18 廃屋の一夜
下に降りてアリストーマが復元魔法を使うと、そのあたりの焼け焦げた木々は元の緑色の森に戻った。
「ゴーラン……バンダは復元しないんですね」
面田がそう聞くとコロンが答えた。
「魔物には復元魔法や治癒魔法は効かないんだよ」
アリストーマがもう少し説明を付け加えた。
「なぜかはわからないけど、魔物には復元魔法は作用しませんね。治癒魔法は魔物なんかに試したことがないので知りませんが……。だいたい魔物に治癒魔法使おうなんて人は……コロンさん試したことあるの?」
「うん♪ なんか小っちゃくってかわいいのが怪我してたから試してみたけど効かなかった」
「それ、擬態してただけじゃないの? 小さくてかわいい魔物なんて私は見たことないですよ?」
「う〜〜〜ん」
とコロンが面田たち3人を見る。
「魔法が効かないってことは……もしかしてこの勇者様たち3人も……」
え?
もしかして……僕たち3人……この世界では魔物と同じもの?
もしかして、攻撃受けて死んだら紫色の液体になって……シュウシュウ蒸発しちゃうとか?
3人が一斉に青ざめる。
「あはは。冗談だってばぁ。勇者様たちは遠い異世界から来てるんだから、この世界の理の影響受けない部分はあるでしょ」
コロンがにぱっと笑って3人を慰めた。(慰めたことになるのかな?)
「ふざけてないで行きましょう。もうすぐですから廃墟まで」
アリストーマが皆を急かす。
「暗くなっちゃいますよ」
3人が輿に乗って少し進むと、森の中に石造りの廃墟が見えてきた。
廃墟と言うには小さく、廃屋と言うには大きいくらいの規模の建物で、暗い窓のまわりには蔦が絡まりついている。
「何かの遺跡ですか?」
「いや。元は人が住んでたんですけれど、このあたりも魔物が出没するようになったので」
アリストーマがランプに火を灯しながら言う。
「ああ、それで逃げて誰も住まなくなったんですか」
面田が建物のデザインに興味を示しながら言った。住宅だったらしい痕跡があちこちにある。
「いや、住人は魔物に喰われてしまったんです」
「え?」
「だから時々幽霊が出るんだ」
コロンが面白そうに言うと、大鋸が青ざめた。
「さ、荷物を持って中に入りましょう」
そう言ってアリストーマが中に入りかけたが、大鋸が足に根が生えたようになって動かない。顔が青ざめて冷や汗をかいている。
「鉋さんはあんな顔しててこの手の話が大の苦手なんだよ」
面田が少し可笑しそうに言うが、大鋸は青ざめたままでテコでも動こうとしない。
「鉋さん野宿する気か?」
「魔力サーチでは一応半径4ルイ(約1.3km)以内には魔物はいないから、一人で野宿したいなら止めはしないけど?」
コロンが半分呆れ顔で言った。
「ひ……ひとりにしないで……」
と大鋸。
面田は可笑しい。
いかにも頑固職人! という顔の大鋸がこういう話になるとまるで子供みたいに怯えるのだ。
「中に入ろう、鉋さん。中の方が風も避けれるぞ? トマさんやコロンさんもいるし」
「縮めないでください」
「幽霊は元は人間だよ? 魔物じゃないよ。怖くないよ?」
コロンも大鋸を促すが、大鋸は足を踏み出せない。
面田が大鋸の手を引いたが、大鋸は泣きそうな顔をしている。よほど幼少期に何かのトラウマがあったんだろうか。
「あ、鉋さんの後ろに……」
面田がそう言うと大鋸が振り向きながら「ひい……!」と小さく悲鳴をあげて面田にしがみついてきた。
「……何もいない」
面田が笑いながら大鋸に抱きつかれている。
「これが若い美女ならいいんだけどなぁ」
「か……か……からかうなよ、先生!」
大鋸の顔が青から赤に変わった。
しかし……
これで一歩踏み出せた。
面田が大鋸を抱えるようにして廃屋の中へ入ってゆく。
事平は3人の中でいちばん頼りになると思っていた職人大鋸鉋介のこの姿に、呆れるやら微笑ましいやらで思わず笑みが漏れてしまう。
人間ってわからないものだなぁ。
中に入ってランプ掛けにランプを掛けると、部屋の中はそれなりに明るくなった。その分、明かりの届かない部屋の隅には闇だまりができる。
いい風情だな——と面田は思ったが、大鋸にとってはそうではない。
大鋸は面田にしがみついたまま何やらぶつぶつ言っている。
「ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
いやこっちの幽霊に、そのお経は効き目あるのかな?(^^;)




