1 勇者顕現
「ここは……?」
突然目の前の景色が見知らぬ場所に変わってしまった3人の老人は互いに顔を見合わせた。
面田図は自宅兼事務所のアトリエで図面を描いていたはずだった。
ゆったりとした部屋着のままだ。
大鋸鉋介はボードを張り終わった現場にいたはずだった。
作業服姿で、腰に道具袋を下げている。
事平務は会社の事務机で伝票の整理をしていたはずだった。
ノーネクタイで手には電卓とボールペンを持ったままである。
周りを取り囲んでいるのは、舞台衣装のような仰々しい飾りの付いた服装の人物ばかりで、皆期待に満ちた表情で3人を眺めている。
なんだか中世ヨーロッパにでもきたような雰囲気だが……?
正面にいた若い男が、うやうやしく跪いて言葉を発した。
やや動揺しているようにも見えるが。
「よ……ようこそおいでくださいました。勇者よ」
勇者……?
それに日本語?
アリストーマはすぐに事態が理解できなかった。
これは……?
このくたびれたような服装の老人たちは……?
これが「勇者」なのか?
しかし、魔法陣の中の3人は老人ではあったが、魔法術式が正常に作動している証拠に淡い光で包まれている。
「よ……ようこそおいでくださいました。勇者よ」
アリストーマはうやうやしくその場に跪いて、勇者を迎える礼の姿勢をとった。
遠異世界の勇者は、我々の常識とは全く違う姿をし、想像もできない魔法能力を持っているのだろう。年古りたエルフと同じように。
そう考えれば、彼らが老人の姿であることにも納得がいく。
この奇矯にも見える服装も、遠い世界においては高位の者のみに許された高貴なる衣服であるのかもしれない。
「突然の招喚に驚かれていることでございましょう。我らの願いと状況をお話しいたしますゆえ、まずは魔法陣の外へ」
勇者たちは辺りを見回しながら、おずおずといった感じで魔法陣の外に出てきた。
——そなたか。我ら3人を招喚したのは——
厳かにそう言う……と思ったら、3人は事態が呑み込めない……といった顔つきであたりをキョロキョロ眺め回している。
とてもじゃないが、勇者という風情に見えない。
宮廷の中がざわつき始めた。
あちこちでヒソヒソ話をする声が聞こえる。
アリストーマは内心慌てた。
私は何か術式に大きな間違いでもやらかしたのだろうか?
いや、待て。
真に力の強い者は、一見してそう見えないと言うではないか。
見かけだけで判断して失礼があってはならぬ。
「勇者よ。あなたたちを招喚いたしましたのは、この私め一級魔法士のアリストーマでございます」
「ここ、どこ?」
「映画かなんかの撮影……?」
「よくできたセットですね」
「あ、あの……」
本当にこの人たち、勇者なんだろうな……?
アリストーマの中に困惑が嵐の前の黒雲のように広がってゆく。
しかし……
この大勢の人々の前で、私が狼狽えるわけにはいかない。これが王国の最後の希望なのだ。
「勇者様。まずは私めの部屋にて長旅の疲れを癒し、お寛ぎくださいませ」
招喚は一瞬なのだから、どれほど遠方からであっても長旅のはずはないのだが……。とりあえずそう取り繕っておいてからアリストーマは自らの部屋に3人の勇者を招き入れた。
魔法局の威信にかけて、人々の前で狼狽えるわけにはいかない。




