14 コロンの気配り?
「冗談はやめなさいよコロンさん。勇者さんたち怯えてるじゃないですか」
あ……冗談なの?
「ぷくく……」
コロンがやや上目使いに面田を見る目がきらきらと輝いている。
怒る気になれんなぁこの子。あ、「子」じゃないか……。
クー魔が上空の魔力に気がついて慌てて逃げ出そうとした。
その瞬間。
コロンの指先から何か光がピッと走ったと思ったら、その魔物が一瞬でバラバラになった。声さえ上げさせない。
地面に散らばった魔物の死骸はどろりと溶けて紫色の液体になり、それからシュウシュウと蒸発するようにして消えてしまった。
あっけにとられている若いお母さんの前に、輿がふわりと着地する。
「さすがは勇者様。上空から座ったままであの魔物を退治してしまわれるとは」
コロンがにこにこ笑いながら言う。
あ、またそのパターン……。
3人の勇者はなんだか居心地が悪い。そもそも、こんなのを「勇者」と呼んでていいんだろうか……? と3人は思う。
ただ怯えて輿にしがみついてただけだ。
あっちの世界でそろそろお払い箱になりかかってた俺たち……。ここではもっと役に立たない。ただのお荷物……。
いや、鉋さんはいいよな。宿では少し役に立った。この輿だって鉋さんが作ったんだ。
面田がそんなことを思っていると、子どもたちと目が合った。
輿を珍しそうに眺めている。
「珍しいだろ? これは勇者様専用の乗り物なんだぞ」
コロンが胸を張って子どもたちに自慢する。
「初めて見るだろ。空も飛べるんだからな」
(いや、飛ばしてるの私ですから……)とアリストーマは苦笑いだ。
それからふと気がついた。
コロンさんは冗談みたいなことを言いながら、私のために道中「勇者様の活躍の話」を残そうとしてくれているんじゃないだろうか。
魔法局のメンツも立って、私の立場も大丈夫なように……。
そういえばアリストーマが小さい頃から、コロンさんはからかうみたいなことを言いながらさりげなくアリストーマを危険から遠ざけるようにしてくれていた。
ちょっとイタズラ好きな優しいお姉さんみたいだった。
それがいつの間にか、かなりイタズラ好きな困った妹みたいになっている。
この人そういえば1297歳なんだよな?
エルフは歳をとらないって言うけど……でも、800歳で大人のお姉さんみたいなエルフさんだっているし。
コロンさんはなんでこんなに子どもみたいなんだろう? 見た目だけじゃなく、精神も若々しい。(思うだけであってもアリストーマは「幼稚っぽい」という言葉は遠慮した。お世話になった人でもあるのだ)
「ありがとうございました」
とお母さんが頭を下げる。
「あの……勇者様。もしお急ぎでなかったら、お礼と言ってはなんですがお昼を召し上がっていかれませんか? たいしたものはございませんが」
「わーい。ご飯!」
いつの間にか子どもたちと打ち解けて、一緒になってきゃっきゃと走り回っていたコロンが無邪気な笑顔を見せる。
アリストーマはここでも苦笑せざるを得ない。
しかし、助かる。
ここから先は魔物が出没している地域に入るのだ。営業している宿屋があるとは限らない。いや、ないだろう。
どこかの町で食料の調達もそろそろしなくては、と思っていたところなのだ。
「あ、これ、蒸しサキイモですね。懐かしいなぁ」
3センチほどにカットされた少し黄色味をおびた蒸しイモに薄茶色のタレがかけられ、茹でた青菜と一緒に皿に盛り付けてある。
アリストーマが皿を前にして思わず笑み崩れたのを見て、コロンも笑顔になった。
「そういえばアリスは小さいころ蒸しサキイモが大好きだっだもんなぁ」
「幼少名で呼ばないでください」
「ごめん、ごめん。トマちゃん」
「縮めないでくださいってば」
やっぱりさっきのは買いかぶりだったかな? とアリストーマは思い直した。
ただ単に面白いからやってるだけなのかもしれない。
仲良いんだな——とそんな2人のやりとりを見ながら、事平は蒸しサキイモと言われた料理を口に運ぶ。
口に入れた途端、ほこほことした食感に合わせて上品なサキイモの甘味が口いっぱいに広がった。お出汁の効いたソースがそこに遠いバイオリンの音色のように絡んでくる。
「おいひぃ〜♪」
思わずそう口走ってしまうと、ミミアンと名乗ったこの家のお母さんが嬉しそうな笑顔を見せた。
その傍で子どもたちがイモでほっぺたをふくらましたまま一緒に笑う。
微笑ましい光景だなぁ——と事平は向こうに残してきた自分の孫たちのことを思い出した。
早く帰って顔が見たいなぁ。事務一筋だった事平は長期の出張というものをしたことがない。
そういえばこの家にもお父さんの姿が見えない。さっきもお母さん1人でクー魔と対峙していた。
「お父さんは?」
子どもたちが元気だったので、事平は特に深く考えもせずその言葉を発してしまった。
ミミアンの表情がふっと曇る。
「魔物をやっつけに行ってるの!」
男の子の方が元気にそう答えた。




