香りがずっと漂うその布団から出たくない気持ちもあったのだがパジャマから着替える。

焦るアリサ。部屋を出て辺りを見回すが、今自分がどこにいるのかわからない。少し寝ぼけているようだ。


「なんか変な夢見たけど忘れたわ……もう7時半か……いつも5時に起きるのに……あの布団……やりよるわ……で、ここってどこだっけ? やばい迷ったかも、まあいいか。探検しながら行こうっと」

漠然と歩き出す。アリサの今居る所は2階の客室。下に行けば昨日食事した部屋へは行けるが探偵気分で色々見て回ろうとする。

決して泥棒気分ではない。


「まあ急ぐ旅でもないしこの辺はまだ知らないから探索を優先しよう!」

とことこ


「あれ? 葉隠って書いてある。隣は忍神だ。あいつも住み込みで働いてるのか。ここって二階よね? この辺は教師の部屋でもあるのね?」


「わいわいがやがや」


「あら? 生徒さん? これからどこに行くのかな?」

数名の生徒が下の階に向かっている。


「すいません」


「え? なあに? あら?先生を泣かした子じゃない?」

女の子の生徒が返事をする


「ああ、いいんですあんな女たらし。ところでみんなどこに向かってるんですか?」


「おすすめメニューがあるらしいから下の食堂に向かってるの8時くらいに配られるらしいけど早く行こうと思ってね」


「へえ、今上の階から降りてきたけど生徒さんの部屋は3階なの?」


「そうよ。そこで泊まっているわ」


「ここって泊りながら勉強するんですか?」


「私の場合そうね、私は普段高校に行ってて、夏休みだからその間泊り掛けで勉強してるの。普通に毎日家に帰って勉強してる人もいるけどこんな田舎だし宿泊施設もあるのよ。一泊1200円なの」


「ああ、そう言うことなんですね。安!」 


「安いんだけど、朝8時くらいになるといつも下の階からごそごそと音がするのよね。9時から授業なんだけど気味が悪いわ」


「へえ、8時って言うとあと30分くらいですね?」 


「そう、毎日決まって」


「なんか嫌な感じですね。あれ? お姉さんハ組ですよね? あそこにおじいさんとかも居ませんでしたっけ?」


「ああ、あの人は社長らしいのよ。で、子供にもう事業を譲って忍者の勉強だって」


「へえ、臭いのに偉いんですね」


「え? 臭い?」


「いえ、こっちの話です。ありがとうございます」

猫被ってんなあ。少し年上の女性にはため口をきかないということなのか?


「ええ」


「おすすめメニューも気になるけど部屋も回っておかないと……あら?」

表札に何か書いてある。見なれない文字だ。


『metamaterial』


と書いてある。めたまてりある? だろうか? 意味は分からない。だが、鍛冶屋の飛影竜王のビームチャクラムと言い、この屋敷の和の建築様式から想像もつかない室名であるな。ここには一体何が?


「この部屋何かなあ? 何か英語ばっかりだけどお」

スー

誰かが中に誰か居てもいいようにわざとらしくやや大きめの声で独り言を言いながら入るアリサ。

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