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第45話 それは、現実の続き

 目覚めると、人の気配がなかった。

 家の寝室で寝かされていた。私の最後の記憶は向こうの映写機がある部屋だから、ここまでアイリが運んでくれたらしい。

 もう夜になっている。結構寝てしまったらしい。アイリはどこに行ったのかな。


「おも……」


 重たい身体を起こす。

 魔力の調子が悪い。なんだかいつもより流れづらい感じがする。そんなに不調にならなくてもいいのに。


「はぁ……」


 アイリがいなくて、正直ほっとした。ほっとしていることが嫌になる。やっぱりアイリのことが怖いらしい。

 私は願いを言葉にしないといけないのに。


 まだ私の心はわからない。願いは形にしようとしても、曖昧なままで。泡のようにすぐに消えてしまうようなものな気がする。でも話さないといけないのに。アイリに伝えないと。


「アイリは……」


 どこに行ったんだろう。

 もう真夜中なのに。大体今日は任務とかはなかったはずなのに。

 というか、真夜中の割には、なんだか外が騒がしい。祭りの日はまだ少し先だった気がするけれど。


 なんだか胸騒ぎがする。

 ざわざわして、嫌な予感がする。

 ちりちりするというか。冬も近いのに、暑い気がするというか。

 それは錯覚にしても、何か嫌な予感がする。


 ふと視界の端で通信機が光を放っているのを見つける。

 何か連絡が来ているらしい。アイリからかな。

 嫌な予感の正体はこれかもしれない。怖いけれど、見ないでいられるほど割り切れてもいない。


「あ」


 魔法で通信機を取ろうとして、目の前に落としてしまう。やっぱり魔力が変な感じがする。嫌な予感の正体がこの不調な魔力のせいなら、そこまで困ることは無いんだけれど……


「……ぇ」


 拾った通信機を見て、思わず間抜けな声が漏れる。

 10体の融合体出現。その文字が上手く理解できなかったから。


「10体って……」


 こんなことは今までなかった。

 討伐隊の数は0から8までの9個。0は首都防衛用の部隊だから、実質的に8つの部隊がそれぞれの担当領域内に出現した融合体を倒すことになる。

 それに対して、今回の敵の数は10体。どこかの討伐隊が2体以上の融合体を相手にすることになる。


「ここは……」


 急いで出現地点を調べる。

 私達の第五討伐隊の担当領域は首都の北東部。

 出現個体数は1。


 ほっと胸をなでおろす。

 けれど、南西部と西部は2体も出現している。大変そうだけれど、私にできることは無い。


 ……別にこの都市に出てくる融合体に対してもできることは無いんだけれど。同調者達に任せるしかない。アイリのような。


 融合体出現から数刻経っている。

 既に戦闘は開始されているはずだ。

 きっとそこにアイリもいる。だから、ここにアイリはいない。


「ぅ」


 都市が揺れる。

 それが融合体から攻撃によるものなのはわかった。

 

 なんだか心も揺れている気がする。

 融合体が来たからって、こんな気持ちになることは無かったのに。 

 不安が形を持ち始める。どんどん嫌な予感が膨れ上がっていく。


 もしもこのままアイリが帰ってこなかったらどうしよう。 

 あんな言葉が最後になるなんて、それだけは嫌なのに。折角、願いを伝えようと思ったのに。

 まだアイリのことは何も知らない。知ろうともしなかった。どうして私のために戦おうと思えるのか。どうして私と一緒にいたいと思ってくれるのか。どうして、私のことを知りたいと思ってくれるのか。

 まだ何も知らない。このまま何もわかっていないまま終わるのは嫌なのに。


 けれど、もう状況は始まっていて、私にできることはない。

 私は結局のところ無力で、ただ守られるだけの存在なのだから。ただの魔法師でしかないのだから。同調者とは違う。

 

