20 禁断の魔法
「中に、何があるんだろう?」
面田がつぶやくと事平がちょっと怯えた声で言った。
「し……死体だったりして……」
「ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
毛布の中から大鋸の声が聞こえる。
「たぶん死体です。それも幽霊の大きさからするに子供でしょう。だからといって、開けたところで私たちにできることはありませんよ? ここが魔物に襲われたのは10年も前なんです」
アリストーマが冷静な口調で言った。
「そっとしたまま行きましょう。帰ったら王都の僧侶に連絡すればいい」
「見つけてほしいだけかもしれない」
面田がそう言うと白い影はそっと面田に寄り添うように近づいてきた。
「ああ、わかったよ。開けてやる」
「ちょっと待ってください」
面田が扉に手をかけるとアリストーマが制止した。
「死体とは限りません。何か危険なものが封印されてるかもしれません」
白い影がふるふると首を横にふる。
「そういうものは感じないけどねぇ」
とコロンが言う。
「開けるよ。万が一変なものが出てきても、コロンさんもトマさんもいるしね」
「あはははははは!」
とコロンが笑い出した。
「さすがは勇者様だ。図々しさも一級品だぁ!」
面田が苦虫を噛みつぶしたような顔になる。
た……たしかに……自分では何にもできないくせに、自分の身さえ守れないくせに……。これはやってはいけない行為かもしれない。
白い影が悲しげに佇む。
表情はないけれど、なぜか面田にはそれがわかる。
「開けてやんなよ。なんかあったらわたしが対処してやるから。寂しそうだよ、その子」
コロンが半分呆れたような笑顔で面田に言った。
面田は指に力を入れて扉を引っ張る。
「ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
椅子の上で丸まった毛布が震えている。
ぎい……と錆びついた蝶番が動いて分厚い扉が開くと、はたして、その狭い空間の中には膝を抱えたままの子供のミイラがあった。
おそらく両親か誰かが魔物からこの子を隠そうとしてここに入れたんだろう。
魔物が去ったら出してあげるからね——きっとそんなふうに言って。
そして大人たち全員は魔物に喰われてしまった……。子供の力ではこの扉は開けられない……
「怖かったよね。苦しかったよね……。寂しかったよね」
面田がそうつぶやくと、白い影は面田に甘えるみたいに面田の肩に寄りかかってきた。
「ぅふう……」
コロンが目を潤ませて泣き出した。
あれ? と事平は思う。
この人、普段あんなんだけど意外と情に脆いんだな……。
アリストーマがしゃがんで小さな幽霊に話しかけた。
「ここには今、僧侶がいないんだ。伝書スライムで都の僧侶に伝えておくから、僧侶が来るまでもう少しだけ待っててね。それまで魔物に見つかったりしないよう、もう一度扉を閉めておくよ。いいかい?」
「あのう……」
と事平がまた遠慮がちに声を出した。
「このミイラに復元魔法を使ったらどうなるんです?」
あの焼け焦げた木みたいに生き返るんじゃないだろうか——と思ったのだ。
「それは王国法で禁じられている反魂術になってしまいます」
アリストーマが厳しい顔で言った。
「気持ちはわかるけど、死者を蘇らせるのはやっちゃいけないんだよ」
コロンが袖で涙を拭って説明した。
「体は蘇るけど、それは魂のない抜け殻なんだ。植物とかは根が残ってるからいいんだけど、人間はその抜け殻に邪気が入り込んで魔物になってしまう。だからどんなに悲しくても大事な人は死んだら葬送しなくちゃいけないんだよ」
そうなのか……と事平は思ったが、面田がそれに異を唱えた。
「でもこの子の魂はここにいますよ? 幽霊として」
「そうか……。体と魂、2つともそろってるんだ……」
コロンが腕組みして考え込んだ。
「コロンさん! 王国法違反です!」
アリストーマが止める。
「う〜〜ん。う〜〜ん……」
コロンは腕組みして考え込んでいる。
「王国法違反だってば!」
「おい、幽霊!」
コロンが呼びかけると、白い影はビクッとしたようなそぶりを見せた。
「坊っちゃんか嬢ちゃんかわからんが、試してみてやってもいい。ただし……」
とコロンは白い影を見据える。
「もし失敗して魔物になったら遠慮なく退治するぞ。その場合、おまえはもう天国には行けないがそれでもいいか? おとなしく僧侶を待ってなくていいのか? 本当に…‥」
白い影はちょっと怯んだようだったが、やがて意を決したように、こくっ、と小さくうなずいた。




