第3話 木漏れ日の下で
「ティナ!何をするか!!」
村長の枯れた声が、木漏れ日の下に響いた。
ティナはその声を聞いた瞬間、あからさまに不味そうな顔をした。
「げ、村長いるじゃん。」
一拍置いて。
「じゃあまたね〜。」
ニヤリと笑う。
「タイゾウおじさんw」
次の瞬間、ティナの身体が跳んだ。
地面を蹴り、木の枝へ。
そこからまた次の枝へ。
軽い。
速い。
少女とは思えない身体能力が、タイゾウの目に鮮明に映った。
「置いてかないで〜!!」
マルルが足をフラフラさせながら、ティナの後を必死に追いかけていく。
二人の姿は、あっという間に木々の奥へと消えた。
─────
タイゾウはゆっくりと立ち上がった。
ふくらはぎと胸がまだじんじんしている。
だが、そんなことより。
「村長。」
タイゾウは村長の目を見た。
「今の子は?」
村長は、少しだけ表情を曇らせた。
「タイゾウ様……申し訳ございません。」
深く頭を下げる。
「あの子は少々……問題がある子で……。」
「問題?」
タイゾウは首を傾げた。
村長はゆっくりと頷いた。
「ええ……。」
少し間を置いてから、続ける。
「あの子は赤子の頃から親がおらず……村の付近で捨てられておりました。」
「なっ……!」
タイゾウの目が、わずかに揺れた。
村長は俯いたまま話し続けた。
「私が見つけ、引き取っていますが……。」
「外部から拾ってきた子ということや、あの少し変わった見た目もあって……村の大人たちからは疎まれていました。」
タイゾウは目を細め、黙って聞いていた。
「それもあの子は分かっていたのでしょう。」
村長の声が、静かに落ちる。
「あえて大人達にいたずらをし、自分に興味を持ってもらうよう仕向けました。」
「ですがお察しの通り逆効果……。」
一拍。
「あの子はみんなから無視されるようになりました。」
タイゾウは何も言わなかった。
ただ、聞いていた。
「じゃあ……もう一人の、マルルって子は……。」
「あの子はティナに恩があるみたいです。」
村長はタイゾウの言葉を察して、静かに答えた。
「その恩というのは……私にも分かりません。」
少し間が空く。
「根はいい子なんです!!」
村長は顔を上げた。
涙が、その目に光っていた。
「どうか……どうかあの子の非礼をお許し下さい!!」
深く、頭を下げた。
「村長、頭を上げてください。」
タイゾウは慌てて両手を前に出した。
「俺は怒ってないですから!!」
村長はゆっくりと顔を上げ、涙を拭いながら頭を下げた。
「ありがとうございます……タイゾウ様。」
─────
タイゾウは少しの間、木々の奥を見つめていた。
ティナが消えていった方向。
あの身体能力。
あの踏み込みの速さ。
あの跳躍の高さ。
そして、あの目。
からかいながらも、確かにこちらを測っていた赤い瞳。
(この年齢で……あれか。)
じわりと、胸の奥が熱くなる感覚があった。
才能。
間違いなく、天性の才能だ。
(探してたのは……こいつじゃないか。)
「村長!」
タイゾウは村長に向き直った。
明るく、迷いなく。
「一つお願いがあります!」
「はい?」
「あの子……ティナを、俺の【弟子】にさせてください!!」
「で……し……?」
村長は首を傾げた。
言葉の意味は分かる。
だが、理解が追いつかない。
数秒の静寂。
そして。
「て、て、て、ティナを!?タイゾウ様の弟子!?ですとぉ!!?」
村長は腰を抜かして、その場に倒れ込んだ。
「村長!?大丈夫ですか!?」
タイゾウが慌てて駆け寄る。
村長は地面に手をつきながら、信じられないものを見る目でタイゾウを見上げていた。
─────
その頃。
遠くの木の上。
「はっくしょん!!」
枝の上でぼんやりと日向ぼっこをしていたティナが、大きなくしゃみをした。
「……んー。」
赤い瞳が、空を見上げる。
「誰か今ティナの噂した〜。」
木漏れ日が、白い髪をやわらかく照らしていた。




