11 お荷物
「急ぎましょう。1日無駄にしてしまった」
アリストーマが早足で歩くスピードに面田と事平はついていけない。ついていけているのは日頃から体を使っている大鋸だけだ。
「ちょ……ちょっと待ってください。膝と腰が……。昨日普段やらない作業をやったもんだから……」
「そんなのあなたの自業自得でしょ?」
アリストーマが振り向いて言う。
「余計なことやってるから」
「余計な事たぁなんだ! 宿の人、困ってたじゃねぇか」
「もう一晩温泉に浸かりたかっただけでしょ? もう! コロンさんも虫捕まえて遊ばないでくださいよ! なんで私がこんな人たち率いてこんな目に……」
「僕らを勝手に招喚したからでしょ?」
「そ……それは……」
そのとおりだ。全てはアリストーマが自分でやらかした判断ミスの結果なのだ。
(自業自得は自分のことだ……)
アリストーマはがっくりとうなだれる。
「わかりましたよ! おぶってあげますから先を急ぎましょう。この先の宿までは距離があるんですから」
面田はアリストーマにおんぶされて少し申し訳ない気がしてしまった。
僕が少しカッコつけて役に立つところを見せようなんてしてしまったのがいけなかった。もう体が若いときみたいに動くわけじゃないんだ。
「あ……あの、少し休んだら自分で歩きますから……」
「早く歩けるんですか!? コロンさん虫捕まえて遊んでないで——!」
アリストーマは怒ったような早足でずんずん歩いてゆく。
大鋸はなんとかついていくが、事平が遅れはじめた。
「はあ、はあ、ちょ……ちょっと……」
「コロンさん! 1人だけ優雅に飛んでないで事平さんひとりくらい運んでくださいよ」
「わたし背がちっちゃいから、おんぶなんてできないもぉん」
コロンはそう言ってはみたものの、半泣きの顔になったアリストーマを見て事平のワイシャツの背中をむんずとつかんだ。
「務ちゃん、おとなしくしててね」
務ちゃん?
次の瞬間、事平の足は地面から30センチくらいの高さに浮かんで、ふわふわと空中を進み出した。
コロンが事平の体を猫の子みたいにぶら下げて飛んでいるのだ。
勇者3人。
1人はどうにか自分の足で歩いているが、1人はおんぶされ、もう1人は女の子にぷら〜んと大人しくぶら下げられて進んでゆく。
これが、勇者3人……
この姿を誰にも見られなくて良かったと、アリストーマは後々まで思った。
「なんだ、この宿には温泉はねぇのかよ?」
ようやくたどり着いた宿に大鋸が文句を言った。たしかにかなりショボい宿ではあるが……。
「そんな、どこにでもあるもんじゃないですよ」
「風呂くれぇはあるよな? 1日歩いて汗ンなったしな」
「申し訳ないですが、ここらでは水は貴重品なんです。体は拭くだけにしてください」
「「「ええええ?」」」
「勇者さんたちの国では温泉はどこにでも出るものなんですか?」
「まあ、そうだな。少なくとも水は豊富だったな」
面田が膝をさすりながら言った。
「ご不便をかけて申し訳ないです。お体拭いましょうか?」
アリストーマがまた責任を感じたんだろう。少し仏頂面ながらそんなことを言った。
「いや、いいよ。それくれぇは自分でやるよ。こちとら、お貴族様じゃねぇんだ。んなことにはなれてねぇ」
大鋸があぐらを組んだままで口をへの字に曲げて言った。
「コロンだったらいい? コロンが拭いてあげようか?」
またまたコロンがイタズラっぽい顔で言う。
「やめてください。犯罪に手を出してるような気がする」
面田が額に陰を浮かべて断った。1297歳とはいえ、見かけは小学生くらいの女の子にしか見えないのだ。
「次の宿にはお風呂があります。川べりですから」
アリストーマが言い訳みたいに3人に言った。
少なくとも大鋸さんには明日も歩いてもらわないと……。
おんぶにしろぶら下げるにしろ、運べる若いのは(1人は1297歳だが)2人しかいないのだ。
3人のうち1人は自分の足で歩いてもらうしかない。
アリストーマはこの先の道中を考えて気が重くなった。
そんなアリストーマに珍しく事平が遠慮がちに話しかけた。
「ねえ、ちょっと思ったんですが……」




