真田行家 お見合い 路募山 力
「じゃあ次は路募山先生にしようかしらね」
「そうね。前回語り部も言っていたしね」
「え?」
「強引に見合いを終了させた照代。次のロ組へと向かう。ってネタバレ気味の発言をしてやがったのよあのハゲ。ここってめちゃくちゃ楽しみの部分でもあるのに、勝手に言いやがったからなあ……マジで許せねえよ。でもよく考えたらその考えは順当だし、読者さんも既にそれを読んじゃった訳だからもう予定変更は出来ない訳」
聞かれていたか……どうなっとんねん
「語り部って何? 後読者? 読んじゃった? 何ぃ?」
「ただのハゲよ。で、そのハゲが最後にネタバレしちゃったから絶対に路募山からね。毬栗は最後。おばさんが見合いというものを完全に理解してからじゃないと危ないわ」
くうう……直美姉さんとのバトルのせいで勝利と引き換えにハゲが更に進行してしまった……かえして……
「ありがと。頼りになるよ本当……一人じゃこの場には立てていなかったわ。じゃあ行こうか姉さん」
「姉さんじゃない! くそ、何がどうなってこうなったんだよ……誤解を招くセリフは止めなさい!」
「これがしっくりくるでござる! 今まで呼び捨てしててごめんでござる」
「私はしっくりこないし……まだ名前で呼ぶ方がいいよ……19も年上の人間にだけは言われたくないわ!」
「廊下は静かにでござるよ姉さん」
「全く……」(ま、いずれ飽きるでしょ)
ふすまを開けるとそこには、照代の両親と路募山が正座して待っていた。だがその表情は暗い。だが見合いに遅れた理由で怒っているようにも見えない。特に路募山からそのオーラが漂っている。一体何なのだ?
「おお、照代。次はここだと思って待っていたでござるよ」
「そりゃあと二つだし5割で当たるわよ」
「そうだな。じゃあ後は若い人だけで、さ、かあさん行こうか」
照乃の手を引き外へ出て行く。
「あれ? あいつは両親居ないの?」
「ああ、そうみたいね。しかしなんか慌ただしいわね。じゃあ路募山さん始めましょう」
「ハイ、ウイーン。ヨロシク」
相変わらずカタカナで喋る路募山。
「よろしくね。はあ、こうして話すのはほとんどないわね。やっぱ緊張する。ええと、何から話そうかしら」
「ソウダナ、オレモダ。ミロコノカタマッタヒョウジョウ」
「分かるわ。言葉も顔も固いわね。もしかして私よりも緊張してる?」
「ソウカモシレン。ガピー」
「またガピってる……突然部品がこっちに飛んできそうで怖いわw」
「そんな訳ないでしょ!! ロボットじゃあるまいし! 部品を飛ばすってどういうことよ!」
「あのさおばさん? もしかして、まだ現実逃避しているの? 彼は、ロボットよ? 表情が硬いのは元々の材質のお陰なのよ。この推理、ほぼ間違いないわ。もちろん生身の部分との混合アンドロイド? って感じかな?」
「フウ―――――――プルピロン」
アリサの言葉を受け、路募山は大きなため息の後、覚悟を決めて照代の目を真っ直ぐ見る。
「どうしたの? 大きなため息をついて……いつもの先生じゃないよ? いつもの陽気な先生に戻ってよ」
まず、人間がプルピロンと発音することはないのにそれに対してのつっこみはなく、ため息のことだけに言及する。
「テルヨ……オレハ……ソコノバチガイナマメツブホドノヨウチエンジノイウトオリ、カンゼンナニンゲンデハナイノダ……オレハアイスルオンナヲズットズットダマシテイタノダ。ユルセ」
アリサに取っては至極当然の、照代にしてみれば衝撃の告白。
「ガビーン! 路募山さん? 何を言っているの? アリサみたいなこと言って……」
だからと言ってガビーンという擬音をセリフとして言うのはどうなんだ?
