6 王都の建築
「あの……大変申し上げにくいのですが……。私たちの体に魔法が直接効かなくても、あなたたちは魔法で飛べるんですよね? 私たちを抱えて上まで飛んでいただくということは……」
事平が遠慮がちにそんなことを言った。とてもじゃないが600メートルも上れる気がしない。
「そ……そうですね。このままじゃ、いつになったら王都を出られるかわかりませんもんね」
アリストーマが愛想笑いとともにそう言ってコロンの方を見た。
「重いから、やだ! 見るからにおなか出てるじゃん」
コロンが即答する。
面田と事平が少しだけ傷ついた。
大鋸が面白そうににこにこ笑っている。ほんとは筋肉質の方が重いんだぞ?
「わ……私が、3回に分けて運びましょう」
アリストーマがそう言って、面田を後ろから抱え上げた。
すぐに面田の体がふわりと浮く。そのまま螺旋階段の中央部分へと移動すると、その竪穴を上昇し始めた。
ずっと下まで続く階段室の竪穴の底をのぞき込んで、面田は体がすくんだ。若い頃は高い足場の上でも平気だったが、年を取ってからは高いところが怖い。身軽な身ごなしができなくなっていることを体が知っているからなんだろう。
下を見ないように、と上を見上げた。
上にも無限ではないかと思われるほどに螺旋階段が続いている。
何階層ものフロアを通り過ぎて、やがて最上階のフロアに着いた。
王都というのはビルのようなものなのだろうか。
建築設計者である面田は、その構造が気になる。
「あそこが門です。私がいないと門番が通してはくれないと思いますので、しばらくここでお待ちください。他の人を運んできます」
アリストーマがそう言って、また螺旋階段の中央の竪穴を降りていった。ご苦労なことだ。
まわりを見回して、この階はわりと狭いんだな……。と面田は思った。
王宮のあったあたりの階はすごく広く、それだから面田たち3人は王都が平面的に広がっているんだとばかり思っていたのだ。
最上階は体育館くらいの広さで、門番の立っている門以外は小さな小屋くらいに仕切られた部屋が2つと螺旋階段の穴があるだけだ。
周囲の壁は(壁だろう)内側に斜めに傾いていて、外の光を通しているのだろうか明るい。
面田が近寄ってみると、それは何か細い繊維で密に編み込まれたような素材で外の光が中に透けて入ってきているようだった。
「どういう素材だろう?」
面田はついつい触ってみたくなって手で触れてみた。一種の職業病というやつだろう。
それは柔らかく、面田が手で押しただけでしなやかに外側に押し出された。まるで薄膜のようでもある。
しかし、極めて強靭で、ある一定の変形量から先は強い弾力で面田の手を押し返してきた。
「どういう素材だろう?」
面田はもう一度つぶやく。
その時、背後で声がした。
「よう! 面田先生」
振り向くと、コロンに抱えられた大鋸がふわりと床に着地するところだった。
「あれ? コロンさん。鉋さんを運んでくれたんですか?」
「あ……うん。一人で上がってくるのも効率悪いと思ってな」
ちょっとそっぽを向いて口を尖らし、頬を赤らめる。
「いちばん軽そうだったしな」
いや、本当は筋肉質がいちばん重いんです——と面田は思ったが黙っていた。
しばらくして事平を抱えてアリストーマが上がってきた。
「コロンさん、ありがとう」
アリストーマがそう言うと、コロンはまた少し頬を染めた。が、表情はわざと仏頂面につくる。
「ついでだ。おまえに3回も往復させてたんじゃ時間の無駄だしな」
わざと憎まれ口たたいてるけど、いい子なんだなぁ——と勇者3人は思う。
あ、「子」じゃないか……。
門から外に出ると見渡す限りの平地が広がっていた。
その平地の上にいくつもの粗末な小屋のようなものが建っていて、畑らしいものもある。
遠くには森も見えた。
「あれらの小屋は?」
そう聞いた面田にアリストーマはさも当然のことを言うといった感じで答えた。
「一般農民の住居です。彼らは王都の中で暮らす資格を持ちませんからね」




