12 空を飛ぶ方法
「私たちの体には飛行魔法が効かなくても、私たちが乗っているものは持ち上げることができるのではありませんか?」
事平が遠慮がちにそう言うと、「なるほど!」と大鋸が手を打った。
「アリストーマさん。ちょっと椅子を浮かせてみてもらえます?」
事平の言うことをアリストーマも理解したようだ。
ふわりと椅子を宙に浮かせて見せた。もちろん、事平が座ったままだ。
「うん。これならいけますね。明日宿の主人に頼んで椅子を3脚譲ってもらいましょう」
アリストーマが明るい顔になる。
「ちょっと怖いですけどね」
事平が椅子の座を両手でしっかりとつかんで弱々しく笑った。
「いや、怖くないものを作ればいい。鉋さん」
「おう」
「アレ作ろう。ほれ、アレ。昔の武将が乗ってたみたいな……」
「ああ、アレな。アレならいいな。3人一緒に乗れる」
「手すりも付けてな、鉋さん」
アレだけでわかり合えるんだなぁ、この2人……。と事平はまた可笑しくなる。
「あのう……『アレ』とは、あなたたちの遠異世界だけで通用する暗号のようなものですか? 翻訳魔法が効かない」
アリストーマが事平に聞いた。
「いや、私も何を言っているかわかりません。長年一緒に仕事をしてきた2人だから『アレ』だけで何を指してるかわかるんでしょう」
それから事平は今アリストーマが言ったことのもうひとつの意味に気がついて、驚いた顔で聞き返した。
「翻訳魔法って言いましたよね? それは私たちにも効くんですか?」
「ああ……」
とアリストーマは笑った。
「翻訳魔法は異世界から勇者を招喚する時に自動的に発動するんです。最初から話が通じないとパニックになっちゃいますからね」
「へぇ、それでかぃ。なんで日本語しゃべってんのかと思ってたよ。そいつぁ、俺らの体にも効くんだな?」
大鋸が感心したように言った。
「いや、正確にはあなたたちの顔のまわりに薄膜のような魔法があるのです。それを通すと私たちの言葉はあなたたちの世界の言葉になってあなたたちの耳に届き、私たちの文字はあなたたちの世界の文字として見えるのです。そしてあなたたちの発する言葉は、私たちには私たちの言葉として聞こえます」
「なるほど。翻訳アプリ付きの見えないヘッドセットみたいなものですか」
事平がまた感心した。
「ヘッド……? なんですかそれは?」
「ああ。あなたたちの魔法のような作用をする機械ですよ」
「きかい……?」
「どうも概念がかみ合わないね」
面田が頭をかいた。
「それよりよ、明日明るくなったら、ここらの木を何本か伐ってもらってもいいか? 魔法でスパァっとよ」
「この辺は特に規制はかかっていませんし、宿でも薪として使っていますから問題ありませんが。大鋸さん、何をするつもりなんです?」
「アレを作るんだよ。ほれ、アレ。なんつったっけな……。ほれ、アレだよ」
「輿!」
「そう! 輿だ、輿! 言葉出てこねぇな、最近——。見てろって。半日ありゃあ作ってみせるからよ! それに3人が乗って、トマさんが飛行魔法とやらを使えば解決だ」
「名前縮めないでください!」
翌朝まだ空が明るくなり始めただけの頃、アリストーマは大鋸にたたき起こされた。
「ま……まだ日も昇ってないじゃないですか……」
アリストーマが目をこする。
「先急ぐんだろ? スパァっとやってくれ、スパァっと。そんだけやったらまた寝ててもいいからよ」
隣の部屋からは、すや〜。。。という幸せそうなコロンさんの寝息が聞こえている。
アリストーマが大鋸の示した木を何本か切断魔法で伐採すると、大鋸はさらにそれを指定した寸法の角材や板に挽いてくれという。
アリストーマの魔法力では大鋸のような細かい細工はできないが、まっすぐ切るだけなら切断魔法でできた。
この頃になるとコロンや面田たちも起きてきて宿の外に出てきた。
「あ、なんか面白そうなことやってる♪」
「鉋さん、それナマ木だろう?」
建築の知識のある面田が大鋸に問いかけると、大鋸はにやりと笑った。
「昔の城普請は伐り出したばっかの材木でやったんだ。戦やってんのにチンタラ作っていらんねぇからな。グリン材にはグリン材を使う技ってぇもんがあんだよ。見ててみな」
大鋸が舌なめずりをするようにして皆の衆を見回した。
「乾燥魔法でさっと乾かしてやろうか?」
コロンが寝ぼけまなこのままで言う。
「元も子もねぇこと言わんでくれ……」
グリン材=伐り出してまだ乾燥できていない材木のこと。乾燥すると縮んだり歪んだりするので嫌がられ、かつては安い材木として売られていたが今では「含水率」がうるさく言われるようになって姿を消した。




