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第49話 揺れているのは

 第2討伐隊がいる第2空中要塞都市の陥落。

 それは人類の防衛線が破られたことを意味する。

 首都を中心として、西部の要塞都市がやられた。空中要塞都市自体は、未開拓領域上空にあるから、まだ人類領域に侵略されてはいないだろうけれど、それも時間の問題になる。


 50年の融合体との戦いの歴史の中で防衛線が機能しなくなったことは何度かある。都市自体が落とされることは初めてだけれど。

 でも、こういう事態の対抗策も授業で習った記憶がある。たしか規定では1つの都市がやられた場合、その周辺2つの都市が穴埋めを行うということになっている。だからその場合は北東にあるこの都市の魔法師にはすることがないはずなのに……


 けれど、私達に緊急警報が来たように、今回はそうではないらしい。

 同調者だけではなく、全ての魔法師には集合命令が出ていた。それゆえに私達は朝早くから、基地の一角にある大きな会議室のような場所に集まっていた。魔法学校の教室と構造は似ているけれど、大きさは全然違う。


「人、多いね」


 当然のことを呟く。

 いくら大きな部屋とはいえ、1000人が入るのだから。それでも席は半分以上余るけれど。

 こういう人が多い場所は苦手。というか、息苦しくなってくる。会話という喧騒がうるさすぎるからかもしれない。

 もしもアイリと手を繋いでなければ、逃げ出していたかもしれない。


「ここらへんに座る?」


 アイリの問いに頷く。

 そして大きな部屋の左端後方の席に並んで座る。


「あら、アイリ」


 不意に声がかかる。

 そこには、やけに派手な髪形の女がいた。振り向きかけた視線を一気に逸らす。

 ……エルネスタ。一度、1年ぐらい前に会い、私にアイリと会わないように言った人。それぐらいしか覚えていないけれど、私を良く思ってはいないことは知っている。


「魔力は大丈夫かしら?」

「……まぁ」

「私達は前の方に座っているけれど」

「……私は、ここにいるよ」

「そう」


 一瞬、無言になり、視線がこちらを貫く気がした。


「あなたも同調者なのだから、ちゃんと説明は聞いておきなさい」


 そんな言葉を残して、足音が離れていく。


 同調者なのだから。

 その言葉はやっぱり、私とアイリの差を示すもので。

 多分、傍から見れば、私達が一緒にいるのは異様に見えるのかもしれない。


「レーネ、始まるみたいだよ」


 その言葉で、少しばかりぼおっとしかけた意識をはっきりさせる。

 時間になり少しばかり部屋が暗くなる。大画面に何かの姿が映る。

 そして拡声器から声が流れる。


『これから第844融合体、仮称黒煙球の現状と、その対処について説明する』


 そんな冒頭から始まった説明は、現状の説明だった。

 融合体の10体同時出現。そのうち9体は討伐済み。残りは黒煙球と名付けられた第844融合体のみ。

 黒煙球は明朝に同調者8人からなる第2討伐隊を全て殺害。第2討伐隊は主力の同調者を失った。そして同時に第2空中要塞都市が陥落。

 黒煙球は依然、人類領域を目指して進行中。


 そのような説明がされた。

 それを適当に聞きながら、通信機で配布された資料を眺める。というかこんな説明を聞く意味があるのかな。全部資料に書いてあるのに。


「これ、どこを目指しているんだろう」

 

 説明を聞きながら、隣のアイリに小声で問う。


「……進行方向的には……首都かな。人口密集地を襲う気なのかも」


 首都ねー……

 確か人口は500万強。この国の人口の1割。海の向こうの国の全人口と同じだけの人口がある。

 今までの傾向から見ればそれはわかりやすい。全ての融合体は最も近い人口密集地へと進行してきた。今回はそれが首都だということらしい。


「どうして融合体は人を襲うんだろう」

「んー……食事とかじゃないみたいだし……」


 どうしてわざわざ人口の多い場所を目指して進行してくるのかわからない。

 人を殺して、その先に何を目的にしているのかな。わざわざこちらを積極的に襲うわけじゃなければ、こちらも討伐隊などという部隊を編成しなくてもよかったのに。それでも第一指定危険魔法生物の登録は避けられなかったかもしれないけれど……でも、その程度で済んだはずなのに。


