5 勇者たち
王の謁見を受けていよいよ東の村に向かって旅立つことになった勇者一行。
一級魔法士のアリストーマ。
王国最年長のエルフ、小学生みたいな見かけの(中身も?)コロン。
面田図、大鋸鉋介、事平務の勇者3人。
計5人の勇者一行は、なぜか見送りも断り、出立の日時も公表せず、ひっそりと王宮を出た。
「王都は縦に長いのです」
アリストーマが言った意味が、まさかこういうことだったとは……
「ちょっと待って……。膝が……」
面田が膝を押さえて手すりにもたれかかる。
「え? まだ150ホイルほど進んだだけですよ?」
アリストーマが呆れ顔で立ち止まって面田を見る。
1ホイルは約30センチ。つまり45メートルほど進んだわけだ。
「なんだ面田先生、もう音を上げたのかよ? 運動不足だな」
大工の大鋸がちょっとドヤ顔をしながら言う。
「日ごろから体使ってる鉋さんとは違うよ。僕は椅子に座って図面描いてるだけだから……」
面田が膝をさすりながら情けない顔をした。
「わ……私も息が上がりました」
事平も両手を膝について情けない声を出す。
「しょうがねぇな、まったく。おい、トマさん。少し休憩してやってくれ。なにしろ年寄りなんだ」
「ト……トマさん? 名前縮めないでくれませんか?」
「有栖魔法士さんなんて長ったらしくて呼びにくいんだよな。俺だって鉋さんって呼ばれてるし、親しみがあっていいじゃねぇか」
「アリストーマで一つの名前です。フルネームはアリストーマ・ダレル・サガ・パスナックです!」
「「「なっが!」」」
「名前のことなんてどうだっていいじゃないか。それより、こんなペースではいつになったら王都を出られるやら」
コロンが腰に手を当てて4人に言う。
「だって、『縦』っていうのがまさか上下の話だとは……。ひたすら階段を上るんだとは…‥」
面田が悲痛な顔でアリストーマを見て膝をさする。
グルコサミンのサプリをポケットに入れておけばよかった。そうすれば一緒にここに『招喚』されただろうに……。
「勇者様たちの世界では『縦』とは上下を指さないのですか?」
「いや、その意味もあるけど、図面の縦横は平面上の話だったりするし……」
「王都の出口の門ってぇのは、あとどれくれぇのところにあんだ?」
大鋸が両腿をパンパンと手で叩きながら聞く。
「王都といってもそれほど広くはないんです。ほんの2千ホイルほど先ですよ」
二千ホイル……というと……600メートル!?
まだそんなに上るのか?
「「「うええええ?」」」
さすがの大鋸も他の2人と共に声を上げた。
「普通50メートルくらいの高さのビル建設現場でも、仮設のエレベーターくらい付いてるぞ?」
「エレ……? なんですかそれ?」
「こう、魔法でふわぁっとか上がってけねぇのかよ?」
「普段はそうするんですが……なぜかあなた達の体には魔法のほとんどが効かないんですよね。持ち上げられないんです」
アリストーマが心底困った顔をした。
それに合わせてコロンが冷ややかに言う。
「だから怪我とかしないでね。治癒魔法も効かないかもしれないから——」
「「「ええっ?」」」
「さっきからその膝にやってるんだけど、全然効かないみたい。とりあえず……」
とコロンはポケットから何かを取り出す。
「これ、痛み止めの薬草。飲み込むんじゃなくて、よく噛んで汁だけ飲んで」
え……えらいことになってしまった……。
3人の老人は顔を見合わせる。
「なあ、アリストーマ。こんなの足手まといでしかないじゃないか。東の村の魔物追っ払うだけなら、わたしとおまえでさっと行ってさっとやっつけてくればそれで済む話じゃないの」
「そうはいかないんだよ。それじゃあ魔法局の立場がない」
「はあ〜〜。ずいぶんメンツにこだわる官僚組織になったんだなぁ。百年前はそんなんじゃなかったのにな」
「知らないよ、そんな昔の話。私はまだ生まれて27年しか経ってない普通の人間なんだから。魔法局に入ってからはまだ3年だし」
あれ? アリストーマって千二百数十歳もの年上に向かって、けっこうなタメ口きくんだ……。
さっき頭を下げさせられた面田たち3人は意外に思った。
「ずいぶんな口きくようになったじゃない? オシメしてた頃のおまえはかわいかったのにな」
「やめてくださいよ。千三百年も生きてるからって、そういうふうに人をイジるのって」
「1297歳だ!」
ぷっとむくれる。




