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駅で出会った女の子と不思議な関係に。明日も死にたくなる彼女に、俺は毎日、生きる理由を渡すことになった。  作者: 逢華 (最後の挑戦)
終わらなかった時間 ( 再接続編 )

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第49話 返事のない病室

病院を出る頃には、外の明るさはなくなっていた。正面玄関の自動ドアが閉まり、面会終了を知らせる放送が白い廊下の奥へ流れていく。


ミアは肩に掛けた鞄を持ち直し、駅へ向かった。

病室を出る前に触れた祖父の手の温度が、夜風でゆっくり遠くなる。


祖父は今日も目を覚まさなかった。ベッド横の棚には読みかけの新聞が置かれ、昨日と何も変わっていない。


帰る前、ミアは布団から出た手をそっと中に入れて、カーテンの揺れる窓際へ視線を移した。


「また来るね」


言わずに出ていくことはできなくて、ミアは病室の扉を閉めるまで、祖父の横顔を見ていた。


駅へ向かう道には、仕事帰りの人が多かった。

信号を渡る革靴の音、コンビニの前で笑う制服姿の学生、店内から漏れる白い照明。


誰もミアを見ていない。


改札を抜け、ホームへ上がると、ほどなく電車が入ってきた。ミアは開いた扉から車内へ入り、座席には向かわず窓のそばへ立つ。


発車して速度があがると、吊り革の金具は揺れ、窓ガラスには車内の灯りと、夜へ流れる街の光が重なっていた。


腕時計は二十時前を指していた。時計から目を離し、窓の外へ顔を向ける。


次であの駅に着く。

病院帰りに何度も降りていた駅で、祖父母と電車へ乗る時、いつもホームの奥へ向かっていた駅。


車内放送が駅名を告げる。電車が速度を落とし、見慣れたホームの灯りが窓の向こうへ近づいてきた。

白線の位置も、ベンチの向きも、自販機の並びも知っている。電車の中から見ると、いつも立っていた場所がガラスの向こう側に見える。


扉が開くと、降りる人と乗る人が一度だけ流れを作った。ミアの靴先は床の黄色い線の前に残っている。鞄の紐が肩へ食い込み、指先だけで持ち手を握った。


ここで降りれば、もしかしたら会えるのかな。


来るかもしれない。隣に並んで、詳しい理由も聞いてこない。明日に繋がる理由をくれる、たった一人の男の子。


孤独と不安を忘れさせてくれる。


理由を渡せば、何も聞かずに受け取ってしまう人だと、もう知っている。


発車を知らせる音が鳴る。扉が閉まり、電車が走り出す。白線も、自販機の灯りも、窓の向こうで後ろへ流れていった。


一瞬だけど、彼が立っていた気がした。


腕時計を見ると、二十時を過ぎている。あの場所にいたのかは分からない。電車は次の駅へ向かい、車内の揺れに合わせて窓の中の自分だけが動いている。


家へ着く頃には、二十時半を回っていた。玄関の灯りはついていて、リビングからテレビの音と兄の笑い声が廊下まで届いている。母の声や階段の下に並ぶ靴。


家の夜はいつも通りの形をしていた。


ミアは靴を脱ぎ、自分の部屋へ向かった。鞄を床へ置き、学校の制服のままベッドの端へ腰を下ろす。

時計を見ると、駅にいればまだベンチか白線の近くにいた時間だった。


帰る理由を探さなくても、ただそこにいればよかった時間。


しばらく経ってからミアは腕時計を見る。

来ていたとしたら、まだホームにいるのか、もう改札を出たのか、知る方法はない。


机の上には、病院へ行く前に買ったお菓子が置かれていた。祖父へ持っていくつもりで、病室では出せなかったものだった。


袋を開け、一つ口へ入れる。甘さだけが舌に残る。祖父なら何と言っただろう。夕飯前に食べるな、と言うかもしれない。あの男の子なら、たぶん何も言わず、同じ袋へ手を伸ばした。


ミアは袋を閉じ、ベッドへ横になった。制服の袖に皺が寄る。病院へ行って、電車へ乗って、あの駅を通り過ぎて、家へ帰った。今日の予定は全部終わったのに、思考だけは机の上に残った菓子みたいに片づかなかった。


翌日も病院へ行った。病室の窓から入る光は昨日と変わらず、ベッド横の新聞も動いていない。

祖父は目を閉じたまま、酸素マスクの内側で呼吸を続けていた。


椅子へ座り、鞄を膝に置く。


隣の席の子が消しゴムを借りてきたこと、購買のパンが売り切れていたこと、小テストで100点取ったこと、祖父はそういうなんでもない話しを聞かせてほしいと言う人だ。


「……昨日も降りなかったの」


布団の上の指は動かない。ミアは祖父の手元を見て、鞄の口を押さえた。


「居たかもしれない」


それ以上は出てこなかった。機械音だけが病室に残る。ミアは膝の上で鞄の持ち手を撫で、祖父の横顔へ視線を戻した。


面会時間が終わり、また病院を出る。昨日と同じ道を歩き、同じ電車へ乗った。


次で、またあの駅に着く。車内放送が流れ、窓の向こうにホームの灯りが近づいてくる。


 扉が開く。降りる人と乗る人が入れ替わる。ミアは昨日と同じ場所で鞄の持ち手を握った。ホームの奥は見ない。ベンチの方も、自販機の灯りも、顔を向けなければただの駅になる。


発車の音が鳴り、扉が閉まる。電車が動き出してから、ミアは腕時計を見た。二十時を過ぎている。明日も病院へ行く。明日もこの駅を通る。降りないと決めた手だけが、次の駅まで鞄から離れなかった。

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文字の大きさによって上手く表示されていないかもしれません。



電車(JR)


①病院

②湊 自宅 最寄り駅

③出会いの駅、学校、バイト先、祖父家

④ミア 自宅 最寄り駅



◀ ██████【電車】██████

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


③ ホーム


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

██████【電車】██████ ▶





【地図】


[湊バイト先カフェ]徒歩15分

[学校]徒歩5分

│      

[③駅]ー[コンビニ]ー[公園]徒歩5分

[祖父母の家]徒歩10分


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図説分かりやすくてありがたいです
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