第2話 村のメスガキ
タイゾウは途方に暮れていた。
シンに息巻いて宣言した手前、これほど情けない話はない。
数日間、ブレイビアの街を歩き回った。
声をかけた。
断られた。
また声をかけた。
また断られた。
「なんでだ……。」
タイゾウはとぼとぼと、王城へ向かう道を歩いていた。
頭を掻く。
ため息をつく。
見つからない理由は、タイゾウ以外には明白だった。
【伝説の戦士】タイゾウ。
数々の魔獣討伐。
国の防衛という偉業。
【竜剣のシン】と双璧をなすと称される存在。
わざわざその弟子になるなど、一般市民だけでなく、
どんな屈強な人間であっても「荷が重すぎる」話だった。
本人だけが、それに気づいていなかった。
─────
王城の訓練場が見えてきた頃。
剣を振る音が聞こえた。
「ユーリ、もっと腰を入れろ。」
「はい!!」
汗だくの青年が、必死に剣を振り続けている。
その隣でシンが腕を組み、鋭い目で指導していた。
「……!」
「タイゾウさん、おはようございます!!」
いち早く気づいたのは青年の方だった。
明るい声。
明るい笑顔。
「おう!……君は確か、王様のお孫さんだったか。」
タイゾウは顎をポリポリ掻きながら答えた。
「ユーリ君だっけな?」
「はい!あの、タイゾウさんに覚えてもらっていて嬉しいです!」
ユーリは汗を拭いながら、屈託なく笑った。
「……で。」
シンが目を細めながら割り込む。
「何の用だ?」
タイゾウは少し躊躇った。
「あー……実はよ……。」
「弟子が見つからない。」
シンが静かに遮った。
「……そんなとこだろ?」
「バレてたか。」
タイゾウは頭を掻きながら苦笑した。
「まあな。」
シンは呆れたように息を吐いた。
「そう言えば……。」
何かを思い出すように、視線を少し上げる。
「国からお前に依頼が来てたぞ。」
懐から一枚の紙を取り出し、タイゾウに渡した。
「【アラク村】の……護衛?」
タイゾウは首を傾げた。
「そうだ。王様の大事な領地に、魔獣が出没しまくってるから守ってくれだとよ。」
「むむむ……そうか。」
タイゾウは少し思考を巡らせた。
「アラク村か……名前だけは知っているが……。」
「王都からだいぶ距離がある、森林の中にある集落だ。」
シンは目を細めた。
「昔にも行ったはずだが?」
「あはは……そ、そうだったな……。」
タイゾウは焦った様子で返事をした。
その時だった。
「それならちょっと待ってください!!」
ユーリが急に声を上げた。
次の瞬間、駆け出していた。
二人が顔を見合わせる間もなく、数分後にはもう戻ってきた。
息を切らしながら、大きな紙をタイゾウに差し出す。
「これって……地図!?」
タイゾウの目が丸くなった。
「いいのか、青年!」
「はい!いつも先生が【タイゾウにはいつも世話になってる】と言ってるので……。」
「……っ!」
「おい、余計なことを……!!」
シンが慌ててユーリの口を塞いだ。
タイゾウは思わず吹き出した。
「ははっ……。」
二人の様子を見ながら、くつくつと笑いつつその場を後にする。
だが、数歩でふと振り返った。
「せっかくシンに教えてもらってるんだ。」
明るく、まっすぐに。
「強くなれよ!青年!!」
「はい!!」
清々しい返事が背中に届いた。
タイゾウはそれを受け取って、また歩き出した。
─────
数日後。
「おらぁ!!!!」
斧が唸る。
「これで……いっちょ上がり!!!!」
魔獣が、また一体崩れ落ちた。
アラク村の周辺林道。
タイゾウは依頼を受け、ここ数日で何体もの魔獣を討伐していた。
最後の一体が地面に倒れた瞬間、周囲に静寂が戻る。
タイゾウは斧を肩に担ぎ直し、大きく息を吐いた。
「ふぅ……。」
足元が、わずかに重かった。
だが、顔には出さない。
草を踏む音。
ゆっくりとした足音が近づいてくる。
「ありがとうございます……タイゾウ様。」
杖をつき、修繕の跡が残る服を着た老人が、タイゾウに頭を下げた。
「これだけしていただいても、我々は何もタイゾウ様に大したお礼は……。」
声が小さくなっていく。
「いいんですよ、村長!!」
タイゾウはにっこりと笑った。
「俺の好きでやってる事ですし!!」
村長は顔を上げた。
涙が、その目に浮かんでいた。
「タイゾウ様……なんとお寛大なお方。」
震える声で続ける。
「ぜひこの村を、自分の家と思って過ごしてくだされ!!」
両手を広げて、村の方向を示した。
「はい!ありがと──」
その瞬間だった。
「がっ!!」
ふくらはぎに、衝撃。
「──ッ!?」
反応する間もなく、今度は胸にも衝撃が走った。
タイゾウの身体が、前のめりに崩れ落ちる。
地面に膝をつく。
顔を上げた。
目の前に、一人の少女が立っていた。
白髪。
ツインテール。
赤い瞳。
その口に手を当てて、ケラケラと笑っていた。
「おじさん、ざっこぉ〜!w」
「ティナの蹴り、見えてないじゃ〜んw」
「ティナちゃ〜ん待ってぇ!!」
後ろから、別の声が飛んできた。
顎まで伸びた茶色い髪を揺らしながら、もう一人の女の子が走ってくる。
白髪の少女は振り返ることなく言った。
「マルルちゃん、このおじさん……見た目に反してよわよわだよ〜w」
「ティナちゃん!だめだよ!!」
マルルと呼ばれた少女が、焦った様子で首を横に振る。
「タイゾウさんにそんなことしちゃ……!」
ティナはタイゾウを見下ろした。
風と共にティナの純白のパンツがチラッと見える。
赤い瞳が、あざとく細まる。
「このおじさんがタイゾウ?」
首を傾けて。
「……ふ〜ん。」
「ティナの蹴り喰らうくせに、魔獣と戦ってるんだあ〜。」
「……この……ガキ……。」
タイゾウはうずくまりながら、目だけを細めた。
確かに、ティナを睨んでいた。
だが同時に。
その目の奥がほんのわずかに、輝いた。