「……結局、融合体の核は魔導機械の意志だから、魔導機械がどうして人を襲うのかって言う問題になるんじゃないかな」

「えっと、旧文明の戦争の名残っていうのが通説だっけ」


 少し歴史の授業を思い出す。

 魔染歴以前……つまり800年以上前の魔導機械は人に制御されていたらしい。そしてそれが戦争に使われた。その時の命令を遂行しているだけなのではないかというのが今の定説らしい。

 ……でも、どうやって制御側の人類とそうじゃない側の人類を見分けているのかはわからないけれど。魔力を読み取って識別している説とかが濃厚なんだっけ。


「……戦争なんて、なんでするんだろう。みんな痛いのは怖いのに」

「なんでだろうね」


 直近の戦争は160年ぐらい前の調和戦争。あれは、なんだっけ。突き詰めれば、主義主張の違いによる戦いなのかな。

 それ以降戦争は起きていない。色々、あったようだけれど、戦争と呼べるべきものは何も。特に、ここ50年は融合体との戦いの歴史になるし。これも戦争みたいなものかもしれないけれど。


「戦争は、外交手段っていうか……意志を通すための最後の手段って聞いたことがあるよ。もしも話してみて、それでもどうにもならないなら、そしてそれがかけがえなのないものなら戦うしかない。みたいな」


 私も詳しくは知らないけれど。そう呟きながら、アイリと目が合う。

 もしも彼女を失いそうになったら、私は戦うことができるのかな。あまり自信はない。そこまで自分の意志を信じてはいない。


「……やっぱり、そういう意味では恐怖なのかな。結局のところ。死っていうか……喪失が怖いからっていうか」

「そうかも。結局は感情になるのかもね」

「……例えば、大切な人を守るために戦うみたいなこと?」

「多分」

「……それなら、少しわかるかも」


 アイリのその言葉は、勘違いでなければ、私のことを指していて。

 つまり、私が大切だということらしい。それは知っていたはずなのに、やっぱり嬉しい。でも、同時に……

 少し嫌になる。私のためにアイリが戦うなんて。私のせいで、彼女が危ない目に遭うなんて。


「アイリ……」


 それを言葉にしようとして、やめる。

 私が言えることじゃない気がしたから。ただ守ってもらっているだけの私が、彼女の覚悟や意思に口を出すのは、なんていうか……あまりにも、変な気がしたから。


「レーネ?」


 代わりに手を握ってみれば、アイリは不思議そうに視線を向ける。

 でも、なんて答えればいいのかわからなくて、ただ少し力を込める。


「……くすぐったいね」


 にこりと笑って、アイリの指が絡まる。

 こうしていれば、もやもやとした感覚が薄れていくのを感じる。ずっとこうしていたい。そう願っているらしい。


「……なんか、ちょっと楽しいかも」


 アイリが不意に呟く。


「え、そう?」

「なんだかレーネと授業受けてるみたい」


 授業って。この説明会はそれより大分と適当な形だけれど……こうしてアイリと話していても、怒られることはないし。

 でも、言われてみれば少しわかる。もしも魔法学校にアイリといたら、あの魔法学校も楽しかったかもしれない。こんな時に不謹慎かもだけれど。


 実際のところは他人事というわけじゃない。

 融合体が都市を落として、その都市に住む住民の生存は絶望的。そんな災厄、歴史に残るほどの事件なわけで、もしも仮に誰も第844融合体を止めることができなければ、人類は生存圏を失うことになる。


 でも、あまり現実感はない。

 こういうの正常性偏見というんだっけ。あまりにも異常すぎて、現実の事とは思えないみたいな。


 もしも全部悪い夢なら良かったのに。

 そんな風に考えているうちに説明は続く。


『黒煙球の姿はこれだ』


 説明の声と共に画面が切り替わる。

 それは画質の荒い映像だった。多分、黒煙球と同調者達の戦いを何か黒い……靄のようなものが映っている。確かに黒煙のようにも見える。たしかに黒煙球っぽい。


「……無定形かな」

「むてい?」

「固定の形が無いんだよ。あの黒い霧自体が融合体本体」


 さらに映像は進む。

 いくつかの影……それは多分、同調者の影だろう。影が大気を震わせ、魔力の持つ威光の光が画面を照らす。

 あれは同調者の魔法。アイリの魔法と同じ。でも、違う。アイリの光魔法は、光自体で攻撃を行うけれど、あの光は魔力攻撃の余波だろう。


 魔力の塊が霧に当たる。

 そして、その瞬間に光が消える。

 まるで何もなかったかのように。


「ぇ?」


 アイリの呟きが漏れる。

 映像では、さらにいくつかの魔法が放たれる。けれど、その全てが一瞬でもしくは数秒足らずで掻き消える。


 その現状の意味が、私にはよくわからなかった。

 無定形の霧自体に攻撃するのなら、そういうものになるのかと。

 だから、その次の言葉に轟くことになる。


『見ての通り、対象は魔法を吸収、無効化する能力を持つ』


 吸収? 無効化?

