7 王都の建築
「もちろん、魔物が来れば農民たちも王都内に避難はさせます。今は元々の農民だけでなく東の村から逃げてきた難民もいますから小屋の数が増えてしまっていますが」
アリストーマが3人に解説する。
「小屋が増えた分、農地が減ってしまって……それも頭痛のタネなんです。東の村を魔物から取り返さないと……」
王都の門は平地にできた大きな大地の裂け目のようなところの崖っぷちにある。小さなドームのようなその構造物は崖にはみ出し、そのまま下の方に繋がっているようだった。
この裂け目の中に王都は建設されているのか……と面田は思った。
なぜ平地ではなくこんな場所にわざわざ……?
「こっちにきてみてください。王都の全体が見えますよ」
大地の亀裂が大きく曲がっているところに立って、アリストーマが面田たち3人を手招きした。
招かれるままに3人がそちらに行ってみると、裂け目に突き出したような平地の岩の上から裂け目の全体が眺められた。
ぱっくりと大地が裂けたとしか思えないような切り立った崖の端に、門のある部分を鉤爪のように引っ掛けて崖の側面にぶら下がるようにへばりついた巨大な蟲の繭のような形の「王都」の全景が見えた。
ハエトリ蜘蛛の越冬用の巣のようにも見えるが、もっと美しく、反対側の崖からも何本ものロープで引っ張られているようだった。
先ほど面田が触った外皮が全体を覆っており、おそらく構造的な引っ張り材なのだろう細いロープ状のものが網の目のようになってシルクのような外皮の中に浮き上がっている。
「引っ張り応力を主とした構造なんだな」
面田が設計者らしい感想を言った。
不思議な建築だった。
一見すると華奢そうだが、内部に石をふんだんに使っていたことを思えば構造の強度はかなりのものといってよさそうだ。
引っ張り力を負担するワイヤーのような細いロープ状の部材は、一体どんな素材でできているのだろう?
あの薄膜みたいな外皮も、見かけとは裏腹に非常に強靭なものだった。
門の鉤爪から中央にいくほど膨らんで横にも広がり、また下に窄んでいって、その先端は谷底の水に浸かっている。水はあそこから汲み上げているのだろう。
水が流れているということは、これは地割れではなく渓谷なのだろうか。
「これが王国で最も大きな谷——王家の谷です」
「勇者さんたちには珍しい?」
コロンがちょっと悪戯っぽい笑顔を見せて言う。
「地形も珍しいですが、建物の形が……」
面田はこの奇妙な建築を美しいと思ったが、大鋸は大工らしく素朴な疑問をぶつけた。
「なんで平地の部分に作ンねぇんだ?」
「魔物どもは重力に支配されているのです」
「?」
「?」
「?」
「わたしたちみたいに飛翔魔力を持ってないわけー」
コロンがふわっと空中に浮き上がって一回転して見せる。
「勇者さんたちと同じように地面にへばりついて、足で走ったりジャンプすることしかできないの。どんなに力が強くて破壊魔力が強くてもね」
「魔物は私たちより力も強くて魔力も強いんですが、唯一翔べないというのが私たちのアドバンテージなんです。ですから谷の中に王宮を作れば魔物に襲われることがないのです」
「粗末でも、農民たちの住居を谷の中に作ったりはしないのですか? 身分が違うから?」
事平がおずおずという感じでそう聞いた。
面田が少しはらはらする。文化が違う人たちには触れてはいけない話題があると思うが……。
だがアリストーマは別段特別な感情を見せることもなく、あっさりと答えた。
「それだけの人数が暮らす場所がないのです。農民は平地で作物を作りますしね」
「昔は農民も谷の中で暮らしてたんだよ。300年くらい前まではね」
コロンが地上に下りてきてそう言った。
「え? そうなの?」
アリストーマが驚いた顔でコロンを見る。
「学校では教えないからな。ただ単に人口が増えて収容しきれなくなっただけだよ。それで『農民は緊急時以外は平地で暮らす』という法律ができたんだ」
時代をその目で見てきたコロンさんの言葉には説得力があった。
「王立資料館で調べてみ? ちゃんと記録があるよ。もっとも今でも地方の小さな谷に行くと、こっそり農民も一緒に暮らしてるような『谷の家』もあるけどね」
アリストーマにとっては初めてきく話だった。
魔法書ばかり読んでいて、歴史資料なんて見たことがなかったのだ。同級生たちも皆同じだった。魔法士となって谷の王都に住む——それが若者の夢でもあるのだから。
「増築はしないんですか?」
これは面田としては当然の疑問だった。人口が増えたなら増築すればいいではないか。谷はこんなに広いのに。
「作り方がわからないんです。その技術ははるか昔に失われてしまって……」
ああああ!
せっかく魔法もエルフも登場させて「ハイファン」にしてるのに、すでにSF風味になってる。。(^◇^;)




