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EP01-03 セックスしないと起動しない巨大ロボット、大地に立つ!


「今……トラちゃん……なんつった?」

「た、多分──」

「セェッッッッッックス、トラ。つまり~~」

「いやそれは、知ってる」「ってか言い方の圧がすごいなぁ……」

「おぉ、ニンゲンにも伝わるトラね。じゃあ話が早いトラ。始めるトラよ!!」


 つまりここは……


「ヒロの淫乱な妄想通り」「し、してないっ!」「マトリクスはセェッッッッッックスしないと起動しない侵略者迎撃人道兵器、トラ!」


 そ、それなんてエロゲーだよ。

 はたまたSNSに流れてくるバズったポストか?

 恐る恐るザクロを見やると、ザクロはポカンと口を開けて放心している。僕以上にこの展開に取り残されてる。


「トラ……つまり、マトリクスを動かすために、その……ザクロと……」

「はっ、ザクロゆーな……」反射的にツッコんでくる。


「嘆く気持ちトラもわかるトラ、非合理的だとは思うトラよ。しかし、マトリクスはこの世界でニンゲンと協力することで稼働する仕様トラ。突然で悪いトラだけど、今から二人には早速まぐわってもらうトラ!」

「マジか」「うそ……」


 ザクロもようやく事態を飲み込めたらしい。

 そっとザクロを見やると、ザクロも僕を……。

 互いの視線が弾けるように顔を背けた。

 いや……無理だろ、無理だって!!


「あれ、なんでそんな驚くトラ? ヒロは柘榴唯のことを……」

「わっ! わぁ〜〜〜〜〜ッ!!!」


 トラの台詞を遮ったのは、ザクロだった。

 両手を振り上げ、頬を僅かに赤く染めている。

 ザクロの勢いに気圧されてトラは黙る。

 ひとしきり叫んだ後、ザクロは大きく深呼吸を繰り返した後、口を開く。


「ちょっと待ってよ。……そういうのは…さ、……人伝に雑に訊くんじゃなくて、本人から……直接、ハッキリと、聞きたい、です」


 ザクロは一言一言切り出すように、声を僕にぶつけてくる。

 大きくて宝石のように輝く綺麗な瞳が、僕の心臓を射貫く。

 って、待て……本人から聞きたい?

 直接? いや待ってくれ、つまりそれって……。


「ヒロくんはどうなの?」

「あ…僕は……」

「ヤなの?」

「一回落ち着こ、な? ってなんでこっち来るんだよ」


 ザクロはズンズン近寄ってくる。

 僕は情けなく後ろに下がるも、ついに白銀の壁に追いやられた。

 ドンッ、とザクロは腕を伸ばす。

 僕より頭半分は小さい体躯なのに、なんて迫力。

 ってかこれ壁ドンだ。普通は背の高いイケメン男子が仕掛けるんじゃないのか?


 殺気立つザクロに、まぁまぁ……と宥めてやり過ごそうか、と考える。

 でも、ザクロの瞳は驚くほど真剣だった。

 その視線はヒリヒリと痛い。

 ……もしもここで半端な返答をしたら、その瞳はたちまち色褪せてしまい、もう二度と元には戻らない、気がした。


 僕は震える自分の手を、どうにか握りこぶしを作って押さえ込む。

 飲み込まれそうなほどの巨大な瞳に晒されながらも、僕は覚悟を決めた。


「あ、あの……そのぉ………きぃ、かな」

「聴こえない」

「ぅ……。だ、だから…………はぅ……う、はぁ…ぐぅ………好きです」

「誰を?」ザクロは微笑みながら訊く。いやそんなの文脈からわかるだろ? コイツ楽しんでやがる。こんなドSだったのか?

「……ザクロをっ」


 振り絞るように声を出す。

 ザクロは垂れた目を細めて、「ふうん……あたしの、どういうところが好きなの?」

「そ、それは…」脳裏にぶわっと言葉が溢れた。

「顔が良い。華奢な体躯が愛おしい。声が可愛い。染めた茶髪の長髪が美しい。柑橘系の香水の匂いも好き。会話してると変に気を使わない。けど最近意識し過ぎて辛い。他愛の無い会話を重ねる時間が幸せ。トラ(犬)との散歩はザクロと出会うため。好みが昔から結構重なることが多いから嬉しい。笑顔が愛らしい。胸が大きくて柔らかそう、トラ」


 ……僕の頭上から、まるで僕の頭の中に広がった言葉をばら撒くようにトラが言い放つ。


「こんな感じトラ」

「……なるほど、さっき揉まれた感じからお尻派かと思ったけど、胸か〜」


 ザクロは両手で腕組みし、まるで胸を僕の視線から隠すようにしてボソッと言う。


 そ、そんなの「そんなのどっちも好き、トラ」

「うぉおい!? 違うッ!! さっきからお前適当なこと言うなッ!!」

「適当じゃないトラ。トラの思考解析は完璧トラ。他にも、括れた腰から太腿にかけてがエr」

「わかった!! もういいだろ、おい、やめろ!」


 これ以上は危険だ!