「おい聞き逃さなかったぞ! 路募山! 豆粒ほどの幼稚園児って誰のことよ! どこにも居ないだろ! 幻覚でも見えてんのか! このハゲ」
しかし、このシリアスな空気の中、誰もアリサなど相手にしない。
「スマナイ……カクシツヅケルノモツカレタ。ダイスキナテルヨニダケハコノシンジツヲシッテホシイノダ……」
路募山もバレていないと思っていたようだ。
「……い、いやよ。これ以上は話さないで」
アリサにとってはただの茶番だが、まるで女優のように涙目になりつつ訴える照代。これは心底信じている様子。
だが彼女の願いも空しく、路募山は続ける。
「オレハ、トアルザイバツノムスコダッタ。8ニンカゾクデ、オレガチョウナン、ソシテ、トウチャン、カアチャン、オトウト、イモウトフタリ、ジイチャン、バアチャン。ナカムツマジク、クラシテイタ。ソコニ2ニングミノゴウトウガ……」
そこまで話すと涙が、それを拭いもせずに続ける。
「ちょっと待って!」
「ナンダ」
「このままでは読者も筆者も疲れちゃうわ。お願いがあるの。これあげるから食べて?」
アリサは売店で買ったのど飴を2粒路募山に渡す。そう、これから恐らく長話をすると思われる路募山、そのセリフ全てがカタカナ表記で喋られては読者も筆者も身が持たない。その為、一時的に普通に喋られる様アリサは配慮したのだ。何という優しく機転の利く女の子であろう。果たしてその効果はいかに?
「ナンダコレハ? ソシテドクシャニヒッシャ? ドウイウイミダ? ワカラナイ。ダガコノアメ、ナカナカウマソウダ。パクッムシャムシャ」
アリサから貰った飴を何の疑いもなく噛み砕く路募山。すると彼の喉全体をその成分が内側から優しく覆い、なんやかんやの奇跡やあれやこれやの科学的作用が起こったのか? 今までカタカナでしか喋れなかった彼が、普通に喋ることが出来るようになった!
「あーあー、あれ? なんか変な感じだな。まあいい」
「へ? 何か変わったの姉さん?」
「見りゃわかるだろあほ」
「うーん……」
「こいつ……どこまで足引っ張りゃ気が済むんだよ……」
いや、照代先生のこの疑問は足を引っ張ってなどいない。むしろ真逆である。何故ならその質問は、文字として表れている。故にしっかりと稼げていることになる。これは足を引っ張るどころか先生が自らこの小説がより良い方向へと進むために必要なお手伝いをして下さっているのだ。それが分からないようではアリサは稼文字道求道者としてはまだまだであるな。
「喧嘩か? 止めて置け。皺が増えるぞ。俺の弟はクリケットのプロになる筈だった。その成長過程を庭で見ているのが好きだった」
「クリケット? なんかクリームビスケットの略みたいな美味しそうな名前ね。それともコオロギの英語でもあるわね。一体何なのそれ?」
「そうか? 惜しいがこれはスポーツの名前だ。日本ではあまり聞かないと思うが、インドではその試合の時間は家族全員でテレビの前に集合して見るほどの大人気のスポーツだ。その時間は警察も泥棒も休んでいるとの噂だ」
「そんなに……でも何でクリケットやろうと思ったの?」
「それは簡単だ。まず現役で長く続けられる競技という所が大きい。格闘技などとは違い、怪我をする危険性は少ない安全な競技なのだ。
それにサッカーに次いで、競技人口が多い。バスケットや野球よりも多いのだ。例えば競技人口の少ない10種競技、別名デカスロンなどで優勝した所で、賞金は貰えるとしても誰も見てくれない。勝ったとしても誰も興味がなければ寂しいものがある。弟は色々考えた末、それを選んだのだ。
「成程。ファンあってのプロスポーツ選手だもんね。目立ちたがり屋さんなのね」
