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ノベロニア・アンソロジー【第一章・第二章 合併版】  作者: ノベロニア・アンソロジー実行委員会
■■■ ノベロニア・アンソロジー【第弐章】 ■■■
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【第二走者】冬厳@主夫ロニア

 コンコン


 キッチンで準備をしていると、玄関から軽いノック音が聞こえた。時計を見ると約束の時間ぴったりだということに気が付いたおこんは慌てて玄関へと駆け寄り扉を開けた。そこには背筋をピンと伸ばして立っている男性がいた。

「どうも初めまして。わたし、城下町でビストロシェフを務めていますカートウッドと申します。本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

 流れるような銀色の髪に真っ赤なコックタイ、漆黒のジャケットを羽織り、腰には愛用の包丁を携えていた。物腰もとても柔らかく、おこんはその優しそうな表情に安心したのか何度も頭を下げながらキッチンへと案内した。

「は……初めまして。き、今日はよろしくお……お願いします」

 慌てふためきながら指導をお願いするおこんの姿を見たカートウッドは、軽く笑いながら腕をまくった。

「そんなに畏まらなくていいですよ。もっと肩の力を抜きましょう」

「そ……そんなこと言われても、知らない方から料理を教わるのは……初めてなので緊張していますが……が、頑張ります!!」

「では、これから一つ料理をお教えします。最初はわたしがお手本を行ったのち、おこんさんはそのあとにゆっくり実践をしてみましょうか。まずは、食材の準備をお願いします」

 緊張からか震えが止まらないおこんに気遣うカートウッドを見て、おこんはなんだかもどかしい気持ちに苛まれながらエプロンを付けた。そして、冷蔵庫から食材を取り出したとき、おこんは風に肩をつつかれたように感じ、振り返る。しかし、そこには誰もいないし扉は閉まっているので風が入り込むことはないはずなのだが……不思議なこともあるものだなと思い、食材をまな板の上に静かに置いた。その食材を見てカートウッドは小さく呟いた。

「……どう料理しましょう」

 まな板の上に出されたのは鮮度のいい魚丸まる一匹だった。これを洋風にするとなると……カートウッドは考えた末、簡単にできる洋風料理を思い描きながら腰にある包丁を抜いた。まずは下ごしらえを行い、必要な部位毎に切り分け、使わない部位は丁寧に包み冷蔵庫へ。使う部位に塩と胡椒で軽く味を付け、付け合わせの野菜を盛りつけたら銀色の包み紙に包んでから水の張ったフライパンの上へと静かに置いた。

「え、もう火にかけるのですか? それよりも……なんて綺麗な包丁さばき……あっという間すぎてわかりませんでした」

「ははっ。これは慣れれば誰にでもできます。おこんさんにもきっとできます。えっと、蓋はどこですか?」

 フライパンに蓋をして数分後、蒸気口から勢いよく噴き出す音に驚きながらもカートウッドは動じずに蓋を開け銀色の包み紙をめくり、小さく頷いた。火を止めてお皿に銀色の包み紙毎載せておこんの前に運んだ。

「どうぞ。皿等熱くなっていますのでお気を付けください」

「は……はいっ!!!」

 おこんは火傷しないように銀色の包み紙をめくると、そこにはふんわりと磯の香漂う料理が姿を現した。付け合わせの野菜も彩りを添え、見ただけでも食欲をそそる出来上がりだった。

「こ……これは蒸し焼き……ですか?」

「そうですね。和風に言えば蒸し焼きですが、洋風だとムニエルと言います」

「む……むに……える……ですか?」

 聞きなれない言葉に首を傾げているおこんに、カートウッドが穏やかな口調で補足を行う。

「食材は和と洋、似ていたのでいかがかと思いまして」

「はわぁあ……そこまで考えていただけただなんて……嬉しいです!」

「喜んでいただけて何よりです。さ、冷めないうちにどうぞ」

 おこんが箸を持ち、恐る恐る身を解しながら口へと運ぶ。程よい塩味に加え、素材の甘さが引き立っていることにおこんは衝撃を受けた。

「軽くお塩を振っていただけなのに……こんなに美味しくなるのですか?」

「素材を持ち味を生かすこと考えると、このくらいの味付けが丁度よいかと」

 その後もおこんは、ムニエルという新しい調理法に驚きながらあっという間に一皿を平らげてしまった。満足そうに空の皿を見ているおこんを見たカートウッドもどこか嬉しそうに笑った。

「はぁ……とっても美味しかったです」

「それはそれは。では、今度はおこんさんが実際に作ってみましょう」

「はい! よろしくお願いします!」

 さっきまでの緊張感はどこへやら。おこんはとびきりの笑顔で自分が使った食器を片付けてから、カートウッドの指導を受けた。カートウッドの指導はとても親切丁寧でわかりやすく、ある程度料理ができるおこんは思うように包丁を振るうと、カートウッドにその腕の良さを誉められた。その度に動揺しながらも、おこんは調理を進めていく。そして、今度は自分で作ったムニエルが完成。その出来栄えにカートウッドは何度も頷いた。

「とても筋がよかったですね。この腕前ならきっとお客様も満足していただけるでしょう」

「あ……ありがとうございます!」

 カートウッドはおこんが作ったムニエルを一口含むと、言葉の代わりに満面の笑顔で頷いて見せた。それを見たおこんは嬉しくなり、その場でぴょんぴょんと跳ねた。

「上出来です。あとは何度も練習し、体で覚えれば上出来ですね。今日はお疲れ様です」

「ここまでできたのもカートウッドさんのおかげです! ありがとうございます!」

 自分で作ったムニエルはそのままに、残る他の食器の後片付けまで手伝ってもらったことに申し訳なさを感じていたおこんに、カートウッドは首を横に振り気にしないで下さいと付け加えた。最後に深い一礼をし、カートウッドは自分の店へと帰っていった。静かになったキッチンを見回したおこんはちょっとだけ寂しい気持ちになったが、これで洋食が作れるということに心が躍っていた。一服を入れようとやかんを火にかけ、お茶の準備を始めた。お湯が沸き急須にお湯を注いでいるとき、また肩をつつかれるような感覚、そして頭にはなにか柔らかいものがあることに気が付いたおこんは、やかんを置きそれに触れた。手に取ると、それは純白の羽だった。雲のようにふわりとしたそれは仄かな光を放ち、おこんを釘付けにした。

「わぁ……なんて綺麗な羽なのでしょう……でも、なんでこれが……??」

「その料理、美味しそうだね! ねぇ、ボクにくれないかな??」

 声のする方へと体を向けると、そこには少女が宙に浮いていた。幼さの残るその少女は羽に負けんばかりの眩しい笑顔でおこんに近付き、やや興奮気味にムニエルを指さした。

「え……え? え……えっと……すみません……。どちら様でしょうか……?」

「あ、ごめんごめん。まだ名乗ってなかったね。ボクはラファエル。天気がいいし、散歩してたら美味しそうな匂いがしたから来てみたんだ」

 突然現れた天使─ラファエルにどうしていいかわからず、しばらく言葉を発さず固まるおこんだった。

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