 トラに飛び掛かるが、ふわりと浮かんで避けられた。バランスを崩し、そのまま体の側面から倒れる……。

 痛い、けどそれ以上に心がズタズタだ。もうお嫁に行けない……。


「あたしもヒロくんのこと、好きだよ」


 ザクロは優しく声をかける。「あ、トラちゃん、あたしの思考は読むの禁止」

「はぁーい、トラ」

「く、なんでザクロだけ……」「だって妄想の中でトラが八つ裂きにされてるトラよ……」


 トラの不穏な言葉は聞き流し、ゆっくりと立ち上がる「でも、どうして僕を?」


 僕は本当に平均的な高校生だ。

 猛勉強してもテストは平均以上がやっと。

 運動は可もなく不可もなく。

 背も別に高くない。

 顔だって童顔ってよく小馬鹿にされる。

 他人に誇れる何かを、何も持ってないんだよ。


「しょうがないな、教えてあげましょう。……ほら、昔トラちゃんを助けた時あったじゃん」

「……台風の日の?」

「うん。あの時ヒロくん、あたしが助けを求めた時に顔が絶望で死んでたのに、その絶望を振り切ってトラちゃんを助けたじゃん。あれ、普通に凄いな、格好良いな……って。多分それからずっと……。ヒロくんが勇気を振り絞って助けてくれたから、トラちゃんは静かに息を引き取ることができた。あたしをそれを凄く尊重してる。ヒロくん以上に優しい人、あたしは知らない」


 優しい人、文字通りの肯定的な意味として僕に向けられたのは初めてな気がする。


「ってかさ、ほぼ毎日トラちゃんの散歩に付き合ってたじゃん。普通気づかない?」

「トラが可愛いだけかと……」

「や、もちろんトラちゃんは可愛かったよ。でもそれだけでさあ、毎日隣に並ぶはずないじゃん」


 ザクロは微笑みながらも、ふと寂しそうに目を潤ませ、僕から目を逸らす。


「でも最近はなんか声、かけてくれなくなったから、結構寂しかった」

「そ、それは……悪かった」

「普通に嫌われたかと、興味なくなったのかな〜って怖かった」

「ごめん……だって、ザクロが…可愛いから」

「へ?」

「だから…恥ずかしくて、今までのように声をかけるのが、できなかったんだよ」


 半ばやけになって伝えた。

 ザクロの頬が真っ赤に染まる。

 その熱がじんわりと伝わるように、僕の顔も火照っているのがわかる。


「セェッッッッッックス! セェッッッッッックス!! しろトラッ!!!」

「「うるさいっ」」

「早くしないと侵略者が襲ってくるトラよ〜」


 僕の目の前にザクロが立つ。

 距離……ちっか……。

 目の前にザクロの大きな瞳が爛々と浮いていた。まるで瞳の中に銀河が広がっているかのように、キラキラと輝いていた。


「……で、どうする、する?」

「い、今から?」

「だってしないと動かないんだよね?」

「そうアイツは言ってるだけだけど……こんな場所で」

「その点は安心しろトラ! この世界のニンゲンの習性は研究完了済みトラ! 本当は豪奢なお城みたいな建造物を構築したいトラだけど、生憎マトリクス内にそんな空間は無いから、特別にセェッッッッッックス用の空間を用意するトラ」


 上位者にありがちな人間の感情なんか一切無視のデリカシー皆無な立ち回り……。

 なら大丈夫か……いや待て、そんないきなり……。


 バクンッ! バクンッ! バクンッ!!


 意識した途端、心臓が破裂しそうな程脈動してる。

 勢いそのまま口からポロッと飛び出てきそうだ。

 今からセックス? ザクロと? 幼馴染歴はそこそこあるけど、キスはおろか手を繋いだこともない。いきなりセックスって……していいの? 不適にニヤニヤ微笑むザクロは余裕っぽいけど……。


「じゃあさ、とりあえず……キスを。ね、トラちゃん、キスでも動いたりするの?」

「接吻トラ?」

「接吻……はい」

「活力が溜まるなら接吻しながらでも問題無いトラ」


 キス──。

 確かにセックスよりもキスで問題ないのなら、最初はキスで済ませたい……。いやだって両思いでした、やったーうれしい! じゃあセックス! は無理だって。心の準備がまだ……。


 ただ、キスも……待ってキス!? するの? 今日17歳の今まで彼女はおらず、キスの経験も皆無だ。

 ザクロは?

 わからない。聞くのも怖い。セックスしろと言われても動揺しないのは、初めてじゃないから?


「はぁ……初めてのキスは、もっと……雰囲気ある場所、例えば夕方の人気のない公園のベンチ……とか、想像していたんだけどね」


 零れるように、笑みを浮かべるザクロ。

 胸が締め付けられるような愛らしさ。

 ザクロの瞳が潤み、唇がいつもよりも艶やかに映る。

 まるで待ち望むかのように、俺をじっと真っ直ぐに見つめている。

 その刺すような鋭い視線から僕はいつも……。


 一歩、僕から距離を詰めた。

 ザクロが僅かに目を細めて微笑む。


 ドックンっ!! ドックンっ!! ドックン!! 


