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初めて口にする二度目の言葉  作者: 相上和音


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第20話 ロイヤルストレートフラッシュ

(そうなると、まず私がしなきゃいけないのは……)


 もちろん、トランプ兵の一掃だ。

 秒針のように震える残りのトランプ兵に、私は猛然と襲い掛かった。


 善は急げ。

 客観的に見ると完全に私が悪者だけど、とりあえず急げ。

 聖剣でどつき回して、みんな仲良く廊下の突き当たりにめり込ませてやった。


 しばらくの静寂の後——

 閑散とした廊下に、かたり、と音が響いた。


『トランプ兵を一組倒した後、白ウサギが再び現れる。』


 脚本の続きを思い出すと同時に、怯えた小動物が物陰に隠れるイメージが浮かんだ。

 廊下を少し引き返すと、音の出所がすぐにわかった。

 甲冑の影から大きすぎる頭がはみ出している。


「ぼ、僕はただの通りすがりだぴょん! そこのトランプ兵たちとはなんの関係もないぴょん。だから斬らないでほしいぴょん!」


 白ウサギは甲冑の陰から飛び出すと、ぴょんぴょんと跳ねながら脚本通りの命乞いをした。

 声は唯の可愛らしいもので、なんだか少しだけ元気が湧いてくる。

 唯にしては身長が高すぎるから、中は別の誰かなんだろうけれど。


「小腹がすいたわね」

「気のせいだぴょん! 食べてもおいしくないぴょん!」

「ところで、ハートの女王を見なかったかしら」

「女王様ならあっちに行ったぴょん!」


 白ウサギはトランプ兵たちがめり込んでるのとは反対の廊下を指さした。


「そんなに簡単にばらしてもいいの?」

「い、いいんだぴょん! あいつはいつも僕をいじめてくるんだぴょん! むしろやられてしまえだぴょん!」

「そう、なら女王のもとまで案内してくれるかしら」

「それは……」

「だめなの?」

「わ、わかったぴょん! 僕についてくるんだぴょん!」


 白ウサギは廊下をスキップするように歩き始める。

 私はその後を追った。


 廊下の突き当りはやはり丁字になっていて、それが延々と続いていた。

 タイルの目地にでも迷い込んでしまったような心地になった。

 小さいころによく指でなぞって遊んだけれど、実際に歩くとなるとうんざりとしてくる。


 何度か角を曲がった先で、トランプ兵たちが待ち構えていた。

 さっきと同じ五人組だ。

 着ているシャツだけが違う。


 さっき中谷はスペードの2だったのに、今はクラブの3だ。

 佐々木もダイヤの7からハートの9に変わっている。

 他の三人の柄は憶えていなかったけれど、多分変わっているのだろう。


「貴様――」

「おらぁ!」


 聖剣でぶん殴る。

 クラブの3(中谷)が何か言いかけていたが、あいにく聞く耳はとうに捨てた。


「ぐわぁああああああ!」


 クラブの3(中谷)は吹き飛び、突き当りの壁にめり込んだ。


「ひいっ」


 隣にいたスペードの4(松坂)が喉を引きつらせる。

 そして絶叫しながらクラブの3(中谷)の横にめり込んだ。


 正確には私が聖剣でぶっ飛ばしたんだけど、実感がなかった。

 手応えがまるでないのだ。

 聖剣が彼らの体に触れているのかすら怪しい。

 ものすごい吹き飛び方をしているのに、血の一滴もこぼれないし。


 それも当然か、と私は思う。

 この世界は、所詮はくだらないコメディなのだ。

 誰かが傷ついてしまったら、それはもう笑えない。

 事実、一度倒したはずの彼らが、こうしてぴんぴんとしているのだ。


(まあ設定上は別人なんだろうけど)


 五人全員を壁にめり込ませると、白ウサギはまた歩き出した。

 それから幾度もトランプ兵たちとエンカウントする。

 彼らは怯えながらも私に立ち向かってきた。

 怖いなら逃げればいいのに、まあ彼らも脚本に従わないといけないみたいだから、仕方ないのだろう。


 戦闘をこなす度に鞄が邪魔に思えてきて、途中から白ウサギに預かってもらった。

 白ウサギは何も言わずに鞄を抱えて歩き出す。

 何度か話しかけてみたけれど、白ウサギが返事をすることは一度もなかった。

 アドリブなのは、私とトランプ兵たちの戦いだけってことだろうか?


「ああもう! しつこいな!」


 私は立ちはだかるトランプ兵たちに悪態をつく。

 これで何度目だろう。

 どれだけ吹き飛ばしても、何度か角を曲がると彼らは平然とそこにいるのだ。

 設定上は別人だとしても、彼らの顔はいい加減見飽きた。


「あんたたちがいくら束になろうと、私には敵わないってわからないの?」


 なぜなら、そう脚本に書かれているからだ。

 瀬川の癖の強い字で『トランプ兵はアリスに一方的に派手にやられる。』とはっきりと。

 その拘束力は物理法則すら簡単に歪めてしまう。

 逆に言えば脚本こそが、この世界の唯一の法則なのだ。


 今までのように、すぐに襲い掛かろうとした。

 でも一歩踏み出したところで、自然と足が止まる。

 今までと違い、彼らに怯えた様子がなかったからだ。

 それどころか口元に、うっすらと笑みを浮かべていた。


「……な、何よ」


 私は威嚇するように聖剣を突き出した。

 それでも彼らは動じない。

 中央のスペードのJ(中谷)がふんと鼻を鳴らした。


「我々をこれまでの雑魚どもと一緒にするな」


 その声音には確固とした自信がみなぎっていた。


「い、今までと同じじゃない。何が変わったっていうのよ」

「まさか、わからないのか?」


 鋭い眼光に射すくめられ、背筋に冷たいものが走った。

 ふと、さっきまで最強を誇り、幾人ものトランプ兵を蹴散らしてきた聖剣が、異様に頼りなく感じた。


 そうだ、私は何を勘違いしているのだろう。

 私が強くなったわけでも、聖剣さえあれば無敵というわけでもないのだ。

 ただ「脚本にそう書かれている」というだけで——

 

 彼らがその気になれば、私なんて簡単に殺されてしまう。

 そんな当たり前なことを、今更のように思い出した。


 スペードのJ(中谷)が一歩距離を詰めてきて、私は三歩後退る。

 恐怖で奥歯がカチカチと鳴った。


「いいだろう、ならば教えてやる」


 そして彼らは横一列に並ぶと、声をそろえて言った。


「我々は――ロイヤルストレートフラッシュだ!」


 どうだ! と言わんばかりに胸を張るトランプ兵たち。

 どれだけ待っても、彼らはそれ以上のアクションを起こさなかった。


 遅れて、彼らのシャツの柄が左からスペードのA、スペードの10、スペードのJ、スペードのQ、スペードのKであることに気がついた。


 私は聖剣を振るい、五人まとめて壁にめり込ませてやった。

 びびらせやがって。


   ♠ ♥ ♣ ♦

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