「まあな。その日は家族で俺以外クリケットの試合で海外に行っていた。弟一人では海外は危険だからな。で、俺も一緒に行く予定だったが運悪く具合が悪くなり一人留守番で寝ていた。そんな時に突然2人組の強盗が家に入って来た。突然の出来事で動転した俺を尻目に奴等は、金目の宝石類をまるで全て何が何処にあるのかを事前に調べ、分っているかの如く手際よく盗み、最後には屋敷に火を放って逃げたのだ」
「セキュリティ会社とかを利用していないの?」(この人もしかして……)
「ああ、それは入っていた筈。だがセキュリティ会社の人が来るのには知らせが来てから30分は掛かる。それを知っているようで、証拠を隠す暇は無いと判断し、全てを焼き尽くして証拠隠滅を計ったのだと思う。消防が駆けつけた頃には、屋敷は無残な姿になっていた。何故か出火元は二階からで、大黒柱が黒焦げ。特徴的な爆弾の破片が見つかった」
そう言いつつ事故現場で撮ったような写真を見せる。
「特徴的? どれかしら?」
「これだ。右下の茶色い破片だな」
「へえ、どこかの家紋っぽいね」(これに関してはぴんと来ないけどやっぱりだ……路募山って鈴木2号さんが死んでしまった屋敷の住人だったんだ)
地獄では聞けなかった被害者側の証言が聞けると身を乗り出すアリサ。
「身に覚えはないものだ。何かの家紋? もしくは紋章だと思われる」
「へえ」
「酷い……」
涙目の照代。
「俺はそこから広がった煙で意識を失い大火傷。それ以外に二階で1人の焼死体が発見された。恐らく犯人の一人だと思う。間抜けな話で、自分で火を放ったのにそれで逃げ道を失い逃げ切れなかったんだろうな。そして、後になって気付いたが、家宝の桃色金剛石も盗まれていた……財産が一瞬で消えたのだ」
「火災保険とかは?」
「もちろん入っていたさ」
「じゃあ」
「保険で帰ってくる金額は3000万までだ。あの大きさの家を全て修復までは行かないらしい」
「ああ……」
「家族も離ればなれになってしまった」
「それ、ニュースで見た事あるわ。3年前の強盗放火事件でしょ? 家族とも会えないんだ」
「ああ、別荘があったからそこに……俺は当時26歳だった。俺がしっかりしていれば失わずに済んだかもしれない。その責任感からそこにはいかないと決めた。合わせる顔が無かったというのが本音だ」
「桃色金剛石か、ピンクダイアってことでしょ? 家宝ってくらいだから相当値段もするんでしょう?」
(知ってるわ……斉藤が小指にしていた指輪に輝いていたやつよ。そして路募山コンツェルンだったよね? 確か地獄でその話を聞いた。スノーベルの鈴木2号さんと斎藤がその屋敷に入ったのよね? そこで2号さんは……すごい偶然ね。でも2号さんと斉藤がそんなことするわけないと思うのよね。だって人が居たら放火殺人になるわ。彼らは義賊だし殺人なんてやらない筈だよ。確か2号さんが事前に入念に調べて忍び込むタイプだから、人がいないタイミングで入ったのに……露募山の話では旅行のタイミングを調べて忍び込んだってことでしょ? 誰もいないと思って侵入する家に、放火の準備する必要なんてない! ガソリンを持ち込むだけでも盗みに支障が出る。それに放火じゃなく爆弾による爆破による火事だった筈よ。あれは2号さんも知らなかったんだ。だから巻き添えを食らって亡くなった……盗みもまだ終えてもいないのに爆破の中心地で爆発なんてさせる訳ない。あれは全く別の誰かの仕業よ。八郎さんも言っていたけど多分謎老子とかいう人物の仕業よ。地獄で具現してもらったあの綺麗なカードがその根拠よ。そいつが誰かから殺人依頼を受け、カードと爆弾を仕掛けたんだ。地獄では思いつく暇もなかったけど謎老子は3年も前からその活動をやっていたんだね)
「そうだな。父の所有物だから詳しくは分からないが、相当な値段だと聞いている。そして俺は、両足と顔面は焼けただれ、生きているのがおかしいくらいな状態だった。で、何故か屋敷内で柱に潰されていた筈だがいつの間にか玄関で倒れていたらしい……何でそんな所にいたんだ? いっそのことこのまま死んでしまえばよかったと考えた。が、でも、これがもしや神がくれたチャンスと言うのなら、惨めな姿になっても生き抜いてみせると誓った。完治は無理だと診断され、顔面は機械でコーティングし、足は義足により今の俺がいる。その金を全額出してくれた人が、真田行照蔵。そう、照代のお父上だった」
