3 責任の取り方
3人の勇者との話を続けるうちに、アリストーマは次第に青ざめていった。
3人は剣の使い手ですらない。
遠異世界には魔法すらなかった。
最初、魔力を完全に隠すことができるほどの大魔法使いかと思ったのだが、そうではなく魔法そのものが存在しない世界から来たただの老人らしかった。
魔道具かと思ったものはそうではなく、異世界でのただの仕事の道具だった。
しかし……
魔法陣は正常に作動していた。
招喚先に遠異世界を選んだこと自体が間違っていたのか……?
つまり……招喚魔法式ではなく、私の判断が間違っていたのか?
「兄ちゃん、兄ちゃん。まあ、そう落ちこまんと。失敗は誰にでもある。若いうちは失敗して成長するもんだ」
大鋸鉋介と名乗った老人がそう言ってアリストーマの肩に手を置く。
ゴツゴツと節くれだった手であった。
「し……しかし……。魔物の退治だなんて……。私は事務仕事以外の経験は……」
事平務と名乗った老人が情けない顔でそう言った。
「僕だって建築の設計以外、何の能もないよ?」
面田図と名乗った老人もそう言って困惑した顔をした。
「それぁ、俺だってただの大工だ。面田先生の図面で家ぇ建てるくらいしかできるこたぁねぇ。魔物の扱いは全くわからねぇよ。そら、上棟式のお祓いくれぇはやるけどよ」
「というわけで、私たちは元の世界に帰してもらえませんか。もっと違う異世界から強い勇者を招喚するということで」
アリストーマはとうとう顔を覆ってその場にへたり込んでしまった。
「どうしたね? 兄ちゃん。間違えた時には手直しするのがあたりめぇだぞ?」
アリストーマは半泣きの顔になって、デークだというその老人の顔を見上げた。
「デーク」とはいったい何だろう?
「も……申し訳ありません!」
アリストーマは再び額を床にこすりつけた。
「一度招喚してしまった以上、魔王を倒すまで……いえ、最低でも魔物を王国内から追い出すまでは、お帰りいただくための術式を使う王の許可が出ないのです」
「「「え〜〜〜〜っ?」」」
「すべては私の責任です。魔法局の局長にかけあって、強い戦闘魔法士を数人つけていただきます。あなた方にまで戦えとは申しません。せめて東の1地区だけでも魔物から解放するまで『勇者』ということで一緒についてきていただければ……」
アリストーマは一度上げた顔を再び下げて、ゴン! と床にその額を打ちつけた。
「魔法局を救うと思って!」
3人の老人は顔を見合わせた。
「ま……まあ、わからんでもないです。私も長く会社員やってきましたから……。私は、お付き合いだけならしてもいいですよ」
「事平さん!」
「理不尽に思えることにも時には従わねばならないのが勤め人というものです。私はこの若い人の立場が多少でも救われるなら、できることくらいはしてあげたいと……」
事平務はそう言ってちょっと情けなさそうな笑顔を見せた。
「ま……まあ、その……。施主の要望に応えるのも設計士の仕事だからな。一緒に現場に来てくれと言うなら……」
「俺ぁ、面田先生がそう言うんなら……できることはしてやるよ? 先生にゃ長いこと世話ンなったからなぁ」
「あ……ありがとうございます!」
アリストーマはまた額を床に打ちつけた。
「このアリストーマ! 命に換えてもあなた方をお守りし、無事お帰りの術式まで務めさせていただきます!」
「戦闘魔法士などつけられぬ」
局長にだけは、と正直に状況を打ち明けたアリストーマに、クエンドラ局長は冷ややかに言い放った。
「おまえに招喚を任せた私が愚かだった。こんなことが表沙汰になったら、魔法局の信用は地に落ちる。エルフくらいは付けてやるから、おまえ一人で東へ出向いて立派にその勇者共々討ち死にしてこい!」
「え? い……今なんと……?」
額に赤い擦り傷をつけたアリストーマが唖然とした表情になる。
「それで少なくとも魔法局の体面だけは保たれる」




