17 ゴーラヴァンダ
輿は飛んでゆく。
夕暮れの気配が漂いだした王国の空を。
輿に乗っているのは3人の「勇者」と荷物。
その脇をアリストーマとコロンが挟むようにして飛んでいる。
コロンが乗らずに自分で飛んでいるのは、単に荷物が載ってコロンの乗る場所がなくなったからだ。
「ちょ……ちょっと速すぎません? 落ちそうで怖いです」
事平が情けない声を出したが、アリストーマはとりあわない。
輿の手すりにしがみついている「勇者」3人にコロンがちょっと笑顔を見せて言った。
「アリスは、日が落ちる前にこの先の廃墟に行こうとしてるんだ。たぶん」
「幼少名で呼ばないでください」
「ご老体には野宿はこたえるだろうと、廃墟でも建物のあるところまで行こうとしてるんだと思うよ。やっさしいんだよねー、アリスちゃんは」
「そのとおりですよ! 幼少名で呼ばないでって言ってるでしょ? 一応私が上司なんですよ? 今回は。」
コロンがけらけらと楽しそうに笑う。
「あ……」
コロンがコントを途中で止めて声を出すと、輿のスピードが急に落ちた。
「いるな」
「うん。この気配はゴーラヴァンダだね。光が見えないけど」
「そんなものがこんなところまで出てきてるんだな。コロン、私たちを捕捉してそうか?」
「というより待ち伏せてる気配だね。攻撃距離に近づくまで息を潜めてる感じだ」
「コロンの魔力オーラに怯えて隠れてるんじゃなく?」
「今は絞り込んでるから、ザコ魔法士だと思ってんだよ」
それ、なにげに私を傷つけてるんですけど——? とアリストーマは思うが、黙っている。
「ゴーランダって……?」
面田が聞くとすかさずアリストーマが訂正した。
「ゴーラヴァンダ。溶岩の魔物ですよ。普通はもっと山岳地帯にいる」
言いながら周囲に警戒の目を向け続ける。
「背中のコブから溶岩噴射で敵を攻撃するけど、その飛距離は60ホイルほどしかないから自分の射程内に入るまで身を潜めてることが多いんだ」
コロンがのほほんとした顔で解説を加えた。
「姿を現したら一気に魔力を解放してビビらせてやろう」
またコロンが、ぷくく、と楽しそうに笑う。
「そ……その……。攻撃が届かないなら、このままやり過ごしちゃうというのは……?」
事平が怯えた声で言うと、コロンが腕組みして振り向いた。
「何しに来たと思ってんの? 魔物退治に来たんだよ?」
ぷんすか怒った顔をしている。
「あんたたちに戦えとは言ってないよ。ここは誰も見てないし——。怖かったら輿の上で毛布でも頭から被ってなさいよ」
「「「…………」」」
ひ……ひどい言われようだ。
でも、他にできることは何もないのも事実である。「勇者」は3人ともしょんぼりしてしまった。
「きた!」
アリストーマの声に、コロンがちらとそっちを見た。
森の木を焼いて、真っ赤な溶岩の噴流が輿に向かって飛んでくる。
「「「うわああああああっ!」」」
しかし輿の前に銀色の薄膜のようなものが現れると、そこに溶岩流はぶつかって止められた。
コロンの防御魔法だ。
止められた溶岩はそのまま森に落ちていって森の木々を焼く。山火事が発生した。
「ほんと、迷惑な魔物だよ」
コロンが呆れたような顔でそう言うと片手を上げて溶岩の魔物に向けた。
ここに至ってゴーラヴァンダは自分が相手にしている魔法士が並の相手ではないことに気がついたんだろう。慌てて逃げ出し始めた。
燃える木々の中で、面田たちにもその姿がちらりと見える。
足が6本ある太った龍のような形で、背中のコブは固まりかかった溶岩のようにひび割れた黒い表面の中に赤い光が見えた。
頭の形は木の陰でよく見えなかったが、慌てているのだけはわかる。
「もう手遅れなんだよ」
コロンが冷ややかにそう言うとその手の前に白い霧状のものが現れ、それが魔物に向かって大蛇のようにうねりながら襲いかかっていった。
霧の触れたところは一瞬にして温度が奪われるらしく、燃え盛る木が瞬時に凍りついてゆく。
それが山火事を消しながら魔物に追いつくと、その溶岩の化け物を一瞬で凍らせてしまった。
熱い身体が一気に冷えたせいでゴーラヴァンダの体にひびが入り、バラバラになってそのへんに散らばった。
やがてそれらの破片はどろりとした紫色の液体になると、シュウシュウと蒸発するようにして消えてしまう。
どうやら魔物が死ぬとこういうことになるらしい。
勇者3人は輿にしがみついたまま、呆然とそれを見ている。
「さすがコロンさん。ザコは手を出す暇もなかったです」
アリストーマが嫌味で先ほどの仕返しをしたが、コロンは気がついたかどうか。
「他にはいなさそうだね♪」
「ちょっと下に下りますよ。森の木を復元しないと……」
アリストーマがそう言って、輿がゆっくりと下降する。
面田たち3人は声もない。




