15 兵站
「この辺も魔物がひんぱんに出るのですか?」
アリストーマがミミアンに聞いた。
「3ヶ月ほど前から現れるようになって……畑が荒らされたり、子どもが襲われたりして……。でもここらみたいな辺鄙な村にまでは王国の戦闘魔法士さんは来てくれなくて」
ミミアンはそう言ってちょっと悲しそうに笑った。
「それで、村の魔力の強い男たちが集まって、森に魔物退治に出かけたんです」
「お父さんが魔物をやっつけてくるんだ!」
「くるんだ!」
男の子と女の子が元気よくそう言って目を輝かせる。
またミミアンの表情が曇った。
「あれから1週間になるのに、主人たちからは何の連絡もなくて……」
コロンがサキイモでいっぱいの口をもぐもぐさせながら珍しく半眼の表情をしている。どこか遠くを見ているような目だ。
「大丈夫だ。まだ全員無事で戦っている。ここから17ルイほどのところだな。ただ魔物が多くて疲れているせいだろう、魔力が弱って結界も弱まっているようだな」
1ルイは1000ホイルだから、面田たちのいた世界の距離表記では17ルイは約5キロということになる。
コロンは、むんぐ、と口の中のイモを呑み込むと面田の方を見てにこっと笑った。
「勇者様が行くほどのこともないでしょう。わたしがちょっと行って蹴散らしてまいります。勇者様はこちらでゆるりと戦勝報告をお待ちください」
ああ、やっぱりコロンさん、あんなふうにしててもちゃんと気を配ってくれているんだ。
アリストーマは少し嬉しくなる。
「それでは私も……」と言いかけたところで
「ちょっと待ってください」と事平が声をかけた。
「出かけるとき食料はどのくらい持っていかれましたか?」
ミミアンが怪訝な顔をしたが、手で袋の大きさを示してみせた。
「1人これくらい」
その手をじっと見てから、事平は何か電卓をパタパタと叩いた。
「それでは4日分程度にしかなりません。森の中で食料は手に入るのですか?」
「いや、入るまい」
コロンが真面目な顔で答える。
「魔力反応を見る限り、魔物に囲まれてる。呑気に食料探しなんかしていられないだろう」
「そうだとすると彼らは3日ほど何も食べないで戦っていることになります。それは魔力も弱るでしょう。コロンさんは今すぐ助けに行ってもらえますか?」
「わかった! あ、承知しました勇者様」
コロンは事平に向かって一礼すると、シュッと空に飛び上がっていった。
「アリストーマさんは輿に人数分の食料を積んで持っていってあげてください。少なくとも2日分。帰り道の分も必要です。できれば綺麗な水も。けが人がいれば、輿に2人は乗せられます」
アリストーマは目を見張った。
たしかに言われるとおりだ。この人はまるで優秀な参謀のようだ。私たち魔法士は戦うことしか考えていなかった……。
長年事務と雑務を取り仕切ってきた事平務にすれば、こんな単純な計算をなんで誰もやらないんだろう? と不思議でならない。
「食料はできれば柔らかい消化の良いもので——。3日も食べていなければ胃が縮んでいるはずですから。アリストーマさんは向こうに着いたら、少しずつ食べるように皆さんに言ってください」
「「わかりました!」」
アリストーマとミミアンがきびきびと動き出した。
ミミアンは村の中心に向かって駆け出す前に、ふり返って勇者の顔をもう一度見る。
心配そうな優しい眼差し。
さすがは勇者様だ。
見ているところがまるで違う。
はい、出ました!
ただの平凡な事務員・事平務の本領発揮!
こういう展開、好きなんだぁAju。。。(^^)




