EP01-04 セックスしないと起動しない巨大ロボット、大地に立つ!
ギュインッ!
ギュインッ!
ギュインッ!!
まるで脈動するような音が空間全体に鳴り響く。
「ザクロッ!?」
思い切り手で叩くも、岩に腕を打ちつけたようにびくともしない。
「なぁおい、これを開けてくれ! 早くザクロを助けないとッ!」
「ヒロはこっちトラ〜♪」
ひゅん、と視界が一気に切り替わる。
どさっ、とコックピットの中に落下した。
振り返るも、「ほら前を見るトラ! カイジュウが迫ってるトラ! 今、マトリクスを動かせるのはヒロしかいないトラ」
「でも、ザクロがあの中に……教師と……」
懸命に声を振り絞る。けど、「大丈夫大丈夫! ザクロはとても健康で健全トラ〜!」
「そうじゃなくて……そういうことじゃなくて──うわぁっ?!」
ガガンッ!!
凄まじい衝撃を受け、無様に座席の上で転がった。
背後に浮かび上がる巨大なメインスクリーンには、カイジュウのグロテスクな顔が鮮明に映し出されていた。
「ほ〜ら、早く操縦するトラ! 街に被害が出るトラよ? ヒロがここで戦わないとこの街に住むニンゲンがみ〜んな傷ついていくトラ」
パパパパッ、とメインスクリーンを囲うように無数のスクリーンが開く。
逃げ惑う人々──老若男女、誰もが悲鳴を上げている。
ゲームと異なり、実写での惨状は吐き気を催すほどの生々しさを覚えた。
この人たちの命運を、僕が握っている、だと?
僕が戦わないと……でも、でも…っ、クソっ。
「…逃げちゃダメだトラ逃げちゃダメだトラ逃げちゃダメだトラ!」
「……は?」
「あれ〜こういう時って、そう言うはずトラよね?」
トラの無邪気な声に、鉛のように重い不安感がのしかかる。
人の感情を逆撫でしてるわけじゃない。
だってその口調や声色、雰囲気から一切の悪意を感じなかったから……。
苛立ちよりも、戸惑いが勝る。
嫌な予感が足元から悪臭のように這い上がってくる。僕は……何か、とてつもなく恐ろしい物語に巻き込まれてしまったかも、しれない──。
震えながら操縦桿を握る。
ゲーセンで毎日握りしめていた感触そのものだ。
異なるのは、ゲーセンでは湾曲したワイドモニターだったメインカメラが、ここでは360°全面モニターとして映し出されていること。まるで宙に浮いているかのような感覚だった。
視界の内側には、見慣れた計器が並んでいる。僕の意識に反応するように、視認し易く表示に色づいたり、見たい時にぼわっと流動的に動いた。
「ヒロ用に設定更新済みトラ! 準備は完了トラね?」
「……操縦は、できる」……でも、ザクロが……あの部屋、トラが用意したであろう部屋の中で──。
「さぁ、マトリクス発進トラ!!!」
有無を言わさず、トラは快活とした声で叫んだ。
──とりあえず、目の前に迫り来るカイジュウを倒す。街の人々を守るため。今トラに何か言っても全く反応しそうにない。
カイジュウを倒して、それからザクロを救い出す。
……救い出す、誰から?
……救い出す、どうして?
誰から、どうしてって……惚けるな、それくらいわかってるだろっ!?
グァァァアアアアッ!!!
カイジュウが大きく口を開けて咆哮する。
凄まじい迫力に内心竦むも、歯を食いしばって堪えた。
スロットルを引いて、マトリクスの片足の力を抜いた。
──カイジュウの振り回す腕が真横から迫る。
倒れ込むながら──躱す。
途中で踏み込み、肩を突き出しながら激突する。
ガァアンッ!!
なんて衝撃……。
鈍い金属音が腹まで響いた。
不意打ちに成功し、カイジュウはそのまま吹き飛んだ。
大の字で地面に倒れ込む。
──武器は!? と思った瞬間【超高速弾丸射出装置】の文字が流れた。
遠距離武器装備に割り当てられたボタンを押下すると、尻尾のように装着されたライフル型の小銃が手元に移動する。
メインスクリーンは人間の視界を模したFPS視点に加えて、両サイドには俯瞰してマトリクスとカイジュウを映す映像や、TPS視点も映し出されていた。
即座にトリガーを──いやでも街の人々に……「その点も問題無いトラ。マトリクスに搭載された兵器は、この世界のニンゲンには無害トラ! 当たる寸前で空中分解するトラ!」
ホントか?
カイジュウはよろめきながらも立ち上がる。
また襲ってくる。迎撃しないと。
あぁもう、迷っている暇はなんかない。
だってザクロが──教師に、そうだよ、襲われているかもしれないんだッ!
トラを信じてトリガーを引いた。
ゲームと全く同じ弾丸が同じ速度、射線でカイジュウに突き進む。
カカカカッ!! と無数の弾丸がカイジュウの体に突き刺さり、火花を散らす。
だが、その半分は顔の前で構えた小さな腕に防がれていた。
そのまま腕を盾にしながら迫ってくる。
咄嗟に斜め横にダッシュした。
すれ違いざまに弾丸を浴びせる。
しかし、今度は巨大な尻尾に防がれる。頭部、腕、尻尾には分厚い装甲がまとわりつき、このライフル程度ではまともなダメージを負わせられない。
だったら接近して切り刻むだけ……。
レーザーブレードは……【超電磁収束光刃】がある……。
武器を切り替えようとした瞬間、カイジュウの尻尾がまるでのたうちまわる蛇のように蠢き、コンクリートの道路を抉る。「ちなみに、カイジュウが壊したビルの破片はこの世界のニンゲンを傷つけるから要注意トラ!」
「な…お前それもっと早く……あっ!!」
尻尾がぐわんと大きく跳ねた。
加速してビルに迫る。
パパパっ! とビルに取り残された人々の姿が描写された。
うそだろっ!? まだこんなにッ!?
間に合えッ!
自分の体を投げ出すようにマトリクスの右腕を伸ばした。
バキィッ!!
ドドドドォンッ!!!
体の芯まで響く音と衝撃で、コックピット内が激しく揺れた。
踏ん張って堪えた瞬間、
体のバランスを崩し、
操縦桿の中央に配置されていた、
見慣れないボタンを……肘で押してしまった。
ヒュン──
メインスクリーンの上に、巨大なスクリーンがまるで壁のように浮かび上がる。
──っ!!
響く嬌声。
軋むベッド。
肌を打つ打感。
そのスクリーンには……AVが、映し出されていた。男女が……そのアンアン言いながらセックスしている、動画だ。
は?
えっと、待って待って……。
いやなんで、ロボットの中で、アダルトビデオが?
意味がわからな──。
えッ?
その時、気づいた。
気づいて、しまう。
瞬間、ブワッと全身から汗が噴き出た。心臓がキュッ! と締まり、僕は片手で口を押さえながら……恐る恐る視線をそのスクリーンに這わす。
その声は、ベコベコに折り曲げられた金属のように歪んでいたけど、僕が聞き間違えるはずがない。
握ったら折れてしまいそうなほど華奢な体躯が──。
映像が切り替わった。
正面からのカメラワーク。
彼女の顔を真正面で描画する。
ガチっと、僕と彼女の視線がぶつかり合う。
幼い頃から恋焦がれていたその大きな瞳が、ドロドロに濁った愉悦に染まっている。
ザクロはとても気持ちよさそうに、求めるように舌を伸ばして教師と唇を重ねている。
// 続く




