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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
ティナ 過去編
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第4話 予兆

次の日。


木漏れ日が、葉の隙間から差し込んでいた。


ティナはいつもの枝の上で、背中を幹に預けながら空を見上げていた。


目を細める。

気持ちいい。

風が揺れる。

葉が鳴る。

平和だった。


その時だった。


がさり、と隣の木から音がした。


「よっ、嬢ちゃん。」



「っと……ティナだったか?」


隣の枝の上に、大きな男が腰を下ろしていた。

タイゾウだった。


「あっ、おじさんじゃん。」


ティナはきょとんとした顔で首を傾げた。


「どうしたの?」


タイゾウは真剣な顔でティナを見た。


「ティナ……突然だが。」


一息。


「俺のもとで、強くなる気はないか?」



ティナは目を大きく見開いた。


驚いたような顔をして。


少し考え込んで。


「んー……。」


首を横に振った。


「今は大丈夫かな。」


タイゾウは肩から息を吐いた。


「……まあ、そうだよな〜。」


頭を掻く。


ティナは枝の上で足をぶらぶらさせながら、タイゾウを見た。


「ねえ、なんでティナを弟子にしたいの?」


「お前の身体能力、見てたんだ。」


タイゾウは正面からティナを見た。


「あの空間把握能力、踏み込みの速さ……あの年でそれができるのは、普通じゃない。」


「ちゃんと鍛えたら、俺を超える戦士になれる。」



「……本気で、そう思ってる。」


ティナはその言葉を聞いて、少しだけ口元が緩んだ。

ニヤニヤしている。


だが、すぐに視線を落とした。


「……おじさんと修行するのも、いいかな、とは思うけど。」


枝を指でなぞりながら、ぽつりと零す。


「アルルちゃんや、村長のおじいちゃんとも一緒にいたいしなあ〜。」


一拍。


「それにさ。」


ティナはタイゾウをちらりと見た。


「この村は、タイゾウおじさんや国の兵士さん達が守ってくれるんでしょ?w」


からかうような笑み。


「あのなぁ……。」


タイゾウは盛大にため息をついた。



(……まあ、今のところは俺一人で守れてるしな。)

(わざわざ国を動かす必要もないか。)



微かな日差しが、タイゾウの肩に落ちた。

この考えが後の悲劇を産むことを、タイゾウはまだ知らなかった。


「タイゾウさん!タイゾウさんっ!!」


突然、下から声が飛んできた。


「あっちの方に魔獣がっ!!!」


タイゾウが枝の上で立ち上がる。


ティナは村人が指さす方向を見た。


そこに見えたのは。


「……アルルちゃんの家。」


ティナの動きが、止まった。


タイゾウはすでに斧を構えていた。

次の瞬間、枝から飛び降りて一気に駆けていた。



─────

アラク村南西の住宅街。



「グオオオっ!!!」



魔獣の咆哮が、家の壁を震わせた。


玄関口はすでにボロボロだった。


爪で引き裂かれた扉の残骸が、床に散らばっている。


「ひるむな!!」


「タイゾウさんが来るまで耐えるぞ!!」


槍を構えた村人たちが、足を震わせながら立っていた。


目は据わっている。

だが、膝が笑っていた。



「怖い……怖いよぉ……。」



家の隅。


アルルが小さく震えていた。


「大丈夫、ママがついているから!!」


母親がアルルを丸め込むように抱きしめ、壁を背にして縮こまっていた。


魔獣の目が、ゆっくりと二人へ向いた。


「おいっ!!」


一人の村人が槍を構えて飛び出した。

勇気ある一撃。


だが。

魔獣の鉤爪が横に薙がれた。


「ッ——!!」


村人の身体が、横に吹き飛ぶ。


「おい!大丈夫か!!」


仲間が駆け寄る。

軽い傷ではあった、だが衝撃で意識が飛んでいる。


魔獣はその一部始終を見てから、再びアルルと母親に視線を戻した。


「グオオオオオオ!!!」


咆哮。

爪が立ち上がる。

振り下ろされる。

その刹那。



「斧炎陣っ!!!!」



炎が、空気を割った。


炎を纏った斧が、魔獣の側面を一閃。


衝撃と爆発が唸る。


魔獣の巨体がよろめき、そのまま朽ちていく。


炎が消えた後。


タイゾウが立っていた。


「大丈夫ですか!?」


すぐにアルルと母親へ駆け寄る。


母親は涙を流していた。


震える声で、何度も繰り返す。


「ありがとうございます……ありがとうございますっ!!」


「ホントに……ホントに……。」


言葉が続かない。


タイゾウはアルルに視線を向けた。


身体に傷はない。


だが、声が出ていなかった。


目が固まっていた。


恐怖で、全身も固まっていた。


タイゾウはゆっくりとアルルの前にしゃがんだ。


「君も……怪我はなかったかい?」


優しい声。

アルルは答えられなかった。


タイゾウはそっと、アルルの頭に手を乗せた。


ぽん、と

重くない。

ただ、温かい。


アルルの肩から、力が抜けた。


解けるように目を閉じていく。


「アルルっ!大丈夫なの!?」


母親が慌てて声をかける。


「大丈夫です。」


タイゾウは穏やかに答えた。


「少し緊張が解けて、寝ちゃっただけですよ。」


それから立ち上がり、村人たちを見回す。


親指を立てた。


「もう、ここは安全です!!」


笑顔だった。


村人たちが顔を見合わせた。


ざわめきが広がる。


そして。



「うおおおおっ!!」

「タイゾウさん!ありがとう!!」

「村の英雄だ!!」



歓声が弾けた。


他の村人たちも集まり始め、辺りが一気に賑やかになる。



─────

その遠く。


木の上でティナはそれを見ていた。


目を細めながら。


少しだけ、羨ましそうに。


眠りに落ちる直前。


アルルは、薄れていく意識の中で気づいていた。

木の上に座って、こちらを見ているティナの姿を。



─────

(……Aランク魔獣が、なぜこんなところに。)


笑顔を保ちながら、タイゾウの頭は動いていた。

村人たちの歓声が耳に届く。

それでも、思考は止まらない。



(シンを……いや。)



少しの間、考える。


(【アイツ】を一応呼んでおくか。)


歓声と思惑が、アラク村に静かに降り注いでいた。

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