表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
ティナ 過去編
54/55

第5話 縛られた翼

次の日の朝。


タイゾウは木の柵の前にしゃがみ込んでいた。

ボロボロだった。


爪痕が残り、一部は根元から折れている。


「こりゃ直すのに時間かかるな……。」


呟きながら、黙々と修繕を続けた。



─────

少し離れた場所。


木の陰から、じっとその背中を見つめる視線があった。


「ティナちゃん。」



「うわあ!!」



背後からの声に、ティナは飛び上がった。


心臓が止まりかけた。


振り返ると、にこにこしながらアルルが立っていた。


「タイゾウさんのこと、気になるの?」


上目遣いで問いかける。


「いや、ちがっ、そのっ……!」


ティナは慌てた。


だが誰が見ても、タイゾウを凝視していたのは丸わかりだった。


「いいんだよ、弟子になっても。ティナちゃん。」


アルルは胸を張った。


「タイゾウさんかっこいいし、強いし!」


「いやっ、私は……その……。」


ティナは俯いた。


何かを隠すように、もごもごと口を動かす。


アルルは戸惑いながらも、真っ直ぐな瞳でティナを見つめた。



「どうしたの?」



ティナは少しの間、黙っていた。

それから。


「アルルちゃん。」


「うん。」


「その……私は……。」


言いたくなかった言葉が、少しずつ、喉の奥から出てくる。


「みんなから……嫌われてるし……。」


一息。


「おじさんみたいに、あんな魔獣に立ち向かえるか……自信、ないし……。」


アルルは目を見開いた。

驚いていた。


だが数秒後。


「ふふっ。」


クスッと笑った。


「ティナちゃん、そんなことで迷ってたんだ。」


「そんなことってどゆこと!?」


ティナはムスッとした顔でアルルを睨んだ。


「いや、だってさ。」


アルルは笑いながら続けた。


「いきなりタイゾウおじさんに蹴り入れたりするティナちゃんなら、大丈夫だよ。」


「強くなっちゃえばいい。そしたらみんなも認めてくれると思うし。」


「それに……。」


アルルの表情が、ふっと真剣になった。


「私も一緒に戦うよ。」


ティナの目が、大きく見開かれた。


「……え。」



「だから、大丈夫だって。」


アルルはまっすぐ笑っていた。


数秒後。


ティナの頬に、熱いものが伝わった。


「わわっ!」

「ティナちゃん、泣かないでよ〜!」


アルルの声で、ティナは初めて気づいた。


自分が泣いていることに。


アルルが駆け寄る。


袖でティナの涙を拭き取った。


「あ……れ。ありがとう。」


ティナは動揺しながら言った。


「も〜、ティナちゃん泣き虫なんだから。」


アルルは笑みを浮かべながら言った。


「アルルちゃんの、いじわる。」


ティナは零れる涙を拭きながら、震えた声で返した。


しばらく、二人はそのまま並んでいた。



「ところで、タイゾウさんは?」


アルルが辺りを見渡した。


「あ……。」


さっきまで見えていた背中が、消えていた。

ティナが視線を巡らせると、タイゾウが村長の家の戸口を開けて入っていく姿が見えた。


「今だ。」

「え、ちょっと……!」


二人はそっと、村長の家の裏に回り込んだ。

息を潜めて、耳を澄ます。



─────

「して……ティナはタイゾウ様の弟子入りになんと?」


村長の声が、壁の向こうから聞こえてきた。

茶を沸かす音。


「ありがとうございます。」


タイゾウの声。


「ティナからは……断られちゃいました。」


「ほっほっほ!!でしょうな!」


村長が笑った。


「もしかして……予想してました?」

「ええ、あの子は変わった子ですから。」


村長の声は穏やかだった。


「流石のタイゾウ様でも、一筋縄では行かぬとは思っておりましたよ。」


「まあ……そうですよね……。」


タイゾウが少し動揺したような声で言った。

しばらく沈黙が続いた後、村長の声が変わった。


静かに。

真剣に。



「あの子は……特別なんです。」



茶碗を置く音。


「私から見てもわかる通り、天性の身体の強さ……見た目だってこの辺りでは風変わりではありますが、王族の方々に引けを取らぬほどのものはあると思っております。」



「ええ……。」


タイゾウの声が、低くなった。


「私としても、ティナはタイゾウ様の弟子になっていただきたい。」


一拍置いて。


「ですがあの子は……【この村】に縛られているのです。」


後悔するような声だった。



─────

壁の外。


ティナは俯いていた。


その両手に、そっと温もりが乗った。

アルルの手だった。


「大丈夫だよ、ティナちゃん。」


静かに、確かに言った。


「タイゾウさんは、ゼッタイにティナちゃんを悪く思ってないから。」



自信を持った目で、ティナを見ていた。

ティナは少しだけ、強く頷いた。



─────



「【縛られている】……それはどういうことなんですか?」



タイゾウの声が続く。


「ええ……。」


村長は少し間を置いた。


「厳密に言うなら……【私とアルルに縛られている】のです。」


「拾って育ててくれた私への恩。唯一話しかけてくれるアルルへの恩。」


茶碗を両手で包みながら、静かに続ける。


「……あの子なりに【一緒にいること】で、恩返ししているのでしょうね。」



「そう……なんですね。」



タイゾウの声が、低く沈んだ。


「ですが私としては……ぜひタイゾウ様の弟子になって、世界に翔いて欲しい。」


村長は続けた。


「タイゾウ様から弟子にすると聞いた時、そう思っておりました。」


「まあ……それもダメになっちゃいましたけどね……。」

タイゾウが苦笑した。


「のようですな!ほっほっほ!!」


村長の笑い声が、部屋に弾けた。


壁の外で、アルルとティナは目を合わせた。

二人してニヤニヤしていた。



その時だった。



ドンッ!!



玄関が、勢いよく開いた。


村長とタイゾウが同時に顔を向ける。

戸口に立っていたのは、村の若者だった。


息を切らしている。

瞳孔が血走っていた。


大きく息を吸って。


「村長!!タイゾウさん!!」



「現在、魔物の群れがこっちに向かって来ています!!!」



「中には……巨大な魔獣もいます!!!」



部屋の空気が、一瞬で変わった。


タイゾウはすっと立ち上がった。

斧を手に取る。


「……村長。」


静かな声で言った。


「みんなに避難警告を。」


村長は頷いた。

立ち上がる時、わずかに手が震えていた。



「……タイゾウ様。」

「どうか、ご無事で。」


タイゾウは答えなかった。

ただ、前を向いたまま歩き出した。



─────



壁の外。

ティナとアルルは顔を見合わせた。

笑顔は、消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