16 美しい誤解
ミミアンの家の居間の椅子に腰を下ろした勇者3人は居心地悪そうにしていた。
大勢の村人が、勇者をひと目見ようとミミアンの家の前庭に押しかけてきているのだ。
さすがに家の中に入るのは遠慮しているが、遠巻きの視線が事平たちの肌を焼くように注がれ続けている。
大鋸は一応凛とした姿勢で真っ直ぐ座って出されたお茶を飲んでいる。……が、表情が硬い。
面田は姿勢こそ真っ直ぐに保っていたが、尻の座りが悪そうに目をあちこちに彷徨わせている。
事平は恥ずかしくて顔を上げられない。
じりじり……
じりじり……
ひぃ————! 視線が熱いよぉ〜〜。。。
小一時間もしたころ空に小さな点が見え、それが大きくなると輿だとわかった。
コロンとアリストーマが付き添うように両脇を飛んでいる。
それはやがてミミアンの家の前の庭にゆっくりと着地した。
3人は思わず立ち上がってデッキに出る。現れた勇者の姿に、村人たちの間で小さなどよめきが起こった。
輿には2人が横たわって乗せられていた。1人は男性。1人は女性。
「え? 女の人?」
事平が思わず口に出すと、ミミアンが答えた。
「魔力の強いものは男も女も関係なく戦いに行きます。そうしないと子どもたちを守れませんから」
「魔物は全て退治しました。人間側の犠牲者はいません。」
コロンが勇者3人に向かってそう言ってから、ちらとミミアンの方を見て軽くウインクする。「ダンナも無事だよ」という合図だ。
「怪我をしていた者は治癒魔法で治しましたが、体力の弱った者2人を仰せのとおり畏れ多くも勇者様専用の乗り物に乗せて運んでまいりました」
コロンが片膝をついてデッキに突っ立っているだけの3人にうやうやしげに報告する。
その言葉を聞いて、輿に乗せられていた2人がよろよろとしながらも慌てて起き上がって輿から降り、その場に平伏した。
それを見てミミアンも子ども2人を連れて慌ててデッキから降り、3人に向かって膝をつく。
この人たちのおかげで夫は無事に帰ってくるのだ。
村人たちも今更気がついたように膝を折った。
勇者3人は、ぼけ〜っとそこに立っている。どうしていいかわからない。
俺たち、何にもしてない……
コロンがひょいと顔を上げて事平を見る。
村人たちに見えないように、ぷくく、と笑い目になったコロンを見てアリストーマは思った。
やっぱり半分は楽しんでるだけかもしれない。
このあとアリストーマたちは近くの町で食料など必要なものを手に入れ、さらに東へと進んだ。
この先おそらく、屋内で泊まれるかどうかもわからないだろう。野宿用の装備もささやかだが手に入れておいた。
幸い「輿」があるので荷物は多少多くなっても運びやすい。
「先を急ぎましょう。途中の魔物退治もしながら行きますが、戦闘魔法士たちが戦っている前線はまだ400ルイも先なのです」
のちにミミアン・スーラは語っている。
勇者様は一見するだけですと、正直やや頼りなげに見えました。
でも本当はその内に大いなる力を宿しておいでだったのでしょう。特にコトヒラ様とおっしゃる勇者様はその大いなる知恵の片鱗をわたしのような下賎の者にも見せてくださいました。
わたしが感動いたしましたのは、そんな勇者コトヒラ様が去り際にもう一度振り返ってわたしのような下賎の者の子どもたちに微笑みかけてくださったことです。
強く、優しく、賢い子に育て——あれはきっとそのようなメッセージだったのだろうと思います。
わたしはずっと子どもたちにそう言い聞かせてまいりました。
輿が浮き上がってから、事平はもう一度後ろを振り返った、
ミミアンの子どもたちが手を振っている。その姿があちらに残してきた孫たちの姿に重なった。
ああ、さっさとこんなことは終わらせて早く帰って孫たちに会いたい。




