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ノベロニア・アンソロジー【第一章・第二章 合併版】  作者: ノベロニア・アンソロジー実行委員会
■■■ ノベロニア・アンソロジー【第弐章】 ■■■
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【第一走者】白こにー

子狐、風音ノおこんの朝は早い、起床するなり身なりを整え宿の掃除に取り掛かる。彼女はここの管理人であるからだ。


幼い頃からどんな種族でもくつろげる旅館を作りたいと夢を掲げ今に至る。今はまだ小さい宿だがこれから繁盛させようとやる気に満ちている。


「今日も一日頑張ります!」


誰かが答えてくれる訳ではないが箒を携えて彼女は奮起する。今日は尚の事、料理人が訪れる日だからだ。知人の紹介でこの新米宿主に料理の手ほどきをしてくれるらしい。吉報到来。


人並み以上には料理の心得があるおこんだがいかんせん東方の出である身、料理といってもレパートリーは和食が主である。正直に言うと洋食はてんで分からない。先日も洋食にチャレンジしてみたが結果は振るわず敢えなく断念したのだ。


そこへ上手くいかないと知人に愚痴を溢したら今回の機会が舞い込んできたのだった。なんでも城下町でビストロを営んでいるらしい。

競争率の激しい城下町で切り盛り出来るだけでシェフの腕前の良さが理解できると言うもの。

物腰も柔らかく人当たりも良い人物だそうだ。


「十時頃にいらっしゃると言っていましたね」


玄関先を掃除しながらどんな人物か想像に耽る子狐。気が強い人物が苦手なおこんとしては優しい人物という時点で胸を撫で下ろすばかりである。


ここに宿を建てたいと交渉した際にもどれだけ勇気を出したか...。


彼女の宿は白の大地の東端に位置している。

黒の大地へと続く通り道もあり人の往来も多く、治安も比較的良好である。だがあくまでここは城下町までの通り道であり宿は少ない。つまり競争相手がいない。彼女はそこに目をつけた。


城下町は確かに騎士達が街を守護してくれている故に治安が良い。対してこの場所は魔物や荒くれ者が出ない訳ではない。だが彼女の様な新米が城下町の厳しい生存競争など生き残れないだろう。それに彼女の目指す宿はどんな種族でも寛げる憩いの場所、城下町の様に富裕層、中間層、一般層と分けられた宿とは違うのだ。どんな者でも平等にもてなし楽しい空間を提供する。


だからこそここが一番ベストなのだ。


と、先も言ったが荒くれ者も訪れる場所、子狐一匹では心許ない。だがそこはしっかり者のおこん対策はしっかりとしており、有事の際には協力してくれる後ろ盾も持っている。


その後ろ盾とは九尾の妖狐だ。

この東端にある山の守り神をしており野生の狐達と共に暮らしている。彼女は妖狐に直接会いに行き交渉したのだ。

同じ狐ならきっと話を聞いてくれるという安直な根拠でだ。思えばよく了承してくれたものである。だが時には迅速な行動が功をそうす場面もある。しっかり者だけでは宿主は務まらないっ!


思い立ったが吉日だ!


「ここに宿を建てたいのです!」


「人の土地に土足で入り...あまつさえ土地を寄越せとな、随分と勝手な言い分をする子狐じゃのう?」


「ひっ!?」


なんと至極当然!ぐうの音もでない!だが夢の一歩をここで諦める訳がなく食い下がるおこん

怯えることはない!真摯に気持ちをぶつけるのだ。だからもっと狐耳を立たせよ!ペッタリではないか自信をもて!


「では妖狐様の為に料理を振る舞います!それが美味しかったら検討して頂けますか...!」


「ほう?一丁前に料理とな...良かろうでは台所を貸してやる。せいぜい励め子狐」


なんと許可が出た、これは好機到来である。

おこんは急いで支度を整え料理に取り掛かった

相手は何百年と生きる大先輩、舌も肥えているだろう。付け入る隙があるならば山暮らしもありキチンとした料理はご無沙汰だと聞いたこと。

そして同じ狐だということ、味覚は一緒である。


ここで認められれば...!

失敗への恐怖よりも夢に近づく瞬間だという高揚感が彼女の内から湧き上がっていた。


そして数時間後、妖狐の視線の先にはおこんが拵えた料理があった。


「ほう...」


献立は米に味噌汁と魚料理、なんて事はない東方では一般的な食事だ。


「出来ました!どうぞ召し上がってください!」


「(見てくれは良し...だが子狐よ敢えて選んだのか険しき道を...!)」


妖狐は彼女に視線を移す、真剣な眼差し、どうやら本気らしい。妖狐にとっても馴染みある食事おこんの狙いは間違っていない。だが相手は齢百を越える狐である。並の味であれば途端に箸を置くであろう。それを敢えて選ぶと言う事は余程の阿保か...。


「ではいただこう...」


或いは揺らがぬ自信か。


「......美味い」


「......!!」


結果は後者であった。


「なんと美味か...素朴ながらも料理一つ一つがしっかりと作り込まれておるっ!何よりこの懐かしい香り!味付け...!ああ...これほどまでに故郷の味を再現する者が現れるとは...!」


「あ、ありがとうございます」


「子狐よ、名はなんという?」


「風音ノおこんと申します」


「まっこと美味じゃ、お主の願い聞いてやらんこともないぞ?」


「本当ですか!?」


「じゃが条件がある、おこんよお主の料理いたく気に入った。これからも妾に拵えるのが条件じゃ、毎日とは言わん妾がお主の所へ訪れた時で良いついでにお主の安全を多少なり保障してやろうこの辺りは治安が良いとは言えんからな。どうじゃ?悪くはないと思うが?」


「そ、そこまで...!ありがとうございます!」


至れり尽くせりの好条件が提示された。

完全勝利である。


「ふふっ、妾も礼を言う。久しぶりに良い狐と出会った」


男は胃袋を掴めと教わったが妖狐の胃袋も掴める様だ。なにはともあれ無事に宿を建てる許可と後ろ盾を頂いたのであった。


「次は受付のお掃除っと...!」


テキパキと掃除をこなすおこん。

訪れた人を心から歓迎したいという気持ちから自然と力が入る。


「(料理もそうですが宿としても見てくる筈です...!)」


招くのはビストロシェフ、料理人としてそして宿の主としてこちらからお願いして来てもらうのだ失礼のない様にもてなすために準備を進める。


洋食という分野は全く専門外だが、新しい事に触れることで成長するきっかけになるかもしれない。


ふと掃除の手を止めて辺りを見渡す。

視線には宿を立てる際に希望した食堂が広がっている。裏手には台所もあり直ぐに料理を出せる。宿泊者の受付も兼ねておりこれから訪れる者達で溢れ返るだろう。ここで賑やかに過ごすのを想像するだけで笑顔が溢れる。


開店までもう少し、まだ夢の一歩を踏み出したばかりだ。おこんは今後に期待を膨らませつつ、ビストロシェフカートウッドが来るのを心待ちにするのであった。

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