 それって……


「そんなのずるすぎない?」

「……そうだね。でも、それだけじゃないみたい」


 アイリの言葉通り、映像が次の段階に映る。

 黒い霧が蠢き、細い霧が伸びる。そして何人かの同調者を呑みこむ。彼らの展開した障壁魔法ごと。


「なんで」


 障壁魔法が破られることは多々ある。種類にもよるけれど障壁魔法は、魔力的な空間歪曲により攻撃を防ぐ。その強さは魔力量と魔力密度に決まる。つまり魔力密度の高い攻撃は防ぐことが難しい。

 でも、その場合でも攻撃と障壁の間で拮抗が起きる。互いの魔力密度によって、どちらの魔力がその空間の主導権を握るかを決める争いが起きるというのに。


 けれど、映像を見る限りではそれは起きていない。

 障壁魔法に霧が触れた瞬間、それを貫通し、同調者を呑みこんでいる。

 呑みこまれた同調者が出てこないことから、あの黒い霧自体が攻撃性能を持つのは間違いないのだろうけれど……でもどうして? 障壁魔法が機能していないから?


「魔力密度が高いから?」

「……いや、多分だけれど……それだけじゃないと思う」


 たしかにそれだけなら、ああいう風にはならない。

 魔力障壁を破るだけで、魔法の痕跡が消えた。なんというか、まるで……あれは。


「……あの霧に触れた魔力を基底状態に強制回帰するようになってるんじゃないのかな」


 確かにそれなら当たった魔法が掻き消えたことも、飲み込まれた人が霧散したことも、整合性が取れるけれど。

 でもそういう魔法は、魔力消費は激しいはずなのに。それに魔法師……それも同調者を基底状態に戻すほどの出力で。あまりにも強力な魔法を常時発動しているなんて。それとも接触面だけ?


「……多分、私達と同じだよ。使える魔法を絞ることで出力を上げてる。そういう融合体なんじゃないかな」


 同じというのはつまり、同調者と同じという意味なのだろう。

 ……でも、融合体が使う魔法は元より少なく、そして単純なものばかりだったのに。魔導機械由来の単純な魔導兵器を強化したのものとか。

 それに比べれば、今回の魔法は強力で複雑すぎる。変な気がする。


『黒煙球には触れたら無事では済まない。また推定魔力量からして、対象の潜在能力は歴代1位だと推定される』


 説明はまだ続く。

 推定魔力量では、2位と4倍以上の差をつけて1位らしい。

 もちろん魔力量だけで融合体の強さが決まるわけじゃないけれど、4倍も差があれば何もかも違う。つまり、これまでの融合体史上最強の融合体らしい。

 ……そうでなければ、同調者8人をこんな簡単に倒せたりはしない。


『故に、これを特別非常事態だと認定。討伐作戦は第0討伐隊を除く全討伐隊による合同作戦とする』


 ……合同作戦?

 第2討伐隊は機能を停止しているから、7個で?

 でも、それだと……


「アイリ……」

『詳細は後に送るが、消耗を考慮し集合時間は今夜、作戦開始は明日とする。以上』


 私が心のざわめきを言葉にするよりも早く、説明会はその言葉で締めくくられた。

 無数の声が鳴り響く。雑踏と同じように。


「……明日?」


 アイリも呟く。雑音を抜け、綺麗な声が私の心に響く。

 けれど、その声は当惑に揺れていた。

 当然だと思う。討伐作戦の開始が明日ということは、逆に言えば、それまでは何もしないということ。

 つまりは明日まで、黒煙球は放置される。今にも人の住む場所を踏み荒らそうとしている敵性存在を放置する。約1日で、どれほど進行するかはわからないけれど、少なくとも進行予定範囲に住む人の数は何百万という数になるはずで。

 彼らを守ろうとはしない。討伐隊はそう判断したらしい。


「……いいのかな」


 隣で呟かれたその言葉に何と言えばいいのかわからない。

 でも、正直に言えば、そんなことどうでもよかった。私は何百万の人間の安全が保障されないことより、アイリがあれと戦うことになると言うことの方が不安で、そして。

 とても怖い。

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