「どうしてそこまでしてくれたの?」
「丁度俺が搬送された病院に照蔵さんが通っていて知り合ったのだ。と言っても表情と足を無くし、焼け爛れた状態を見られてしまっただけなのだ。その姿に同情して下さり、ぜひ治させてくれと仰ったそうだ。嬉しかった。だが俺はその時自分がいたのに桃色金剛石を守れなかったことを悔やみ、退院した後、家に戻らないと照蔵さんにも伝えた」
「戻らないじゃなくて戻れないってことか……でも病院でそんな手術できるっけ?」
「ここの鍛冶屋で作って貰ったのだ」
「ああ、竜王さんか……何でも出来るんだな……忍者の鍛冶屋が人をロボットっぽく改造できるんだ。やっぱり只者じゃないと思ってたんだよ」
「ああ、何故か機械にも精通している。凄い鍛冶屋だ」
「あら? 鍛冶屋になるって言ってたけど、そんな話をしてたのでござるね」
「で、動けるようになったし、今後をどうするかと何気なく言ったら、働き先もうちで良ければと教師の仕事を下さった。感謝している。俺は恩返しがしたい。本当の家族となり照蔵さんにな」
「優しいんだ。え? どういうこと?」
「彼は照男殿にお父さんと言われたことが一度も無いと悲しんでいた。だから照代と結婚し、字は違うけれど
『おとうさん』
と言ってあげたいのだ。今は真田行さんとしか呼べていない」
「ちょっと待って、じゃあ私ってロボットと家族になるってこと?」
あからさまに嫌そうな顔をする照代。
「そうなるね」
「そうだ。例え顔と両足が偽りでも照代と暮らすにはこれしかない」
「ちょっと考えさせて、うーん、正直強いから楽で良いのよね。でも私が寿命で天国に行った後、もし兄も結婚しておらずに逝っていたら。私たちの子供が正統後継者になっちゃうの? これで父さん母さん納得してくれるかしら?」
「照代の兄は結婚しない気がする。まあ照代の血さえ残っていれば問題ないだろう」
「そうね。でも私と子供を残して路募山先生だけが未来永劫残りそう」
「勘違いしていないか? 寿命は人間と一緒だぞ」
「そうなんだ。でも改良次第でずっと生きれるような気がしたんだ」
「そこまで生に執着はない。だが、残りの人生照代にささげる」
「なんかかっこいいね。それで良くない?」
他人事なアリサ。
「うーん。ちょっと考えないといけないわね」
「またそれ? 本当に往生際悪いおばさんだなあ」
「路募山先生今日はこれまでね、しっかり考えておくから」
「ワカッタ。デモ、キョウハホントウノコトヲイエテスッキリシタ」
のど飴の効果も丁度切れたみたいだな。だが表情は見合いを始める前とは違いさわやかな感じがする。
「ええ……知りたくはなかったけどね」
「まあ私は初対面で気付いたけどさw」
「姉さんはすごいよ。はあ……色々な出来事がまとまって襲ってきたから今日はこれまでにしたい」
「私も疲れたかも……路募山先生が意外に苦労人だったんだって思うとね」
「ネエサン? オレモソウヨンデイイノカ?」
「ええ」
いいのか。
「そうよね。全人類の姉さんだもん」
「そうなのよ」
どうせ断っても呼ぶと分かったアリサ。全てを諦めた表情。
「ネ、ネエサン」
「うんうん……ふあぁー」
大あくびをする。それよりも強烈な眠気が襲ってくる。食事の中に少量混ざっている毒の中に、催眠成分が含まれる毒もあったのかもしれないな。
「ふあぁーあ……もう寝たい気持ちもあるけど、後一人も片付けないと失礼よね?」
「そうよ。後一人なんだし頑張れ」
イ組のふすまの前に立つ。
「じゃあいこうか」
ふすまを開ける。




