21 禁断の魔法
「それじゃ、体に重なって」
コロンがいつになく真剣な表情をしている。
「バ……バレたら王国法によって処罰されるんだぞ?」
アリストーマがもう一度コロンに言った。
「誰が密告すんの? この5人の中で」
「あ……」
アリストーマは黙った。
勇者様たちがそんなことするわけないし、ここにはこの5人しかいない。ここでのことを王都でバラす可能性のある者といえば……
自分しかいないではないか……。
しかし……
このまま黙っていれば…………共犯……。
「心配するなよ、アリス。なんとなれば、止めようとしたアリスを打撃魔法で気絶させてわたし1人でやった——って証言してやるから」
コロンが少しだけ含みのある微笑を見せて言った。含み、はなんだか寂しさのようにも見える。
「し……しかし……それではコロンさんが厳しい処罰を受ける」
「大丈夫だよ。最高刑でも禁錮100年だから。人間ならそれでオシマイだけど、わたしはエルフだから。どうってことはない。まあ、アリスにはもう会えなくなるけどな」
どうってことない?
どうってことない? 私に会えなくなることが……?
アリストーマは、サラリと言ってのけたコロンの言葉に少しだけショックを受けている。それがアリストーマを守ろうとして言ってくれていることだとは分かっていても。
どうってことない? もう会えなくなることが……?
「覚悟はいいね? 幽霊ちゃん」
コロンが白い影を見つめて言うと、幽霊は小さくこくんとうなずいた。
そして、そっとミイラに近づき……その姿と重なるように座る。
膝を抱えたミイラが少しだけ、ぼやん、と白く光って見える。
もし失敗して魔物になっちゃったら、本当にその子を殺すのか? ——事平はそう言いそうになったが、言葉を喉元で呑み込んだ。
それでも、その覚悟をこの小さな幽霊の子は自分で決めたんだ。
面田の方を見ると、彼は不安そうな目をしているが迷ってはいなかった。
覚悟を決める——。
ひょっとしたら、自分はそれができなかったからずっと平凡な人生を送るだけになったのかもしれない……。
何事も世に残すことがなく……。
コロンが片手を上げた。
復元魔法。
コロンの手元から、ふわりとした優しい光がそこへ走った。
光が消えると、扉は閉まっていて石の壁はもとどおりになっている。
「開けるよ」
面田が言って、指をかけて最初の石を外した。次々に石を外してゆくと分厚い木の扉が現れた。
金物が錆びていない。
一瞬躊躇ってから、力を入れて扉をぐいと引っ張る。
どうなった?
固唾を呑んで皆が見守る穴の中に……、魔物はいなかった。目を見開いた8歳くらいの男の子が膝を抱えてそこにいた。
成功したのだ!
はあぁー、と皆が安堵の息を吐く。
コロンが涙ぐんで手を伸ばすと、男の子もそこで初めて笑顔になってコロンに手を伸ばした。
コロンが男の子を穴から引っ張り出して抱き上げる。半泣きの笑顔だ。軽口叩いていたようでいて、本当はものすごく不安だったんだな——と事平も目を潤ませてしまう。
優しい子だ。……あ、子じゃないか……。
男の子は満面の笑顔になってコロンの首に手を回した。
「ありがとう! お姉ちゃん」
コロンも涙をくっつけたまま満面の笑顔になって皆の方にふり返った。
「聞いた? お姉ちゃん——だって!」
(いや、そこかい)
いつの間にか大鋸も毛布から顔を出して、ことの成り行きを見守っていた。
男の子は名前をナクルといった。ナクル・マイモス。
「どうしよう、この子……?」
皆でひとしきり喜び合ったあと、コロンが眉を下げてぽつりと言った。
まさかここに置いて行くわけにはいかない。
かといって連れて行けるわけもない。これから向かうのは魔物と戦う戦場なのだ。
「知りませんよ。私は殴打魔法で気絶してたんですから」
「アリス〜〜〜〜」
ふう。とため息ひとつ吐いたあと、アリストーマは諦めたような顔で言った。
「一旦近くの村まで戻りましょう。まさか魔物討伐に一緒に連れて行くわけにもいかない。そこで里親になってくれそうな人を探して預けます。回り道になって遅れてしまうけど」
ナクルがぴたっとコロンにへばりついた。
「ぼくも行く! 魔物をやっつけるんだ!」
「あのね、ナクル。憎しみで行動するとロクなことはないよ?」
アリストーマが腕組みをしてナクルを諭した。
が、ナクルは少し涙目でアリストーマを睨んだ。それからコロンを見上げる。
「お姉ちゃん……」
「い……いいんじゃないの? お荷物がもう1人増えたって、今さらだし。早く前線に到着しなきゃいけないんでしょ?」
コロンが少し嬉しそうな顔でアリストーマに言う。
籠絡されてんじゃないよ! 「お姉ちゃん」の一言で……。