 天秤の傾きが強くなっている。

 でも、アイリだって戦うことは怖いのに。すごく怖がって、嫌だって言っていたのに。私のために……私のせいで、同調者として戦っている。


 もしもこの戦いでアイリが死んだら、それは私のせいだ。

 私がいたから、彼女の同調率は回復し、そして戦闘義務が生じたのだから。


 ……ぞわぞわする。どうしようもないのに。

 やけに静かな魔力を無理にでも動かして、外に出る。

 気づけば、走り出していた。


 外には真夜中だというのに人がたくさんいた。

 さっきの揺れで起きたというよりは、今回の融合体が10体出現したという異常事態にどうすればいいかわからない人が多いからだろう。私もその1人なのかもしれない。

 けれど、結局私にはどうしようもないということはわかっている。

 でも、走らずにはいられなかった。 

 

「はぁ……はぁ……」


 息が切れる。

 たったこれだけ走っただけで息が切れるなんて。一応、アイリと一緒に魔法の練習自体はしているのに。少し調子が悪いだけでこれか。


 それにこれだけ走っても特に意味はない。

 走って私がたどり着いた場所は、私とアイリが出会った部屋。もう使われていない部屋。ここからなら、外の様子がよく見える。融合体との戦いも見えるかもしれない。

 そう思って、ここまで来たけれど、当ては外れた。私の身体強化率じゃ何が起きているかはよく見えない。でも、光は見える。


 またしても都市が揺れる。

 融合体の流れ弾の光の残滓が視界の端に見える。この距離かつ流れ弾なのに、それでも強力な障壁を展開している要塞都市が揺れるぐらいの力はある。直撃したらどうなるかなんて、想像しなくてもわかる。

 そんな相手とアイリは戦っている。


 ……怖い。

 こんなにも融合体と同調者の戦いを恐いと思ったのは初めてかもしれない。

 その魔力や規模感を恐いと思ったわけじゃない。いや、それも恐ろしくはあるけれど、真に恐ろしいのはアイリが戦っているという事実で。


 アイリという同調者が強いことは知っている。

 魔法を使っているところを何回も見た。それは私と同じ魔法なのかと思うほどに早く、強く、そして綺麗な魔法だった。そしてそんな魔法を連発しても底が見えない魔力量がある。


 でも、融合体はアイリよりも魔力量は多い。

 融合体との戦いで同調者の死者が出る頻度は多くはないけれど、同時に少なくもない。融合体が一切出現しなかったこの1年弱を除けば、大体1年に1人ぐらいは死んでいる。


 今までは他人事の数値でしかなかったその事実があまりにも恐ろしい。その1人にアイリがなってしまったらどうしよう。それに今回は10体同時出現という例のない事態で、何が起こるかわからない。

 

 けれど、私にはどうしようもない。私はただ無力だから。

 遠くで光が流れる。それはよく見た光で、アイリの魔法であることはすぐにわかった。やっぱり戦ってるらしい。


 まだアイリは生きている。その証拠にほっとするけれど、同時に危険な場所にいるという証拠もあって、不安は消えない。


 会いたい。

 アイリと会いたい。


 ……そう思っているらしい。

 その想いはびっくりするほどに強い。

 気づけば私は蹲っていた。


 なんだか起きてから身体がおかしい。

 魔力の調子が悪いのもそうだけれど、心が身体を追い越している。ついていけない。この感情に。

 

 こういうことはたまにある。

 何かを発表しないといけない時の緊張や、嫌なことがあった日の夜は感情に圧倒されて、魔力がおかしくなって、身体や思考が変に動いてしまう時がある。あの感覚はとても窮屈で、好きじゃない。


 今も、その時と似ている。

 何故か涙が溢れてきて、手が震えている。

 けれど、窮屈じゃない。この感情が溢れてきていることに、私は……

 なんだろう。これは。


 わからないまま、ぼやけた視界をもう一度開けば、ちょうど強大な光が融合体を貫く瞬間だった。それはアイリの魔法が融合体を倒したということで。

 心の底からほっとして、力が抜けていく。 


「ぁ」

 

 嬉しいらしい。私は、喜んでいる。

 アイリのことを気にかけているということが。

 私の心が想像以上にアイリのことを好きという事実が、感覚を圧倒するほどに強く好きという事実が、とても嬉しいらしい。

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