 そろそろ心臓が破裂しそうだ。

 ザクロは目を閉じる。僕も。その瞬間だけ彼女の瞳の呪縛から解放される――。

 ……軽く触れた。

 やわらか……い。

 すぐに離れる。目を開くと、ザクロはゆっくりと瞳を開き、ニコリと優しく微笑んだ。頬が赤く染まっている。その崩れた笑顔、ちょっと恥ずかしそうに身を捩る姿が無性に愛らしい。


「あっれ〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?」


 二人で見つめ合っていた最中、トラがすっとんきょんな声を上げた

 あまりの声量に二人で飛び上がる。


「な、なに?」

「おかしいトラ……。今二人で接吻」「言い方」「をした時の感情変化から得られる活力を概算したトラ。でも、でもでもでも!」

「でも?」

「ほぼ零トラ……。これじゃあセェッッッッッックスを100万回やってもマトリクスを動かせないトラ〜〜〜っ!」


 嘆くトラに、

 僕たちは、

 ──僕は、

【この時はまだ……イマイチその意味を理解できなかった。】

 浮かれていた。なんかギャーギャー喚いているけど、心底どうでもよかった。

【もしも押した瞬間自殺できるボタンを手渡されたら、僕は迷いなくこの瞬間にボタンを押す、それほど幸福に満たされていた。】


 トラは僕たちの周りをぐるぐる回り始める。


「この世界で強力な活力発生の匂いを感じ取ったはずトラ!」くんくん、くんくん……と僕たちの匂いをトラは嗅ぐ。


「ザクロちゃん」「ザクロ辞めて」「じゃあユイちゃん! お前だトラ! 今お前からプンプン匂うトラなのになぁ〜〜〜」「え、香水つけすぎた?」「いつもと変わらないと思うけど」「と、あたしの匂いクンクン嗅ぎ検定一級保持者が答えてるけど?」「か、嗅いでない! ぼ、僕の好きな香りだからつい……じゃくて……」


 ズゥゥウンンッ!!


 大きな震えがマトリクス内にも広がった。

 びゅんっ、と空中に浮かぶスクリーンが僕たちの前に現れ、目の前までカイジュウが迫っている。更に無数の小さなスクリーンが浮かび上がり、逃げ惑う人々の姿が映し出された。


「あ、ゴリ松……」


 ザクロが指差すスクリーンの中で、必死に駆けるゴリ松の姿が浮かび上がる。本当にゲーセン付近にいたんだ。


 その瞬間、「トッラァァアッッッ!!!!」トラが叫んだ。


「こ、今度は何?」

「うぉぉおお~~~すっごい可能性を感じ取るトラ。ちょ〜っと待っててトラ!」


 トラが消えた。

 スクリーン内のゴリ松の隣にトラが出現し、再び戻ってきた。

 ──ゴリ松と一緒に。


「な、なんじゃこりゃ?!」


 ゴリ松は尻餅をつきながら、辺りを見回して声をあげる。


「俺は……あ、あの怪物から…逃げたはずだが……お! ユイか、ユイじゃないか! 隣の生徒も確か同じクラスの!」


 馴れ馴れしくザクロを名前呼びする教師に苛立つも、ザクロは生徒教師関係なくユイ呼びを強要しているため、彼女を知っている人は全員ユイと呼ぶ。

 教師は尻を抑えながら僕たちの下に駆け寄ってきた。


「お前ら早く逃げるぞ。あの巨大な怪物が街を破壊しているんだ。ってあれ? ここ……どこだ?」

「ンンンンンっ!!! あぁぁ……やっぱすげぇトラ…二人からビンビン来るトラっ!!」

「む? なんでコイツは……」

「もう時間が無いトラ! さっさと始めるトラ!」


 トラは教師とザクロの周りを飛び始めた。

 空中からピンク色に煌めく霧のようなモノが二人に降りかかる。

 すると、ザクロと教師の瞳からとろんと光が失われた。

 二人はじっと見つめ合う。

 ザクロが、教師に惹かれるように一歩近づいた。


「トラ……お前今何したんだ?」

「ん? なにって、感情促進剤を二人に振りかけただけトラよ。これを使うことで……」

「おい、待て…ザクロ?」


 思わずザクロに駆け寄ろうとした。

 だが、教師とザクロを僕から切り離すように、薄い何かが僕とザクロの間に広がった。

 まるで薔薇の花弁のような純白のベールが、幾重にも重なってザクロの姿を覆い隠していく。

 二人の顔が隠れる最中、ザクロの瞳がすっと横に流れた。その瞬間、僕とザクロの視線がカチリと重なる。教師の分厚い唇がザクロの口元に接近したところで、二人の顔も完全に覆い隠された。


// 続く

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